ジャンル・やかた 29

「だって普通、モニターに囲まれた広い部屋の真ん中で
 クジャクの羽ー?みたいなデカさのオットマンチェアーに座ってて
 グルリと振り向いて、『ようこそ、我が館へ。 ふはははは』 
 とかやる、って思うじゃないですかーーー。」

「そんな夢を見ていた頃が、わしにも確かにありました・・・。」
じいさんが遠い目をして語り始めた。

「最初は普通に増築改装をしていけてたんじゃよ。
 それがここ十数年のIT化の波でな、とても苦しくなってな
 ちょっと改築するより、モニター1個の方が高いんじゃ!
 予算が圧迫されて、わしの居場所もどんどん削られて・・・。」

「IT化っすかー。
 何か単語が大間違いな気がしますけど
 私もいつも目クソ鼻クソな事を言ってますから、追求しませんよー。
 言おうとしている事は、なんとなくわかりますしねー。
 とにかくそれで、この小汚い四畳半の隅っこで震えてたんですねー。」

「いや、それは嬢ちゃんが壁を叩き壊すから・・・。
 まさかこんな恐い入って来られ方をするとは思わんじゃったよ・・・。」
「うっすい壁も、IT化の波のせいですねー?」
「そうなんじゃ。」

アッシュはこめかみの血管ビキビキで、ワナワナと震えだした。
「・・・何か、もんのすごーーーく腹が立ってきたんだけどーーー?
 わけもわからんと、何度も痛い目に遭って、何度も死に掛けて
 あげくが人まで殺してしまって、相続するものの正体が
 不良債権のこのクソ狭いボロ部屋かいーーー!!!!!!!!」

じいさんが慌てて言い訳をする。
「い、いや、ちゃんと予算は出るんじゃよ。
 でも時代に合わせようとしたら、どうしても予算オーバーに・・・。」

「アホか! 予算なんてな、上乗せ申告しておいて
 差額をチマチマ隠し溜めておくものなんだよー! (注: 犯罪です)
 あればあるだけ使うから、いざという時にないんだろうがー。
 やりっ放ししてんじゃねえよー、この無計画ジジイー!」

「そこまで言わんでも・・・。」
「この惨状の尻拭いは、次世代の私がせにゃならんのだぞー!
 死ねー! 死んで詫びろー! クソジジイー!」

「あっ、あんたそんな口を利いて良いと思っとるんかね!
 この館の主は、3年持ったら認められるんじゃが
 わしは30年以上やってきたから、長老中の大長老になってるんじゃぞ!
 言わば、あんたの上司になるんじゃぞ!」

「それはそれは、とんだご無礼をお詫びいたしますー。
 では、丁重にお願い申し上げますー。
 お早めにお死にになっていただけませんでしょうかー?」
慇懃無礼にニッコリ微笑んだアッシュだが
すぐに般若のような表情に戻った。

「つーか、金の算段もロクに出来んヤツに、上司ヅラなどさせんわー!
 とっとと、ゴー! ツー! ヘル!!!」

アッシュのとてつもない剣幕に、ジジイはしょぼくれた。
「くすん・・・、わし、長年頑張ってきたのに・・・。」

アッシュの右手にあったドアが開いて、若い男性が顔を覗かせた。
「あの、主様、住人たちが周囲に集まってきていますんで
 お話は会議室でなさった方がよろしいかと思われますが・・・。」

「おっ、ここに理系男子がいたとわー!!!」
上半身だけ出していたアッシュが、バキバキと壁を割って
部屋の中に無理矢理入り込む姿を目の当たりにしたジジイと理系男子は
果てしなく引き潮に乗った。

ドアに首を突っ込んで、アッシュは歓喜の雄叫びを上げた。
「おおおー! 主の部屋の横にモニタールーム、推理大当たりじゃんー!」

モニタールームは予想通り、広々としていて
無数のモニターが連なり、それらの前には数人の理系男子が座っていた。
「ここだけ桃源郷だなあー・・・。」

モニターと理系男子を、うっとりニタニタしながら眺めるアッシュに
ジジイがおそるおそる声を掛ける。
「あの・・・、6階の会議室に行かんかの?」

ジジイには鬼のような表情になるアッシュ。
「ああーーーっ? もちろん、茶ぁと軽い食事等ぐらい出ますよねー?」
「・・・急ぎ用意させるんで・・・。」

「そんなら、行きましょかー。」
「うむ・・・。」

更に壁をドッカンドッカン蹴り割って廊下に出たアッシュの後ろを
ショボショボとついて行くジジイの心は、傷付き張り裂けそうだった。

続く。

関連記事: ジャンル・やかた 28 09.11.19
      ジャンル・やかた 30 09.11.26

Comments

“ジャンル・やかた 29” への2件のフィードバック

  1. 裁量のアバター

    こんにちは

  2. あしゅのアバター
    あしゅ

    よお、こんにちはー。

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