「え? 私を養子にですか?」
夜の8時に主の寝室に呼ばれて、何事かと思いながら来たら
リオンがいて、唐突にその話を持ち出されたグリスは驚いた。
「はーい。 本当なら大学進学の時に申し込みたかったのでーすが
あなたの跡継ぎへの気持ちが揺れていたようだったので
気を利かせて控えたんでーすね。」
「でもまた何故でしょうか?」
「叔父があと数年で政界を引退するので
私が票田を継いで、市議会議員になるのでーす。
身寄りのない者を養子にする慈悲は、選挙のために有利でーす。」
隠さない邪心は主で慣れていたとはいえ、グリスはさすがにウンザリした。
隣でゲームをしていた主が、その様子を見て言った。
「グリス、この国では “身分” というものが幅を利かせているんですよー。
あなた、外の学校に行ってた時に、差別されましたかー?」
「はい、同年代の子たちには少し・・・。」
「大学ではー?」
「あ、そういえば、大学ではまったく。」
「後見人のリオンは、大学に面会に来てくれましたか-?」
「はい、度々いらしてくださいました。
講義室や寮を見学なさった後は、大学のカフェでお茶をしたり
大学周辺の美味しいレストランに連れて行ってくださったり。」
「良い車に乗って、良い身なりで、侍従を連れてー?」
「・・・はい・・・?」
主はコントローラーを置いて、グリスに向き直った。
「本来なら、あなたや私は差別対象の人種なんですよー。
あなたが大学で差別をされなかったのは
いかにも身分の高そうなお金持ちが後見人だ、と
周囲にリオンが見せ付けていたからなんですよー。」
グリスはリオンの顔を見た。
リオンはただニコニコとしているだけだった。
「リオンはあなたの着る物も送ってくれてたんでしょうー?」
「はい、季節ごとに。
靴や時計もいただきました。」
「それらはすべて良い仕立てのものだったでしょうー?」
「はい、私にはもったいないほどの高価な物で
いただく度に恐縮したものです。
リオンさん、本当にありがとうございました。
今でも大切に使わせていただいています。」
「私は大金持ちですから、大丈夫でーす。」
リオンは変わらずニコニコしながら、腹黒い答をした。
「あなたの元に来るリオンを直接見てない人も
あなたの格好や持ち物を見て、あなたを軽んじてはならない
と判断していたんですー。
善も悪も関係なく、この国ではそういう感覚なんですよー。
あなたが余計な不遇に邪魔されずに
快適な大学生活を送れたのは、リオンの気遣いのお陰なんですよー。」
グリスは言葉に詰まった。
主との仲に嫉妬をして、リオンを敬遠していた自分を恥じたのである。
「リオンの養子になれば、あなたはこの国で認められますー。
加えて、あなたの次の主候補をあなたが養子に出来る、という
可能性も出てくるんですよー。」
グリスは、ハッとした。
そうか、そういう事も考えて判断しなきゃいけないんだ。
「パスポート期限失効の私には、その選択肢はありませんでしたー。
まあ、ダーティーな手段はあるにはありますけど
リオンの養子である方が、あなたの今後のためになりますしねー。」
主の養子? グリスにそれは酷な話である。
そんな事になったら、親子になってしまう。
いくら血が繋がっていないとはいえ、道義的に罪悪感がある。
「でも養子にも相続権が発生しますよねー。
それはどうクリアするんですかー?」
主がリオンに訊く。
「それは遺留分なしの生前贈与で、最初に片付けておきまーす。」
「あの、たとえ養子になったとしても、ぼくは財産など受け取れません。」
グリスのその当然の遠慮に、リオンが首を振る。
「グリスくん、これはケジメでもあるんでーす。
自分の野望が一番ですが、私は私なりにきみを愛しているんでーすよ。」
「ま、そうじゃなきゃ、いくら作戦のためでも
他人を養子になど出来んわなー。」
主がひとりごとのように言って
TV画面の方を向いてゲームを再開した。
続く
関連記事 : かげふみ 27 12.1.25
かげふみ 29 12.2.1
かげふみ 1 11.10.27
カテゴリー ジャンル・やかた
小説・目次
投稿者: あしゅ
-
かげふみ 28
-
調味料
飯を食う前に、いきなりソースや調味料をかけるヤツがいるだろ。
これ、もんのすごーーーーーーーーく失礼だと思う。
目の前でそれをされたら、1度目なら論理的に説明をする。
2度目は激怒しつつ、説教をする。
3度目はちゃぶ台がえしをして、縁を切る。
何故ならば、これをするヤツは思いやりの心がない、と判断するからだ。
作ってくれた人への敬意は、その人の味をそのまま味わう事で示すべき。
その上で、テーブルに置かれている調味料を使いたいなら使う。
味も確かめずに最初からアレンジするなど、無礼にも程がある。
私はこう思うので、これが理解できない人と
一緒に食事をするのは、恥でしかない。
何か、えらいキレまくっている礼儀にうるさいババアに思われそうだが
非常識な私に、そういう知恵が自然に備わっているわけがない。
私はこの礼儀を友人から教わったんだよ。
だから知らないであろう人に、伝えるのは
教えてくれた人への恩返しでもあるんだ。
そんで、大抵の人は1度目の説明で納得してくれる。
3度目まで行った人など、個人的付き合いではひとりしかいねえ。
ちょっと偏見な暴言かも知れんけど
妙な食い方をするヤツって、食事マナーも悪い場合が多い。
“マナーとは、人を不快にさせないための思いやり”
っての、当たってる気がする。
粗末な料理の腕と、稚拙な味覚の持ち主である私だけど
ものの一番美味い食い方、っちゅうのは少しは知っている。
フランス料理屋にしょうゆを持って行く海原雄山や
何にでもマヨネーズや七味などの、同じ調味料をかける人も許せない。
家でひとりでするのなら、文句は言わない。
それを邪道だと自覚があるのなら
家での行儀悪い食い方も、個人の自由タイムである。
それも、私が作ってない料理限定でだ。
私が作った飯なら、私の言う通りに食ってもらう。
とか、えらい強気で言うとるが、私の場合は飯で揉めた事はないんだよな。
味噌汁の出汁とか、納豆に何をかけるかとか
別れ話に発展する勢いで揉めた話を、たまに聞くけど
家によって、そんなに違うもんなんかな。
て言うか、マナーの範囲内なら好きにすれば良いと思うんだ。
そんなに私の作る飯が気に食わないのなら、自分で作れ!
