投稿者: あしゅ

  • ボーコレン

    小林製薬から出ている、膀胱炎治療薬。
    値段・・・、値段・・・
    えーと確か、1480円とか1680円とか、そういう感じだった。
    1000円台で、100円の位が偶数。
     
    ・・・・・・・・・・・
    ほんと、すみませんーーっっっ!!!
     
    1店目が売り切れで、えっっっ という表情をしたのか
    自分でもわからんけど、店員さんに
    「もしお急ぎでしたら、この先にもドラッグストアがありますよ。」
    という、ありえない親切を受けた程、割と切羽詰った買い物だったんで
    値段どころじゃなかったんだよー。
     
    というのは完全に言い訳だな。
    いっつもいっつも値段を、見ない・覚えない・メモらない の3重苦で
    私がカリスマ・ブロガーになれないのは、これだけのせいだよな。
    内容も質も更新頻度も知性も人間性も文句なしなのにのお・・・。
     
     
    小林製薬 ボーコレン 1000円台の偶数値段
     
     
     
    大人1日4錠 3回服用で、4日分。
    えっ? と思うだろ?
    4日で1500円前後だぜ。
     
    んで、能書きに書いてあるのが
    「1ヶ月ぐらい服用しても症状がよくならない場合3、長期服用する場合には、
     医師または薬剤師に相談すること」(原文ママ)
     
    えーと、31÷4は7とちょっとだから
    約1500×7で、1ヵ月に約1万円以上かかる場合もあるんか?
    (これ以上にない、頭の悪い算数計算の様相)
     
    うっわーーー、これは高いーーー!
    と思ったけど、この薬、需要も高いと思う。
     
     
    若かりし頃の乙女な私は、疲労が溜まると
    膣炎になったり膀胱炎になったりしていた。
     
    虚弱体質なんで、ちょっとした事で常在菌のバランスが崩れるんかな
    ぐらいに思って、その度に病院に行くのだけど
    お医者さんからは、セックスの注意を受けるんだよ。
    セックスの前には彼氏にお風呂に入ってもらえ、みたいに。
     
    彼氏がいる時は、おめえのせいだとよ! と八つ当たれるんだけど
    独り身の時は、えーと??? になるじゃん。
     
    私が不潔なわけはないけど、とりあえず使い捨てビデを買って
    せっせと使ってたら、何か余計に調子が悪くなっただよ!
    その後、医師にビデは使うな常在菌が、などと怒られるハメに。
     
     
    膀胱炎というのは、ものすごく辛い。
    トイレが近くなって、頻繁に行くんだけど
    その内にネタ切れになるのは当然で
    トイレに行っても、おしっこが出ない。
    でもおしっこがしたい。
    で、代わりに血が出るんだよーーー。
     
    “トイレが近い” から、“血が!” まで
    私の場合、ものすごく短期間で進行するので
    膀胱炎への恐怖が、いつも脳裏にあって
    そのせいでより一層、膀胱炎への道が開けていた気がする。
     
    こういう大変な想いをしているのに、病院じゃ 「セックスが」 で
    いいから早く抗生剤を出してくれよ!!! だったのだ。
     
     
    病院でさえ、セックスうんぬん言われるんで
    膀胱炎の話なんて、友人知人には出来ないだろ。
     
    でも、疲れ果てたある日、友人につい漏らしてしまったんだ。
    「この前、膀胱炎になって辛くてさー。」 って。
     
    そしたら友人が、うんうんわかるわかる私も経験ある、と言う。
    あっ、わかってくれる? と喜んだのも束の間。
     
    「海でエッチしたら、なっちゃったんだよねー。
     気をつけた方が良いよねー。」
     
    こ れ か !!!
     
     
    ・・・いや、どこでセックスしようが自由だ。
    若者は海で青カン山で青カン、どこでもサカるものだからな。
    (青カンとは青空姦通の事で、要するに野外セックスの古い言い方だ)
     
    だけど若い娘が膀胱炎になったら、といって
    まず、セックス方法を疑ってかかるのは、いかがなものか?
     
    私なんて、つまらんセックスしかしてきていないのに
    いきなり難易度の高そうな、わけわからん注意をされて
    何だかとっても乙女チックにショックだったわプンプン。
     
     
    ババアになった今、膀胱炎になる瞬間を初めて確認。
    風呂に入って、石鹸でいつも以上に念入りに洗っていたら
    石鹸が膀胱に沁みた。
     
    それから、排尿痛に震え上がっている。
    ・・・今この年齢で病院に行っても、セックスの話題になるんだろうか?
    と、ネットで調べてみたら
     
    膀胱炎は体が冷えると、なりやすい
     
    えええええええええええええええ
    わわわわわ私、むっちゃ冷え性なんだよーーー。
    そうだったのか・・・。
     
    んで、抗生剤で治したらダメ、とか漢方医が言ってたりして
    今はもう病院に言っても、きっとセックスの説教はされないんだろうけど
    何だか病院には行きたくないんで、このボーコレンはありがたかった。
     
     
    他にも膀胱炎治療薬は何種類か市販されているようだ。
    私が見たのは全部、漢方成分が主体のやつだった。
     
    あ、ボーコレンの成分を書いておこう。
    1粒がえらい大きい錠剤なんだ。
    測ってみると、直径ちょうど1cm。
     
    1日量 (12錠) 中 五淋散料エキス2.55g
    原生薬換算量
    ブクリョウ3.0g、トウキ1.5g、オウゴン1.5g、カンゾウ1.5g、
    シャクヤク1.0g、サンシシ1.0g、ジオウ1.5g、タクシャ1.5g、
    モクツウ1.5g、カッセキ1.5g、シャゼンシ1.5g、
    添加物として、無水ケイ酸、CMC-Ca、
           ステアリン酸Mg、セルロースを含有する
     
     
    んで、調子こいて、もう1種類買ってみた。
    摩耶堂製薬株式会社 腎仙散 12包 値段1000円台 ← ・・・
     
     
     
