宮廷では、召使いの処刑の噂が広まっていた。
ありがちな尾ヒレが付いていたのは、言うまでもない。
公爵家の娘は、この件によって残虐さを恐れられるようになる。
「海千山千の貴族が跋扈 (ばっこ) するこの宮廷で
おひとりでは限界がございます。」
公爵家の娘に声を掛けたのは、ひとりの中年貴族である。
公爵家の娘には、その男性への見覚えがない。
「そなたは?」
「失礼いたしました。
わたくしはチェルニ男爵と申します。
長男が成人しましたので、領地を任せて
この度、宮廷に上がらせていただく事になりました。」
チェルニ男爵・・・、聞いた事がない。
あたくしが知らぬレベルの国内の貴族が、宮廷に上がれるとは解せない。
いぶかしんだ公爵家の娘は、その夜も寝室を通る王に訊ねた。
「チェルニ男爵なる者をご存知でしょうか?」
王の答は意外なものだった。
「現チェルニ男爵の母親は、わしの乳母だ。
現チェルニ男爵の末の弟とわしは、乳兄弟なのだ。
代々、王の馬番をしていた家系の夫の妻に
乳母としての身分を与えるために
当事、跡継ぎが絶えていた小さな男爵領を与えたのだ。」
「そうだったのですか・・・。」
それでは、公爵家の娘が知らないのも無理はない。
「その後、あの者が長男だったので男爵家を継ぎ
結婚して跡継ぎを作ったが、奥は病気で亡くなってな。
貧乏貴族なので、男手で子供たちを育てていたから
今まで宮廷に顔を出せなかったのだ。」
「よくわかりましたわ。
ご説明を、ありがとうございます。」
公爵家の娘が礼を言うと、王がつぶやいた。
「あの者、何かと役に立つ。
辺境の領土で、貧しいながらも幸せに暮らしていたので
呼び寄せるつもりはなかったのだがな。」
え?
公爵家の娘が思わず顔を上げた時には、ドアは閉まっていた。
公爵家の娘が資料室の奥で書類を探していると、背後で声がした。
「お探しの書類なら、ここに。」
受け取った書類は、確かに公爵家の娘が探していたもの。
「何故あたくしが、貴族の税収を調べていると?」
チェルニ男爵は、頭を下げたまま答えた。
「今のあなたさまが真っ先になさりたいのは
ベイエル伯爵を潰す事だからです。」
宮廷での貴族たちの遊興費等は、基本的には王家が持つ。
しかし城下町での邸宅の賃貸料や維持費、滞在費、使用人たちへの給料
流行に合わせた、宮廷に “ふさわしい” 高価な衣装代などを
捻出し続けられる貴族は少ない。
だから多くの貴族は、イベント時などに短期間の滞在しか出来ない。
貧乏な新興貴族であるチェルニ男爵家にも、そのような財力はない。
と言う事は、王がそれをすべて出している、という事。
そこまでして呼び寄せた理由が、この一瞬でわかった気がした。
公爵家の娘が、冷たい表情を崩さないまま訊く。
「そなたがしたい事は?」
「あなたさまのお手伝いです。」
チェルニ男爵はひざまずいて、公爵家の娘の靴に口付けた。
続く
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継母伝説・二番目の恋 22
Comments
“継母伝説・二番目の恋 22” への11件のフィードバック
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新キャラ登場でますます面白くなってきたー!
毎度肝が冷える思いで読んでます。
そこに少し王妃のマイペース振りが入ってきていい塩梅なんですが…
あれ以来出てこないのでヒヤヒヤの連続。
人を急かすのはよくないのですが…
続き早よ早よ!
バン はよ
バン (∩`・ω・) バン はよ
/ ミつ/ ̄ ̄ ̄/
 ̄ ̄\/___/ -
はじめまして。
いつもこっそり拝見してました。どきどき。思いもかけない新キャラ登場にわくわく♪男爵、いい仕事してくれそうですね!!
また楽しみが増えました(*≧∀≦*) -
椿ちゃん、せかされるの、嬉しいよー
ありがとうーーー。私、今この話作りに頭が一杯で
正直、毎日更新したいぐらいなんだ。でも冷静にならないと
ひとりよがりの、わけわからん展開になりそうで。まさか、この話で燃え尽きないだろうな、私・・・。
:::::::::::::::
ちゃちゃまるちゃん、ようこそーーー!
こっそり来てくれてて、ありがとうー。ネタばらしを自重してるんだ。
でも、ひとこと、ひとことだけーーー。良い仕事をします!!!
-
おもしろいのが、さらにおもしろくなってきた!
チェルニさんステキだなぁ…ベイエルと聞いて、ん?と思ってたけど、
チェルニ、で、やっぱそうかな?
今回はピアノレッスンシリーズ?笑 -
チェルニ人気が謎だ・・・。
いや、私も嫌いじゃあないんだけど
重要人物なんだけど
えええええええええええっ? だよー。
私の目は節穴かよ?ピアノレッスン・シリーズじゃないんだ。
「情緒に欠ける」 とか言われて、先生に匙を投げられて
バイエルのちょっと先までしかしてない暗い過去がっ!命名の由来とか、得意がって言って良いんかな?
「黙って続きだけ書いとれ、興が冷める!」
とか、ならんかな? -
あ、そうか。
終わるまで知りたくない人もいるかもしれないから、
言わないでおいて!!
軽々しくすまんだった。にしても、外したかー!
予測は地道に続けるぜ。
終わったら、答え合わせってことで。 -
ちょ、けるちゃん、黒雪シリーズ、
謎、全部明かさないと気が済まないんで
バラまいた不思議の説明で、えらい長くなると思うんだ。この継母伝説も、出来れば2ぐらいで
目的を達成したいんだよな。あのさ、今回のサブタイトル “二番目の恋”、
これ、誰の二番目か、誰が二番目か、何が二番目か、
解釈の違いで、話の意味合いも変わってくる
と思うんだ。“解釈” に正解、間違いはない、と思っているんで
皆がどういう受け取り方をするのか、とても興味あるよ。
常にサブタイトルを意識して読んでみてほしい。 -
了解。
答え合わせしたいのは、今んとこ
あしゅのネーミングルールだけだから、
話の内容自体のことを言ったわけではないんだ。
ややこしい書き方してすまんでした~ -
けるちゃん、謝らないで!
書いてる方からしたら、興味を持ってもらえるのは
とても嬉しいんだよー。ただ、残念なお知らせが・・・。
黒雪シリーズのネーミングは、あまり意味なし・・・。
やかたシリーズは、花のイメージを大事にしたけど
黒雪は長くなりそうなんで
種類が多いものにしただけなんだ、ごめん!な?
聞いてガックリだろ?こういう裏話をして良いんかな?
と、迷うんだよー。 -
ガッカリしない、しない。笑
仮に「ルール?別にないよ」って言われたら
そうか~、深読みだったか!(≧∇≦)
っていう答え合わせになるだけだよ。長くなるの歓迎~
だから…
長生きしてね…(^∀^)ノ -
けるちゃん・・・、優しい言葉をありがとう・・・。
にしても、とうとう言われるようになったか。
「長生きしてね」感慨深いのお。
まさか自分が長寿を願われる年寄りになれるとは!こりゃ、銅像が立つまで頑張るしかねえ。
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