黒雪姫 9

バキーーーッッッ!!!
 
「また黒雪姫が寝返りで壁を蹴り破ったぞ!」
最近の定番の目覚ましは、黒雪姫の起こす轟音である。
 
「うーん、この音でも起きないとは・・・。」
「足、痛くないんじゃろうか?」
「ある意味、大物じゃよな。」
「実サイズ上でもデカいと思うが。」
「文字通り大物、と言うべきじゃな。」
小人たちが、大口を開けて爆睡している黒雪姫を囲む。
 
 
「にしても、最近ちょっと女性に見えないか?」
「見慣れただけじゃろう。」
「最初は野人だと思ったほどだったからのお。」
「汚れでナチュラルな迷彩色になっとったしのお。」
「今は毎日風呂に入って、栄養も行き届いているものなあ。」
「ああ、わしらをコキ使ってな・・・。」
 
小人たちはヤレヤレと溜め息をつき、散会した。
 
 
昼過ぎにドッカンドッカンと爆音がするので
何事かと集まってきた小人たちの目に映ったのは
大槌で壁を叩き壊す黒雪姫の姿であった。
「!!!!!!!!」
 
「あ、あんた、何をしとるんじゃね?」
小人のひとりが慌てて止める。
 
「ん? 今朝、また壁が壊れてるのを見つけたのよ。
 もう古いようだし、修理ついでに増築しようかと思って。」
 
 
それはあんたが蹴り壊しとるんじゃ!
 
小人たちは全員、心の中で叫んだが
寄らば大樹の陰、長いものには巻かれろ
誰もあえて波風を津波にはしたくない。
 
それに、小人たちも寝ていて
いつ黒雪姫の腕や足が飛んでくるかわからない恐怖があるので
部屋が広くなるのは賛成であった。
 
と言うか、いつまでここにいるんだろう?
小人たちの胸中には、常にモヤモヤした疑問が渦巻いていた。
 
 
「この際、家の増改築をとことん
 あの怪力女にさせようじゃないか。」
小人のひとりが提案した。
「うむ、食費も光熱費もバカにならんしな。
 その分の労働はしてもらわんと。」
 
小人会議の決議案を黒雪姫のところに伝えに行くと
黒雪姫は快諾してくれた。
「うん、いいわよー。 私がやる気の時ならねー。」
 
 
「おい、だったらやる気がない時は何もしない、って事か?」
「知らんよ、本人に訊けよ。」
「どこに地雷があるかわからん巨人にか?」
 
固まってボソボソと小突き合う小人に、黒雪姫が叫んだ。
「おーい、お茶ー。 あと茶菓子ー。」
 
「はーい、わしがー。」
「あっ、卑怯な! そっちはわしがやる。」
「あんたは黒雪姫に詰問せえ。」
「いや、わしが茶を淹れる。」
「何じゃと! 自分ひとりおべっかか!」
 
小人たちは団子状に押し合いへし合いしながら
台所になだれ込んで行った。
 
 
・・・茶ぁぐらい、ひとりで淹れられないのかしら
何でも皆で一緒に仲良くやりましょー、ってか?
まったく、人間と違って妖精はノンキで良いわよね。
 
黒雪姫は呆れたが、この家で一番ノンキなのはこの女であった。
 
 
 続く
 
 
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