継母伝説・二番目の恋 66

男爵領地の建設の完成予定のジオラマが、書斎に作られた。
男爵領は、他の領地に比べたら小さいものだが
こうやって模型にすると、かなり大きい。
 
あたりを見回して誰もいないのを確認した公爵家の娘は、魔が差した。
 
「見ろ、人がゴミのようだ、ほーほほほほほ!」
 
 
「・・・あんた、何やってんの?」
公爵家の娘の真後ろに、ファフェイがストンと飛び降りる。
口から心臓が飛び出そうになる、公爵家の娘。
 
「ちょ、ちょっとやってみただけよ!
 そ、それより、おまえ、今 『あんた』 って!!!」
慌てふためく公爵家の娘に、ファフェイが落ち着きはらって言う。
 
「すまぬでござる。
 お妃さまのあまりの愚行に、つい、それがしも素が出たでござる。
 フヒヒー・・・、はあ・・・。」
 
言葉からは、微妙に尊敬の念が薄れてきているのがアリアリだが
公爵家の娘には何も言い返せなかった。
 
 
「この事で、もうちょっとお妃さまを責めたいところでござるが
 自分を褒めて貰いたい気持ちの方が勝っているでござる。
 それがしも、本当に修行が足りぬでござる。 フフウ・・・」
 
ファフェイの様子では、相当な収穫があったようだ。
「冷静になったら、おまえを即刻処刑したいところだけど
 見合う働きをしたのなら、その不敬な態度を一生許してやるわ。
 さあ、お言い!」
 
 
公爵家の娘とファフェイは、顔を付き合わせた。
「実は!」
「うむ!」
「山に!」
「うむ!」
 
更にグググッと睨み合う。
 
「糊ゴケが自生している場所があったのでござる!
 フヒーヒヒヒヒヒヒヒヒヒーーーッッッ」
 
「でかした!!!」
公爵家の娘は閉じていた扇をバッと開き、胸を張るファフェイを扇いだ。
 
 
糊ゴケは湿った高冷地に生息するコケで、接着剤の原料である。
西国の北に主な産地があり、東国はほとんどをそこからの輸入に頼っていた。
 
「して、その糊ゴケはどのぐらいの規模かしら?」
「自生範囲は広くはないでござるが
 栽培できる要素が揃っているでござる。」
 
この結果は、男爵領に取って朗報であった。
「ふむ、糊ゴケの栽培は気候が第一だという話。
 工場が稼動するまで、男爵領の産業を支えられるであろう。」
「ビンのラベルの接着にも流用できるでござる。」
 
 
公爵家の娘は、ファフェイを満足気に見つめた。
「おまえ・・・、意外と使えるヤツであったな。」
「フヒヒ・・・、それがしをご所望でござるか?」
 
公爵家の娘は、ニヤリと笑った。
「ファフェイ、おまえは今日からあたくしの忍者です!」
「フッヒイイイイイイイイイイー!!!!!」
 
ファフェイの姿が忽然と消えた。
が、行き先は分かっている。
父親に報告に行ったのであろう。
 
 
その夜、チェルニ男爵がファフェイの事を訊きに来た。
「ファフェイがお妃さまのお付きになった、と申しておりますが・・・。」
公爵家の娘はファフェイの威張る姿を想像し、吹き出しそうになった。
 
「ええ。
 まだ子供なので、家族の許可が出たら、ぜひ。」
 
チェルニ男爵は、少し驚いた。
あの奇妙な子供を、お妃さまがお気に召すとは。
「いえ、お妃さまの命とあらば、是非もない事どころか
 大変に名誉ある事なので、親族一同大喜びでございましょう。」
 
 
「そうか、して、ファフェイの他の報告も聞いているわね?」
「はい、思いもかけない良い便りに
 お妃さまにはお礼の言葉もございません。」
 
その答に、公爵家の娘は満足した。
 
 
 続く 
 
 
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