殿のご自慢 11

青葉は開戦前に逗留していた城の一室へと監禁された。
 
「本来ならば、八島の領地まで連れ帰らなければならないのですが
 それをしたくないので、あなたは体調不良を装ってください。」
 
高雄の言葉に、青葉は当然の疑問を口にした。
「何故ですか?」
高雄はそれには答えず、淡々と説明を続ける。
相変わらず、青葉と目を合わせようともしない。
 
「あなたの身の安全は、私が保証いたします。
 そのために、あなたにはこの部屋にいてもらわねばなりません。
 番はすべて腕に覚えのある女が付きますゆえ
 逃げようなどして、余計な手間を掛けさせないでいただきたい。」
 
 
言うだけ言ったら、高雄はスッと立ち上がり部屋を出て行った。
代わりに、女たちが入って来た。
 
「あの、今のお方は?」
女たちも丁重な態度ではあるが、無言である。
青葉は、混乱するしかなかった。
 
 
一方、伊吹も暴れ狂っていた。
青葉を追おうとした瞬間、背に鈍痛が走り
気付いたら地面の上に転がり、上に兵たちが何人も覆いかぶさっている。
 
すぐ真上で、乾行がワアワアと大声で叫んでいる。
意識がもうろうとして、目が閉じる。
 
 
次に目を覚ましたのは、乾行の陣中であった。
 
目を開けた伊吹の耳元で、乾行は静かにささやいた。
「頼む、伊吹、落ち着いてくれ。」
 
いつもの、人を食ったような乾行とは打って変わっての真剣な態度に
伊吹は自分が何をしたのかを思い出した。
そうだ、俺はあの時・・・
 
立ち上がろうとしてフラつく伊吹を、乾行が支える。
「すまん、つい渾身の力で殴り倒してしまったんだ。」
 
 
乾行に抱えられて、座り直させられる伊吹は
それでも行こうとした。
「あの娘は・・・、あの娘は・・・」
 
「伊吹!」
乾行が伊吹の肩を掴んで揺さぶった。
伊吹は思わず乾行の目を見る。
 
「伊吹、今から言う事を落ち着いて聞いてくれ。」
その力強い眼差しに、伊吹は自分に言い聞かせた。
落ち着け、まずは落ち着くんだ
目の前にいるのは、乾行だ。
 
 
伊吹の体の力が抜けた事を感じた乾行は、ホッとした。
そして乾行にしては珍しく、低い声でゆっくりと話し始めた。
 
「あの娘は、龍田の姫だそうだ。
 今は高雄が保護している。」
「龍田のひ・・・め・・・?」
 
乾行には伊吹の驚きが理解できた。
女に詳しい乾行ですら、まさか大名の娘とは思わなかったからである。
しかも龍田家の娘という事は、帝の血が入っているのだ。
伊吹には手の届かぬ存在であった。
 
 
だがそれでも、伊吹の足に力が入る。
「伊吹、行くな。」
乾行の制止を振り切ろうとしながら、つぶやく。
「人質になったという事は・・・」
 
乾行にも、その言葉の先はわかっている。
しかしそれでも、伊吹を止めねばならない。
 
「伊吹、頼む、これ以上見苦しい事はしないでくれ・・・。」
抱き締めた乾行の腕の力が、伊吹への思いやりを伝えている。
 
「高雄なんだよ、姫を捕らえたのは。
 あいつは、おまえの好きな女だとわかってて捕らえたんだ。
 だったら絶対に非情な事はしねえ。
 高雄を信じなくて、俺たちは誰を信じられるんだよお?」
 
 
伊吹の胸に重い石がのしかかったような、苦痛が走る。
友の苦しい胸の内を感じるのに、それでもなお
姫の元に行きたい気持ちが、どうしようもなくあふれてくる。
 
伊吹は乾行の肩に顔を埋ずめた。
その肩の震えで、乾行は伊吹の見られたくない涙を感じた。
 
 
 続く 
 
 
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