亡き人 10

「ただいまー、ゼロさんいるー?」
帰ってきた太郎の後ろから、山口が顔を覗かせた。
「ちぃーっす。」
 
「太郎ーーー、霊だけじゃなく、息してるクズまで連れ込むんか?」
「何? その容赦ない評価。 ひっでーーー!」
山口が怒る横で、太郎が困ったように説明をする。
 
「いや、何かゼロさんにお願いがあるらしくて・・・。」
「ほーら、出会ってすぐに頼み事だよ。
 ほんとチャラ男のするこって。」
 
 
「勘弁してくださいよー、俺マジで今、窮地なんすよー。」
そっぽを向いて鼻をほじるゼロに動揺しつつ、代わりに太郎が訊く。
「何かあったの?」
 
「うん、ゼロさんが大学に来た日があったろ?
 あの日から俺、仲間にハブられてんだよ。」
「え、どうして?」
 
「あの後、仲間に長野と何を話してたのか訊かれて
 俺、正直に言ったんだよ、長野の守護霊が来てた、って。
 そしたらウソ付き呼ばわりされてさ。」
 
太郎があらら、という顔をし、ゼロはフンッと鼻で笑った。
「だから俺、ゼロさんが本当にいる、と証明したくてさ。
 写真、撮らせてくんねえ?」
 
ゼロが、はあ? という顔をしつつ突っ込んだ。
「そんでおめえ、私の写真が撮れたとして、それでどうするわけ?」
「だから、その写真でウソじゃないと証明して・・・」
 
「また仲間に入れてくれ、ってかー?
 アッホじゃないのーーー?」
 
 
ゼロが、正に容赦なく畳み込んだ。
「おめえさ、仲間といて騒いで楽しい、って日々だったんだろ?
 それは良いよ、楽しい事は良い事だからな。
 でも自分が理解出来ない、ってだけで仲間外れなんだろ?
 そういうヤツらとは、未来のない関係なわけじゃん。
 人は皆同じじゃないんだから、必ず理解し合えない事が起こるぜ?
 ダラダラ付き合って、何年もムダにするより
 今の内に離れた方が、傷が浅いと思うぞー。
 良かったじゃん、早くにわかって別れられてさ。
 今度はもちっとマトモなヤツと付き合えよ。」
 
「マトモって、どんなヤツだよ?」
「そりゃ、うちの太郎みたいなヤツさ。」
今度は太郎が、はあ? という顔をしてゼロを見た。
 
 
「おめえの今までの仲間ってさ、学生ん時は華やかでも
 社会に出たらペーペーの新人で、実績もなく埋もれるのさ。
 そんで日々のルーティンワークで、お互い疎遠になって
 久々に会おうって言われたら、大抵マルチか宗教の勧誘なんだよ。
 何の役にも立たねえどころか、大迷惑を掛けられるわけさ。」
ゼロのあまりの極論に、太郎はあっけに取られた。
 
「その点こういう真面目くんは、つきまとわない裏切らない面倒見が良い
 三拍子揃った理想的な友人になれるんだよ。
 その上に太郎はな、弁護士志望なんだぞ。
 社会に出た時に、特殊資格のあるヤツはすんげえ役に立つぞ。
 いいか、よく覚えておけ。
 社会に出てからチヤホヤされるのはなあ
 学生ん時とは比べものにならないぐらいに気分良いぞおーーー?」
 
 
悪魔のような顔をして、ヘッヘッと笑いながら言うゼロに
山口はつい洗脳されてしまった。
「そうか、長野、俺と友達になってくれ!」
 
え? と、固まる太郎の背後からゼロが即断する。
「はい、太郎ちゃんはダメー。」
「え、何で?」
驚く山口。
 
「バカチャラ男ーーー、私の言った事を聞いてたか?
 太郎は理想的な友人だけど、おめえは太郎にとってどうなんだよ?
 太郎はな、勉強とバイトで大変なんだよ、邪魔すんな。
 真っ当になる事が出来てから、出直してこい!」
 
「あ・・・、そっか・・・。
 俺も長野にとって良い友人にならなきゃだよな・・・。
 でも、俺、ひとりは寂しいよ・・・。」
 
その言葉に血まみれちゃんが、ピクッと反応した。
ゼロがそれを見て、ちょっとほだされる。
 
「・・・しょうがねえなあ、よし、サービスしたるわ。
 あのな、良い方法があるんだ。
 私、教室でブクブクズンズンを踊ったろ?
 あの時にな、すんげえ驚いていたヤツが数人いたんだよ。
 そいつらには私が見えてたと思う。
 そこでな・・・」
 
 
ゼロにヒソヒソと案を授けられた山口は、喜んで帰って行った。
わからない展開に唖然としている太郎に、ゼロが言う。
「あの山口とかいうヤツ、あいつ案外、良いヤツっぽいぞ。」
「何でそう思うんですか?」
 
「教室でのあいつの最初の言葉、覚えてる?
 嘲笑でも好奇心でもなく、太郎の体調を案じていたろ?
 それに太郎の名前が長野太郎だって知っても、からかわなかったじゃん。
 仲間の質問にも本当の事を言ってるしさ
 あいつ、育ちの良い素直なヤツだと思うぞ。
 自然に気遣いが出来るヤツって、良い友人になれるんじゃないか?」
 
 
ゼロの言葉に太郎が憮然として答えた。
「友達なんていなくても良い、って言ってたくせに・・・。」
「無理に作ろうとする必要はない、って事だよ。
 ついてきた縁まで断ち切るのはもったいなくねえ?」
 
「縁?」
「そう、縁。
 血まみれちゃんや私とのような、な。」
 
ゼロはニヤッと笑った。
 
 
 続く。
 
 
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