「で、込み入った話とは? フヒ?」
「実はね・・・。」
公爵家の娘は、ノーラン伯爵の話を正直にした。
普通ならば、誰の事もまず警戒をする公爵家の娘が
ファフェイには、それをしないのは
この子供のすべてが、あまりにも非現実的だからかも知れない。
話を聞いたファフェイは、床を拭く手を止めて唸った。
「うーむ、多分ノーラン伯爵の事を調べていたのは
父上だと思うのでござるが
いくら状況が変わったとはいえ、結果が出ていないのに
あの父上が、収穫なしで放置するとは考えにくいでござる。 フシュー」
公爵家の娘は、テーブルのホコリを拭く手を止めない。
「でしょ? これは
1.ベイエル伯爵には何もない
2.あたくしには言えない のどちらかで・・・。」
「1はありえないのでござろう? フヒ?」
公爵家の娘は、テーブルの上を拭いた雑巾で
ファフェイの顔を拭いてあげながら、うなずいた。
「・・・ええ・・・、単なる勘でしかないんだけど。」
その言葉に、ファフェイは子供のくせに知った風な事を言う。
「女人の勘ほど、恐ろしい的中率のものはないでござるからなあ・・・。
フウウ・・・。」
その後、2人でホコリを掃除しながら
ああでもないこうでもない、と推理をし合った。
公爵家の娘が我に返ったのは、召使いのノックの音である。
「ちょ、おまえ、これを持ってさっさとお行き!」
雑巾を慌ててファフェイに押し付け、ドレスの汚れをはたく。
あ、あたくしとした事が、この国の王の妃たる者が、掃・・・
その先の言葉は打ち消した。
貴人にはありえない事だからである。
愚行は忘れるに限る。
返事がない事をいぶかしんだ召使いが、部屋を覗くと
公爵家の娘は、ソファーで寝入ったフリをしていた。
「お妃さま、お休み中、申し訳ございませんが
もう夕食の時間なので、どうかお召しかえを。」
「あ、ああ、すっかり寝てしまっていたわ
もうそんな時間なのね。」
ふと窓を見ると、顔を覗かせたファフェイが
公爵家の娘の下手な芝居に、笑いを噛み殺している。
公爵家の娘は、召使いに気付かれないように
ファフェイを睨んで、扇で自分の首をトントンと叩いた。
さっさと行かないと、その首をぶった切るわよ!
ファフェイは青ざめて、夕焼けの中へと消えて行った。
これからファフェイは、秘密を探す長い旅へと出る。
どうか気を付けて
そう思う公爵家の娘は、良い大人になったのかも知れない。
夕食の時、パンをつまんだ手の平が真っ黒な事に気付いた公爵家の娘が
そのパンを口に入れるのを、しばらくちゅうちょしたのは
国一番の大貴族の娘だからである。
続く
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