継母伝説・二番目の恋 48

子供は女であった。
世継ぎ誕生の喜びに、王妃の死はかき消された。
 
公爵家の娘は、病いを口実に部屋に閉じこもった。
もう、何もかもが嫌になっていた。
 
あんなバカ娘のせいで!
自分の落ち込みようも、更なる落胆の積み重ねでしかなかった。
 
 
そんな公爵家の娘の元に、王がやってきた。
「具合はどうだ?」
公爵家の娘は、無表情で答える。
「あまり・・・。」
 
その様子に、王は少しちゅうちょしたが切り出した。
「我が娘の名前を、そなたに付けてもらいたいのだ。」
 
 
その要望に、公爵家の娘がどれだけ驚いたか。
王族の名は、神官を中心とした会議で決めるのが慣例であったからだ。
 
王は王なりに、公爵家の娘に礼を尽くそうとしているのか。
公爵家の娘は “あれ” 以来、初めて少し微笑んだ。
 
 
「では、黒雪姫と・・・。」
何故かスッと口を付いて出た名前に、王はすぐに同意をした。
 
「おお・・・、それは良い名だ。
 雪のように汚れを知らぬ美しい心を持った、あの黒い母の娘に
 それ程、ふさわしい名はあるまい。」
 
 
そう、あの汚れなき美しさに、どんなに傷付けられたか・・・。
 
でももういない
あたくしの傷は、もう癒えない
あなたがいないのだから、仕返しも追い越しも出来ない
あたくしは永遠にあなたを、遠い思い出の中でしか憎めない・・・。
 
 
今の公爵家の娘の視線は、気を抜くとすぐに下に落ちている。
こんなの、あたくしらしくないのはわかっている・・・。
 
公爵家の娘には、どうすべきかはわかっていた。
しかし頭が出す答に、心が付いていかないのである。
 
「王さま、以前に何でも望みを叶えてくださる、と
 あたくしに約束なさったのを覚えておいでですか?」
 
 
王は思った。
そんな “約束” など持ち出さなくても、と。
しかし、それは的外れであった。
 
「あたくしを、どこか遠くに嫁がせてください。」
 
公爵家の娘の思いがけない “お願い” に
王は動転して、しばらく声も出せなかった。
そして、やっと口から出た言葉がこれだ。
 
「そなたまで、わしを置いていくと言うのか・・・。」
 
 
公爵家の娘は、冷静であった。
「このまま、あたくしが王さまの側にいると
 周囲は再婚を望むようになるでしょう。」
 
「それのどこが悪い!」
王が怒鳴る。
 
「国はあたくしが産む子を、次の王にと望みます。
 そうなると、内戦の可能性が出てきます。」
 
「そんな事はさせぬ。
 そんな心配はいらぬ。
 わしがこの国の平和を守る。」
 
 
王の懇願を、公爵家の娘は冷たく拒絶した。
 
「王さまは、勘違いなさっていらっしゃいますわ。
 “あのお方の御子以外は、絶対に次の王にしない”
 これが、あたくしの願いですのよ。」
 
 
じゃないと、あのお方がここに嫁いだ証しが消えてしまう・・・
それが公爵家の娘には許せなかった。
 
このあたくしが、ここまで憎んだ者なのに!
 
 
 続く 
 
 
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