青葉が槍を学びたがったのは、馬上で戦うからである。
乾行さまや伊吹さまも槍で戦ってらっしゃるけど、
それは先陣を切るから。
他の武将たちは刀を持っている。
だけど女は男より腕が短く、しかも馬上からだと
刀では敵に届きにくく不利になる。
つばぜり合いでも負けるならば、
離れて戦う方がまだ勝ちの目もある。
これが2度のいくさを経験しての、青葉の結論であった。
わたくしは多分、ずっと戦場にいなければいけない気がする。
それはわたくしにとっても、伊吹さまにとっても辛い事。
だけどこれは、あの時にいくさ場で伊吹さまと対峙した
あの瞬間に決まってしまった事のように思える。
そこまで思って、青葉はそれを否定した。
いえ、これはわたくしが、“そう思いたい” だけ。
ええ、きっと。
いずれにしても、わたくしが在り続ける限り
伊吹さまは苦しむ。
だけどわたくしは、それを嬉しくも思う。
愛されている、と感じるから。
わたくし、良い死に方はしないでしょうね
クスッと笑うその顔は、あくまでも穏やかだった。
「乾行に槍を習っている、というのはまことか?」
部屋に入って来るなり、伊吹が青葉に問いただす。
「槍なら俺が教えてやるのに・・・。」
青葉は花を生けていた手を止めて、立ち上がった。
「乾行さまは伊吹さまのお友達なのでしょう?
害のないお方だとお聞きしました。
でしたら、わたくしも仲良くさせていただきとうございますわ。」
伊吹にはわかっていた。
青葉に悪気はないどころか、
自分の負担を減らそうとしてくれているのだと。
だがあの戦場で、血に染まりながらも真っ青な顔をして
高雄に背を預ける青葉を見た時に
自分の中の透き通った何かに、陰りが出た。
そして目の前にいる、この美しい生き物の輝きで
自分がどんどん醜くなっていくような気がした。
だが、それを止められないどころか、加速させてしまう。
「そうか、ならば好きにすればよい。」
このような言葉を吐くような人間ではなかったはず。
何をやっているのだ、俺は。
そう思いながらも、態度を変えられない伊吹に
青葉が青ざめて、すがりつく。
「お待ちください!
伊吹さまがお嫌でしたら従いますから
どうか、お怒りにならないで!」
このお姫さまが、こうやって請うのが自分だけである事が
今の伊吹の小さな優越感になっていた。
こうやって押し倒せるのも自分だけ・・・
だが伊吹の胸から、“姫を穢す” という罪悪感だけは
いつまで経っても消える事はなかった。
それでも欲望に抗ず、伊吹は青葉を乱暴に抱く。
そして訊く。
「俺で良いのか?」
青葉は答える。
「伊吹さまがよいのです。」
ちょっと面倒なこの “手順” に、
青葉はいい加減うんざりしていたが
その時の伊吹の表情が、あまりにも切羽詰っているので
ここでないがしろにしてはいけない、と思った。
続く
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