ジャンル・やかた 33

「で、リリーさんと付き合うと、何で遺言できるんですかー?」
「それはな、リリーが弁護士だからじゃ。」
「え? 秘書じゃないんですかー?
 てゆーか、元犯罪者なのに弁護士になれるんですかー?」

「秘書みたいなもんじゃが、正式には弁護士なんじゃ。
 元犯罪者でも弁護士資格は取れるが、リリーは犯罪者ではない。
 ・・・ここには何人か、長老会から派遣されて来ている者がいるんじゃ。」
ジジイは、アッシュに顔を近づけて声をひそめた。

「ああー、そうですよねー。
 元犯罪者の集団と、関係ない一攫千金狙いのよそ者だけに
 街のおおごとな恥部を任せられませんもんねー。」
「・・・あんた、言いにくい事をサラリと言いよるな・・・。」
「だってどう表現しようと、汚物はしょせん汚物でしょー。
 キレイ事でまとめるには、ここは黒すぎますよー。」

無表情で答えるアッシュに、ジジイがうなだれる。
「そうなんじゃよ・・・。
 ここは色々とありすぎた・・・。」

「んで、遺言書の話の続きはー?」
「あんた、わしの苦悩を無視かい?」
「あ、それについては、後でじっくり責めてあげますからー。」
「え? わし、まだイジメられるの?」

その言葉にアッシュは、獲物発見! と言わんばかりに
目をイキイキと輝かせた。
「ほおー、まだ被害者ヅラできる立場だと思っているようですねー。
 これは念入りに責め上げてさしあげないといけないようですねえー。」

泣きそうになっているジジイに、アッシュはまくしたてた。
「で、兄はリリーさんに協力してもらって、遺言書を作ったんですねー?
 それ、違反行為になりませんかー?
 しかも街からの監視者のリリーさんが、そんな事に協力しますかねー?
 その話、何かおかしくないですかー?」

「・・・・・・・・・」

ジジイは、黙り込んでしまった。
アッシュは、そんなジジイの様子を気にするともなく紅茶を飲み
皿から取ったハンバーガーを開き
ピクルスをつまみ出してペッと皿に投げ捨ててから、かじりついた。

「ピクルス、嫌いかね?」
「自分が不味いと感じるものは嫌いですねー。」
「明快じゃな。」
ジジイは再び無言になった。

どれだけの時間が経っただろう。
ジジイがようやく意を決したように、アッシュの方を向いたら
アッシュは椅子の背もたれにもたれかかって、大口を開けて寝ていた。
しかも、よだれまで垂らしている。

ジジイの堪忍袋の緒がブチッと切れた。
「こらっ! 起きんかい!
 何じゃ、そのだらけた態度は!
 今わしがどんだけ悩んでいたと思ってるんじゃ!」

アッシュがムニャムニャと寝呆けながら言う。
「えー・・・、寝せてくださいよー。
 私には、もう二度と安らかに眠れる日は来ないかも知れないのにー。」

アッシュが何気なく発したその言葉が、ジジイに突き刺さった。
「・・・あんた、バカなのか利口なのか、どっちなんじゃね?」

「もちろん、どっからどう見てもバカなのには異存はないでしょうけど
 実は超ド級クラスの大バカだった! という救えんオチでしょうよー。
 特に私がこれからしようとしている事を考えるとー。」
ヘラヘラ笑うアッシュに、ジジイが険しい表情で問う。
「一体、何をしようと思っとるんじゃ?」

「んーとですねー。」
アッシュが説明するのを、ジッと聞いていたジジイだったが
話が終わると、再び頭を抱えてしまった。

アッシュはそれを見て、ヤレヤレと
今度は椅子を3つ並べて、その上に横になってグウグウ寝始めた。
ジジイは立ち上がり、窓際に立って空を仰いだ。

この館の運命の歯車が、突然回り始めた気がするのお・・・。

続く。

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