子供は女であった。
世継ぎ誕生の喜びに、王妃の死はかき消された。
公爵家の娘は、病いを口実に部屋に閉じこもった。
もう、何もかもが嫌になっていた。
あんなバカ娘のせいで!
自分の落ち込みようも、更なる落胆の積み重ねでしかなかった。
そんな公爵家の娘の元に、王がやってきた。
「具合はどうだ?」
公爵家の娘は、無表情で答える。
「あまり・・・。」
その様子に、王は少しちゅうちょしたが切り出した。
「我が娘の名前を、そなたに付けてもらいたいのだ。」
その要望に、公爵家の娘がどれだけ驚いたか。
王族の名は、神官を中心とした会議で決めるのが慣例であったからだ。
王は王なりに、公爵家の娘に礼を尽くそうとしているのか。
公爵家の娘は “あれ” 以来、初めて少し微笑んだ。
「では、黒雪姫と・・・。」
何故かスッと口を付いて出た名前に、王はすぐに同意をした。
「おお・・・、それは良い名だ。
雪のように汚れを知らぬ美しい心を持った、あの黒い母の娘に
それ程、ふさわしい名はあるまい。」
そう、あの汚れなき美しさに、どんなに傷付けられたか・・・。
でももういない
あたくしの傷は、もう癒えない
あなたがいないのだから、仕返しも追い越しも出来ない
あたくしは永遠にあなたを、遠い思い出の中でしか憎めない・・・。
今の公爵家の娘の視線は、気を抜くとすぐに下に落ちている。
こんなの、あたくしらしくないのはわかっている・・・。
公爵家の娘には、どうすべきかはわかっていた。
しかし頭が出す答に、心が付いていかないのである。
「王さま、以前に何でも望みを叶えてくださる、と
あたくしに約束なさったのを覚えておいでですか?」
王は思った。
そんな “約束” など持ち出さなくても、と。
しかし、それは的外れであった。
「あたくしを、どこか遠くに嫁がせてください。」
公爵家の娘の思いがけない “お願い” に
王は動転して、しばらく声も出せなかった。
そして、やっと口から出た言葉がこれだ。
「そなたまで、わしを置いていくと言うのか・・・。」
公爵家の娘は、冷静であった。
「このまま、あたくしが王さまの側にいると
周囲は再婚を望むようになるでしょう。」
「それのどこが悪い!」
王が怒鳴る。
「国はあたくしが産む子を、次の王にと望みます。
そうなると、内戦の可能性が出てきます。」
「そんな事はさせぬ。
そんな心配はいらぬ。
わしがこの国の平和を守る。」
王の懇願を、公爵家の娘は冷たく拒絶した。
「王さまは、勘違いなさっていらっしゃいますわ。
“あのお方の御子以外は、絶対に次の王にしない”
これが、あたくしの願いですのよ。」
じゃないと、あのお方がここに嫁いだ証しが消えてしまう・・・
それが公爵家の娘には許せなかった。
このあたくしが、ここまで憎んだ者なのに!
続く
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