高雄の軍が着いた時には
味方はもう数兵しか残っていなかった。
だが、よくぞここまで持ちこたえた、
さすが乾行。
高雄はホッとした。
「おまえたち、よくぞ頑張ってくれた!
もう安心して良い。
敵は我らに任せよ。」
とは言うものの、高雄の軍を見た途端、
敵兵らは退却をしていた。
相手の素性がわからぬままの深追いは禁物だ。
高雄は追うのを止める。
残った兵の中に乾行がいない。
「乾行はどこだ?」
奇襲ゆえの混戦で
誰も乾行の行方を把握していない。
高雄は体中の毛がゾワッと逆立った。
まさか・・・・・・・・
死んだ武将は首を獲られる。
だが今回は “いくさ” ではない。
乾行はどこかに “いる” はず。
「乾行!!!」
大声で叫ぶも返事はない。
高雄は馬を降り
ぬかるみの中を歩き回った。
この悪路ゆえに・・・?
いや、乾行はいる、絶対にいる!!!
「乾行、どこだ、返事をしろ、馬鹿者!」
転がる泥まみれの死体を
ひとつひとつ見て行く。
こんなとこにいるはずがない
乾行がこんな奴らのところにいるはずがない
なのに何故私はここを探すのだ?
高雄の手が止まった。
ゆっくりと膝を付く。
覆い被さるように抱き締めた乾行の体は
まだ温かかった。
「おまえの居場所なんかいつでも探してやる、
と言っただろう。
こんなところで何をしてるのだ
馬鹿野郎・・・。」
その純白の鎧と、麗しい面立ち
そして冷徹な言動ゆえに
兵たちに密かに “根雪さま” と
呼ばれている高雄が
泥まみれになるのも厭わず (いとわず)
人前で声を上げて泣いたのは
その人生で、最初で最後のこと。
凱旋した伊吹と青葉にも、
その知らせは寝耳に水であった。
ふたりとも、状況を理解できずに訊き直す。
それでもにわかには信じられず、
その目で確かめに走る。
乾行の遺体は清められて
布団に寝せられていた。
まるで眠っているかのようであった。
わあっ と泣き出したのは伊吹の方であった。
青葉は、そこらにいた者に詰め寄った。
「何故このような事になったのです?」
「は、はあ、生き残った者たちによると
野盗を討ちに向かう途中の谷の道で
急に大勢の敵兵が頭上から襲ってきて
それから乱戦になって
何が何やら、と・・・。」
兵?
野盗じゃなくて、“敵兵” ?
青葉は八島の殿のところへ向かった。
「大殿さまはどこにおわします?」
無鉄砲なのは、いつも女。
続く
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