継母伝説・二番目の恋 44

王妃が完食するほどに、公爵家の娘の料理の腕前は上がった。
ほほほ、あたくしは何をしても天才なのよ
 
悦に入る公爵家の娘の手の傷は消えていた。
またひとつ、特技を手に入れた高貴なる姫君。
 
 
公爵家の娘の手料理と、春になって暖かくなってきたお陰で
王妃の体調は、すっかり良くなっていた。
 
王妃の膨らんだお腹の中で、元気そうに動き回る子供に
王も公爵家の娘も、出産が待ち遠しくてならなかった。
 
「だけど、王妃さまにプレッシャーを与えてはなりませんわ。」
「うむ、そうだな。」
 
ふたりは打ち合わせて、“いつも通り” を意識した。
こういう時は、ふたりで秘密の悪巧みをしてる気分になって
何となくワクワクするのだが、そんな子供じみた事を言えるわけもなく
どちらも大人ぶって、自分の胸にだけ隠しておいた。
 
 
しばらく料理を作らないと、王妃が自分で作ると言い出すので
公爵家の娘は、週に1度は厨房に入らなければならなかった。
王妃は何故か、南国の料理人が作ったものと
公爵家の娘の手料理を見分ける事が出来るのだ。
 
専門家が作った方が美味しいのに、あの子は舌までもバカなのね
公爵家の娘は、仕方なしに料理をしていたが
その内に王までもが食べに来始めたので、手を抜けなくなってしまった。
 
王妃の部屋では、王と王妃と公爵家の娘の
3人での食事会が恒例となりつつあった。
王妃が笑顔で食事を摂るのは、東国に嫁いできて
かつてなかった事なので、この食事会を止めるわけにはいかなかった。
 
 
“国一番の貴族の姫君が料理をしている”
 
これは、宮廷ではスキャンダルである。
いくら使用人たちが口を閉じていても
各貴族の召使いたちの間では噂になる。
 
口火を切ったのは、もちろん
かの宿敵、ベイエル伯爵であった。
 
 
「高貴なお方が、下々の真似事をなさっている、
 という信じられない与太話を耳にしましたが
 それは、わたしめの聞き違いですかな?」
 
やっぱり、おまえが来るのね
公爵家の娘は、予想の当たり過ぎについ笑ってしまった。
それが神経を逆撫でしたようで、ベイエル伯爵は言い過ぎる。
 
「それも聞くところによると、南国料理だそうで
 きつい香辛料で宮廷が土人臭くなって、かなわぬわ!」
 
 
公爵家の娘は、落ち着きはらって堂々と答えた。
「あたくしは王と王妃のためなら、畑とてこの手で耕しますわ。
 あなたにはそういう忠誠心がございませんの?」
 
「下賎な者の仕事をする事が忠誠心かっ!」
ベイエル伯爵の激昂に、公爵家の娘がサラリと応える。
「王と王妃が望むのなら。」
 
 
この答は、王の溜飲を下げたが
そこまで言われて黙っているのも、威厳に関わる。
王は、毅然と言った。
 
「ベイエル伯爵、そなたは、わしの妃を軽んじているようだな。
 それはすなわち、わしを軽んじているのと同じであるぞ。
 言葉に気をつけよ。」
 
 
ベイエル伯爵は返事をしなかった。
しかし、吊り上った目尻、噛み締めた唇、震えるほど強く握り締めた拳
その形相を見た誰もが、背筋を凍らせた。
 
王も公爵家の娘も後悔した。
いつかは諌めねばならない無礼な態度なのだ。
 
だがそれが果たして、“今” で良かったのか・・・
 
王と公爵家の娘は、心中で案じ合った。
 
 
 続く 
 
 
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