継母伝説・二番目の恋 77

塔の階段を一歩一歩上る。
窓から見える街並みは、子供の頃より広がっていた。
東国は順調に発展をしてきた、という証し。
 
階段を上りきったところに、ドアがある。
子供の頃にここで、王とあの約束を交わしたのよね。
懐かしいわ。
 
この塔は、祈りを捧げる時に篭もるために作られた、と聞いたけれど
事件か事故があって、放置されているのよね。
立派な塔なのにもったいない。
 
 
今は訪れる者もなく、物置にすらされていない塔の
一番上の部屋のドアを、公爵家の娘はソッと開いた。
 
部屋の中央に布をかぶせた家具がひとつ置いてあるだけで
あとは隅に箱が積み上げてあるだけの、殺風景な部屋。
 
公爵家の娘は、布をチラッとめくって理解した。
ああ、さっきの光はこの鏡だったのね。
 
 
そして部屋の中をゆっくり歩き回る。
使われていないのに、掃除には時々来ているようね。
窓の桟を指でぬぐって感心する。
 
風を通すために開けた窓から、見下ろしたのは
今はもう封印されて取り壊す予定の
 
 
“王妃” の 部  屋
 
 
公爵家の娘の心臓がドクンと響いた。
 
そうだった。
あの秋の大祭の時に、王妃の衣装を見てもらうために
王と大神官をここに連れてきたのだわ。
 
思わず後ずさりをした隙に、一陣の風がザアッと入り込む。
 
鏡にかけられていた布が、風にあおられ床に落ちる。
驚いて振り向いた公爵家の娘が、大きな鏡に映っていた。
 
ツヤのない白髪に、シワだらけの老婆になった姿が。
 
 
ヒッと息を呑む公爵家の娘は、動く事も出来ないほど脅えていた。
胸元で握り締めた両手が小刻みに震える。
 
鏡の中の年老いた自分は、ゆっくりとその手を下ろす。
「可哀想にねえ・・・。」
 
“可哀想”
 
公爵家の娘が、生まれて初めて言われた言葉
一生言われるはずのない言葉。
 
「誰よりも恵まれた生まれ育ちなのに
 誰よりもミジメな人生をおくらなければならないとは
 可哀想にねえ・・・。」
 
 
状況がわからず、何の言葉も出て来ない公爵家の娘に構わず
鏡の中の自分は続けた。
 
「あんたが “こう” なるのは
 すべては、あの時から始まったんだよ。」
 
あの時?
 
口には出していないのに、老婆はその疑問に答えた。
「そう。 黒雪姫が生まれた時。」
 
黒雪姫?
 
公爵家の娘は、つい訊いてしまった。
あやかしの囁きに、耳を傾けてはいけなかったのに。
 
 
「黒雪姫が生まれなければ、王妃は死ななかった」
 
 
あの子はあの娘の命を吸って現れた。
そして私のすべてを奪うであろう。
私たちを引き裂いて、あの子は在り続ける。
 
長い、長い間、隠しに隠して気付かないよう
最初からなかった事のように心の底に押し込んだ、その気持ち。
 
見つけてしまった!!!
 
 
まるで背中から剣で貫かれたかのような衝撃に
公爵家の娘の体がのけぞった。
 
 
 
 
 
「く・・・ろ・・・ゆき・・・ひ・・め・・・。」
焦点の合わない見開いた瞳に、憎悪の炎が宿る。
 
 
公爵家の娘が、“継母” になった瞬間であった。
 
 
 
いずれ唱える
 
「鏡よ鏡」
 
 
 
 終わり 
 
 
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      カテゴリー 小説・黒雪姫シリーズ 
      小説・目次 
 
 
イラスト: Yダレ  心からの感謝を 

Comments

“継母伝説・二番目の恋 77” への9件のフィードバック

  1. momoのアバター
    momo

    こんにちは。
     
     楽しく読ませていただきました。
    黒雪姫のルーツがわかりました。
     はじめの方や、黒雪姫のお話が、
    かなり記憶から遠ざかってしまったので、
    読み返さねば・・・

    でも、うろ覚えながら、黒雪姫でのお妃様は
    根っからの悪人ではなかった気がするから、
    このお話の公爵家の娘を読んで、
    やっぱり、と、つながりました。

    謎は、なんで、初めに王が南国の娘と結婚したかです。
    これは のちのち解明されるのでしょうか?

     ちなみに、好きなキャラはファフェイ。

     Yダレさんのイラストの公爵家の娘、若くてかわいい!

    次も、待っていますよ~。

  2. 椿のアバター
    椿

    うわー!してやられた!
    黒雪姫の小説冒頭で継母について愚痴っていた根本の始まりがここからだったとは…
    その後の描写を敢えていずれ唱える…なのがいいですね。
    公爵家の娘が最後に真っ黒になってしまった感じが恐ろしい。
    今までを読み返しても、そんな風になってしまうなんて思いもしなかったです。
    公爵家の娘は多分死んでしまうと思ってたので黒雪姫をいびるのはまた別の継母になるのではとばかり思ってました。
    面白かった!
    ところでファフェイはこの後も公爵家の娘に協力するのでしょうか?(暗殺やらイビリやらで)
    もしかして黒雪姫を見逃してくれたのって…?

