ジャンル・やかた 40

銃撃事件から、後始末に追われる日々が続いた。
事件の方は、以前のように 内々に “処理” された。

親しい者が身代わりになったと言う事で
長老会は比較的アッシュに同情的ではあったが
やはり館の住人は、一旦切れると何をするかわからない
という不信感が、上の方で広がってしまったのである。

アッシュは、反抗的な住人を早くどうにかしろ
と長老会会議で度々突き上げられていた。
その方法を長老会のお歴々のメンバーと話し合うも
メンバーは何ひとつ知恵が出せない、という有り様である。

会議に出れば吊るし上げられ、館に戻れば周囲が暗殺を警戒する
ピリピリする空気の中、バイオラの死に責任を感じ
一時たりとも気の休まる事がない日々が続いた。

ジジイは長老会とアッシュとのパイプ役を、見事にこなしていたが
自分が長く務めすぎたせいもあって
今の長老会には、主経験者がジジイ以外にいないのが難点であった。

あそこは経験しなきゃわからん事も多いんじゃ
データや報告書だけでは判断など出来ぬぞ
ジジイは常々メンバーを、そうたしなめていた。

それは長老会の面々も自覚していたので
ジジイの言葉には信頼が置かれていたが
やはり想像以上の現実が、長老会を混乱させていた。

そもそも、“コト” が起きた時の隠蔽にだけ動いてきた長老会が
館の運営にこれほどまでに首を突っ込むのも、初めての事だったのだ。

リリーは会議の準備に奔走する中、情報集めをしていた。
館の電気関係に勤務する住人たちは、長老会所属であり
同じく “外から来た住人” であるリリーとは、同胞である。

モニタールームに詰めている職員に、住人たちの動きを探らせ
誰が反抗的な意識を持っているのか、不穏な動きはないか
つぶさにチェックさせていた。

ローズは “護衛” の肩書きを、名実ともに不動のものにしていた。
相続達成サポートの見返りに好きな地位を、のお達しに
「これまでと同じでいいよ。」 と、答えたのは
リリーと一緒に秘書をやるには、頭がない自分が
自然にアッシュの側にいられる唯一の職だからである。

その肩書きは、ローズの腕からしても誰もが納得するものだったが
戦いのない館になるのだから、閑職も同然のはずだった。

あたしも平和ボケしちゃってたね・・・
自分が気を緩めずに役目を果たしていたら、バイオラも死なずに済んだのだ
と、ローズもアッシュと同様に自分を責めていたのだ。

アッシュの書斎の隣にある護衛控え室には、アッシュのタイムテーブルや
住人たちの顔写真つき履歴リストを用意した。
ホルダーにハンドガンを入れつつも
やっぱりあたしにゃこれだよね、と大鋏をベルトに差し込んだ。

デイジーはアッシュの食器を下げながら、憂うつな気分だった。
アッシュの食欲が落ちているのである。
あんなに痩せてらっしゃるのに、これ以上食欲が落ちていったら
お体が心配でたまらないわ・・・。 ただでさえ激務なのに・・・
デイジーは重い足取りで厨房に向かう。

「あれ、また主様はこんなに残しなさって・・・。」
厨房の女性が声を上げる。
「そうなのよ・・・、もう心配で心配で・・・。」
キレイに残っている皿の上の料理を見て、デイジーは溜め息を付いた。

「以前は食堂に来てくださってたのに、あの事件以来止められてるらしいし
 主様のお姿が見えないと、皆も寂しいよねえ。」
厨房の女性の言う通り、襲撃事件からの警備の強化のせいで
アッシュは以前ほど自由にウロつけなくなっていた。

皆で仲良く平和にやれ始めていたのに、一部の人のせいで!
デイジーは、激しい怒りを覚えた。

そんな中、アッシュは館にいる間のほとんどの時間を勉強に費やしていた。
これまで以上に、演説に力を入れなければ!
そう考えたアッシュがネットで調べていたのは
「小論文の書き方」 であった。

おいおい、アッシュ、大丈夫かその方向性で???

続く。

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