公爵家の娘は、王妃を激しく憎む自分を自覚した。
しかしそれは、かえって “仕事” をやりやすくした。
公爵家の娘は以前にも増して、王妃に厳しく接した。
突然、王妃の部屋のドアが開く。
現れたのは、公爵家の娘である。
「王妃さま、ご無礼をお許しくださいませ。
ですが、前触れなしでないと、抜き打ちになりませぬもので。」
公爵家の娘は王妃に向かって、うやうやしく儀礼的なお辞儀をした。
そして、部屋の中を歩き回る。
王妃付きの召使いたちが、騒ぎを聞きつけて慌てて集まってくる。
公爵家の娘は、天井の隅まで眺めながらゆっくりと歩く。
高級な靴の音が、コツ・・・コツ・・・と響く。
最後に王妃の前に立ち、王妃のドレスの襟を指でなぞる。
「この季節にこの生地は、少々薄いですわね。
王妃さま、お寒くございません?」
王妃は、公爵家の娘の一連の言動のわけがわからず
ウカツな返事をしてしまった。
「あ・・・、うん、ちょっと寒い。」
公爵家の娘がガッと振り向いて怒鳴った。
「部屋係長、暖房係長、衣装係長、前へ!」
おずおずと一歩を踏み出した3人の前に
仁王立ちになった公爵家の娘が叫ぶ。
「カーテンのドレープが乱れておる!
生けた花が枯れかけておる!
テーブルに指の跡が付いておる!
ドアの浮き彫りにツヤがない!
暖炉に灰が積もっておらぬ!
暖炉の薪が湿っておる!
暖炉に火を入れた形跡がない!
王妃さまのこのドレスを見るのは2回目!
王妃さまのドレスは1度着たら下げるのがしきたり!
そしてこの生地は今の季節にはそぐわぬ!」
大声で矢継ぎ早に指摘する公爵家の娘に
召使いたちどころか、王妃も縮み上がる。
「あたくしの命じた事を忘れたか!」
その言葉に、衣装係長が唇を噛み締め、頭を下げた。
「恐れながら、申し上げたい事がございます。」
公爵家の娘は、冷徹な瞳で無言で見下ろす。
「私どもは高貴なお方にお仕えするために、ここにおります。
姫さま、あなたさまのようなお方にお仕えするためなのです。
私どもにもプライドがあります。
・・・土人の娘に使われたくありません!」
公爵家の娘の顔色が、サーッと変わった。
その直後、髪が逆立つほどの激昂をし
持っていた扇子を、召使いに投げつけた。
「この、たわけ者がーーーっ!!!!!
おまえは、あたくしの命令を聞かなかっただけではなく
王妃さまを侮辱したのであるぞ!
それは引いては、王さまへの侮辱!
すなわち王国への反逆じゃ!!!
忠告通り、首を跳ねてくれるわ!
衛兵、この者たちを牢へ!」
「待って!」
王妃が公爵家の娘に取りすがった。
「あたし、寒くない あたし、大丈夫
だから、その人たち、助けて!」
公爵家の娘は、侮蔑の笑いを浮かべながら
自分にしがみつく王妃の手を取って、つき離した。
「・・・王妃さま、何を善人ぶっていらっしゃるの?
あたくしは何度も何度も教えて差し上げましたわよね?
ここのルールを、しきたりを。
それを守らずに努力もせずに、周囲に軽視されて・・・。
あなたが軽蔑されるという事は、王さまが軽蔑される事なのに。」
公爵家の娘は、ドアへカツカツと歩いて行きながら
背中を向けたまま怒鳴った。
「この者たちの首を跳ねる事になったのは、あなたのせいだと
い い 加 減 お気付きになって!」
王妃は、呆然とへたりこんだ。
続く
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Comments
“継母伝説・二番目の恋 20” への3件のフィードバック
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このお話の濃厚さ、ゾクゾクします。
特にこの回の台詞、端々に緊迫感が溢れていますね。王妃様の純粋無垢さは、ある意味、大罪…
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王妃に感情移入しているので、毎回身もだえしています。
こういう人を空気読めないと言うのかな。
こういう人は社会的空間では存在を許されない、存在できるのは守られたわが家でしかないのかな。切ないことです。
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なかりちゃん、ありがとうー。
この話は、実はあまり事件がない
淡々としたあらすじなんだけど
これぞ、私の真骨頂だ!
と、全力で書いてるよー。:::::::::::::::
ぽんぽこちゃん、王妃好き、嬉しいよー。
王妃タイプも、また社会の歯車のひとつ。
それを表現できたら良いなあ。頑張るよ。
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