     
    通常成人1日3回1包
    成分、1包1.5g・20包中下記生薬より製したエキス25.0g含有
    タクシャ6.0g、インチンコウ5.0g、ニワトコ8.0g、
    チョレイ6.0g、サンシシ5.0g、キササゲ8.0g、
    ブクリョウ8.0g、シャクヤク7.0g、ウワウルシ10.0g、
    ソウジュツ7.0g、ジオウ6.0g、シャゼンシ6.0g、
    ケイヒ6.0g、ボウイ6.0g、ボウコン6.0g
    添加物として、カルメロースCa、メタケイ酸アルミン酸Mgを含有します。
     
    おおい・・・、どんだけ労力がかかったか、察して褒めてくれよ・・・。
    なお、老眼なんで、誤字脱字間違いがあるだろうから
    気が付いた人は、親切に教えてほしい。
     
     
    成分の表記の仕方が違うんで、どっちがどうかわかりにくいな。
    ボーコレンの方は、大きい錠剤を4個飲まにゃならんし
    腎仙散の方は、ものすごい細かい粉で
    水を含むと団子になって、これまた飲みにくい。
     
    飲む時間も、食間 (食後2~3時間ぐらい) か
    食前 (食事前30分ぐらい) と、忘れやすいタイミングで
    漢方の欠点は、臭いとこと飲みにくいとこだな。
     
     
    ちなみに、“食後” は食事が終わって30分後。
    胃に食物が入って胃酸が出て、消化を始めるよ、って時。
    そうじゃない時は、“食後すぐ” と書いてある。
     
    食中は、飯を食いつつ、だ。
    念のため、“座薬” を座って飲むんじゃなく、肛門に入れる薬だ。
     
     
    この薬のどっちも、利尿作用があるけど
    老婆の冬のトイレの近さは異常なので、効き目はわからず。
     
    腎仙散は、何故か大汗をかく。
    寝る前に飲んだら、夜中に枕ビッショリで目覚めたよ。
    塩をかけられたナメクジのように、全身から汁ダクだった。
     
    あんなに汗をかいたのは初めてだよーーー。
    利尿作用が大事なのに、汗が出るのはまずいんじゃないのか?
    ボーコレンに発汗は感じなかった。
     
    排尿痛は、ボーコレンを服用を始めて3日目には治ってきただよ。
    気長に飲んで治すタイプの薬かも知れない。
    けど、膀胱炎へと進行していないので、効き始めは早いんかも。
     
    ・・・いずれにしても、病院に行った方が安上がりだろうけど
    家にひとつ常備してると、安心するぞ。
     
     
    膀胱炎は、とにかく水を飲んで、おしっこを大量に出していたら
    自力で細菌を流し出して治る、と書いてあるサイトもあった。
     
    ちなみに、何で女性が膀胱炎になりやすいかというと
    女性の尿道の出口は、上品に言えば閉鎖的な場所にあって通気性的に難だし
    近くに膣やら肛門やらあるんで運が悪かったね、って事らしい。
     
    結論として、いくらナイスバディーでも
    開放的なセックスをしているわけじゃないよ、と
    あの時代の私を診たお医者さんたちに言いたいな。
     
     
     

    評価:

    オカモト


    ¥ 645

    (2009-08-26)

    コメント:セーフセックス! セーフセックス! コンドームをつけないセックスなどシートベルトなしでアクティビティーとやらの遊具に乗るようなもの。 それはそれで楽しかろうが、万が一があるんだぞーーー。 このエクセレントで、あなたの陰部もエクセレーント!

  • かげふみ 19

    ドラクエの着メロが鳴っている携帯を見て、主は面倒そうな顔をした。
    登録されていない番号は、大抵が間違い電話だからである。
     
    「・・・はいー・・・。」
    ドスの利いた不機嫌そうな声で出た主の耳に入ってきたのは
    聞き覚えのない、低く太い男性の声であった。
     
    「・・・し・・・主様ですか・・・?」
    「はいー、そうですがー?」
    「ぼくです。 ・・・グリスです。」
     
    うわ、こいつ声変わりまでしてやがる!
    主はグリスの変わりぶりに、不思議な怒りすら覚えた。
     
     
    「・・・ああー、どうもー。」
    マヌケな返事をする主に、グリスは一瞬とまどい
    何を言ったら良いのか、わからなくなったけど
    とにかく訊くしか出来なかった。
     
    「・・・・・ぼくは・・・・・
     主様のところに帰っても良いんでしょうか・・・。」
    緊張のあまり、思った以上に暗い声になってしまった。
     
     
    ああーーーーーーーーーーっっっ?
     
    主は、イラッとした。
    「帰っても良いか」 じゃなく、むしろ 「帰らなくては」 って話だろう!
    そう怒鳴ろうとした瞬間、ジジイの半泣き顔が脳裏に浮かんだ。
     
    いや待て、わざわざそんなアホウな事を訊いてくるわけがない。
    この問いは言葉通りの問いじゃない。
    多分、何かを試されている。
    ここは慎重に答えなければ・・・。
     
     
    ちょっと考えたが、なにぶん問いの意味がわからないので
    しょうがなく、とにかく何か良い事を言おうとした。
     
    「あー、えーと、グリスー、」
    そう主が言った瞬間、棚の書類の入れ替えをしていたリリーの眉が
    ピクッと動いたのは、主にはわからない。
     
    「あなたがどこにいようと、何をしようと
     私はあなたの意思を尊重しますからねー。」
     
     
    グリスからの返事がこない。
    携帯は静かなままである。
    だけどその向こうに、確かにいる気配がする。
     
    こらあ! 何でそこで黙り込むんだよ?
    私の答が気に食わないのか?
    しょうがないだろ、わけがわからないのだから。
    何を言え、っつってんだよ?
     
     
    ああ・・・、何か思い出してきたわ、この雰囲気。
    そういや、昔よくあったわ、こういう謎掛けもどき。
    ったく、てか、何で誰もかれも私を試したがるんだよ?
     
