継母伝説・二番目の恋 72

王と公爵家の娘の式は、大神官長のはりきりで
いくつもの仰々しい行事をこなす、通常の王の結婚式になった。
 
飲食を控え、禊(みそぎ)をし、神への供物を準備し、祈る。
神に許可を願い出た後は、民衆へのお披露目である。
その夜はパーティー、と一通りすると7日間にも及ぶイベントである。
 
 
まるで一度目の式を、上書きして消しているようだわ・・・
幼い頃から、こうなる事を予定していたはずなのに
その予定が狂って、苦しんだ時もあったはずなのに
実際になってみると、あまり良い気分になれない自分がいる。
 
生粋の東国貴族の、公爵家の娘でさえ
少々ウンザリさせられる、この一大イベントは
他国の娘にはどんなに辛かったか・・・。
 
 
特に内気なあの娘には・・・
公爵家の娘がボンヤリと考えかけたところに
何かに引っ張られたように、前につんのめった。
 
とっさに王が支えてくれたので、転びはしなかったが
振り返ってみると、黒雪姫が公爵家の娘のドレスの裾を踏んでいた。
 
「こら、黒雪、足!」
ポカンとしている黒雪姫に、王が注意をする。
周囲の女官たちは、青ざめて固まっている。
この姫は、“あの” 公爵家の娘のドレスを踏んだのである。
 
 
王に注意されて初めて気付いて、慌てて足を上げる黒雪姫を
公爵家の娘がジッと見つめる。
 
「お、お継母さま、申し訳ございませんーーーっ!」
騒々しく謝りながら、黒雪姫が精一杯の貴婦人のお辞儀をする。
周囲はドキドキして見守る。
 
公爵家の娘は、黒雪姫の顔を凝視していたが
フイと前を向き直った。
「いえ、ありがとう。」
 
 
ありがとう
 
この言葉にその場の全員が意味が分からず
言い間違いか聞き間違いのどちらかだろう、で納得したが
それは公爵家の娘の、つい漏れ出た本音であった。
 
 
公爵家の娘は、とどこおりなく結婚の儀を終え
名実ともに、“王妃” になった。
 
東国の宮廷は、これでようやく落ち着くべき形に落ち着いた。
 
 
かに思えた。
 
 
 続く 
 
 
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