ジャンル・やかた 34

「こりゃ、起きるんじゃ!」
「んー、長考終わりですかー?」
「うむ。」

アッシュがアクビをしながら起き上がると、ジジイが早速話し始めた。
「予定外じゃったが、あんたにだけは本当の事を話そう。
 ここでの話は、お互いに他言無用なのはわかっとるな?」
秘密の多いジジイだな、と思いつつアッシュがうなずく。

「グレーは本当に偶然にここに来たんじゃ。
 そして早々とわしが主だと気付き、部屋の場所も言い当てた。
 グレーとは、一緒に飲むうちに気が合ってな。
 わしはグレーに相続させるつもりじゃった。
 グレーとわしの、この館のシステムを変えたい想いが
 同じじゃったからじゃ。
 じゃが何度話し合っても、相続後の良いやり方が思いつかなかった。
 改革方法が定まらん内に相続しても、危険なだけじゃからな。
 だからグレーはあんだけ時間が掛かったんじゃ。」

「それはリリーさんやローズさんも知ってたんですか-?」
「いや、グレーとわし、ふたりだけの秘密じゃった。
 ・・・と、わしは思っておった。
 グレーとリリーが仲良くなってたのは知ってたが
 まさか付き合ってるとまでは思わなんじゃ。」
ジジイは、ちょっと怒ったような顔になった。

「わしがふたりの関係を知ったのは、グレーがあんな事故で死んだ後じゃ。
 その時に、遺言書の存在をリリーから知らされた。」
心情を悟られたくないのか、両手で顔を覆って溜め息をついた。

「『私とグレーは愛し合っていました。
 グレーは万が一の時のために遺言状を作っていました。
 作成したのは私です。 グレーの願いを叶えたいんです。
 私はこれを長老会でお願いしようと思うんです。』 とな。
 んで、近年の応募者が少ないもんで、通ってしもうた。」

あらら、ジジイ、肝心なとこで仲間外れかい、とアッシュは同情した。
「正直に言うが、わしは怒っとったよ。
 グレーにもリリーにも。 そしてあんたにもな。」
「ええーーーっ、私、あおりをくらってるんですかー?」
「坊主憎けりゃ袈裟まで憎い、ってもんじゃ。」

「ズバリ聞きますけど、私をマジで殺そうと思ってましたよねー?」
「うむ!」
「『うむ!』 じゃねえーーーーーーーーっ!」
アッシュはいきなり立ち上がって、ジジイの頭をパコーンとはたいた。

「あああああんたっ! 目上の人に対して何ちゅう・・・」
頭を抑えて目をパチクリさせるジジイを、アッシュが一喝した。
「命を狙うヤツは目上じゃありませんーっ!」

「・・・すまんじゃったのお・・・。
 実はあんたが部屋を見つけても、絶対に殺すつもりじゃったんじゃ。
 じゃがあんたの入り方が、あまりにも意外すぎたし
 あの裂け目から出た鬼のような形相に、心底恐怖を感じてのお
 つい思わず花火ボタンを押しちゃって、相続達成、じゃったんじゃよ。」

「じゃあ、今も殺すモード全開ですかあー?」
「あんたとグレーは実の兄妹なんじゃよな?」
「はい、これ以上にないぐらい兄妹ですー。」
「しかし、あんたはグレーと全然違うな?」

アッシュはその言葉に軽く目まいがした。
「・・・ジジイーーー・・・、勘弁してくださいよおー。
 怒りに目がくらんで、ミソもクソも同じ見えるかも知れんけど
 その歳でそんな中学生みたいな事を言っててどうすんですかー。
 脳みそが1個ありゃ個人なんですよー。
 脳みそ2個だと、それはもう別人ですよー。」

ジジイが深くうなずいて、つぶやいた。
「あんたのその明快さが、わしの閉ざされた心を開いたんじゃ。」
その言葉に、アッシュが爆発した。

「いかにも良い事を言ってるつもりでしょうけど、とんだ花畑脳ですよー?
 何のフラワーガーデンフェスティバル開催中ですかー?
 はっきり指摘しちゃりますよー。
 あんた、親友と側近にハブられて、スネて
 関係ない私にまで害を及ぼそうとしただけなんですよー?
 ハナから私も同類だと決め付けてねー。
 あんたも、いたらん人間関係で悲劇でしょうけど
 私もチャンガラな身内を持って、ほんとマジもんの惨劇ですよー。
 これってお互い、同じような境遇なんじゃないですかー?」

アッシュの怒りにおされつつ、固まっていたジジイだったが
希望に燃えた瞳を熱く輝かせて、叫んだ。
「よし、わかった! あんたを信じて賭けるとしよう!」
「信じんで良しー!」
「えええー? 今更拒否るんかい!」

「人をパッカンパッカン殺しといて、何が信じる信じられるですかいー!
 いい加減、そういうフツーの人間っぽいフリはやめましょうやー。
 私たちは罪人なんですよー?
 私はこれからその贖罪で、この館のために手を汚しますー。
 あんたの償いは、私を助ける事ですー。
 自分の正義や感情を大事にしてる場合じゃないんですよー。」

「わしたちは罪人か・・・。」
ジジイはアッシュの目を見据えた。
「それが現実なんですー。
 いい加減、目を覚ませ、ジジイー。」
アッシュはジジイの目を見返して、言い捨てた。

ジジイは、一番言われたくない言葉を聞いた気がした。
あまりにも長い間、ここに居すぎたせいか
そんな事を考えた事もなかったのだ。

わしも潮時というやつなのか・・・。
“跡を継ぐ” その意味をわかってて、この嬢ちゃんは言っている。
グレーがこの妹を寄越してくれた事は
結局はわしの救いにもなるんかも知れんな。

嬢ちゃん、頼むな。
ジジイは心の中でそうつぶやくと、再びアッシュの顔を見て
ゆっくりと深くうなずき合おう・・・としたが
アッシュはハムサンドのハムを、必死に抜き出してる最中だった。

「・・・あんたと親交を深めるのは、中々難しそうじゃな・・・。」
ジジイが嘆くと、具なしサンドをくわえたアッシュが
またバーサク状態になった。

「そのペースの遅さには、こっちが文句を言いたいですよー。
 まったく年寄りってやつは、いちいち感慨にふけらにゃ気が済まんし
 すぐ電池切れを起こすし、ほんとイライラさせられますよー。
 全力疾走し続けるか死ぬか、どっちかにしてくださいよー。
 あっ、この食い残しのハンバーガー、食べといてくださいねー。
 このピクルスとハムもー。
 次の主が行儀が悪いなんて、示しがつかないですからねー。
 協力、よろー。」

ダメ出しにつぐダメ出しの上に、残飯処理係任命で
ジジイの心は張り裂けそうだった。

年寄りには刺激の強すぎる急展開の連続である、

続く。

関連記事: ジャンル・やかた 33 09.12.4
      ジャンル・やかた 35 09.12.10

Comments

コメントを残す

メールアドレスが公開されることはありません。 が付いている欄は必須項目です