    いたらん過去の断片を思い出し、ムカムカしてきた主だったが
    怒りを抑えて落ち着き直した。
     
    わかったよ、そっちがその気なら受けて立つぜ。
    根競べ上等!
     
     
    携帯を耳にあてたまま、主もグリスも無言である。
    いたたまれない沈黙の中、時だけが過ぎる。
     
    チッチッチッチッ
     
    ふと主は、目の前に置いてある時計に気付いた。
    気まずい静寂の中、秒針の音がやたら大きく聴こえる。
     
    チッチッチッチッチッチッチッチッ
     
    主は時計から目を逸らした。
     
    チッチッチッチッチッチッチッチッチッチッチッチッ
     
    どうしても時計に目が行く。
     
    チッチッチッチッチッチッチッチッチッチッチッチッチッチッチッチッ
     
     
    ブツッ
     
    頭のどっかで何かが切れる音がした瞬間
    主は時計をガッと掴んで、フルスイングでガーーーッとドアに投げつけた。
     
    ガシャーーーーーーーン!!!
     
     
    その音に驚いたリリーが、振り返って言った。
    「主様、ご乱心ですか?」
    驚いているくせに至極冷静な言い方に、余計に腹が立つ主。
     
    「うっせーーーーーーー!
     更年期でイライラするんだよー!
     何で秒針が付いてんだよー?
     いらねーだろ、秒針ー! うるせーんだよ、秒針ー!
     秒針のない時計を持ってこーーーーい!!!」
     
     
    そうリリーに向かって、わめき散らすと
    今度は携帯に向かって怒鳴りだした。
     
    「グダグダ言っとらんと、とっとと戻ってこーい!
     私にあーだこーだ小難しい事を訊くんじゃねえー!
     私はおめえにあれこれ望むけど、おめえは私に何も望むなー!
     文句など言わせねえぞー、それが私なんだー!
     わかったならチャッチャと帰ってこんかー!」
     
    そして携帯をブチーーーッと切った。
    鼻息フンフンの主に、呆れて首を振るリリー。
     
     
    一部始終を聞いていたグリスは、切れた携帯を胸にあて
    あっはっは、と大笑いしながら、ベッドに仰向けに転がった。
     
    主の怒声は、側に立っていたアスターにまで聞こえた。
    聞いていた話とのイメージの違いに、かなり驚いたが
    グリスのその嬉しそうな笑顔から
    どうやら良い方向で解決した事がわかったので
    アスターは、ホッと胸をなでおろした。
     
     
     続く 
     
     
    関連記事 : かげふみ 18 11.12.19 
           かげふみ 20 11.12.26 
           
           かげふみ 1 11.10.27 
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           小説・目次

  • 若く見える弊害

    これ、ないと思ってたんだ。
    若く見えるって、女性には良い事しかない、とな。
     
    だけどこの前、ものすごく恐い思いをした・・・。
    私が若く見える事で。
     
     
    とある行事で、年齢順に並ばされるという状況になった。
    女性ばかりのその中で、一番年上は私。
    それは私のみが知る事実。
     
    おめえもおめえも、そんなしてるけど絶対に私より若いはず。
    何でわかるかって?
    美容マニアだからだよ!!!
     
     
    で、中年男性が、自分の感性のみで
    順番を決めちゃったんだ。
     
    とっさに、「ああっ、いらん事すな!」 と思ったよ。
    私は実年齢と見た目年齢の差を誇ってはいるけれど
    他の女性を蹴落としたいわけじゃないんだから。
     
    女性同士だったら、何となく大体のアタリは付けられる。
    だけどオヤジって、女性を見る目がまったくないじゃん。
    絶対に間違えるよ、間違えまくるよ!
     
     
    で、案の定、私は2番目に若い事にされた。
    本音を言おう。
     
    うっ、一番若くは見えないんか、と思ったぜ。
    ガッカリだったさ。
    すみません、とんでもねえババアの分際で。
     
     
    その時さ、後ろから低いつぶやきが聴こえたんだ。
     
    「失礼・・・、何て失礼なの・・・。」
     
    その声が、ほんっとに怒りに満ちていて
    腹の底からしぼり出すような低音で
    人のそういう声、久々に聞いたんで
    恐くてその時は振り向けなかったんだ。
     
    で、後からさりげなく、声の主を見てみたら
    多分、・・・30代前半の女性だった・・・。
     
     
    オオオオオオオヤジという生物は、そこまで腐れ目か!
    と、驚愕したよ。
     
    彼女と私じゃ、どうあがいても私が年寄りに見える。
    1番ババアのくせに、1番若く見られなくて
    ショックを受けてた図々しい私でさえ
    彼女の怒りには納得するよ。
     
     
    でも、その申し訳なさも次の瞬間消えた。
    その女性、私を睨み上げて立ち去ったんだ。
     
    ものすごい憎悪の目だった。
    そういう目で見られるのも、久々だったよ。
    (初めての経験じゃないのが悲しいよな。)
     
    すっごい眼差しだったんで、恐怖に怯えて帰宅したよ。
    更なるショックが積み重なった気分で。
     
     
    だけど時間が経って冷静になると
    逆に腹が立ってきたんだ。
     
    あああ? 私か? 私が悪いんかよ?
    何で私が睨まれなきゃならないんだよ!!!
     
     
    って、わかってる。
    女性って、女性を憎むよな。
    彼氏が浮気しても、彼氏より相手の女性を憎むだろ。
     
    そういう感じだと思うんだ。
    いや、その腐れ目オヤジと私は初対面だけど。
     
     
    私たち女性同士なら、年齢の違いはわかるけど
    男性からは、私の方が高評価を受けた気分にさせられたんだよな。
    私の方がババアでブサイクなのにな。
     
    だけどな、それはおめえが悪い。
    一番微妙な年代なのに、くすんだ色のどうでも良い服にノーメイク。
     
    そういうナチュラルさは、私のようなナイスバディじゃないと
    単なる女を捨てたヤツにしか見られないんだよ!
    しかもおめえ、猫背じゃん。
    今からそんなんでどうするんだよ?
     
