チェルニ男爵領は、大規模な土地区画整理が行われた。
山すそに沿って工場を作るために、道の整備が必要なのと
仕事場に隣接した居住区、それを取り巻く商業区、と
ムダのない生活をしやすい街作りをしたのである。
それまで住んでいた家を壊され、引越しをさせられたが
文句を言う住人は、驚くほど少なかった。
雇用が保証されるからである。
「これは今後の東国の都市計画のモデルケースになりますわ」
公爵家の娘はそう言って、王から領民の住居の建築費をせしめた。
何もそこまでしなくても良かったが
“街を作る行為” が、まるで神になったように気分が良いものであったので
つい調子にのってしまったのである。
想像以上に出資をさせられた王と父公爵は
黒雪姫の王位継承権1位獲得の儀を前に
さっさと宮廷へと戻るよう、せっついてき始めた。
糊ゴケの栽培は順調に行き、とうもろこし畑も耕され
とりあえずの領民の収入源は確保できた。
工場建設も着手しようとしている。
あともう少し見ていたいが、チェルニ男爵の長男も
何とか指揮を取れるようになったし
何よりも、約束の2年を過ぎて、その3ヵ月後からは
王の手紙が3日おきに届くようになってしまったのだ。
ううむ・・・、もうこの辺が潮時かしらね
公爵家の娘は、蒸留酒を土産に都へ凱旋を果たしたかったが
それは叶わなかった。
かくして、公爵家の娘は王妃として
あの日、失意の底に沈んだまま背を向けた城へと戻った。
糊のビンを手に。
7年前に宮廷を出たあの時の、悲壮感あふれる見送りとは打って変わって
今回の帰還は、城下町を挙げての盛大な歓迎が待っていた。
馬車の窓から手を振る公爵家の娘の表情の華やかさに
民衆はようやく先王妃の喪が明けたような気分になった。
今後は、このヤリ手の新王妃の下で
更なる国の安定を目指していけるはずだ。
宮廷の入り口には、城の者がズラリと並んで出迎えた。
その中央には、王自らが両手を広げて待っている。
「おお、ようやく戻ったか、我が愛する妃よ。
このまま戻って来ぬなら、迎えに行くところだったぞ。」
その言葉に、怒りが混ざっているのを感じ取る公爵家の娘。
「して、これが黒雪姫だ。」
王にうながされて、ひとりの少女がスッと前に出る。
「おお、黒雪姫、大き・・・く・・・なっ・・・て?」
公爵家の娘は、黒雪姫の思いがけない成長に動揺させられた。
その少女は、公爵家の娘よりほんの少ししか小さくないのだ。
7歳ってこんなに大きかったかしら?
あたくし、この国の女性の平均よりは背が高いのだけど
この子は、そのあたくしよりちょっと低いだけ・・・。
大きくなっただろう? という王の言葉に
え、ええ、と汗をかきながら愛想笑いをする公爵家の娘。
「うむ、皆、ものすごく健康に気を遣って
とにかく元気に、と育てたものだから
こんなに大きくなってしまってな。」
笑う王に、公爵家の娘は笑えなかった。
何、このガチムチ少女・・・。
黒雪姫は、先王妃の儚げな面影を一切残さず
ゴリマッチョな姫へと育てられていた。
・・・気持ちは、気持ちはわかるけど・・・
これじゃあんまりだわーーーーーーーーーーっっっ!!!
ああ・・・、あの時、無理をしてでも城に残って
教育に口出しをしてたら・・・
いえ、あの時点でそれは不可能だった
それに外見がこうでも内面は・・・
前向きに考えようと努力し始めた矢先に、黒雪姫が口を開いた。
「お帰りなさいませ、お継母さま。」
貴婦人のお辞儀をする黒雪姫に、公爵家の娘がホッとする。
あら、中身はちゃんとした姫ね。
その安心も束の間。
次の言葉で、公爵家の娘は落胆し
困った笑いで目を逸らす、王以外の周囲の人々。
「お義母さまは何がお得意ですか?
私は斧ですわ!」
続く
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