乾行の葬儀は、盛大に行なわれた。
いつもならば、こういう時の仕切りは
高雄に任されるのだが
今回は見るも無残に憔悴しきっていて
動く事すら出来ない。
それは伊吹も同じであった。
青葉は伊吹の隣に座って
ただうつむいていた。
本当は素直に悲しみたいのだが
それ以上の深い悲しみに
呆然としている高雄と伊吹の側で
自分などが感情を出すのは
失礼な気がするのだ。
だが少し目を上げると
そこに乾行が横たわっている。
乾行さまとのあの楽しい日々も
もう二度とないのですのね・・・
うっかりそう思ってしまった途端
涙が溢れてきた。
堪えようとするけど
抗えば抗うほどに膨れ上がるのが感情。
青葉はつい声を漏らしてしまった。
「うっ・・・」
袖で顔を覆って、体を震わせている青葉を
伊吹は慰める事が出来なかった。
その理由すら確かめたくない。
侍女が来て、青葉を別室に連れて行く。
フラつく青葉を
廊下近くに座っていた男が支えた。
青葉は、ふたりに抱えられるようにして
退出した。
「姫に水を。」
男が侍女に言いつけた。
部屋にはふたりきりである。
が、青葉は泣きじゃくり始めた。
ようやく気がねなく
悲しみを開放できるのだ。
側にひとりふたり、人がいようが構わない。
侍女が水を持ってきた。
それを飲まされ
涙でグチャグチャになった顔を
濡らした手拭いで拭かれ
髪を櫛 (くし) ですかれている内に
ようやく落ち着いてきた。
大きな吐息をもらし
ボンヤリと畳の目を眺めていたら
聞き覚えのない男の声がした。
「だいぶ、おぐしが伸びましたな。」
ギョッとして声の方を見ると、見知らぬ男が座っている。
「あなたは・・・?」
青葉の問いに、侍女が答えた。
「姫さまをお連れして来て
いただいたのですよ。」
「そうでしたか。
それはどうも
お手数をおかけいたしました。」
青葉のお辞儀にも、男は青葉を見つめたまま
帰る気配がない。
少し睨むと、男はお辞儀を返した。
「これは失礼。
それがしは
お美しい青葉姫さまの信奉者でしてな。
名を勝力 (かつりき) と申す、
しがない小大名ですが
姫さまの御為なら
命も惜しまぬ所存にございます。
どうか、お見知りおきくだされ。」
図々しく自己紹介をする男を
青葉は不躾に見た。
濃い顔なのに、乾行さまに少し似てる
そう思ったのは
歳の頃とガッチリした体格のせいか。
「勝力さま」
「いやいや、それがしなんぞ
呼び捨てにしてくださいませ。」
「そういう序列でございますか?」
率直に訊く青葉に、勝力はニッと笑った。
「ええ。 それがしには敬語も結構。」
「わかりました。
勝力、覚えておきましょう。」
勝力は再び頭を下げた。
「ははっ、ありがたき幸せ。」
勝力が退出した後、侍女に確認をする。
「如月 (きさらぎ)
本当にあれで良いの?」
この如月という侍女は
龍田から青葉に付いてきた女で
いくさの方に忙しい青葉に代わって
家の切り盛りをしつつ
一通りの城内の人員把握もしていた。
「姫さまおひとりなら
確かにそうでしょうけども
敷島家の奥方という意味で考えたら
あちらが上でしょうね。」
と言う事は、あの人は
伊吹さまを認めていない、という事?
青葉の心の中の疑問に答えるかのように
如月は続けた。
「確かに弱小ですけれど
歴史はある家のようですわ。
高雄さまと少し
仲がよろしかったと思います。」
あの、私を蛇蝎 (だかつ) のごとく
嫌う高雄さまと仲のよろしいお方が
私を好むものかしら?
ああ、でも伊吹さまも乾行さまも
私をお好きですし
そう、不思議でもないですわね。
何のちゅうちょもなく、そう思う青葉。
続く
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