     
    元々の顔や体のつくりは、中々克服は出来ない。
    私だって、ブサイクは克服できていない。
    だけど美意識を感じさせるヒトになれ!
     
    エコババアでも美魔女でも、何でもいいから
    突付くと面倒くさそうな、信念がありそうな雰囲気を出せ。
    そうしたら周囲からは、丁重に扱ってもらえる。
     
    おめえと私の差は、そこなんだよ。
    おめえに文句を言う権利はあっても、資格はない!
     
     
    その女性は、私よりなんぼも顔のつくりが良いので
    私に訊きに来てくれたら、すっごくイイオンナにしてあげられるのに
    とすら思う私は、女神扱いをされても良いはず。
     
    既婚だったみたいなんで、その必要もないと思ってるのかな。
    でもそういう感覚だから、たまにこういう “差別” に遭うんだぞ。
     
    自分だけのために、女性たちよ、自分を意識しろ!
     
     
    あと、あの時のオヤジ、
    おめえ、見る目がないんだから、もういらん事すな。
    その内セクハラだの差別だので訴えられるぞ。
     
     
     

    評価:


    ¥ 3,990

    コメント:ババアのパンツスタイルには、こういう仕込みが欠かせないと思う。 締め付けが嫌いな私も、そろそろ補正デビューをしようかと迷っているんだ・・・。 下半身の補正下着を着けるコツは、寝転んで着る事。 出来るものなら逆立ちで。 すると、より肉が持ち上がるわけだ。 ふはははは

  • かげふみ 18

     グリスの話が終わった後、ちょっと間を置いてアスターが言った。
    「ぼくにはその人が、とても可哀想に思えるよ。
     大事な人を失って、結婚もしていないんだろう?
     今の時代、こういう事を言うと怒られるかもしれないけど
     女性がひとりでいる、ってのは
     男性よりも辛い事もあるんじゃないかなあ。」
     
    「そんな事はないよ、あのお方はとても強い意志を持ってらっしゃる。
     いつだってひとりで立って、真っ直ぐな視線で前を・・・。」
    そう言い掛けて、グリスはハッとして考え込んだ。
     
    そう、あのお方は時々立ってらっしゃった。
    執務室のあの窓辺に。
     
     
    その窓の外には花壇がある。
    まだ主様の元へ通えなかった頃
    主様のために花を植え直すと言うから、ぼくも手伝ったんだ。
     
    あの頃はまだローズさんの事も知らなかった。
    ただ主様の喜ぶ顔が見たくて、一生懸命に植えたんだ。
     
    ふと気付いたら、執務室のレースのカーテン越しに人影があった。
    主様だった。
    微笑んでいただけるかとドキドキしたけど
    主様はふいっと部屋の奥に消えて行って、ぼくはとても悲しかった。
     
    だけどあの時のあの主様の顔・・・
    今思えば、あれはいつもの主様の無表情じゃない。
    無表情さにどこか陰が差していた。
     
    主様はあの時、どういうお気持ちだったのだろう
    鮮やかな色のバラ、今は亡き大切な人の名がついた花の前で・・・。
     
     
    「ぼくは・・・、主様のため主様のため、と言いながら
     真には主様の事を考えていなかったのかもしれない・・・。」
     
    グリスは頭を抱え込んだ。
    「ぼくは何て事をしてしまったんだろう!
     大好きで大好きで、ずっと側にいると誓ったのに
     その気持ちから逃げ出してしまったなんて!!!」
     
    今度は違う絶望が襲い、再び嗚咽するグリス。
    その背中を優しくさすりながら、アスターは言った。
    「でも、そのお方はきみを迎えに来てくれたじゃないか。」
     
    「迎えに・・・?」
    グリスが少し顔を上げた。
     
    「うん、ぼくにはそう思えるよ。」
    アスターが微笑みながら答えると、グリスは目を宙に泳がせながら
    ボソボソとつぶやき始めた。
     
    「迎えなんだろうか・・・。
     いや、あのお方がそんな事をするはずがない・・・。」
     
     
    でも、首都に用事などあるわけもない。
    そしてあの車は、確かにぼくを待っていた。
    軍の公用車だった。
    多分、将軍が手配したのだ。
    だからきっと、長老会に命じられたのだ。
     
    いや、あのお方は、イヤだと思ったらテコでも動かないお人だ。
    来たという事は、主様に来る意思があったはず。
     
     
    グルグルと考えるグリスに、アスターがとんでもない提案をした。
    「ご本人に直接訊いてみたら?」
    「主様に・・・?」
    「うん、電話して。」
    「電話・・・?」
    「うん。」
     
    アスターは、立ち上がって机の上に置いてあったグリスの携帯を取った。
    「ほら、これで。」
     
    携帯を手渡されたグリスは、しばらくそれを唖然と見ていた。
    主様にお電話など、しても良いものだろうか?
    もし、拒否されたら・・・?
     
    携帯を持つ手を震わせるグリスに、アスターが言った。
    「大丈夫、ぼくの読みを信じて。」
     
     
     続く 
     
     
    関連記事 : かげふみ 17 11.12.15 
           かげふみ 19 11.12.21 
           
           かげふみ 1 11.10.27 
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  • 3DSとババア

    3次元じゃなく2次元住人になりたい私が
    3Dなんぞを喜ぶわけがねえので、3DSは眼中になかった。
     
    今うちにはDS系が3個あるんだよ!
    DSL (DSライト) 2個とDSi。
     
     
    DSLが何故2個あるかっちゅうと
    「タッチスクリーンの反応が悪くなったんでもういらない修理?しないわよDSiLLを買うから」
    という、お大尽なクソたわけ友人が言うので
    だったら私にくれ! と、貰ってきたのである。
     
    得したような、みじめなような
    まるで銀座界隈のホームレスのような気分。
    ( 味は最高級だが、しょせん残飯 by 兄 )
     
    その “壊れた” DSLはどうか、と言うと
    なあに、タッチペンでガシガシやりゃあ、まだまだイケる!
    こんぐらいゴリ押しでどうにでもなるだろ、とテトリス専用機にしている。
     