あ・・・、いかにもこれを言いそうだから
遠慮されてたんかな・・・。
でも、よっぽどの料理下手や初心者じゃない限り
作ってくれる人に合わせるべきだな。
・・・でも料理が不味い、ってのは言えないよな・・・。
これ、ほんっと困るよな。 辛いよな。
言っとくが、私は普通の味覚は持ってるんで
自分の料理の失敗は、誰よりも早く察知して
土下座しつつ配膳するぞ。
謝れば良い、っちゅうもんでもないんだがな。
とにかく、王道の食い方もわからずに
バカになった味覚細胞を誇るのは、許せないのだ。
いくら自分の好きな味だから、といって
普段はあまり食べられない最高級和牛のフィレに
市販の焼肉のタレをかけるような真似はすな
と言っているのである。
昨今は、激辛ブームか何か知らんが
とうがらしが流行っている。
なあ、それ、本当に美味いか?
根性試しのような飲食法になってないか?
とうがらし系さ、体に良いとは思えんぞ。
舌の細胞、激死にまくってると思うぞ。
続けてると、寿命に影響するレベルの濃い味しか
判別できなくなってしまう気がするぞ。
とうがらし系は、程々にしとかないと
日本の食文化が壊れてしまうんじゃないか、と、とても不安だ。
だって、和食、とうがらし系辛さはないだろ?
TVで韓国の人が言っていた。
日本人に唐辛子は合わないはず
伝統的な食事で美容健康を目指せ、って。
私もそう思うんだ。
激辛料理は、日本にいる外国人のためだと判断すべき。
じゃないと、和食の旨みがわからなくなるぞ。
一番の好物がとうもろこしの味音痴に言われたくない、って?
ばかもの!!!!!
硬くて甘くない真のとうもろこしを
炭火で塩焼きして食ってから逆らえ!
ああっ・・・、今の日本には私の求めるとうもろこしはねえ。
(とうもろこしは、一度外来種を植えると
従来のやつも変身してしまうんだと。
これは何とかって現象だそうだが、その “何とか” は忘れた。)
家畜用なら、まだ昔のとうもろこしに近いんだけど
都会住みの一般人に、家畜用のとうもろこしを食える機会ってないだろ。
古来種が残ってるであろうアンデスか北朝鮮に行きたいよっ。
あっ、ちなみにな、これ私の周囲では定番の食い方だけど
意外に知らない人もいるんで
いかにも私の発明品のように紹介しとくな。
高菜や野沢菜を食う時に
マヨネーズにしょうゆとすりゴマをかけたやつをつけて食ってみい。
美味いぞーーー。
マヨネーズ、ほんと何にでも合うよな。
マヨラーという人種がいるのもわかるよ。
だけど・・・太る素だぞ、程々にな。
評価:
skb
¥ 6,700
コメント:ちゃぶ台返しがしやすいのはこれかな? 星一徹がちゃぶ台返しをしたのは1度だけ、と話題になっていたけど、1 度 で も 返 し た の な ら 大 問 題! 後片付けが面倒な怒り方はしないで!
-
かげふみ 27
さて、マデレンが来てからというもの、主の様子がぎこちなくなったか。
一日目の最初は、それこそカメラを意識して
カメラ目線で妙なポーズを取ったりしていた。
マデレンは特に注意をする事もせず、忍耐強く無言で撮影を続けた。
主様は素人だから、慣れるまでにはかなりの月日が必要だわね。
カメラマンとしての実績は、その忍耐強さに表れていた。
ところが初日の午後にもならない内に、主が言った。
「何かもう、格好つけるのが面倒くさくなっちゃいましたー。
どうあがいても、私は私でしかないし、それを隠す必要もないし
不適切な部分ばっかりでしょうけど
そこらへんは、そっちで何とか体裁つけてくださいねー。
ほんっと、面倒かけてすみませんけどー。」
そう宣言すると、ダラッと椅子に座った。
主は、いつもの主に戻った。
マデレンはその主の姿を見て驚いた。
今まで数々の被写体を追ってきたが
こんなに早く、素をさらけ出す人物はいなかった。
この人はどういう人なんだろう?
