継母伝説・二番目の恋 62

「お呼びくださったかな? お妃さま。 フヒヒヒ」
腕組みをしながら、ファイフェイが窓の枠に立っている。
 
公爵家の娘は、その姿を見た時に
こいつ、かなりのバカかも、と、ちょっと後悔した。
 
 
「まあ、いいわ。
 ファフェイ、おまえに頼みがあるの。」
「それがしに目をお付けになるとは、さすがご評判のお妃さま。 フヒヒッ」
 
公爵家の娘は、かなりウンザリしてきたが
忍耐強さは前王妃で鍛えられている。
「おまえ、この領地の山には慣れているかしら?」
 
「無論、生まれ育った場所なれば、誰よりも。」
「それでは話が早い。
 山に産業の材料になる資源がないか、調べてちょうだい。」
 
「その報酬は?」
ファフェイは調子に乗った。
 
 
「先日の眼福が不服と申すか?」
公爵家の娘が、パチンと扇を閉じる。
 
「王妃の部屋を覗いた、などという不敬がバレたら
 おまえたち一族どころか、男爵家にも咎がいくわよ?」
 
ヒイイイイイイイイイッと縮み上がるファフェイに
公爵家の娘がニッコリと微笑む。
 
「おまえの仕事ぶりが気に入れば、側においてやっても良いわよ。
 おまえの父親は男爵に仕えているわね。
 その子供のおまえは、王妃に仕える。
 この違いは、子供のおまえにもわかるのではないかしら?」
 
ファフェイの表情が、パアッと明るくなった。
「それがし、この命に代えても
 この任務を真っ当いたす所存でござりまする!」
 
叫ぶや否や、窓から飛び出て行った。
公爵家の娘が顔を出したら、今度のファフェイは地面に転がっていた。
が、すぐさま起き上がって、走り去って行く。
 
公爵家の娘は、その目立つ後姿を見送りながら
万が一の保険ぐらいにしか考えていなかった。
 
 
公爵家の娘がまず最初に手を付けたかったのは、道路の整備である。
本来ならば、産業が軌道に乗る過程で
その必要性に合わせて、交通手段も徐々に整備されていくものなのだが
肝心の工場が出来るのが、多分一番遅くなる。
 
王のあの様子では、2年経ったら必ず迎えに来る
その時に、まだ出来てません、じゃ話にならないわ。
あたくしがここにいなくても、事が順調に進むように
まずは難題の方から手を付けていかねば。
 
 
公爵家の娘は、王に手紙を書いた。
『2年待ってください、とお願いいたしましたけど
 その間、一度も会えないなんて辛すぎますわ。
 ・・・ああ・・・、でもここは遠すぎます。
 この悪路では王さまに来てほしい、などおねだり出来ませんわ。』
 
王はその手紙を読んで、苦笑した。
我が妃は、他にもわしにたくさんの “おねだり” をしたいはず。
だから道路の件は、“王の我がまま” にして
他の者のやっかみを減らしたいのだろう。
 
 
現に貴族たちの中には、妬む輩もいる。
「うちが姫さまのお世話をしたかった」 と、悔やむ者もいる。
 
バカが。
何もしていない者ほど、こういう時にヒガむ。
普段からの無欲の忠誠心がないと
わしがわしの姫を預けるわけがないのに。
 
王は会議で大臣たちに言った。
「わしが妃のところに行きやすいように、道を整備する。
 この国は、北方面への道が整備されておらぬので丁度良かった。
 今回は北西の地の交通網を確立しよう。」
 
これは北西のみならず、西方面に領地がある貴族たちにとって
ありがたい事であったので、それ程反対意見は出なかった。
 
 
東国でも、南方面の領地は平地に恵まれているので
総じて裕福な貴族が多いのだが
北西は、険しい山々に囲まれているせいで産業も少ない。
 
南西の西国への道から南が、ようやく開けているので
それより北の貴族たちは、経済的にも権力的にも劣っていた。
なのでこんな機会でもないと、北西の整備の着工は
不可能に近かったのである。
 
北西の貴族たちは、公爵家の娘に感謝をした。
道が良くなるだけでもありがたい、と。
 
 
 続く 
 
 
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