祭は終わった。
その余韻を手放したくない人々は
どこの誰と誰が秘密の快楽をむさぼった、など
あちこちで、勝手な噂を立てては消し
それは宮廷内でも例外ではなかった。
この熱気が冷めると、東国はいよいよ冬へと入っていくのである。
「仮装パーティーなど、禁止すべきじゃな!
堕落の元でしかない。」
ブリブリと怒る大神官長に、衣装を畳む巫女たちがコロコロと笑う。
「でも、皆、このお祭が楽しみですのよ。」
光がこぼれそうなその笑みに
大神官長は咳払いをしつつ、目を逸らす。
中庭では、木々の飾り付けを片付ける小間使いたちに
植木職人が目を奪われては、慌てて鋏の先に視線を引き戻す。
そんな、動悸を無理に鎮めようとするかのような空気を
渡り廊下からボンヤリと眺める公爵家の娘に
お辞儀をしたのは、チェルニ男爵であった。
「あの青年は、ノーラン伯爵です。」
ここで、それは誰の事かしら? などと墓穴を掘る公爵家の娘ではない。
「そうですか。
して、あの者の目的は?」
「・・・さあ、若さゆえでしょうか。」
公爵家の娘は、鼻で笑った。
「愛だ恋だで、己の首を賭けるアホウはおるまいに。」
この “思い込み” をチェルニ男爵は正さなかった。
それもまた、公爵家の娘の “若さゆえ” なのだから。
公爵家の娘は、即座に書庫へと移動した。
ノーラン伯爵・・・、聞いた事がある程度なので中央貴族ではないだろうけど
あの洗練された物腰は、昨日今日出の田舎貴族ではないはず。
貴族名鑑をめくる手が止まる。
・・・この領地は、ベイエル伯爵領地内・・・?
資料室は同じ建物とはいえ、遠い。
ああ、もう、何故貴族の調査は2室にまたがらなくては出来ないの?
イラ立つ公爵家の娘だったが、系図を探しあてたら
彼女にとっては、後はもう簡単なパズルである。
ああ、なるほど。
ノーラン伯爵家は、ベイエル伯爵家の “畑” のようなものなのね。
ベイエル家は、多産の家系のノーラン家と
定期的に姻戚関係を結んでさえいれば
養子や婚姻で、確実にベイエルの血を繋いでいける。
公爵家の娘は、ふと思った。
にしては、ベイエル伯爵家の相続は、更に “男系” も課している。
公爵の称号を持つうちでさえ、“嫡子相続” という条件しかないのに。
直系男子にこだわる家系は大抵、繁殖力が弱まる。
それを補うための、ノーラン家の存在なのだろうけど
それにしても、ベイエル家のこの死亡率の高さは何なのかしら?
ほぼ20年おきに、家の男性が死亡している。
死因は、病気、事故、様々だけど何だか異様ね・・・。
ここに、ベイエル伯爵家の “秘密” があるかも知れないわね。
扇で隠した口元を緩ませる公爵家の娘の背後から声がした。
「わたしに直接訊いてくだされば済みますのに。」
続く
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