殿のご自慢 21

今度は山城側にも加勢は来なかった。
帝の血を引く正妻を、自害を邪魔してまでも首をはねたなど
さすがの属国も、顔をしかめる所業であった。
 
しかもそこに、捕らわれたはずの青葉が戻って刀を握る。
龍田家は八島家に組み込まれた、と見られて当然。
 
だが加勢が誰も来なくとも、さすがの山城家。
大義を得て、総力で来る龍田家にその大部分を削られながらも
山城の殿には容易に辿りつけない。
 
 
「出てこーい!
 山城、おのれ、卑怯者めーっ!」
 
「あなたがたに恨みはありません。
 わたくしどもが憎むのは、山城の殿だけなのです。」
 
血に濡れ叫ぶ弟と、涙に濡れて訴える姉。
馬上の二人は、対の飾り雛のようで
その美しさを、人は見た事もない “帝” と結びつけ
畏怖すら感じていた。
 
自然と人垣が割れ、道が出来て行く。
 
 
表に出て来ない帝は、いまやその秘密主義で
神にも等しい印象を持たれている。
 
高貴な血は必要なくとも利用されるのだ、息子よ・・・。
父親は、陣営から子たちの進撃を見守りつつ
戦いを選んだその行く末を、案じるばかりであった。
 
 
混乱の戦場に出来た一筋の道の先に、総大将の旗が立っていた。
いた! 山城だ!
先に走り出したのは青葉。
 
負けじと弟が馬の腹を蹴ろうとした時
何と青葉は急に馬を止め、降りてしまった。
 
 
「姉上、何をやっておられる!」
「お姉さまが・・・」
 
青葉が駆け寄ったのは、上の姉の亡骸。
討ち捨てられた時のままなので、見るも無残な姿になっている。
「誰か布を。」
 
「姉上、今はとにかく山城を!」
焦る弟に青葉が叫ぶ。
「お姉さまをこのままにして行けない!」
 
くそっ、こうなれば私だけでも
弟は山城の陣に突っ込んで行った。
 
 
山城の殿は生き延びて、行方をくらます。
 
龍田家は長女の遺体を回収し、手厚く弔う事で
振り上げた刀を下ろすしかなかった。
 
 
それだけでも悔しいのに
弟には、ひとりでは仇討ちを果たす事が出来なかった情けなさが残った。
 
やはり私はまだ子供なのだろうか?
姉上がいないと、いくさひとつ出来ないのだろうか?
 
 
“仇討ち” に関わらぬよう、近くの丘陵から戦いを見守っていた高雄が
その夜、ボンヤリとかがり火を眺める弟の隣に立った。
 
「私の初陣はオロオロして、それはもう無残なものだった。
 そなたは凄いな。」
「慰めはいりませぬ。」
 
高雄はニコリともせずに言った。
「事実を言っているだけだ。」
 
 
弟は、高雄の冷徹な言い草に救われる。
 
「山城は、どこの誰ともわからぬ輩に殺されるのが似合うておる。
 最初のいくさで、そなたの刀に汚いものを斬らせるな。」
 
 
 続く 
 
 
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