継母伝説・二番目の恋 40

南国との会談が始まった。
大使には、中央の有力貴族が任命されたが
東国南部の王の領地が、貿易の拠点になった。
 
南国人街の “権力者” は、南国からの輸入品の
東国内での管理を命じられた。
 
その任命式で、遠目に見た王の後ろに
見覚えのある女性がいるような気がしたが
それはひとりの男性の登場によって、確信へと変わった。
 
 
「よお。」
平服を着たその男性は、あの時身分の高そうな女性と供にいて
自分を脅した張本人であった。
 
「あんたは・・・。」
「俺は城の兵士だ。
 今後しばらく、あんたと共に動けってさ。
 ウォルカーって名だ。 よろしくな。」
 
「監視かね?」
“権力者” は、不愉快そうな顔をした。
 
「いや、貿易ルートが速やかに整うように現場であんたを手伝え、とさ。
 これは姫さまの純粋な御厚意だぜ。
 俺の任務は、姫さまが欲しいものを揃える事なんだからな。」
 
「姫さま?」
ウォルカーは、声をひそめた。
「食の細い王妃さまに、南国の料理を食べさせたいんだと。」
 
 
その言葉を聞いて、一瞬で多くの事を理解できる頭を持つのが
“権力者” でいられる理由であろう。
 
南国から来た王妃は、その頭の弱さゆえに
この国一番の貴族の姫が、王妃に成り代わろうとしている、
という噂があるからだ。
 
先日来た女性が、その “姫さま” か!
 
だとしたら、今回の南国との突然の国交開始は
隠密行動までしていた、その姫さまの意向としか考えられない。
 
その理由が、南国出身の王妃の食事?
取って代わろうとしている相手の食事のために
貴族のお姫さまが、あんなところまで自身で来るものか?
 
噂とは、このようにアテにならない事もあるのが恐いな
“権力者” は、愉快そうに笑った。
 
 
肌の色が違う、というのは相容れない原因のひとつである。
東国人の肌は卵色のせいか、まだ “あたり” も柔らかく
南国人が安心して暮らせる、専用区画も作らせてくれたが
真っ白な肌の西国人は、南国人を容赦なく奴隷扱いすると聞く。
 
東国の王は、南国の姫を王妃にし
東国の姫は、南国出身の王妃の体を心配する。
 
貧困ゆえに、生まれ故郷の南国を出て
外国に移り住んだ己の不遇を、嘆き悲しむ事も度々あるが
この国にいるわしらは、案外幸せなのかも知れんな。
 
 
“権力者” は、報酬目当てだけではなく
この与えられた役目に、誇りを持とうと思った。
 
「わしはケルスートと言う。
 よろしくな、ウォルカー。」
“権力者” こと、ケルスートは右手を出した。
 
ウォルカーはその手を握り、微笑んだ。
「ああ、お互いのためにも、上手い事やりとげようぜ。」
 
 
 続く 
 
 
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