「うお、私、寝てた? 霊も寝るんだー!」
太郎と同じ事で驚くゼロ。
あれ? 太郎がいない。
あっ、そうか、大学に行ったんだー。
えー、じゃあ私、どうしようー。
TVのスイッチ、むーん むーん
・・・・・無理だ、入れられない。
あーーーーーー、ヒマーーーーーーーーーーー!
窓から外を眺めようとして、ついガラスをすり抜けてしまった。
いかんいかん、どうも加減がわからない。
ん?
下を見ると、夕べの血まみれの女性が立っている。
あ、あいつ、まだここらへんにいるー。
怒りが湧いたゼロだが、同時に少し同情心も起こる。
もしかしてあいつも、ここらへんから出られないんかな・・・。
「おーい、ちょっとこっち来てー。」
血まみれ女性に声を掛けると、女性はフワフワとゼロの近くに寄ってくる。
「言葉は通じるんだー?
ね、あなた何でここにいるの?」
女性は無言のままである。
「喋れないんかー?
うわ、頭、カチ割れてるじゃん!
私、スプラッタほんと無理なんだよー
それ、どうにかならない?
目のやりどころに困るんだよねー。」
女性は無反応でうつむいたままだ。
傷が視界に入らないように、手で女性の頭をさえぎると
手の平が微かに発光したような気がした。
「?」
手の平を見ても異常はなかったが、女性の頭を見て驚いた。
「ちょ、傷、閉じてるよ!
え? 何かした? あなた? 私?」
うろたえるゼロに、女性が目を上げた。
太郎が帰宅し部屋に入ると、ゼロがこたつに座っていた。
「おかえりー。」
その後ろに血まみれ女性も座っている。
「何でまたこの人がここにいるんですか!」
太郎の激怒をよそに、ゼロが嬉しそうにまくしたてる。
「ね、ね、ちょっと聞いて。
私、癒しの天使かも知んない。
私が手をかざすとね、この人の頭の傷が少し治ったんだよー。
そんでね、最初は無反応だったのに
今はちょっとだけど、うなずいたりするようになったんだよ。」
「だからといって、ここに連れて来ないでください!」
怒る太郎を意に介さないゼロ。
「だってこの人、この部屋のすぐ外にいたんだよ?
放っといたら、また太郎に憑くかもよ?
それより根本を解決した方が良くないー?」
「根本?」
「うん、成仏させる、とかさー。
ほら、何かちょっと浄化された気がしない?」
太郎は見るのも恐かった血まみれ女性を
初めてマジマジと観察してみた。
「いえ、よくは見えないんですけど
そう言われれば、イヤな感じが薄れてるような・・・?」
「でしょー?
血まみれちゃん、一緒に頑張ろうね!」
「血まみれちゃん?」
「うん、名前がないと不便でしょ。」
ゼロの言葉に、太郎は自分の耳を一瞬疑った。
「あなたにうちの親の感性をどうこう言われたくないですね!」
「また、太郎ちゃん、すぐ怒るんだからー。
そんなんだから霊が引き寄せられるんじゃないのー?」
太郎はゼロの言葉にショックを受けた。
ぼくの性格が霊を呼んでいるのか?
落ち込む太郎に、ゼロがお気楽に言う。
「ほらほら、そうやってクヨクヨすると、また悪霊が来るよー?」
「あなたにぼくの苦悩はわかりません!
勉強するから、静かにしててください。」
怒りながら、本をドサドサと出す太郎を
ゼロが後ろから覗き込んだ。
「今時の大学生にしては感心だねー
何か目標があるの?」
「弁護士になりたいんです。」
「へえー、しっかりと展望があるんだー。
そういう事なら応援するよ、頑張ってねー。
と言っても、茶も淹れてあげられないのが心苦しいけど。」
「いえ、ほんと静かにしてくれれば、それで良いですから。」
「んじゃ、血まみれちゃん、私たちは外で話をしようか?」
ゼロは血まみれちゃんを連れて、外へと出て行った。
ぼくは陰気な人間なんだろうか?
太郎は机の前で、しばらく考え込んだ。
続く。
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