ジャンル・やかた 45

「もー、パス27までしちゃいましたよー。」
アッシュの話を聞いて、リリーは固まってしまっていた。
 
「ね? 凍るでしょー? 私のあん時の気持ち、すんげえわかるでしょー?」
アッシュのお仲間の誘いには乗らず、リリーは青ざめた顔で訊ねた。
「それで、どうなさるんですか?」
 
「反乱グループに情報なんて渡せませんよねー。
 とりあえず、今夜の事はそっち方向で言い含めておきましたから
 デイジーがそれを上手くやってくれれば、当分はしのげますー。」
アッシュが机に片手を置いて、格好をつけた。 別に意味はないが。
 
 
「にしても、反乱グループとは・・・。」
「監視部は掴めてなかったんですかー?」
「長老会所属は、住人たちとは一線を引いていますからね。
 しょせん機械頼りでは限界がありますね・・・。」
 
「と言う事は、今回の問題発覚は、私の人徳が功を奏したわけだー。」
「・・・問題が大きくなってますけどね・・・。」
威張るアッシュを睨みながら、リリーが責めるように嘆いた。
 
 
リリーが腕時計を見る。
「・・・そろそろ時間ですね。」
アッシュとリリーは、書斎から地下に降り
薄暗い通路を通って、モニタールームへのはしごを上る。
 
改築のおり、アッシュの特殊な趣味を取り入れたお陰で
書斎、寝室、モニタールームは、誰にも知られずに行き来できる。
「ニンジャ屋敷仕様、役に立つよねー。」
得意げなアッシュに反応する余裕は、リリーにはない。
 
 
「様子はどう?」
「夕方から約1時間ごとに人が入っています。
 今、部屋の中には6人いるはずです。」
モニター監視員が画面を見つめながら答える。
 
「リリー様、先月の記録でそれらしきものを見つけました。」
背後の予備画面で、それが早送り再生される。
「8人集まってるわね。
 これは誰も気付かなかったの?」
「はあ・・・、これだけの数の画面ですから・・・。
 カメラの数が多すぎるのが仇になりましたかね・・・。」
 
 
「カメラは多いに越した事はないに決まってますよー。」
アッシュが明るく能天気に言う。
「何かあれば、こうやってチェックできるー。
 後手に回ったのは、私側実働隊のミスですからー。
 ちゃんと連動できれば、これほど強力な武器はないですよー。」
 
「主様・・・」
振り向いた監視員たちの目に入ったのは、腕組み仁王立ちのアッシュだった。
 
反乱グループがいるらしい、という話を聞いた監視員たちは
自分たちの目は無力だった、と落胆していたのだが
アッシュの言葉に救われる想いであった。
 
「はい、モニターをしっかり見ていて!
 どこから出た誰が、どこに入って行くのか、確認しないと!」
リリーが手をパンパンと叩き、監視員たちは慌てて画面に向き直った。
 
まったく、隙があれば主様モードを出したがるんだから・・・
リリーは呆れたが、アッシュのこの言動はまごう事なき性格だった。
 
 
「モニター42、南館405号室から男性退室、南方面へ廊下を移動。」
「モニター38、北館312号室から男性退室、北方面へ廊下を移動。」
報告が相次ぐ中、ひとりの監視員の報告にアッシュとリリーが注目した。
 
「モニター9、南館328号室から女性退室、北方面へ廊下を移動。」
 
デイジーである。
 
 
続く。
 
 
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