殿のご自慢 27

豪勢な嫁入り道具とともに、青葉が輿入りをしてきた。
伊吹と青葉の婚姻は、八島の殿がすべてを仕切った。
八島の殿の城で、臣下の祝言が挙げられ宴が催されるのも異例な事であった。

確かに八島の殿は派手好きである。
だがそれにしても、この待遇は特別すぎて
誰もが羨むどころか、“その後” にくるものを恐れた。

青葉は風流な父の下で、行事慣れをしていたものの
孤児の伊吹にとっては、祝い事、それも自分の結婚、
しかも想像する事さえ畏れ (おそれ) 多い、恋焦がれたお姫さまとの、
など、どこからが夢でどこまでが現 (うつつ) なのかさえわからず
ただひたすら、言われた場所に座って固まるしかなかった。

高雄はいまだに、この結婚の “言い出しっぺ” として
何やかやと “世話” をさせられていた。

気が利く高雄にとっては、そういう雑用は大した仕事でもないのだが
何よりも参るのは、伊吹の様子であった。

「よお、高雄、忙しそうじゃねえかあ。」
廊下で足りない酒の手配までしている高雄に、乾行が声をかける。
「そんな事までおまえがする必要はねえだろう。
ちょっと座って何か食えよ、顔が青いぞ。」

確かに高雄の顔色は真っ青で、気分が悪そうである。
「いや、これは伊吹の緊張が移ってな・・・。」

見ると、新郎席に座っている伊吹もカチコチに緊張して真っ青である。
「ありゃあ・・・、おりゃあ下座だから伊吹の顔色までわからなかったが
確かに見てると、こっちまで具合が悪くなってくるな・・・。
あいつも大丈夫か?」

「うむ、だから伊吹の側に寄りたくないのだ。
ああ・・・、いかん、見てしまったんで吐き気が・・・。」
「大丈夫か?」

高雄を支えながら、乾行は再び伊吹の方を見た。
大殿は人の心配などをするお方ではないから
伊吹の様子にも動じてないのもわかるが
隣の青葉姫も、ただうつむいているだけだ。

あの姫さん、鈍感なのか冷淡なのか、どっちだ?
「うう・・・」
おっと、いかん、誰より繊細なこいつが一番危なっかしい。

「おまえ、ちょっと奥の座敷で休め。」
乾行が高雄を抱えようとすると、高雄が止める。
「いや、いかん、仕事が山のようにあるのだ。」

「だけど、もう皆すっかりデキ上がっているし
後は床入りの儀だけだろ?
あいつ、あんな緊張してて務まるのかねえ。」

乾行の何気ないひとことに、二人はハッと顔を見合った。
「・・・いや、普通は知っているはずだ!」
牽制したのは高雄。

「おまえのは “知識” としてだろ?
おまえは知っていても、あいつが知っていると思うか?」
「いや、いくら何でも、そこまで純情では・・・」
「あいつがそういう猥談を耳に入れる性格かねえ?」

呆然とする高雄に、乾行がこめかみを押さえる。
「・・・何でこの土壇場になってしか、思いださないんだよ?
一番大事な事じゃねえのかあ?」

高雄がガバッと乾行にすがった。
その泣きそうな目に、乾行が後ずさりをする。
「い・・・嫌だね、あの純情馬鹿に手ほどきなど。」

「私は色んな用意で忙しかったんだ。
おまえが城下の女のところに行ってた時も
俺は式の段取りなどを調整してたんだぞ。
初夜の事など考える暇もないぐらいにな!」
相変わらず、高雄の眼力は鋭い。

「“一番大事な事” なんだろう?
友の結婚が失敗しても良いのか?」
高雄の一撃に、乾行は観念した。

確かに、あのいくさの時よりこっち、ずっと高雄は忙し過ぎた。
そうではなくとも、こいつらにそういう知恵は回らねえ。
しょうがねえ、ここは俺の出番、ってとこだろうな。

「・・・大殿、少し早めに新郎に床準備をさせたいのですが・・・」
八島の殿の耳元で、高雄が囁く。
「何故じゃ?」

高雄はちゅうちょなく理由を告げた。
「新郎を落ち着かせるためにございます。」
八島の殿が見ると、伊吹は杯を手に固まったまま青い顔をしている。
その緊張のせいで、あまり人が近寄らない。

八島の殿は、ブーーーッと吹き出した。
そして高雄の耳元で言う。
「湯殿に乾行を呼んで、“男の心得” も教えさせろ。」

高雄は、大殿にまで指摘されるとは、と落胆したが
はっ と返事をして、廊下に出て改めて乾行を呼びに行かせた。

続く

関連記事 : 殿のご自慢 26 13.4.25
殿のご自慢 28 13.6.4

殿のご自慢・目次

Comments

“殿のご自慢 27” への2件のフィードバック

  1. なかりのアバター
    なかり

    何とも心拍数が上がる展開でございます!
    最近、自分は血圧も高めなので、
    ほんの少しの劣情で火葬場行きになりそうな勢いですよ…

    ■高雄がガバッと乾行にすがった。
    この「クール純情さ」が素晴らしい…薔薇色の情景が頭に広がります。
    しかし高雄氏も諸々振り回されて苦労が絶えませんね。
    私としては彼にも是非幸せになっていただきたいのですが
    それは「神のみぞ知る」という事で、大人しく見守っていきます。

  2. あしゅのアバター
    あしゅ

    なかりちゃん、グヘヘ・・・。

    ここでブログは一旦休止に入るんだよー。
    移転作業でな。

    ツボがわからなかったんで
    普通にアップしてしもうたが
    えらいな間の悪いとこで切ってしもうたか?

    ほんとすいませんほんとすいません

    にしても、そこ、素晴らしいんか?
    クール純情・・・、よくわからんのお。

    萌えを制する事が出来んから
    真の文豪になれんのか?

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