継母伝説・二番目の恋 47

「王さま、あたくしたち、騒ぎ過ぎましたわ!
 皆、王妃さまがお亡くなりになる前提で
 “見舞い” に来ておりますわ!
 そんな誤解、ひどすぎますわ、何て縁起が悪い!!!」
 
ヒステリックに訴える公爵家の娘を、王が抱きしめる。
「姫よ・・・、王妃は死ぬ。」
 
 
その残酷な宣告に、公爵家の娘が無言だったのは
王の声が震えていたからである。
 
「そなたは、4日も眠っておったのだ。
 皆、王妃に続いて姫までもが、と大層心配しておった。
 そなたが目覚めてくれて、本当に良かった・・・。」
 
王の公爵家の娘を抱きしめる全身に、痛いほどに力が加わった。
公爵家の娘は、自分の事をこんなに気に掛ける王の様子に
王妃の死を覚悟せざるを得ない事を感じた。
 
「で・・・は・・・、王妃さまは・・・?」
「南国の医師が6人来たが、全員わからないと匙を投げた。
 このままでは腹の子も危ない。
 もうすぐ、子を取り出す手術が始まる。」
 
 
公爵家の娘は、王の腕を振りほどいた。
「では、王妃さまはまだ生きていらっしゃるのね?」
 
裸足で部屋を飛び出る公爵家の娘を、王の言葉が追う。
「行くでない!!!」
 
だが、叫ぶしか出来なかった。
王は公爵家の娘のベッドに座ったまま、両手で顔を覆った。
 
 
寝巻き姿で髪を振り乱して、裸足で廊下を走る公爵家の娘。
 
行きかう者は、一瞬ギョッとするが
即座に背を向け、壁に向かって頭を下げて目を閉じる。
 
国一番の高貴な姫の、ありえない狂乱を
城の人々は皆、見ないようにした。
 
王妃の命が絶たれようとしているのだ。
 
通常なら、正妃の死は側室にとっては喜ばしい事であるので
人々はその時改めて、王妃と公爵家の娘の間の愛情が本物だ、と思い知った。
 
 
手術室の前の衛兵には、公爵家の娘を止められない。
「待って! 止めて!」
侍医に追いすがりながら、公爵家の娘は叫んだ。
 
「王妃さまのお命を諦めないで!
 生きてさえいれば、また御子は授かるわ!」
 
侍医たちは冷静であった。
王妃が昏睡してから、何日も話し合った結果である。
「姫さま、その願いは叶えもうせません・・・。
 御子だけでも助けないと、国は両方を失う事になるのです。」
 
 
常人なら、ここでまた気を失う程の絶望が襲うであろう。
その顔色を見て、休ませるよう看護婦に言う医師を
公爵家の娘は拒否した。
 
「それでは、あたくしも立会います。」
 
侍医の返事を待たずに、意識のない王妃の枕元に行き、その手を握る。
その決意に満ちた横顔に、止める者はいなかった。
 
 
このバカ娘に、あたくし以外の誰が付いててやれると言うの?
公爵の娘がギュッと握る手に、何の反応もない。
 
もうダメなのだ。
本当にこれで終わりなのだ。
 
 
手術が終わって、赤子の泣き声が響き
周囲が喜びに包まれても
公爵家の娘は王妃の手を握ったまま、うつむいていた。
 
この、握り締めた手を覚えている。
星に近い場所でふたりきり踊った、あの祭の最後の夜。
 
 
王妃は最期まで、ピクリとも動かなかった。
 
 
 続く 
 
 
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