継母伝説・二番目の恋 46

ベイエル伯爵の次男の死の一報が、城を駆け巡った時には
政略結婚の可能性が消えて、公爵家の娘は内心安堵した。
 
同時にノーラン伯爵の死が、またしても脳裏に甦る。
しかし、その疑念もすぐに消えた。
 
ベイエル伯爵の突然の帰還は、次男の病気が真の理由で
その事は周囲には隠しておきたかったらしい。
 
それを聞き、公爵家の娘は少し同情をした。
あの時の憤怒は、息子の病気で気が立っていたのね
身内に死が続いて、お気の毒に・・・。
 
 
だが、人に同情しているヒマはなかった。
王妃の体調が悪くなったのである。
 
王妃は少しずつ少しずつ動かなくなり
眠っている時間が長くなっていった。
 
これはどういう事か、と侍医に問うても
わからない、という言葉しか返ってこない。
 
 
「あたくしの料理が悪かったのかしら?」
心配も頂点になった公爵家の娘を、王が慰める。
「いや、それは断じてない。
 何者であろうと、王妃には何の手出しも出来る隙は与えておらぬ。
 これは、“病” だ。」
 
「でも、侍医ですらわからないと言っているではないですか。」
「東国人の医師には東国人の体しか・・・」
言い合いながら、ふたりは顔を見合わせた。
 
次の瞬間、慌てて王妃の寝室から飛び出し
互いに互いのルートで、南国の医師探しを命じる。
「とにかく急いで!」
「何人でも構わぬ!」
 
本来なら、身篭った王妃の急病など隠さねばならない。
しかし、なりふり構っている状況ではない事は
誰もが何となく察していた。
あの王と姫が、あれだけ慌てているのである。
 
 
王妃の病を知った貴族たちが、続々と見舞いにやってくる。
あれだけ王妃をさげすんでいたくせに・・・
それでも、その形ばかりの見舞いも受けねばならない。
 
どんなに辛くても、余裕がなくても
きちんと対応をして礼を述べる、それが社交なのである。
それを避けたいから、ベイエル伯爵も次男の病気を隠したのであろう。
 
 
その表面だけの見舞い客の中に、南国からの使者がいた。
その使者は、王ではなく公爵家の娘に謁見を申し出た。
 
あのバカ娘のせいで、忙しくて目が回りそうなのに
南国人は、使者までうっとうしい。
謁見は王に任せて、女のあたくしが側に付いていないといけないのに・・・。
 
公爵家の娘は、内心イライラしながらも
落ち着いて威厳ある風情で、南国からの使者の前に立った。
「遠くからのお見舞い、痛み入ります。
 貴国からお迎えした王妃さまのお具合が悪くなり
 どうお詫びをしたら良いのか・・・。」
 
 
南国からの使者は、意外な言葉を告げた。
「我が王は、嫁に出した娘の事は
 すべてそちらにお任せする、と申しております。
 今日は、今まで良くしてくださった公爵家の姫さまに
 心ばかりのお礼を届けるよう、言い付かってまいりました。」
 
その言葉に、公爵家の娘は頭から血の気が引いた。
王妃は生きてるのに、この者は何を言っているの?
 
 
公爵家の娘は、ベッドの上で目を覚ました。
ああ・・・、王妃が病気になるなど
何て悪い夢を見てしまったのかしら・・・。
 
痛む頭を抱えながらグラスの水を飲んでいるところに、王が入って来た。
公爵家の娘は、その王の姿を見た瞬間、すべてを理解した。
 
 
これからまた、その悪夢の続きが始まるのだ。
終わらない夢が。
 
 
 続く 
 
 
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      継母伝説・二番目の恋 1 12.6.4 
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“継母伝説・二番目の恋 46” への2件のフィードバック

  1. けるのアバター
    ける

    ……………!!!!!

  2. あしゅのアバター
    あしゅ

    うん。

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