城下町の端にある南国人街の南国人は、東国風の暮らしをしていた。
文化があまりにも違いすぎると、融合もしなくなるようである。
そうよね、簡単に行き来できる国じゃないから
南国のものも手に入らないだろうし・・・
公爵家の娘は、自分の考えの甘さに落胆し
つい、後ろに控えている兵士に声を掛けてしまった。
「どうしたら良いのかしら?」
貴族の姫と下級兵士は、直接口を利けない。
必ず間に、相応の身分の召使いが介在する。
バカげた慣例だが、身分制度の強い地域では
線引きをはっきりする事によって
勘違いや混乱の可能性を減らした方が
結局はお互いのためになるのである。
驚いたのは兵士である。
下級兵士でも、平民にとってはエリートコースだが
それでも貴族の近くに行く事は、滅多にない。
貴族の方が、地位も身分も上ではあるが
平民には平民しか持てない、財産や自由や権利があるので
どちらが幸せなわけでもないのは、この国の民なら全員知っている。
しかしそれでも目の前の大貴族の姫は、平民の娘とは雰囲気が違い過ぎた。
汚い、と言っても平民にとっては高級な仕立てのドレス
普段の暮らしが伺い知れる、清潔で栄養の行き届いた髪や爪
何気なく立っているだけなのに、スッと伸びた背筋。
たとえドブに落ちても、このお方は輝いているだろう
そう思わせるだけの、手入れの良さである。
兵士たちの驚愕に、我に返った公爵家の娘だが
後先考えずに飛び出して来たので、召使いも置いてきた。
と言うか、良家の子女の召使いたちは、こんな場所では足手まといである。
でもこんな事をしちゃった手前、手ブラでは帰れない、絶対に。
うーーーん、と考え込む公爵家の娘に
兵士のひとりが頭を下げたまま、口を開いた。
「あの・・・、ここの権力者にお会いになったらどうでしょう?」
「権力者?」
公爵家の娘は、いぶかしんだ。
この街は王家の所有なのだ。
「いえ、権力者と言うか、平民の中にも
他人に影響力のある、際立って裕福な人物がいるのです。
南国人街にも、そういう立場の者がいるはずです。」
この意見に、公爵家の娘は納得させられた。
各街には、領主が任命もしくは許可を出した “長” がいる。
しかし、人は数人集まると派閥を作る。
公にはならないリーダーが出来ても無理はない。
「では、その者を探せば良いのだな?」
公爵家の娘に、兵士は答えた。
「いえ、もうあちらから様子を見に来ているようです。」
何やら異質な雰囲気の女性が、屈強そうな男たちを引き連れてウロついている、
それは充分に、“見張る” 対象になる。
見張られていると言われても、公爵家の娘が周囲を見回さなかったのは
噂慣れをしていたからである。
相手を見ながらの陰口は、本人に気付かれる。
公爵家の娘は視線すら動かさずに、自然な口調で命じた。
「では、その者を捕らえよ。」
兵士は、はっ と返事をした途端、走り出し
家の陰にいた男性を引き連れて戻って来た。
「そなたの家に案内してもらおうか。」
国一番の大貴族の娘は、自分の命令にNOと言われる想定をしない。
続く
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