殿のご自慢 14

伊吹の命は青葉とともに。
 
これは、高雄にとっては、それ以上にない脅しになった。
ちっ、私がどれだけ苦労をしているのか知らずに、よくも・・・。
 
だが伊吹は、こうであるから伊吹なのだ。
高雄は階段を下り、立ち止まった。
伊吹がどうしたのか、と振り返る。
 
「伊吹、姫は無事に戻されても無責任な噂をされる。
 穢された娘だ、と。
 だからこその、この厳重な女だけの警備なのだ。
 姫の居るこの上階には、私の名を懸けて男は一歩も入れぬ。
 それが姫の名誉を守る事になるのだ。」
 
 
伊吹はそれを聞いて、ようやく安心した。
高雄が、姫を傷付けるつもりはない事が明白になったからである。
この人質も、多分無血でいくさを終わらせるためなのだろう。
 
伊吹の瞳に安堵の色を見た高雄は、落胆した。
女のために伊吹は、私を疑った。
私たちはもう二度と、三角を作れないであろう。
 
 
高雄は戦場へと馬を走らせた。
伊吹は城に残って、階段下で姫の護衛をするという。
 
好きにすれば良いさ!
高雄は、イラ立ちを吹き飛ばしてほしいかのように
風を全身で受け止めながら、馬を飛ばした。
 
 
戦場では、兵たちが待機していた。
乾行も、陣の旗の下で寝転んでくつろいでいた。
 
「よお、高雄、伊吹はどうした?」
「姫の護衛で城に留まった。」
 
「落ち着いていたろ?」
覗き込むように、高雄を見上げる乾行。
 
「・・・ああ・・・
 だが、私を信じなかった。」
 
 
敵方の陣営の方を見つめる高雄。
その目に憎しみを感じとった、乾行は笑った。
  
「そう重く受け止めるなって。
 最初の恋ってのは、そういうもんよ。
 やつの痴態を許してやれ。
 一時的に狂っても、俺たちの関係に影響はねえ。」
 
高雄がギッと睨みおろす。
「おまえは狂ったか?」
乾行が涼しげに流す。
 
「いんや。 俺は “本気” の色恋はしねえ。
 だが、真面目な奴はいつか狂うね。
 おまえもな。」
 
「馬鹿な・・・。」
吐き捨てて前を向き直る高雄を、乾行はニヤニヤしながら見つめる。
 
 
「で、状況は?」
訊く高雄に、座ったままの乾行が誰もいない戦場を指差して言う。
「なーんも。
 龍田の殿さまも、まだ陣にいるみたいだぜ。」
 
「そうか。」
馬のところへと行く高雄。
「どこに行くんだ?」
 
馬に乗りながら、高雄が言う。
「使役として、龍田陣営に行ってくる。」
 
「ああ?」
思わず乾行が陣から飛び出してきた。
「おまえ自らが行くべきじゃねえだろ!」
 
「安宅、来い!」
高雄は返事の代わりに、乾行に叫んだ。
「すぐに戻る。」
 
 
安宅を従えて、高雄は敵陣営へと走って行った。
「何故、千早どのが使役に立つのだ?」
「何が起きているのだ?」
 
他の武将たちがゾロゾロと出てくる。
後に残された乾行は、他の者たちへの “説明” に頭を抱えた。
 
この場の何もかもを頼みすぎだろ・・・。
 
 
 続く 
 
 
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       殿のご自慢・目次 

Comments

“殿のご自慢 14” への3件のフィードバック

  1. なかりのアバター
    なかり

    高雄、伊吹、姫…
    新しい三角が成立してしまったのですね。
    (邪な妄想はしておりませんよ。絶対に。ええ絶対に…)

    一見派手なイメージですが、
    一番冷静沈着な乾行殿を私はお慕い申し上げております。

  2. momoのアバター
    momo

    架空のお国との事ですが、細かい設定が書かれていて楽しくなってきました。 また、勉強になります。 それで、このまま超恋愛小説なの?

  3. あしゅのアバター
    あしゅ

    おおおっ、この小説のコメント欄に初の書きこみが!
    ありがとうーーーーーっ!!!

    ::::::::::::::::

    なかりちゃん、色々鋭いなあ。 ふっふっふ・・・

    “三角” をタイトルに入れたかったよーーー。
    乾行はロマンだよね。
    私も大好きだよ!

    あとさ、その “していない妄想”、実は間違っていない。

    ::::::::::::::::

    momoちゃん・・・、おめえも鋭すぎる!
    これは恋愛小説ですっ!

    そもそもさ、私の書く話、全部恋愛ものだよね?
    (開き直りやがった)
    変形すぎてわかりにくいけど
    エロマンガで鍛えたんで
    もっともっとわかりやすい愛を表現できるはず。

    ・・・うん、そういう予定だ、大丈夫。

    設定に触れてくれて、ありがとう。
    人の考え方って、時代で変わると思うんだ。
    だから環境をちゃんと設定しておかないと
    現代人には理解できない言動になってしまう。

    ただ、歴史って苦手なんで
    “架空” とするしかないのが
    申し分けないとこなんだよ。

    て言うかさ、調べてみると
    その時代に忠実にしようとすると
    ロマンが減るっぽいんだよ。

    現代人にはやっぱりわからないよ
    戦国時代の人の気持ちなんて。

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