公爵家の娘の召使いは、補充が簡単であった。
この国一番の貴族の娘だからだ。
しかも王の寵姫の上に、ヤリ手である。
公爵家の娘が王妃に差し出した召使いたちが、若い女性ばかりだったのは
“王妃付き” という事で箔がついて
より良い家に嫁げるようにであった。
通常はそうなので、公爵家の娘は今回もそうだと思い込んだ。
しかし表向きの結果は、王妃侮辱罪で処刑。
幸いと言って良いのか、“今回” は実家にまでは咎めはなかったが
彼女らの人生を狂わせたのには違いない。
ほんの一瞬の判断の狂いが、ひとつの家系を潰す事に繋がりかねない。
公爵家の娘は、今回はより慎重になった。
「おまえたちはチェルニ男爵領から来た召使いたちと
仲良く交流が出来るかしら?」
公爵家の娘の問いに、召使いたちは快い返事をした。
「はい、もちろんです。
そのような、遠くの領地から来た人たちには
親切にして差し上げるべきですわ。」
その気持ちを、似た境遇の王妃にも持ってくれれば良いのだが
彼女たちが優しいのは、同じ召使い同士間での事である。
身分が高くなるほど、要求される事も多くなるので
義務をひとつも果たしていない現王妃をかばう事は出来ない。
公爵家の娘は、溜め息を付きそうになったのを
扇で隠しながら、命じた。
「・・・では、新しく来た王妃さま付きの召使いたちに
“ここ” での慣習を教えてあげなさい。
彼女たちの働きぶりの報告もしてちょうだい。」
はい、と元気良く返事をする召使いたちを、公爵家の娘は見据えた。
「あたくしの希望は、今度は叶えられるのかしら?」
召使いたちは、は、はい、と重ねて返事をする。
公爵家の娘は召使いたちを睨んで、持っていた扇を閉じ
その先で自分の首をゆっくりと斜めになぞった。
召使いたちはゾッとしたが、心配はしていなかった。
処刑された召使いたちの両親は、公爵家から莫大な見舞金を渡され
次々に西国へと旅行に行っている、という噂を聞いたからである。
これが、公爵家の召使いの間だけでの噂に終わったのは
それを聞いた者全員が何となく、外に漏らしてはいけない
と感じ、実際に口を閉じたからである。
どこの家にも秘密はある。
さあ、これで王妃の世話の件は片付いた。
あたくしは社交、社交、と。
公爵家の娘は、いつもの夜会だけではなく
昼食会にも熱心に顔を出し始めた。
「あら、姫さま、今日はおひとりですの?
ごゆっくりできますわね。」
皆が掛けてくれる言葉に、公爵家の娘のこめかみに青筋が立った。
・・・そうなのよ、いつもあの人見知りの王妃がくっついてきて
しかも、ほとんど食事をせず口も利かず
ただそこに “いる” だけなので
あたくしは自由に社交が出来ないんだわ。
公爵家の娘は、華やかに談笑しつつも
あたりをそれとなく見回した。
一見したら、無造作にバラけているようでも
“グループ” というのが垣間見える。
無秩序な集団というのは、存在なしえないのである。
それを探すには、距離感やアイコンタクト、真顔になる等の
一瞬の親しみを見抜かねばならない。
公爵家の娘は、ベイエル伯爵の交友関係を探っていた。
“家” が悪事を働いていなくても
悪い “付き合い” があるかも知れないですものね。
公爵家の娘の頭の中には、ベイエル伯爵家が
“清廉潔白” という可能性は、まったくなかった。
続く
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