マデレンは、レンズを通して主の本質を見つけたい
という、使命とは別のやり甲斐を感じた。
マデレンの標的は、主だけではなかった。
ジジイやグリス、リリー、その他館の諸々の人々
周囲を通して、“主の素晴らしさ” を作り上げるのである。
主の、一日中カメラに追い回される、という懸念も
それによって、少しは薄れた。
館という独特の空間にも、マデレンは興味をそそられた。
不安があったこの役目だけど、楽しく仕事が出来そうだわ
マデレンは日々イキイキと、カメラを担いで動き回った。
マデレンが主の次に興味を持ったのは、グリスであった。
普段から無愛想な態度の主が、この次期主に対しては
目も合わせずに、ことさらに冷たくあたる。
なのに、彼はそんな主に従う。
しかも嬉々として、である。
端整な顔立ちでスタイルも良く、頭も良さそうな
非の打ち所のない若者なのに、何故このような冷遇に耐えているのだろう。
複雑な生い立ちゆえに、辛抱強いのかも知れないけど
それだけでこの仕打ちを我慢できるのだろうか?
マデレンは、主とグリスの関係が理解できなかった。
「ああ、それはな、単純な話じゃ。」
ジジイがカメラに親指を立てながら言う。
ジジイは写りたくて、館に日参していた。
「あんたも数ヶ月、主を撮ってきたからわかるじゃろうが
あやつには “優しさ” というものがないじゃろう?」
「いえ、そんな・・・。」
「かばわんでよい。 事実じゃからの。」
言葉を濁すマデレンに、ジジイが軽く言う。
「じゃがな、特殊なのは、あやつは自分にも優しくないんじゃ。
甘えるわ、我がままだわ、勝手だわ、ロクでもないヤツじゃが
自分を守ろうとだけはせん。」
確かに・・・。
あの素の出し方は、自分を良く見せようとしていたら出来ない。
マデレンは妙に納得できた。
「それが館の者には逆に、“主は自分より皆を守ってくれる” という
安心感を与えておるんじゃよ。
グリスもそうじゃ。
実際に主はグリスを守るためなら、己を平気で見捨てるじゃろうな。
だから普段どんなに冷たくされても
主に対しては絶大な信頼感があるんじゃ。」
はあー、と感心するマデレンにジジイが言う。
「あんたもこの館に関わったからには
主の “守る” 対象になっとるだろうよ。」
「え? そうなんですか?」
驚くマデレン。
「主は、館を守るためだけの存在じゃからな。」
普通に考えれば、人権を無視したひどい話をするジジイに
マデレンが気になって訊いてみた。
「あの、立ち入った事をお聞きしますが
元様は何故この館にいらっしゃったんですか?」
「んー、わしはある国の有力貴族だったんじゃ。
その国の貴族の長男は騎士となり、次男は僧侶になるのじゃ。
わしは長男じゃったんで、戦に出とった。
じゃが、内戦で我が一族の与する側が負けてな。
我が家系は、お家取り潰しとなったんじゃよ。
そのまま国に残ったら、残党どもが “お家再興” とかうるさいんで
諸国を放浪して、たどり着いたのがここじゃったんじゃ。」
「すごい過去をお持ちなんですねえ。」
素直に受け取ったマデレンに、ジジイがピースをした。
「という設定でどうじゃ?」
「えっ? 作り話なんですか?」
ジジイは、フォッフォッフォッと笑うだけだった。
ファインダーを覗きながら、マデレンは思った。
このお方も謎だわ・・・。
続く
関連記事 : かげふみ 26 12.1.23
かげふみ 28 12.1.30
かげふみ 1 11.10.27
カテゴリー ジャンル・やかた
小説・目次 -
安いめがね店
近視用のめがねは、良いレンズにすると
フレームが普通のクラスのにしたとして
大体1つあたり、5万円ぐらいから掛かる。
めがね店でのレンズの利益率は、3割だというので
これは人件費その他を考えると
今の日本では、まあ妥当な価格だと思う。
何故良いレンズにするのかというと
めがねを買い替える、という事を気軽に出来ないからである。
まず、同じ度数でもフレームの形状によって
見え方に微妙な差が出るので、慣れるのに時間が掛かり
これがまた慣れるまで、めまい頭痛肩凝り吐き気も出る場合がある。
だからレンズには、傷みにくいように
傷防止のコーティングは必須。
この感覚は、人それぞれらしくて
レンズにやたら細かい傷が入っている人がいて
聞いたら、安いレンズなのに
ちゃんとめがね拭きや専用スプレーを使っていなかった。
見えづらかろう、と思ったけど
それで平気なその人が、正直とても羨ましかった。
私にはレンズの汚れなど、耐えられないからである。
ザツな性格なのに、こういうとこだけは神経質なので
自分でも、とても苦労をする。
で、遠近両用のめがねを買った。
お試しのつもりだったので、ネットで探した安いめがね店で。
平日の空いている時間帯に行ったので、客はひとりふたり。
スタッフの数の方が多い。
ところが、スタッフが接客に来ないのだ。
安い店だから、まあこんなものなんかな、と思ったけど
私がスタッフを呼びに行って
「遠近両用を作りたいんですけど、このサイズのフレームは大丈夫ですか?」
と訊いたら、「ちょっとお待ちください」 と誰やらに訊きに行って
戻って来て、「大丈夫だそうです。」 で、サーッと向こうに行くんだよ!