     
    ここで情けない事を言いたれるが
    ソフトの交換、めんどくねえ?
    理想は1ソフト1ハードだよなあ、とか
    ロクでもねえ妄想をしておったが、ふと気付いた。
     
    私の信念は、ゲームは1回に1タイトルずつ。
    クリアしたら、次のゲームに移る
    という信条の元、丁寧にゲームをやり込んでいたのに
    いつの間に、WiiをしたりDSをしたり
    あっちフラフラこっちフラフラのビッチプレイになったのやら・・・。
     
    ああ・・・、そうか
    年老いて根気が衰えたんだよな・・・。
    集中力は昔からなかったけど、それに加えて
    持続力までないとなると、RPG、結構無理ジャンルかもー。
     
    でも他のジャンルで面白いと感じたのって
    アンジェリークぐらいなんだよなあ。
    そのアンジェリークも、RPGが一番面白かったし。
     
    いや、その前に、今のRPGはコマンド入力方式が少なすぎる。
    ババアは腱も劣化してるんで、激しい動きはゲーム腱鞘炎になるんだ。
    ああああ、昔の >たたかう >まほう >アイテム >ぼうぎょ
    の、のんびり入力が恋しいーーーっ!
     
    それでなくても、中ボスクラスでもなっげえムービーがあるし
    そういう時に限って、実はトイレを我慢しつつ進んでいて
    まさかそこで中ボスが来るとは思ってないんで
    私の体は、話の内容が理解できる状態じゃなく
    結果、これ、どういう経緯だったっけ? と
    感動も思い入れも、尿意にかき消され台無しに。
     
    いまや、一旦ボス系バトルが始まったら
    特にラスボスなんか、殺るのに1時間近く掛かって
    しかもノンストップでムービー開始で
    エンディングまで1時間30分以上掛かる、とかザラだもんな。
     
    ほんと、トイレの近いババアには厳しい仕様だよな
    リアルタイム操作のノンストップ進行。
     
    初めての尿漏れも、きっとゲーム中に起こる気がするけど
    それも、ここで報告せにゃならんのか
    老婆の生態を紹介している私としては
    尿漏れも外せない症状ではあるけど、だったらオムツはどうなのか
    どこまで自分を曝け出せば良いのか、悩ましいところである。
     
    じ・ん・け・ん
     
    あんなに嫌っていた、これを思う日が来るのか・・・?
     
     
    ・・・・・?
    えーと何の話だったけああそうそうDSね
     
    3DSさ、買う気はなかったんだよ。
    飛び出るのなんか興味ねえよ、むしろ引っ込んでくれよ的に。
     
    てか、DSを買うぐらいなら、PSPを買うし
    VITAやWiiUが出るし
    3DSに掛けられる金なんて1円もねえよ、と思っていたさ。
     
     
    ところが何のポイントだったか、突然お知らせが来やがったんだ。
    「あんた、ポイント随分溜まってるよ、気付いてた?
     それ、3ヵ月後までに使わないと、消滅しちゃうわよ、良いの?」
     
    そういうポイントの存在自体、知らなかった私は
    ポイント引き換えサイトに行ってみた。
    何かもうどうでも良いクズ商品が並ぶ中
    目ぼしいのは、Wiiと3DSだけ。
     
    ここにPSPがあったら・・・、と大いに憎んだけど
    ポイントを消化して、3DSが5000円で買えるなら買うよな?
    と、14行ぐらい上で断言してる
     “3DSに掛けられる金なんて1円もねえよ”
    を、素早く裏切って3DSを買ったさ。
     
     
    んで、ゲーム屋さんに行って、3DSソフトを見たけど
    やりたいものが1個もなし!
     
    ゲームショップよりネットの方が品揃えが良いのはわかってるけど
    今すぐ何か買いたいんだよ!
    そういう時ってあるだろ?
    髪形を変えたら服を買わなきゃ気が済まなくなる、あれだよ、あれ!
     
     
    欲しいものが1個もない店の中で、煮えたぎってた私の目に
    “モンスターハンター3G予約受け付け中” のポスターが飛び込み
    あれ程もう二度とするまい、と誓った恐怖のゲーム
    モンハンを予約してしまったのは
    ハンズに行ったら、絶対に見覚えのないハンドクリームを買わなきゃ
    気が済まない、あれだよ、あれ!
     
    にしても12月10日発売って、モンハン、子供のゲームかよ?
    大人は、お師匠はんも走りたくる12月で
    人間のクズ・私でさえ、大掃除強化月間でヒイヒイ言ってるのに
    モンハンをしているヒマなど1秒もない!
     
    と、またすぐに破る宣言をしております。
    うん、12月10日当日に破ったけどさ
    モンハンプレイ日記とか、書く気も起こらない、
    相変わらず、ヘタクソにはやりこなせない操作性のゲームだったYO!
     
     
    モンハンが届くまで、3DSは開封もされず
    押入れの奥底に投げ入れられたままだったのは、私の鬼畜さ。
     
    モンハンを入手して、ようやく3DSを触ったんだけど
     
    重くてたまりません!
     
     
    怒りのあまり、任天堂HPで調べてみただよ。
    DS 275g  DSL 218g  DSi 214g
    DSLL 314g そして3DS 235g
     
    ・・・・・あれえ?
     
    うちにあるのが、DSLとDSiだから
    それに比べれば確かに重い、っちゃあ重いけど
    20gで、こんなに体に負担になるほど重く感じるかあ?
     
     
    ・・・・・・・・あ、ごめん、私の3DS、
    モンハン専用パッド?をはめてて、それが電池入りなんだ。
    だからかあーーー。
     
    それでも重い重いと騒ぐレベルじゃないけど
    ババアのバッグは、メイク道具一式や常用薬入れ水筒等で重いんだよ!
    そこに、この3DSまで持ち歩くとなると
    手持ち、肩掛け、腕掛けじゃなく、背負わにゃ無理!!!
     
