・・・でも、よく考えると・・・
あの王妃が健康な妊婦でいられるわけがない。
「今まで以上に気を付けなければ!」
思わず叫んで飛び起きたところに、王が入って来た。
「うむ、わしもそう思い直した・・・。」
公爵家の娘は、露骨に警戒しつつ掛け布団を引き上げた。
「何故そちらのドアからお入りになってるの?」
そのドアは、王妃の部屋へと繋がる内ドアである。
「いや、王妃のつわりがひどくてな・・・。
見ていると、こっちまでつわりが移ってな・・・。」
「こんな時に夜伽など、何をお考えでらっしゃるの!」
公爵家の娘の激昂に、王が慌てて否定する。
「違う、違うぞ。
わしは側で見守ろうと・・・。」
「だったら最後までお見守りあそばせ!」
王を王妃の寝室へと追い返して、公爵家の娘はベッドに入り直した。
側室に蹴り出される、大国の王・・・。
ふたりの、いや、王妃の懐妊を知る全員の杞憂が当たり
王妃のつわりはひどく、見る見るヤツれていった。
「何か食べたいものはございませんの?」
枕元で優しく訊く公爵家の娘にも、王妃は首を横に振るだけ。
その姿は、一緒に踊ったあの夜とは
うって変わって、痩せ細って生気も失せていた。
このままじゃいけない・・・
そうは思うけど、公爵家の娘は誰にも相談しなかった。
王妃の事であたくしに思いつかない事は、誰にも思いつかないわ!
公爵家の娘は、部屋でひとりで考えた。
何故だかわからないけど、誰にも指図をされたくなかったのだ。
うん、どう考えてもこれしかないわね
公爵家の娘は、南国の料理を作る事にした。
しかし、それは思う以上に困難だった。
現王妃のせいで、余計に歓迎されない南国の料理
ただでさえ材料が入手しにくいところに、今は冬なのだ。
「兵士を数人、貸してくださいませ。」
公爵家の娘は、王に頭を下げた。
「バカな、南国人街へ行くなど
南国料理以外、他にももっと方法があるであろう!」
王の叱責にも、公爵家の娘は動じなかった。
「そう思うお方ばかりだから、あたくしが自ら動かねばならないのですよ。
王さまも、ご自分の我がままを自覚なさっているのなら
あたくしが王妃さまのためにする事に、文句など仰れないはず!」
ビシッと言い放つ公爵家の娘に、王はひとことの反論も出来なかった。
公爵家の娘は、ドアの前で振り返って更に言った。
「今回の事は、あたくしの “貸し” ですわよ、王さま。」
言いたいだけ言うと、公爵家の娘はスタスタと部屋を出て行った。
入って来て出て行くまで、笑顔のひとつも見せない。
女は子が出来ると強くなると言うが
肝心の妊婦は弱って、姫がより強くなるとは・・・
王は、こめかみを押さえつつ、グラスの水を飲み干した。
「姫に兵を。」
侍従を呼び、命じる。
しばらくして、侍従が戻ってきた。
「一個小隊 (約30人) もいらない、とつき返されました・・・。」
「何? 王の寵姫がそんな少人数で出掛けたと言うのか!」
玉座で王が激怒している時
既に公爵家の娘は汚いドレスで
5人の私服兵士だけを連れて、城門を馬で駆け抜けて行った。
続く
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