「すみません、こっちのサイズは?」 と、もう一度訊きに行っても
待て → 伝言 → 立ち去り の繰り返し。
おめえはゼノブレイドのモンスターかよ?
(ゼノブレイドの敵は、追いかけて来られても
こっちが逃げて、ある一定の距離を取ると
追うのを止めて、猛スピードで元いた場所に帰って行く。)
おい、ちょっと待ってくれよ、私、買いたいんだよ
相談に乗ってくれよおおおおおっ
と、追いすがりたかったけど、安い店だからサービス削減だと思い
大体これ以上のサイズなら、遠近オッケーだろう
と自力で選びに選んで、2つまで絞った。
そして再びスタッフを呼びに行って
「これかこれで迷っているんですけど、どちらが良いと思いますか?」
と訊くも、「好みがありますから・・・」 って
好みでこの2つに絞ったから、後は客観性を求めているんだよおおおっ。
ここの店さ、ひとつ質問する度に
「ちょっと待ってください」 と、上の立場らしき人に訊きに行くんだ。
遠近両用は日数が掛かる、と言われて
何気なく 「どのぐらいですか?」 と訊いたら、数分待たされる。
こういう、何気ない質問の数々に 「ちょっとお待ちください」 なのだ。
割に買い物が早い私なのに、ものすごく時間が掛かり
でもまあ、安い店だから略と思い、もう最後まで自分の勘だけで選び
眼科医の処方箋を出して、これでお願いします、となった。
今回は遠近両用で、近視の方も度数を上げたんだ。
ところが出来上がっためがね、今までのより見えないんだよ。
掛けた途端、見えないのがわかったので
それを伝えて、調べてもらったら
近視の焦点を上のフレームギリギリにして
老眼の焦点は下のフレームギリギリなんだ。
遠くを見る時はうつむいて上目遣いで、ってアホか!
そういう使い方は出来ない、と言い張った。
というのも、作る前にそれだけは念押ししたからである。
まず、私には首の骨に異常があって
なるべく首は固定せねばならない事。
そして以前に焦点が自分の目の中心点とズレて、苦労した事があるからだが
そこのスタッフは、「焦点はズレてもそんなに影響はない」
と、言い放ちやがった。
1mmでもズレると、大変なのだ。
何故だかわかるか?
人間は制止していないからだ。
通常の目の人が、近視のめがねを覗いても目まいはしないだろ?
だけどそのめがねを掛けて、動き回ってみい。
クラクラするから。
この時点で、ここのめがね店は止めれば良かったのである。
案の定、聞き入れてくれなかった。
しかもそれは、私のお願いとは違うにも関わらず
「慣れやすいように」 と善意でしてくれたらしいんで
私の我がままで作り直しをする事になったんだとさ。
スタッフは、赤のマジックでレンズにザカザカ線を引き
「ペンの先を見てください」 と、ペンを掲げる。
「ペンのどこを見れば良いんですか?」
「この先です。」
「何故そんな上に上げるんですか?
私は普段、真っ直ぐに物を見ているので
ここに通常の視線がくるんです。」
と、グイッとスタッフのペンを持つ手を下げたよ。
そうだった・・・。
最初の時も、こうされたんだった。
あの時は意味がわからなかったけど、今回はわかるよ。
そんな測定をしてるから、上のフレームギリギリに焦点がくるんだよ!
2度目も見えなかったけど、もう妥協したよ。
もうこの店には期待できないとわかったから。
自力で良いメガネを作るには、私は素人すぎる・・・。
レンズは、客の都合で2回まで交換できるんだとさ。
で、私はもう1回交換した事になってたさ。
その説明もまったくなし。
説明されたら、さすがに 「私の都合か?」 と怒ったのに
気付いたのは、帰宅後保証書を熟読した時だった。
いや、私の都合なんだけど、作る前にそれを伝えてたんで
店側のミスだと思うんだ。
そして数日後に、眼科に行って調べてもらったさ。
度数、処方箋通りに保証書通りに出てなかったよーーーっ!
眼科医には作り直してこい、と言われたけど、2度目の交換には行かない。
安い店だから、こんなものなんだろう。
遠近両用はレンズの値段がプラスされるから
そこまで安くもなかったんだがな。
この店には二度と行かないよ。
上記の経験だけで充分だろうが、更に激怒項目があるんだ
上でサラリと書いただろ、スタッフが赤のマジックでレンズに印を付けた事。
その時あまりにもザツな書きように、あ然とさせられたんだけど
多分、無言で怒ってたんだろう。
それはともかく、新品のフレームにその赤マジックが付いてる!!!!!
しかも2箇所! 拭いても取れない!!!
(これは後日、他店で落としてもらった)
ファッション的に使い捨て感覚でめがねを掛けたい人には
安いめがねは良いと思う。
あと、単焦点の人。
遠近両用は追加料金なので、それほど安くはないと思う。
私は目には苦労しているので、この手の店は向いてない事がよくわかった。
なお、こんな言い訳はしたくない程、怒っている私だけど
予防線を張っておく。
この店が特殊なのかも知れない
この支店が特殊なのかも知れない
私が行った日がたまたま悪かったのかも
私が当たった店員さんがたまたま不慣れだったのかも
その店員さんの調子がたまたま悪かったのかも
・・・こんぐらいで良いかしら?
