継母伝説・二番目の恋 75

  たった一度の失敗が
 
 人生を狂わす最大の敗北になる
 
 
飛び起きたベッドの上で、公爵家の娘は波打つ鼓動に胸を押さえた。
恐い夢・・・? を、見た・・・?
 
幸いにも今夜はひとり寝である。
悪夢にうなされているなど、王に知られたら失礼に当たるわ
公爵家の娘は、王がいない事を “良かった” と感じた。
 
が、逆かも知れない。
王がいないからこそ、恐い夢を見る可能性は?
 
 
いつも汗ビッショリで飛び起きるのだが
どんな夢だったのかは、さっぱり覚えていない。
 
だけど・・・、嫌だわ・・・
よく眠れる薬を、ああ、だめだわ
懐妊するかも知れない身で、薬は飲みたくない。
それ以前に、うなされている事を誰にも知られたくない。
 
公爵家の娘は、分かれ道を
ことごとく間違った方へと歩いて行く自分に気付かない。
 
 
最近、王は宮殿の増設に向けて、忙しく動き回っている。
「本当はそなたをひとりで寝せたくはないのだが
 疲れていてな、すまぬ・・・。」
 
「いいえ、あたくしの方は大丈夫ですわ。
 王さまこそ、ゆっくりお休みくださいませ。」
 
軽く口付けをして、自室へと戻る王を
微笑みながら見送る公爵家の娘。
 
 
一緒にいて のひとことが 何故 言 え な い ?
 
公爵家の娘は、汗に濡れた顔を両手で覆い
ベッドの上でうずくまる。

だって、あたくしが男爵領の援助をせびらなければ
城は新築されていたのですもの。
この上に “寂しい” などと
 
 
寂しい?
 
 
あたくしがここにいるのは間違っているのかしら?
何故、毎晩うなされるの?
 
風がヒョオオオオと鳴きながら、丘を渡って行く。
真夜中の木々は、風に揺らされ化け物へと化す。
 
公爵家の娘は、今まで感じた事がない闇への恐怖に
思わず助けを呼んだ。
「ファフェイ!」
 
 
・・・・・・・・・・・
 
天井に伸ばした手を、ゆっくりと下ろす。
そうだった・・・、ファフェイは出掛けている・・・。
 
いえ、あたくしには味方がたくさんいる。
王さまは言えば来てくれる。
お父さまも来てくれる。
チェルニ男爵もウォルカーも、あたくしが呼べば駆けつけてくれる。
 
 
・・・なのに何故、今ひとりなの?
何故こんなにも孤独なの?
 
 
公爵家の娘は、布団をかぶって泣き喚いた。
嗚咽はこの風が消してくれる。
 
が、あの時の手はもうない。
 
 
 続く 
 
 
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