山口は食堂でキョロキョロしていた。
ゼロの策を実行するためである。
あ、いたいた。
山口はとあるテーブルに近付いた。
「ここ、座っても良い?
ひとりで飯食うのって、もう寂しくってさあ。」
テーブルに座っていた男性たちのひとりが答えた。
「良いけど、いつもの仲間はどうしたの?」
「んー、俺が霊が見える、って言ったらバカにされてさ。
今ハブられてんのよー。」
あはは、と笑う山口に、向かいに座っていた男性がギョッとした。
「もしかして、この前の講義中のあれ、見えた?」
「え? おまえも見えてたの?」
驚いたように言う山口だったが、実は演技である。
ゼロが山口に教えたのは、この子の事であった。
「ほら、おめえの2列前の斜めのとこに座ってた黒ブチメガネに
黒いトレーナーを着たヤツ、いたろ?
そいつ、大口開けて驚愕してたよ。」
「えーと、福島の事かな?」
ゼロは、そいつと友達になれ、と助言したのである。
「見えるヤツ同士、気が合うかもよ。
うちの太郎ほどじゃないけど
割とマトモそうなヤツだったしね。
おめえに必要なのは、そういう友達だと思うぞ。」
その福島が言う。
「あの時はほんと驚いたよー。」
「あのズクブンブンだろ?」
山口の適当な言い方を、福島は訂正した。
「ズグダンズンブングン。」
「おまえ、正式名称よく覚えてるな。」
「まあね。 とにかくあんな霊、初めて見たよ。」
山口と福島が喋っているところに、通りがかりの女性が口を挟んだ。
「霊って?」
福島が慌てて言い訳をする。
「いや、たまにヘンなものが見える気がする、って話で・・・」
「弁解しなくても良いよ、あたしも “視える人” だから。
で何? どっかに出たの? 近寄らないようにしたいから教えて。」
「へえ、見える人、結構いるんだー?」
福島が驚くと、山口の後ろのテーブルに座っていた女性が
振り向いて言った。
「見えるなんて、普通言えないもんねえ。」
「え? じゃ、きみも?」
更に驚く福島に、女性が笑った。
「見えるなんて言うと、変人扱いだよお。
その人なんて、実際ハブられたらしいじゃない。
考えなしに振舞うと、そうなるんだよねー。」
グサグサッときて落ち込む山口を、まあまあと福島が慰める。
「で、どこに出たの?」
「いや、講義中にズクダンズンブングンを踊る霊が出たんだよ。」
「ズク・・・?」
「ほら、お笑いコンビのこういう・・・。」
ズクダンズンブングンの説明をする福島に、山口が勝ち誇ったように言う。
「へっへーん、俺、あの霊と知り合いなんだー。」
「え? そうなの?」
「うん、あれ、長野の守護霊なんだぜー。」
「と言うわけで、俺たち、心霊研究会を発足しましたー。」
「だから何でここに来る!!!」
正座する一同を見て怒り出すゼロに、長野が慌てる。
「いや、皆ゼロさんを見たい、って言うから・・・。」
はああああーーー、とイヤミっぽい溜め息を付くゼロ。
「恩を仇でキッチリ返しやがる。
チャラ男はこれだから・・・。」
「いや、せっかくだから長野にも仲間になってもらいたいんだよ。」
ジロリと睨むゼロに、一同が萎縮する。
「当の太郎はどうなの?」
いきなり話を振られて、慌てる太郎。
「え? ぼく? あ、えっと、バイトとかで忙しくて
あまり付き合う時間が出来ないと思うんだけど・・・」
「長野の事情は話しておいたから、邪魔はしないようにするよ。」
山口が言うと、周囲もうんうんとうなずいた。
「え、あ、じゃあ、よろしくお願いします・・・?」
流される長野に、ゼロがほくそ笑んだ。
心霊研究会のメンバーは、山口を入れて4人だった。
例の黒ブチメガネの福島に、岡山と石川という2人の女の子。
九州がおらんな、とゼロは思った。
続く。
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Comments
“亡き人 11” への2件のフィードバック
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「と言うわけで、俺たち、心霊研究会を発足しましたー。」
「だから何でここに来る!!!」と
九州がおらんな、とゼロは思った。
が
ツボりました。今回の話は、リアル世界に近い話のせいかすーっと入っていけるし、面白いすねー。
ここからどういう風に話が展開していくのか楽しみです。 -
えっ、そこがツボ?????
ありがとうーーー。
そう言ってくれると、励みになるよ。今回の話は、ラストを迷っているんだ。
こんなに終わりに苦しむ話も初めてだよー。この前はふざけて言ってたけど
心霊ってマジで、“命” がテーマになるんだな・・・。
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