    すれ違い通信用に、登山リュックでも見繕ってくるわ
    “山ガール” とかいうのが流行ってたんだろ?
    そろそろ “山ババア” の出番だよな、タイムリー!
     
    “山ババア”・・・、山姥 (やまんば) じゃん。
    とうとう妖怪デビューかよ・・・。
     
     
    さあ、3DSの悪口 and 3DS1個も関係ない話をしてきて
    この記事を終わらせようかと思って、ふと気付いた。
     
    3DSの最大の売り、3D画像に対する言及ひとこともなし!
     
    どうせ悪口しか言わないんだから、はしょって良い?
     
     
    3D画像はな、あれだ、浮き出して見える絵。
    ネウロの単行本の帯に付いてたじゃん、あれだよ。
     
    と、また、わかりにくいたとえをするけど
    脳の錯覚によって、平面が浮き出て見える騙し絵というか
    数分ジーッと見つめてたら、意外な形が浮き出てくるトリック絵というか
    そういうもの。
     
    だからモニターを常に真っ直ぐに見ていないと、3Dがところどころ欠ける。
    これは目の焦点を合わせる機能が衰えたババアだからこそ、わかる事で
    若い者は脳内で随時、自己修復して錯覚するだろうから
    ずっと3Dで見えるかもな。
     
    ま、簡単に言えば、脳と目にはよろしくない、だな。
    3Dは切って使ってるよ、もうほんと案の定だよ。
    しかもこの3DS、ネット接続のスピードはDSiのが早いんだぜ。
    重いわ遅いわ体に悪いわ、どういう3重苦だよ?
    ウォーター! ウォーター!
     
    (“ウォーター” とは、ヘレン・ケラーが
     言葉の存在に気付いた時に叫んだセリフ by ガラスの仮面)
     
     
    任天堂って、上手く行ってる時に、変なベクトルで調子こいて
    妙なハードを出して、ユーザーの信用を落とす
    自滅タイマーが内蔵されている会社だよなー。
     
    とか言ってると、任天堂、大激怒だな。
    だーがしかーし、こっちも言わせてもらうぞ。
    ディスクシステム、あれ、何だよ?
    (ディスクシステム : 任天堂を罵る時の定番アイテム。
      当事クソゲーだらけになったファミコンに接続して使う、
      画期的ハードになる予定だったが
      更にクソゲーを増やすだけの結果で終わった。
      私的に面白かったのは、“謎の壁” だけ。)
     
    いや、傷付け合うのは、もう止めよう。
    ↓ こんなに愛しているのだから・・・。
     
    関連記事: ニンテンドー神話! 09.7.17
     
     
    でも、いっつも仕掛けるのは、おめえからだからな、任天堂!
    んで、ババアは相手にしてくれない・・・
    いっつも私の独り相撲じゃねえかい! 
     
     

    評価:

    カプコン


    ¥ 6,890

    (2011-12-10)

    コメント:3DSでモンハンをするなら、このパッド必須。 多分来年発売になるモンハン4が本番だろうから、この3Gは予習みたいな感じでプレイして慣れたのに、4全然違うシステム! と裏切られて泣くかも知れないのも、ゲーマーの人生だ。 普通の幸せとやらは諦めろ。

  • かげふみ 17

    長老会メンバーたちが苦悩している日々の中
    グリスもまた、悩んでいた。
     
     
    あの日、早目にバイト先に向かっていたグリスの目に
    見慣れない光景が飛び込んできた。
     
    黒塗りのリムジンが、対向車線に停車している。
    このあたりでこのような車を見るのは珍しい。
    特にこのあたりは車の往来も人通りも少ない場所である。
     
    グリスはナンバーを見て、一層怪訝に思った。
    軍の車・・・?
    運転手も乗ったままである。
     
    グリスは警戒しながら、足早に通り過ぎようとした。
    その時、後部座席の窓がスーッと開いた。
    グリスは我が目を疑った。
     
     
    乗っているのは、主である!
     
     
    頭が真っ白になったグリスは、そのまま立ちすくむしか出来なかった。
    主は無表情で自分を見つめている。
     
     
    車が行ってしまった後も、グリスは立ち尽くしていた。
    「ね、グリス、どうしたの? 大丈夫?」
    声を掛けたのは、バイト先の近くの本屋の店主だった。
    バイト帰りにたまに寄るので、顔馴染みである。
     
    グリスはその声で、現実に引き戻されたのだが
    動揺していて、まともに話せる状態ではなかった。
    それでも気力を振り絞って、答えた。
    「カフェの店長に伝えてくれませんか・・・。
     突然で悪いんですが、今日のバイトは休みたいんです。」
     
    「ええ、それは構わないけど、すごく顔色が悪いわよ?
     体調が悪いみたいだから、寮まで送りましょうか?」
    「ありがとうございます。 大丈夫です、ひとりで帰れます。
     すみませんが、急ぎ伝言をお願いしたいのです。」
     
    店長は、公園のフェンスに寄りかかるグリスを気にして
    振り返りながらも、カフェの方へと歩いて行った。
    その姿が角を曲がると、グリスは公園の茂みへと身を隠した。
     
     
    グリスは、学校に入って最初の1年は帰省していたのだ。
    だけど館で主の側にいると、もう出て行きたくなくなる。
    それでも我慢して寮に戻っても
    その後何週間も、寂しくて寂しくてたまらない。
     
    そんな事を繰り返す自分が、とても情けなく
    また学業にも支障が出るので、帰省しなくなったのだ。
     
     
    そうやって耐えて、考えないようにして3年
    もう大丈夫だと思っていたのに、成長したつもりだったのに
     
    一瞬!
     
    たった一瞬で、主はぼくの積み重ねてきたものをブチ壊す!!!
     
    ニコリともせず、ただチラリと見るだけで
    ぼくの過去も未来も現在も、すべてその手中に収めてしまう!
     
