(ピンポーン)
ヨネ 「具合はどうね?」
ウメ 「だいぶよかばってん、体力がなかなか元に戻らんとたい。」
ヨネ 「病院には行ったとね?」
ウメ 「いや、もうちょっと元気にならんと行っきらんばいた。」
ヨネ 「病院ほど、元気じゃないと行く気がせん場所もなかよね。」
ウメ 「絶好調で行っても、風邪ば貰って来たりするきね。」
ウメ 「にしても、引きこもりのおめえが、うちに来るなんて珍しかね。」
ヨネ 「独居老人のおめえが寝込んだとなったら、しょんなかたい。
食欲はあるとね?」
ウメ 「まあ普通じゃけども、その強い匂いのするタッパーは何ね?」
ヨネ 「キムチおかゆたい。」
ウメ 「・・・ピリカラ作ね?」
ヨネ 「うちの嫁以外に誰がおかゆにキムチを入れるね?」
ウメ 「ピリカラ、おかゆの存在理由を知っとっとね?」
ヨネ 「・・・おめえが突っ込むと思って
ちゃんとコンビニでレトルト粥も買うて来たたい。」
ウメ 「これは突っ込みじゃなかばってん
おめえ、そぎゃん料理せん女だったかね?」
ヨネ 「結婚当初に嫁に言われたったい。
『おかあさんはこれからはノンビリしてくださいね。
家庭に 主 婦 は ふ た り も い り ま せ ん し』 て。」
ウメ 「ヒイイイイイイイイイッ!
ピリカラ、意外に戦闘的な女だったてわけね?」
ヨネ 「何かめんどそうだったけん、なるべく逆らわんようにしとったら
その後しばらくして、古新聞の束に隠すように
“結婚は最初が肝心”“姑はこうやってコントロール” とか
わけわからん特集のマリッジ雑誌が捨てられとったけん
いらん情報を仕入れて気張っとったようじゃね。」
ウメ 「息子のエロ本を見つけて気まずかった数年後に
嫁の禁断本を見つけたんなら、次は孫の番じゃろうね。
おめえは “知り過ぎた祖母” として
家族の秘密を発見してショックを受け続ける運命じゃねえ?」
ヨネ 「勝手に人の運命ば、しかもいらん方向で決めんでくれんね?
で、キムチにするね? レトルトにするね?」
ウメ 「キムチにするたい。
レトルトは腐らんけん、下の棚に入れといて。」
ヨネ 「こんレジ袋の中身は全部もうおめえのもんね?」
ウメ 「それが “お見舞い” じゃなかとね?」
ヨネ 「まあ、そうじゃけど、何か腹立つ気がするがね。」
ウメ 「あ、うちじゃ存分に主婦ぶってよかけんね。」
ヨネ 「主婦ぶりたかわけでん、なかけども・・・
て、何ね、この洗いもんの山は。」
ウメ 「午前中にチヨさんが見舞いに来て
自分で買うてきたケーキを自分で飲み食いして行かしたとよ。」
ヨネ 「これ相手に主婦ぶれてね?」
ウメ 「まだフラフラなとに、ブレンディを淹れるにも
受け皿付きのウエッジウッドを、ちゅうちょなく使わすけん
それ、誰が洗うとね? て、イライラさせられたったい。
そもそもそれはコーヒーカップじゃなく、ティーカップで
しかもうちじゃ飾り用に置いとるだけじゃて言いたかったたい。」
ヨネ 「で、そのお高い食器をうちが洗わなんとね?」
ウメ 「お礼に冷蔵庫のケーキ、食ってよかけん。」
ヨネ 「家事のお礼がチヨさんの食い残してね?」
ヨネ 「で、こん、ショボいロールケーキは何ね?」
ウメ 「チヨさんがお取り寄せした、某三大ロールケーキのひとつてたい。
さすがに実名は出しきらんけん、察してくれんね。」
ヨネ 「・・・ああ・・・、とにかく有名なものが好きな
うちの嫁が喜ぶもの、という事だけはわかったばい。」
ウメ 「これがヤマザキパンで売っとるとなら、美味しいて思うけんど
“パティスリー” で作られとるとなると、納得いかんよね。」
ヨネ 「・・・“人それぞれ” で逃げさしてくれんね?」
ウメ 「さすが、嫁に非戦闘員と見なされた姑じゃね。
丸くなったたいねえ。」
ヨネ 「そん、褒められとるようで、けなされとる気分にさせる物言いを
おめえにさせたら秀逸たいね。」
ウメ 「おめえほどじゃなかけどね。」
ヨネ 「どっちもどっち、というこっで手打ちにせんね?」
ウメ 「それが嫁をあざむく手口ね。」
ヨネ 「否定はせんけどね。」
ヨネ 「にしてん、おめえが万が一ん時はどぎゃんすりゃよかとね?」
ウメ 「どぎゃんもせんでよかよ。
ハエが異常発生したら隣近所が通報するじゃろ。」
ヨネ 「そういうリアルな最期の話じゃなく
知らせたい人とか、墓とかよ。
おめえ、付き合いのある身内はもうおらんじゃろ?」
ウメ 「うん、じゃけん、一番知らせたいのはおめえたい。
葬式とかはいらんし、無縁仏でよかし。」
ヨネ 「・・・わかったわん。
葬式やら墓は、うちがどげえかしちゃるけん
遺言と費用はちゃんと残しときなっせよ。」
ウメ 「そうね? そりゃ嬉しかねえ。」
ヨネ 「葬式費用の使用で、銀行やらと揉める事が多かそうだけん
公証役場に行って、きちんとした遺言を作っておきなっせよ。」
ウメ 「うん、わかったたい。」
ヨネ 「さあて、充分に主婦をさせてもろうたけん、もう帰るたい。
他に何かしてほしい事はなかね?」
ウメ 「ああ、ひとつだけ。 出来れば、でよかけんど。」
ヨネ 「何ね? ややこしか事は言いなすなよ。」
ウメ 「うん、うちより先に死なんでほしか。」
ヨネ 「・・・わかったたい。
難しかばってん、鋭意努力するたい。」
ヨネ 「んじゃ、何かあったら、すぐに連絡しなっせよ。」
ウメ 「わかった。
いざとなったら枕元に立つけん。」
ヨネ 「だけん、そぎゃん縁起でもなか事ば言うなて!」
ウメ 「ちょっと体力が落ちると、気も弱くなるとたい。」
ヨネ 「だけんて、死ぬ死ぬ詐欺をしなすなよ!」
ヨネ 「んじゃ、またな。」
ウメ 「うん、またね。」
評価: ウエッジウッド(Wedgwood)
コメント:かあちゃんが持ってたのはこれ。 シンプルで好きだったけど、これで茶を飲んでたら兄が飛んできて激怒された。 普段使いするものじゃないのは、今初めて値段を見てわかった。 物の価値がわからないんだから、私対策に値札を付けといてくれよ! ヒイイイイッ |
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