継母伝説・二番目の恋 25

宮廷の資料室は広大である。
入り口には常に司書が待機しているし、いつも誰かが出入りをしている。
しかし、その奥の歴史室に用がある者はあまりいない。
 
なのに、その者はすぐに現れた。
「わたくしを思い出していただけて光栄です。」
 
 
公爵家の娘は、振り向きもしない。
「あたくしが、いつそなたを呼んだと?」
 
「中央廊下は遠回りでございましょう。
 わたくしに御用の際は、書類でも手に
 ひと気のない場所においでになってくだされば
 いついかなる時も、速やかに馳せ参じましょう。」
 
無表情で振り向いた公爵家の娘の靴に
チェルニ男爵が口付ける。
「お望みを何なりと。」
 
 
「王妃の召使いが欲しい。」
 
片膝をついて頭を下げたままのチェルニ男爵が微笑んだのは
公爵家の娘には見えなかったが
命じる側は、命じられる側の反応など気にしない。
 
「かしこまりました。
 では、至急わたくしの領地の資格ある者を
 何人か選んで呼び寄せましょう。」
 
 
その提案に、公爵家の娘は満足した。
男爵領は、東国の北西の辺境の地にある。
 
宮廷に上がる可能性のない、田舎の弱小貴族の領地の良家なら
“あの” 王妃への忠誠心も、持てるかも知れない。
 
チェルニ男爵の言う “資格” とは
とりあえず貴族の称号を持つ娘、という意味なので
身分の体裁も保てるというもの。
 
 
果たして、来た娘たちは垢抜けてはいなかったが
期待通りによく働いてくれた。
 
田舎者の召使いという事もあり、宮廷のしきたりに慣れておらず
大部分の事は、公爵家の娘が指示を出さないといけなかったが
王妃も、今までの気位の高い召使いに対するよりは
その朴とつさに、恐怖心が和らいだのか
少しは用事を “お願い” 出来るようである。
 
 
王妃の部屋の暖炉には、火が入った。
東国中央地方の首都近辺の生まれの公爵家の娘でさえ
少々ちゅうちょする暑さの部屋で
寒い北西の地から来た召使いたちは、汗だくである。
それでも不満を表さずに動き回ってくれた。
 
・・・これは確かに、通常の召使いでは勤まらないでしょうね
ムワッとする室温に、公爵家の娘はウンザリした。
しかし、王妃の風邪は治った。
 
 
チェルニ男爵とやら、さすが王が信頼するだけあって
申し分のない働きをしてくれる。
 
公爵家の娘は、王妃の部屋のチェックを早々に切り上げ
汗が吹き出た顔を、扇でバサバサと扇ぎながら自室へと戻った。
 
 
 続く 
 
 
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