“安いめがね屋さん” というジャンル全部が
こうじゃないかも知れないので
~~~・・・、めんどくさいんで、後は気合いで察して!
後日、普通のめがね屋さんに行って、お高いめがねを買ったよ。
んで、そこの店員さんと懇意になった。
年齢がいってからの初の遠近両用は、プロの支えがないと慣れにくいと思う。
その人には随分、助けられた。
んで、その人、他府県に移動になった後も連絡をくれるので
今度レンズを買い換えるために、旅に出るんだー。
遠いんだよ、その移動先。
原価がいくらだろうが、どんなに安かろうが
丁寧な説明と親切な接客に、私は諭吉と敬意を発動させる。
そんで買った品も出来た縁も、大事にする。
それが私の理想の買い物なんだけど、貧乏な今は無理かもー。
分相応な買い物法を探さないと
今回も余分な出費になっちゃったよー。
評価:
サンエス
¥ 1,999
コメント:めがねって折りたたみを繰り返して、ネジ部分とかに緩みが出ないんかな? その不安があるので、めがねスタンドはそのまま置けるタイプを推奨。 ・・・この猫はゲームのキャラだ。 こいつ、一見可愛いけど、爆弾を投げてくるんだよ。 ボス戦で足を引っ張られて困る!
-
かげふみ 26
「マデレンと申します。」
館にカメラマンがやってきた。
「この館の事は、ひと通り教わってまいりました。
私などがこのような大役を果たせるか、不安もありますが
精一杯努めさせていただきますので
どうぞ、よろしくお願いいたします。」
立派な挨拶をする30代の逞しい女性に
グリスはホッと胸を撫で下ろした。
仏頂面の主に代わって、グリスが挨拶をする。
「こちらこそ、よろしくお願いいたします。
こちらが主様で、私は次期主の予定のグリスと申します。
ご不便な事がありましたら、何でも私にお申し付けください。」
「恐れ入ります。
少し自己紹介をしますと、私はクリスタル州の西の海辺の町出身で
今までは戦場カメラマンをやっていましたが
首と背骨を負傷して、静養中だったのです。
そこにこのお話をいただきまして、自分なりに理解できたので
お引き受けする事にいたしました。」
「とすると、将軍から派遣されたんですか?」
グリスの問いに、マデレンは首を振った。
「いえ、私は軍人ではなく新聞社勤務なのです。
クリスタルシティにあるクリスタル州立新聞社です。
今回のお話は、社主直々のお達しによるものです。」
長老会というのは、どこまでパイプを持っているんだろう
その組織の底の知れなさに、グリスは
決して甘く考えてはいないはずの、自分の取り組む姿勢に
気合いを入れ直した。
ここで気合いの入らないヤツがひとりいる。
「マデレンさん、ようこそいらっしゃいましたー。
ですがー・・・」
「ああ、大丈夫、わかります!」
マデレンは、主の憂鬱をすぐさま汲み取った。
「普通、ずっとカメラに追い回されるなど、ごめんですものね。
ですが、カメラと私を無機物だと思ってください。
いてもいないのです。
撮る側に悪意がないので、すぐに慣れますよ。」
「そういうもんですかねー。」
「野生の動物の映像とかが良い見本ですよね。」
グリスの例えに、主は納得した。
「ああ、なるほどー。」
って、私は獣かい! と思ったが、これも役目のひとつ。
主がさっさと諦めて、気持ちを切り替えた。
「では、申し訳ありませんが、慣れない内は無視させていただきますねー。」
「はい、どうぞしたいようになさってください。
決して無理をなさる必要はありません。
主様のペースでゆっくりといきましょう。」
ふたりのやり取りを横で聞いていたグリスは、主の態度に感心した。
自由奔放なお方には、こんな監視されるような事なんて
誰よりもお嫌であろうはずなのに、それをも受け入れるなんて
このお方は、館の “プロ” なのだ。
自分が主についていき、主の願いを叶えたいのなら
館を攻略せねばならないのかも知れない・・・。
グリスのこの考えは、主様は素晴らしい! という
崇拝に基づく、いつもの感覚だったが
そこに不気味な問題が見え隠れしていた。
今の主に代替わりをして、終息させたはずの相続戦が
形を変えて、次の相続者に襲い掛かっているようにも見える。
管理者の人間としての権利を放棄する犠牲・・・
結局この館は、贄が必要なのかも知れない。
続く
関連記事 : かげふみ 2512.1.19
かげふみ 27 12.1.25
かげふみ 1 11.10.27
カテゴリー ジャンル・やかた
小説・目次 -
幸・不幸
「不幸なら不幸で良いじゃん。」
10.5.12の記事で何気なく書いて、突っ込まれた意見だが
それから時々考えてきたんだけど、どうやらこれは私の本心である。
元々、幸・不幸ってのがよくわからない。
幸せだと認識している時って、後から思い起こすと
結構な不幸のどん底だったりする場合が多いからだ。
しかし私は今、かなり不幸なんだが
どっから見ても、やっぱり不幸である。
どうも、不幸は自覚できるものだが
幸福は自己判定は出来ないもののような気がする。
うん、色々あるけど結局は幸せだよね、とか
こんなに○○できる私って幸せ とか
突き詰めれば、生きてるだけで幸せ、とかになる。
幸せとは、自分を納得させるための暗示のような存在ではないのか?
私の人生上、幸せだったと言えるのは
自分が幸せかどうか、考える知能がなかった頃である。
良いんか悪いんか、かなりのドバカだったんで
20歳頃までは幸せでいられた。
まあ、その後病気とか色々あって
生きる意味だの、自分の価値だのを確立したい
とかいう、いらん知恵をつけたら
幸せを追い求める人生になってしまった。
“自分探しの旅に” とかいうアホウに
「自分が世界のどこにいるっつんだよ? 鏡を見ろ!」
と、常々罵倒してきたが
そういう自分も、気付けば日常的に
必死こいて幸せ探しをしてきたわけだ。
悪い事に、幸せっちゅうのは探せば見つかるんだよ。
そういうのを1つ見つけては、安心してきたんだ。
「ないものより、あるものを数えろ」 って言うけど
これをしてたら、幸せになんて簡単になれるんだよな。
でも、あるものを数えて見つける幸せは
既に自分が持っていたものの再確認でしかない。
本当に幸せな人は、ないものを数えていると思う。
もっともっと幸せを積み重ねるために。
しかも、無意識に。
これに気付いたら、幸せなんてレゴブロックのような気がしてきた。
いっぱいある家は、そりゃ楽しいだろうが
何個かなくなったって、そう支障があるわけじゃなし
補充もできる。
つまり幸・不幸なんて、無数に存在するものであって
自分はこれ! と決定づけるものじゃないんだ。
たとえ自分が不幸だと感じても
自分のすべてが不幸なのではなく
こことここが問題だけど、こっちは割に幸せじゃねえ?
という判定が、正しい幸・不幸のジャッジだと思う。
こう思ったら、幸・不幸なんてどうでも良くなったんだ。
私の感じる不幸がヌルいものだから、こう言えるのかも知れんけど
何をどの程度感じるか、など、個人の資質だろ。
てか、幸・不幸なんて、基準がないものを題材に
鈍感だと否定されたくないね。
誰が言い出したんか、得体が知れないもののような気がするぞ
“幸・不幸”。
これほど、知らない方が幸せだった単語があるだろうか?
私にはこの単語は、呪詛に思えてならない。
で、終わろうとして、今気付いた! たった今、気付いた!
気付くの遅すぎ新記録!!!
この説には足りないものがあるんだよー。
それは、他 人 。
私は幼い頃から、他の人と協調しなさい、目立ったらダメ、と教わったせいで
どうしても溶け込めない異質さを、自分の中に認識してからは
ずっと孤独とともに生きてきた。
この異質さというのが何なのか、というと
皆は1をたくさん持ってるけど、私には1はなく2が多い、みたいな。
他の人も、2はないけど1と3を多く持ってる、と
それぞれの持ち玉みたいなんがあって
この場では5をいっぱい持ってる方が有利だ、となったら
皆、5を持っているフリをする。
この、持っているフリってのが “協調性”。
持ち玉の多さは、元々の資質と経験値。
いらない玉も、絶対に持てない玉もある。
人生って、そういうものかな、と思っていたから
人と自分を比べる必要性がないんだ。
だから私は、人と自分を比べない。
これ、幸・不幸に、ものすごく関係してくると思う。
幸・不幸は、他人の存在がもたらす場合が、ものすごく多い。
不幸だ、とグチっているヤツって、必ず人と比べてるんだ。
評価:
旭食品
¥ 595
コメント:♪幸せって何だっけ何だっけポンズ醤油のある事さ♪ 関西人に紹介されたポンズ。 これは濃厚で柑橘の味がしっかり出ているタイプ。 値段を見よ、ポンズでは高いだろ? 関西はポンズ好きで、ものすごいこだわりがあるみたいだぞ。
-
かげふみ 25
「館はあくまでも公的施設でーす。
我が国では政教分離の原則はないとは言え
あからさまな宗教はいただけなーい。
ですから、情に訴えるんでーす。」
紅茶をひと口飲み、続ける。
「暗い過去を持つ館を改革し、住人たちの心を救った “英雄”、
主をそれに仕立て上げるんでーす。
ひとりの人間を、“恩人” として奉るのは
各地によくある話で、しかも非常に道義的でーす。
神を信仰するのではないので、宗教ではありませーん。
一般民衆の共感も得やすいでしょーう。」
「なるほど、見事な心理誘導だな。」
将軍がつぶやいた。
「そうですね、それなら公でも可能ですね。」
「しかし、“神官” ですぞ?」
「そこは言い方じゃないですかな?
“生涯独身だった主に敬意を表して、館の管理者は独身を貫く”
と義務づける、というのはいかがですか?」
白髪の紳士が落ち着いた口調で発言した。
「「「 おお!!!!! 」」」
メンバーが一斉に、同調した。
「それが良い! ゲン担ぎのようなものだし。」
「伝統は重んじるべき、という我が国の風習にも合う。」
「これで決定ですね。」
会議室の空気が一体になったのをブチ壊すのは、いつも主である。
「あのー、ちょっと良いでしょうかー?
