継母伝説・二番目の恋 45

ベイエル伯爵は適当な都合を付けて、領地へと帰って行った。
余程、腹に据えかねたのであろう。
 
職務放棄ではあるが、しばらくはあの顔を見なくて済む。
公爵家の娘はホッとした。
にこやかにしていれば、繊細で美しい顔立ちなのにね。
 
 
ベイエル伯爵には3人の息子たちがいて、いずれも美男だという噂である。
長男はもう結婚をしているが、公爵家の娘とつりあう年齢の次男がいる。
 
まさか、その次男とあたくしの婚姻で
色んなしがらみを流そう、とは・・・
いえ、内戦をするぐらいなら、その方法を取るはず。
 
 
公爵家の娘は、不安に駆られた。
王はベイエル伯爵とは不仲だけど
ノーラン伯爵の死をどう思ってらっしゃるのかしら?
 
ノーラン伯爵・・・。
たった3回会っただけの、この男性が
公爵家の娘の人生に、大きな影響を及ぼすとは
当のノーラン伯爵でさえ、予想してはいなかった事であろう。
 
 
公爵家の娘と同じ不安を、王も抱いたのか
城の警備が厳しくなった。
理由は、“王妃が出産間近ゆえ” であった。
 
王妃の居室の周囲には兵士がいつもの倍、配置され
王妃が口にするものすべてに、毒見係が付いた。
 
厨房にも大量の見張りが置かれたので
公爵家の娘は、余計に料理をしたくなくなった。
あたくしのこのような姿を見られるなんて、嫌だわ・・・
 
しかし、その姿は意外にも兵士たちの受けが良く
公爵家の娘には密かなファンが増えた。
 
 
王妃が公爵家の娘に再び心を開いたからといって、何も変わらなかった。
公爵家の娘は、相変わらず仏頂面で業務的な事しか喋らないし
王妃は困ったように微笑んで、公爵家の娘の背中を盗み見るだけだった。
 
侍医が体力をつけるのも大事だと言うので
公爵家の娘が中庭を一緒に歩いた。
 
王妃が妊娠中だからといって
公爵家の娘の公務がなくなるわけではないのだが
他の者が供だと、部屋から出るのですら嫌がるからである。
 
はあ・・・、この子はあたくしを忙しくさせるために存在しているのかしらね
公爵家の娘は、王妃の依存にウンザリしていたが
跡継ぎが産まれるまでの事、と耐え忍んだ。
 
 
すべての出入り口を兵士が塞いだ中庭は、それでも充分に広く
物陰に控えた数名の召使い以外には
人目がまったくない、緑あふれる空間。
 
ふたりは、手を伸ばせば触れられる距離を保ちながら
言葉も交わさず、ただゆっくりゆっくりと歩いた。
時折、立ち止まっては雲の流れを仰ぎ見て。
 
 
その光景は、時間の存在すら感じない
ふたりの少女の絵画のようであった。
 
 
 続く 
 
 
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