     
    ひと気のない公園の茂みの中で、グリスは声を殺して号泣した。
     
     
    グリスが寮に戻ってきたのは、夕方暗くなってからだった。
    泣き腫らした顔を見られないよう、うつむき加減で自室に急いだが
    その姿を見かけた者は、ひと目で異変に気付いた。
     
    「おーい、グリス、どうしたんだー?」
    呼び掛ける声にも振り向かず、ただ片手を上げて通り過ぎた。
     
    自室に戻ってすぐ、ベッドに潜り込み布団をかぶって泣いた。
    自分が自分のものじゃない事への失望感からだった。
     
     
    翌日も、講義もバイトも休んで部屋に閉じこもったグリスを
    あまりの事だと心配した友人が、ドアをノックする。
    「グリス、ぼくだよ、アスターだ。
     皆も心配しているよ、顔を見せてくれないか?」
     
    グリスはドア越しに答えた。
    「ごめん、大丈夫だから。」
     
    「きみがぼくなら、それで引き下がれるかい?」
    アスターのその言葉に、グリスはドアを少し開けた。
     
    グリスのずっと泣いていたであろう様子に、アスターは驚いたが
    刺激を与えないように、優しく言った。
    「言いたくない事を訊くつもりはないけれど
     ぼくはきみを親友だと思っているんで、このまま放ってはおけないよ。
     良かったら、少しでも話をしてはくれないだろうか?」
     
     
    アスターは、グリスより4歳年上だったが
    グリスが寮に入ってきた当初から、優しく接してきてくれて
    何かと頼りになる存在であった。
     
    もの静かで落ち着いているけど、面倒見が良いアスターを
    グリスも兄のように慕って、信頼を置いていた。
    そんな友人が出来ただけでも、この大学への入学は価値がある事だった。
     
     
    グリスは無言のまま部屋の奥に引っ込み、ベッドに腰掛けた。
    アスターも無言で部屋に入り、ドアを閉めた。
    その手には、お茶と水とサンドイッチの乗ったトレイがあった。
     
    トレイを机の上に置き、アスターはグリスの横にソッと座った。
    グリスが話す気になるのを、気長に待つつもりだったが
    ふと見ると、膝においていたグリスの手の甲に涙がポトポトと落ちている。
    グリスの顔を見ると、長いまつげを伝って涙の粒がこぼれ落ちている。
     
    アスターはグリスの背中を優しく撫ぜた。
    グリスは耐えられずに、両手で顔を覆って肩を震わせ始めた。
    それでもアスターは無言のままだった。
     
     
    どれぐらいの時間、そうしていたのかわからないが
    少しは落ち着いたのか、グリスがつぶやくように言った。
    「ごめんね・・・。」
    その言葉にもアスターは無言だった。
     
    グリスは頬を拭うと、ポツリポツリと話し始めた。
    館の事は極秘事項なので、差し障りのないように言葉を選びつつ
    簡単に自分の生い立ちを喋った。
     
    自分が外国の孤児で、まだ幼い頃にこの国に引き取られた事
    その引き取り先の跡継ぎになる予定である事
    そして “主様” と呼ぶ女性の事
     
    アスターは、ただ静かに聞いていた。
     
     
     続く 
     
     
    関連記事 : かげふみ 16 11.12.13 
           かげふみ 18 11.12.19 
           
           かげふみ 1 11.10.27 
           カテゴリー ジャンル・やかた
           小説・目次 

  • 親の死

    今、日本中が浅田真央選手を思いやっている事であろう。
    かくいう私も、飯時にちょっとTVを点けたら
    ニュースでその話をやってて
    食わなきゃ体が冷えて動かなくなる、この寒い時期に
    むっちゃ飯、大事なのに、もらい泣き号泣で食欲ダウン
     
    ここ数年、TVを点けて良い事があった試しがねえ!
     
     
    それでなくとも冬場は、年寄り仲間がひとり抜けふたり抜け
    と、するので、暗鬱たる気分になるのだが
    ここは、そういう自分の寿命グチは置いといて
    世の子供たちに教えておこう。
     
    親の死は当たり前!
     
     
    うちのかあちゃんは、本来なら私を産む前に
    とっくに死んでいるはずの難病を患っていたので
    幼い私に向かって、「あなたが小学校に入るまで生きていられたら」
    小学生の私に、「あなたが中学生になるまで生きていられたら」
    中学生では、「あなたが高校生になるまで生きていられたら」
     
    で、私が高校生になって、ようやく
    自分が死ぬ死ぬ詐欺をやってた事に気付いたのか
    Death系の話題はしなくなったが
    どういう出番を感じたのか、次はとうちゃんが大晦日の度に
    「来年も家族皆で正月を迎えられると良いんじゃが・・・。」
    と、始めるようになった。
     
    明日がその、“来年の正月” なんだが
    と突っ込むと怒られそうなので、黙っていたのは親孝行!
     
     
    とまあ、親が年老いてから産まれた子供は
    常に親からの、寿命カウントダウンのプレッシャーが掛けられ
    家を出る度に、これが最後かも、と思い続けてきたわけだ。
     
    うちの親の凄いところは、その最期。
    とうちゃんは、死因もわからない変死だし
    かあちゃんは、院内感染で私の顔を見た途端に危篤だし
    最後の最後まで、さすがうちの親だと感心させられる展開。
     
     
    で、親の死を覚悟していた子供は
    立派に親を見送れたのか? というと
     
    兄妹ともどもパニくって、超・変なテンション!
     