ごく一部には、崇拝者もいますが
どう自分に甘く見ても、“偶像” まで行けないと思うんですがー。」
「それはあんたの死後にするから大丈夫じゃろう。」
失礼な事を見事に言いたれるジジイに、将軍がもっと無礼な異議を唱える。
「ですが、捏造にも限度がある事ですし
主には今から言動を控えていてもらわないと。」
「その事なんでーすがあ。」
リオンが再び提案をする。
「主の毎日の演説は録画されていまーす。
これは後々の良い材料になりまーす。
それだけじゃなく、仕事中などの普段の姿も映像に撮るのでーす。
我々はそれを、切ったり貼ったり塗ったり削ったりして
美しい記録として残せば良いのでーす。」
メンバーのひとりが、ダンディー紳士に耳打ちした。
「いやはや、貴殿のご子息はヤリ手ですなあ。
先が楽しみですな。」
ダンディーは いやそんな、と恐縮しながらも、少し気落ちした。
代々市会議員を務めてきた我が一族だが
私にその才はなく、弟がその役目を肩代わりしている。
その弟も、そろそろ引退すると言っている。
弟の息子たちは、私似で政治家には向いていない。
逆に私のこの長男が弟にそっくりだ。
弟の跡は、多分この息子が継ぐ事になるだろう。
血というものは時折、奇妙な遺伝をするものだな・・・。
ダンディーの生真面目で心優しい性格では、その “才” が
非情で不道徳なものに思える事も、ままあったのだ。
「では、早速カメラマンを手配しよう。」
そう話がまとまりそうになった時に、主が慌てて制止しようとした。
「ちょ、やめてくださいよー!
一日中カメラに追われるなんて、冗談じゃないですよー。」
「きみが素で偶像になれるぐらいに好人物だったら
こんな予算も手間も掛けずに済んだのだがね。」
「うっっっ・・・。」
メンバーのその容赦のない批判に、主は反論の言葉も出なかった。
「では、そういう事で・・・」
「ちょっと待ってください!」
会議を締めようとする声を遮ったのは、意外な事に
主の死後の話にしょぼくれて、ずっと無言でいたグリスであった。
「何かね?」
長老たちは、グリスに優しい。
「カメラマンは女性にしてください!」
「「「「「 !!! 」」」」」
その言葉に、メンバーたち全員が意表を突かれ
主は瞬間だけ、嫌な顔をしたが
すぐさま長老たちに納得されたので、その願いは聞き届けられた。
この会議でグリスは発したのは、このひとことだけだった。
続く
関連記事 : かげふみ 24 12.1.17
かげふみ 26 12.1.23
かげふみ 1 11.10.27
カテゴリー ジャンル・やかた
小説・目次 -
アニソン
“アニソン” って何? 兄Son? とか勘違ごうておった私は
結局、ROCK 08.7.4 である。
だが最近YOUTUBEを観ていて、つくづく思うんだが
ビジュアルも成りきってないと、イヤ!
音楽で大事なのは音である。
それはわかる。
音楽なんだから、音!
でも歌は、歌詞も曲も大事。
そして、その世界観も大事だと思うんだ。
マリリン・マンソンなんか、その点さすがだよ。
顔のつくりとかじゃねえんだよ
世界観を己の全身で表現しようとする心意気なのだ!
(これ、よく読めば凄え失礼)
戦隊もので言うと、おめえどう見てもイエロー系だろ、というヤツが
レッドやブルーの格好をしていても
そのなりきり率で、感動すら与える場合もあるのだ。
(更に失礼に無礼のトッピング)
もう、あっちにもこっちにも敵を作るような事を言っとるが
とにかく私の聴くジャンルの音楽は、見た目でも表現して欲しいのである。
特にアメリカ系のデスメタルに言いたいが
ヒゲもじゃのハーレー乗りのような風体で
「おまえを呪い殺す」 とか言われても
おめえならこん棒で撲殺した方が早くねえ? としか思えない。
ほんと、YOUTUBEは罪も大きいよ・・・。
好きなバンドが、あんな野郎だったなんて・・・。
Tシャツはやめろ!!!
そのTシャツが、たとえ数百万円しても
TシャツはTシャツなんだよ、ホリエモンーーーッ。
私の好むジャンルの音楽のステージに普段着は認めねえ!!!
とか怒髪天を突いていたら、偶然にも素晴らしいPVを見つけた。
多分、“ローズ” あたりで引っ掛かったんだと思うが
ローゼンメイデンの主題歌。
凄いな、この作り上げ。
惚れ惚れするよ。
正直、ダウンロードした!!!
と言う事で、最近はボカロにも手を出している。
もう、主張がない選曲。
まあ、ジャンルはそこまで気にしなくなったし
と言うか、デスメタル自体、興味がない人からは笑えるだろうし
アニソンもボカロも良いではないか。
ただ、ひとつ言いたい。
ゴルゴの主題歌は、何であんなに関係ない歌ばかりなんだ?
だからアニメ自身も振るわないんだよ!
利潤目的のみのタイアップ主題歌なんか付けんと
アニメの世界観を大事にした曲を作れ!
そして北斗の拳のエンディングは、子供ばんど最強!
私が頑なに顔出しをこばむ理由は、この記事にある。
“イメージ” って凄く大切だろ。
誰にでも1度はあるはず。
良いな、って思っていた人のビジュアル大外し。
皆、アニメの声は絵の人が喋ってるんじゃないんだよ
マンガは登場人物が描いてるわけじゃあない。
同僚のプライベート服がV系でも
制服を脱いだら下着がビッチだったとしても
背広を脱がせたら、毛むくじゃらでも
帽子を取ったら後光が差してても
メル友が画像加工の達人だとしても
許してあげられるなら、それに越した事はない。
だが、私はきっと残念がられると思うんで
顔出しNGなんだ。 ほほほ
・・・言ってて思ったけど、別にこのブログの記事、
美しいとか、優しいとか、1個もねえよな。
逆にドス黒い事ばっかり言ってて
悪どさ的には、ビジュアル通りかも知れない・・・。
・・・そういう納得のされかたもイヤ!
