殿のご自慢 17

「龍田の殿は、姫と伊吹の婚姻による同盟に前向きでおられます。」
 
高雄の報告に、八島の殿は高笑いをした。
「何と、龍田どのはそこまで、いくさがお嫌いか。」
はっはっは と、笑いが起こる中、高雄は無表情で頭を下げていた。
 
 
「立場は違えども、祖父と同じく身分違いの恋をする我が娘を
 わしが止められるわけがない。
 高雄どのよ、わしの愛娘の人生、そなたに任せよう。」
 
高雄は驚愕した。
龍田の殿からは何の要求もなかった。
普通の大名の娘は政治の道具であるのに
その婚姻を、親の愛で決めようと言うのか。
 
 
古い家柄の者は、昔の帝が権勢を振るっていた時代の名残りで
浮世離れしているところがあるもので
千早の家も例に洩れずに、随分とノンビリしていた。
 
そのせいで戦乱の世になった今、私が苦労をさせられているのだが
どうやら龍田家も、子が大変な思いをしそうだな・・・。
 
高雄は、龍田の殿の後ろに座る、自分よりも年若い少年をチラリと見た。
その幼さの残る面立ちに、青葉姫が先陣を切った理由がわかる。
 
この少年が、自分と同じく
早くに家督相続をせねばならなくなりそうな事にも同情をした。
 
 
青葉姫は良い。
好きな男と一緒になれるのだから。
 
ただ、後で身分の違いによる不都合に気付いても
それは私のあずかり知らぬ事。
伊吹に任せるべきだ。
 
 
誰にも色々な思惑があるだろうが
こうやって、いくさを中断しての縁談話を
高雄は慎重に進めていくつもりであった。
 
八島の殿は、この結婚に反対はすまい。
問題は山城側をどう抑えるか、である。
この件を、龍田の殿は “話し合う” と言っていたが、甘い。
 
“無血” での龍田家同盟を考えていたのだが
龍田家長女が山城家に嫁いでいるのなら
龍田、山城間で大きないくさが起こる可能性が高くなった。
 
 
そこに八島家をどう動かすか・・・
悩んでいた高雄に、信じられない一報が入った。
 
次女を八島の者に嫁がせる、と知った山城の殿が
正妻である龍田の長女を殺したという。
この知らせは、八島の城中を駆け巡った。
 
あの愛情深い父親は、それを許さないであろう。
八島の殿に参戦を決意してもらわねば
そう切り出そうと思っていた時に、家臣の招集がきた。
 
八島の殿を奥に、家臣一同が並んで座る。
高雄は年齢の割には上座の方だが、伊吹と乾行は末席に並んで座っている。
身分からすると、それでも家臣団の中に入れる事自体が異例の出世である。
 
 
居並んだ家臣一同は、誰もが
山城家とのいくさをどうするか、の会議だと思っていた。
 
しかし八島の殿は、一向に口を開かない。
真っ直ぐに座しながら、これはどうした事かと皆が思い始めたその時
ふすまがスッと開いた。
 
入って来たのは、美しい着物を着た女であった。
 
 
 続く 
 
 
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