     
    何かもう、覚悟は済んでるはずなのに、親が死んだとわかってるのに
    悲しみが1個もなくて、次なんだっけ? 葬儀社の手配?
    誰呼ぶの? いつ呼ぶの? どうやって呼ぶの? みたいな
    まるで、大爆笑しながらライオンに追われているような数日間だった。
     
    いや、兄と私がバカ過ぎるだけなんだけど
    うちの親の葬儀は、どっちも “葬式狂想曲” みたいな
    てんやわんやのしっちゃかめっちゃかな雰囲気で
    あの葬式で成仏できるなら、世話ないと思う・・・。
     
     
    私が真に泣けたのは、かあちゃんが死んでから丁度30日目に
    夢でかあちゃんが別れに来てくれた時だった。
    かあちゃんが行くのを、1秒でも引き止めようとしていた私は
    やっと親の死を悲しむ子供になれた。
     
    ちなみにとうちゃんの時は、死神みたいな白装束のじいさんが来て
    おまえの父親は地獄?に堕ちた?みたいな事を
    覚えられない仏教用語多用で怒鳴ってきたので
    あーあ、とうちゃん、やらかしたな、と思った。
     
    私の話は絶対に “良い話” で終わらせねえぞ。
    ま、とうちゃんの成仏を祈ってるけどさ。
     
    だから今でも、葬儀で泣いている人を見ると
    瞬時に現実を受け止められるなんて、本当に凄いと尊敬するよ。
     
     
    そういう、マトモじゃない事ばかりやってる私に
    何ひとつ助言されたくはないだろうが
    私が、したり顔で偉そぶって言いたいんで聞け。
     
    親は必ず死ぬ。
     
    死ななければ、ちょっとヤバい生き物かも知れない。
    というホラー好きの間の悪い冗談はともかく、
    “逆縁”(ぎゃくえん) って言葉を知ってるか?
     
    親より先に、子供が死ぬ事だ。
    これ以上の悲しみは世にない、とされている。
     
    まあ、親子関係にも色々あろうけど
    とにかく自分の死を子供に見せる事が、親の最後の子育てなのだ。
     
    親の死を喜べ、とは言わないけど
    逆縁をしなくて済んだのは、良かったと思うべきだと言いたい。
    いつだって、見送る側がより悲しいんだ。
    その悲しみを持って生きて行くのが、子供の義務だ。
     
     
    ちょっと不安になって、“逆縁” を調べてみた。
    元は仏教用語で、悪い事をして反省して仏門に入る事だってさ。
     
    基本的には、“順序が逆” って事を指して
    姉より妹が先に結婚する、とかいう場合にも使われるらしい。
     
    その中に、年長者が年下の者の葬式をする事、とあって
    もちろん親が子の葬式をする事も含まれているんで
    私の記憶は、やっぱり天才的だったわけだ。
    めでたし、めでたし、と。
     
     
     

    評価:

    新宿銀の蔵


    ¥ 6,430

    コメント:何か最近、皆こういうのをしてるよなー。 一体どこで誰が流行らせたんだ? と、常々疑問だったところに、知人がしてたんで意味を訊いたら、真面目な宗教だった・・・。 年齢層でガチさが違うものだと実感!

  • かげふみ 16

    「主はいつもセンターより脇ラブなんでーす。
     ビジュアルのみで選んでいるようでーす。
     だけど、お気にっ子が役に立たないと
     そりゃもう、冷遇するんでーす。
     パーティーから外したり、クズ装備を回したり。
     他の眼中なしキャラには、能力を冷静に見て
     的確な操作をするんでーすが
     ビジュ萌えのキャラには、やたらマゾらせるんでーすよお。」
     
    はあ??????? と、口をポカーンと開けるメンバーたち。
    「今の説明の意味がわかったかね?」
    「いえ、聞き慣れない単語が多数で・・・。」
     
    リオンは、やれやれ、と癇に障る首の振り方をした。
    「要するに、主は仲間や友人に対しては
     公平で誠実で素直で、実に良いヤツなんでーす。
     だけど一旦、自分の恋愛対象として見なすと
     我がままになり、厳しい要求を突き付けまくるんでーす。」
     
     
    「何っ? じゃあ、わしは主の恋愛対象かねっ!」
    ジジイが叫んだ。
     
    「まさか。 主は見た目のみで選びま-すからねえ。」
    リオンが薄ら笑い、ジジイがムッとしたところで、将軍がハッとした。
     
    「知的イケメン!」
     
    「そう、それでーす。
     線が細く、あっさり顔のクールな美形
     それが主のブレない萌え要素でーす。」
     
    メンバーたちは、ボソボソと言い合った。
    「じゃあ、グリスは主の好みから外れていますよね。」
    「たくましく爽やかに育っていますしね。」
     
    「ところがどっこい!」
    リオンの言葉に、全員がドキッとする。
    「悪い知らせでもあるのかね?」
     
     
    「はーい。
     これは主が実際に言ってた事なんでーすがあ
     主には “恋愛スイッチ” というのがあるそうなんでーす。
     それは自分でもどこにあるのかわからず
     普段はOFFになってるそうなんでーす。
     どうも自分ではONに出来ないみたいだそうでーす。」
     
    「ならば問題ないじゃないか。」
    なあ? と、うなずき合うメンバーたち。
     
    「それが大ありなんでーす。
     相手がストレートに告白してきた時に初めて
     その恋愛スイッチがONになるそうなんでーす。
     で、YESかNOか、そこで考える。
     NOの場合も、恋愛スイッチは解除されないので
     その相手は嫌悪の対象になるそうなんでーす。」
     
    「ちょ、ちょっと待て、とすると・・・。」
    「そうでーす。
     主は自覚してはいませーんが
     グリスくんの好き好き全開オーラに、無意識に恋愛スイッチが入って
     嫌悪しているようにも思われまーす。」
     
    「それが事実だった場合、相続はどうなるんだ・・・。」
    「いや待ってください、もし主とグリスが恋愛関係になった場合でも
     結局はグリスくんが主を憎む事になるんですよ?」
    「どっちに転んでも、最悪の関係にしかならないじゃないか!」
     
     
    絶望感が漂う中、ひとりのメンバーがはたと気付いた。
    「なあ、それで何故、グリスが戻ってくるとわかるんだね?」
     
    「おお、良い質問でーす。
     実は主のこの恋愛観は、もう私が何気なく
     グリスくんに伝えているんでーすよ。
     グリスくんはこの事もあって、主と距離を置いたのかも知れませーん。
     その彼が戻ってくるならば、覚悟はしているはずでーす。
     グリスくんにはわかるはずでーす。
     主が、嫌悪する相手を迎えに行くのが、とてつもない奇跡である事を。
     そしてそれは、主にとっての自分の価値が揺るