上達して “つまらなくなった” 青葉は
それでも士気を上げる道具として
吾妻家とのいくさには
必ずかり出されていた。
もう日が暮れる。
この分では、明日もいくさは激しいのでしょう。
陣に戻りながら北東の空を見上げた。
乾行さまは、山城家跡地の平定だと聞いた。
わたくしがいるから、伊吹さまはこちらに来ているけど
出来るのなら伊吹さまや、今回は城番の高雄さまと
一緒に戦場を伸び伸びとお駆けになりたいでしょうね。
それから溜め息を付いた。
さあ、わたくしはこれから酒盛りですわ。
何故いくさに来てまで、
宴を開かねばならないのかしら・・・。
「どうした? 疲れたのか?」
伊吹の声に我に返る。
少しだけ振り向いたら、もうそこには伊吹がいる。
双翼の陣がふたりの定番になってはいたが
戦いの最中以外は、伊吹は必ず青葉の側にいた。
周囲もそれをわかっていて、ふたりがどんなに離れていても
いくさが終わると、伊吹の場所から青葉へと
兵の群れが割れて道を作った。
伊吹はそこを通って、その先にいる青葉の元へと向かう。
血まみれの花を迎えに行くのだ。
「はい、少し・・・。」
青葉の言葉に、伊吹は馬を横に並べた。
「そうか、このいくさ、数日はかかるだろう。
そなたは今宵の宴は休め。
俺も顔を出したらすぐ戻る。」
「はい、ありがとうございます。」
青葉は伊吹の優しさに素直に甘えた。
最初は心配で心配で、目の前の敵よりも
遠くの青葉に意識がいっていた。
指の先ほどの大きさでも、
青葉が泣いているのがわかり
どんなに助けに向かいたかったか。
だが俺も槍大将。
持ち場を、兵を捨てられぬ。
その苦悩が加わり、前にも増して
いくさが苦痛でしょうがなかった。
それがこの頃の青葉は落ち着いている。
離れていても、こちらの兵にも影響を与えるほど
いくさ場の “流れ” を作れるようになった。
腕はまだまだだが、場の掴み方は天性のものであろう。
このまま育てば、良いいくさ人になりそうだな。
伊吹はそう感じたが、それは男であればの事。
男の才が女に備わっていても、
己を苦しめる材料でしかない。
青葉と伊吹が安定した戦いをしている時に
城番をしていた高雄に、一報が入る。
北東の地で反乱が起こったという。
馬鹿な!
あそこには今、乾行が行っている。
高雄は慌てて、青葉たちの近くにいる
八島の殿に早馬を出した。
八島の殿の返事は、“武運を祈る” であった。
これすなわち、“迎え撃て” という事。
乾行の軍は、最近そのあたりに
はびこっていた野盗の成敗を目的にしているだけで
いくさのつもりはないので、その準備はしていない。
“反乱” は予定外の動き。
それでも乾行なら、半農の兵の群れなどどうにか出来るはず。
だが、その乾行から援軍の要請が来ているのだ。
これはただごとではない!
そう感じた高雄は独断で兵を率いて、
乾行の元へと休みなく駆けた。
続く
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