評価:
パナソニック
¥ 79,800
(2003-07-01)
コメント:まさかMDが数年で消滅するとは思わなかったYO!!! 私、カセットやCDを全部MDに落としてたんだよーーーっ。 何だ、このプレーヤーの価格は。 家電業界って時々こういう夜逃げ商法をするんで困るよなあ・・・。
-
かげふみ 24
翌日の午前中に、さっそくジジイとリリーは
性犯罪冤罪や女性とのトラブルについて、学習室でグリスに講義をした。
グリスは熱心にノートを取りながら聴いていた。
「・・・と、このような事例が現実に起きております。
これらは交通事故と同じで、いつ自分の身に降りかかるかわかりません。
自分に落ち度がなくても、被害に遭う可能性もあるのです。
だから常日頃から、自分のお立場を自覚し
充分に注意して、節度ある言動をなさいますように。」
「ありがとうございました、リリーさん。
とてもわかりやすくて、勉強になりました。
そんな可能性には気付かずに、皆さんに接していました。
今後は気をつけすぎるぐらいに気をつけようと思います。」
礼儀正しく頭を下げるグリスに、ジジイが訊いた。
「おまえは、自分が格好良いと思った事はあるかね?」
「・・・いえ、主様に避けられているので
とてもそんな自信は持てません・・・。」
ああ・・・、主様の予想通り、
どうしても主様が嫌がる方向へ話がいくわね
リリーは内心、そう思った。
グリスと話すと結局は必ず、主様が主様は主様に、なのだ。
気のない相手からの、そういうアプローチは確かにうっとうしい。
だけど主様はそれもお仕事のひとつだし、とリリーは冷たく流していた。
「元様、次期様、魅力というものは人それぞれの嗜好がありますので
自己判断は意味を成しません。
相手に勘違いをさせない、ふたりきりにならない
特別扱いをしない、心身共に距離感を保つ
そういう具体的な対策を講じてくださいね。」
リリーの冷徹な口調に、ジジイは救われた。
ジジイはグリスの事となると、ついつい感情に流されがちなのだ。
にしても、うちの女性陣は冷めたすぎるのお
やはりわしぐらいは、グリスの気持ちをなだめてやらねば。
ジジイは、早々と自分の力不足を棚上げした。
その日の午後は、今度は4人で会議である。
執務室のソファーに座って、ああでもないこうでもない、と話し合った。
「この問題って、私の死後この館がどう変わるかに掛かってきますよねー。」
「主様! そういう事は・・・。」
グリスの横やりに、主が怒るかと思ったら
やけに優しく諭すように話し始めたので、驚くジジイとリリー。
「いいですか、グリス、これは大切な事だから心して聞いてくださいー。
この館の改革は、私の死をもって完了する予定で進められているのですー。
不吉な話題でしょうが、避けては通れない事なのですよー。
私は、私の死後の館をあなたに任せるつもりなのですー。
私のこの願い、聞いてくれますねー?」
“敬愛する主様のお願い” という、卑怯な手を使い
うっとうしい心配を封じる主。
グリスはその汚い手段に、まんまと騙される。
「はい・・・、私情をはさんで申し訳ありませんでした・・・。」
反省するグリスに、主は続けた。
「予定では、“宗教ではない宗教の館” ですー。
それを前提にすると、管理者を “神官” にするのはどうでしょうー?」
「神官かね!」
長老会メンバーたちは度肝を抜かれた。
館での4人の話し合いでは、良い案が他に出なかったので
とりあえず長老会会議に掛けたのである。
「はいー。 何せジジイとババアだったんで
主の “結婚” という項目までは、考えが及びませんでしたー。
でも、この問題、ものすごく重要だと思うんですー。
管理者だけが館に家庭を持つわけにはいかないでしょうー?」
「・・・そうですよね・・・、想定外でした・・・。」
「確かに、館で家庭を持つのは厳しいな。」
「神官だったら、独身を貫く、という掟も可能ですよね。」
「しかし、そうなると途端に宗教くさくなり過ぎるのがなあ・・・。」
ザワめくメンバーたち。
恰幅の良い紳士が問題提起をした。
「ひとつ問題点があります。
州の公共の施設を宗教化しても良いのか、です。
あの館は、今後も元犯罪者の厚生施設でなければならない。
そこに宗教を持ち込んでも良いものでしょうか?」
「だからこそ、主の偶像化をするのでーす。」
リオンがケーキを食べながら言った。
「あんた、いつ見ても何か食っとるのお。」
「重責を担ってるんで、ストレスが多いんでーす。」
ジジイの突っ込みを、サラリと流すリオン。
「それより、主の偶像化とは何かね?」
メンバーたちが一層ザワめきたった。
続く
関連記事 : かげふみ 23 12.1.13
かげふみ 25 12.1.19
かげふみ 1 11.10.27
カテゴリー ジャンル・やかた
小説・目次