継母伝説・二番目の恋 73

式は終わったが、まだまだ仕事は残っている。
各国の王族や国内貴族、その他あちこちからの祝い品の目録を確認し
“後々の付き合い方” の方針を決めるのである。
 
出世欲がある者にとっては
堂々とワイロを贈る事が出来る、このような
滅多にない機会を逃したくない。
 
公爵家の娘にとっては、この目録は
国内の貴族事情が一目でわかる、表のようなものであった。
 
 
あら、あの子爵、頑張ったわね
家宝にしてもおかしくない宝石だわ、これは。
 
公爵家の娘が積み上げられた目録を、興味深く見ていると
王家の財務管理人の、困った様な声が微かに聞こえてきた。
「・・・これは、もう返事をしたのですかな?」
 
財務管理人から目録を見せられた書記は、首を振った。
「いえ、これはさすがに王さまの指示を仰がないと・・・。」
後ろに公爵家の娘が立っているのに気付き、ハッとするふたり。
 
「あたくしに聞かれたくない事かしら?」
「い、いえ、お妃さまに秘密など・・・。」
「その目録を。」
 
仁王立ちで手を出す公爵家の娘に
促すように、財務管理人は書記を見
書記はジワジワと、震える手で目録を頭上に掲げる。
 
 
これは、あのベイエル伯爵からの祝い品ね。
・・・山羊を26頭?
公爵家の娘の脳裏に、あの山羊の紋章の指輪が浮かんだ。
 
考え込む公爵家の娘に、財務管理人が慌てて言い繕う。
「ベイエル伯爵さまは、この山羊だけではなく
 他にも立派な品々を多数贈ってくださっているので
 失礼には当たらないと思うのですが・・・。」
 
公爵家の娘は、家臣を不安にさせる思案を止めた。
「ええ、家畜や珍しい動物を贈るのは不思議ではないわよね。」
ニッコリと微笑んで、その場を立ち去ったが
心にモヤモヤとしたものが漂っている。
 
何かしら、この不愉快さは・・・
公爵家の娘は、部屋に戻ると叫んだ。
「ファフェイ!」
 
 
部屋の角の天井の板がガタガタとズレ、そこからファフェイが顔を出した。
「・・・ここに。 フヒヒ。」
 
公爵家の娘は、ファフェイが降りてくるものと思っていたが
ファフェイは顔を出したまま、動かない。
 
天井隅と部屋中央のソファーとの、えらく距離のある見つめ合いに
公爵家の娘はシビレを切らせた。
「・・・何をしてるの・・・?」
 
 
「降りるのは一瞬でも、上るのは大変なのでござる。
 短い会話だけなら、ここで済ませたいでござる。 フヒイ・・・」
 
「・・・気持ちはわからないでもないけど
 今日はちょっと込み入った話だから、降りてきてほしいわ。」
 
本来なら主君を見下ろす事は、あってはならない無礼。
しかし、珍しく公爵家の娘が思いやってくれているのを感じ
ファフェイは素早く飛び降りてきた。
 
 
ブワッと舞うホコリに、公爵家の娘が怒る。
「おまえ! このホコリとあのズレた天井板をどうするのよ!」
 
ファフェイが椅子に乗り、火かき棒で天井板を戻しながら、詫びる。
「すまぬでござる。
 でも、近年この城に忍んでいた者はいないでござるよ。
 天井裏はホコリが積もり放題でござる。
 良かったでござるな、安全で。 フシュシュシュシュ」
 
「おまえ、これからもそういう忍び方をしたいのなら
 天井裏の掃除をしときなさい。」
 
 
公爵家の娘は咳き込みながら、床に落ちたホコリの言い訳を
召使いたちに何と説明すれば良いのか、悩まねばならなかった。
 
黒装束が真っ白になっても気にしないファフェイは
神経質そうに見えて、案外、図太い性格らしい。
 
 
 続く 
 
 
関連記事: 継母伝説・二番目の恋 72 13.1.25 
      継母伝説・二番目の恋 74 13.1.31 
      
      継母伝説・二番目の恋 1 12.6.4 
      カテゴリー 小説・黒雪姫シリーズ 
      小説・目次 

Comments

コメントを残す

メールアドレスが公開されることはありません。 が付いている欄は必須項目です