  3. ふぢこのアバター
    ふぢこ

    うわぁ~
    まさかの展開~w
    公爵の娘に悲しい死亡フラグが立ってるようで
    心配だったけど
    このあとは吹っ切れてるから
    わたし的にはハッピーエンドで
    なんか嬉しくなっちゃったw

    あしゅさんお疲れ様でーす(^^)

  4. あしゅのアバター
    あしゅ

    momoちゃん、読んでくれてありがとうー。
    Yダレも感想を貰って喜んでると思う。

    王と南国の娘の出会いは、本筋では語られないけど
    次の話で理由はわかると思う。

    私は全部の理由を繋げたい性格なので
    話がいりくんじゃって、もう脳内グッチャグチャだよー。

    え・・・?
    ファフェイが好き・・・?

    ファフェイ好き、結構いるのが不思議だよー。

    ::::::::::::::::

    椿ちゃん、そうなんだよー。

    “あの” 黒雪姫が成す術もなく
    城から追い出させるなんて、ありえないだろ?
    それは相手が、“この” 公爵家の娘だったから。

    強い意志と真っ直ぐの心と忍耐力を持った人間が
    狂わされてしまったら・・・。

    で、何故、黒雪シリーズはギャグ系なのか。
    それも次の話で判明するよ。

    えっ、またファフェイ?
    何で、こいつが話題に上がるのか、わからんのお。

    ::::::::::::::::

    ふぢこちゃん、失望させなくて良かったよー。

    “公爵家の娘” で名前を通したのは
    最終回のこのためなんだ。
    そして、次の謎解きのためでもある。

    と、自分で自分の首を絞めてキュウーーーッ。

  5. ぽんぽこのアバター
    ぽんぽこ

    お疲れさまでした。

    タイトルの「二番目の恋」は
    王にとっての公爵家の娘と
    解釈していいでしょうか。
    (一番目が南国の娘で。)

    なんで今ごろこんなこと
    聞いてるんだって感じですが。

    公爵家の娘はもちろんだけど、
    南国からの妃が好きだったので、
    次のお話も楽しみです。

  6. あしゅのアバター
    あしゅ

    ぽんぽこちゃんーーーーーーーーっっっ
    あーりーがーとーうーーー!!!
    そこに着目してほしかったんだよー。

    “二番目” とは誰をさすのか
    “恋” とは何か

    この解釈は、いく通りもあるけど
    それによって、この話の意味もまた違ってくる。
    誰に感情移入するか、なんだ。

    この話には、“二番目” と “恋” が
    いっぱい詰まっているよね? ね?
    (最後は脅迫)

  7. ぽんぽこのアバター
    ぽんぽこ

    そういうことなら気になる関係がいくつも。

    私はノーラン伯爵がずっと気になっています。
    公爵家の娘ともう少しからむのかなと思っていたのだけど、わりとあっさり消えてしまい…。
    あの形もひとつの恋だったよなあと。

    ノーラン伯爵と南国の妃はおばかなところが共通点だと思うのだけど、そういう人に公爵家の娘はいらつきつつ惹かれるのかなとか。

    いろいろ想像して楽しんでました。
    新作も期待してます♪

  8. 簾のアバター

    文豪、お疲れ様でした!

    いやー、途中で、多分彼女が後の継母なんだろうなと思いはしたのですが、この理性の塊のような女性がなぜ?という疑問が拭えないままでした。
    そうかー、孤独感と、黒雪姫の存在そのものが元凶だったのですね。

    黒雪姫が登場した時は思わず「うひょー、君を待っていたよ、会いたかったよ黒雪!」と呟きました。
    ずっと、シリアスかつ厳しい展開が続いたので、あのギャグ満載の本編を匂わす存在が救いになりましたね。

    でも、物語が真面目でお堅いほど、本編とのギャップが大きくなって、ちょっと笑えてしまいました。

    それにしても…可憐な南国のお姫様の遺伝子は一体どうしたというのでしょう。

  9. あしゅのアバター
    あしゅ

    ぽんぽこちゃん、嬉しい読み方をしてくれて
    どうもありがとうー。

    ノーラン伯爵の存在は重要だったんだ。
    それが何故あっさり死んだか?

    この話には、いくつも謎を残しているんだけど
    それは公爵家の娘のアイデンティティーが
    “継母” に移り変わるための儀式。

    もう、ここで語りまくりたいけど
    小説で表現しないとな・・・。

    次も頑張るよーーー!

    ::::::::::::::::

    簾ちゃん、ありがとうー。

    もう、黒雪がさあ・・・。
    こいつが出てくると、どうしても
    この重々しい話が崩れて、困ったよー。

    簾ちゃんの感想にも
    ベラベラ内幕を喋りたいけど我慢・・・。

    皆、ガンガン深読みしまくってくれーーーっ!

    ・・・あれ? 自分の首がキュウッと。
    私、こんだけの謎を表現できるんだろうか・・・。

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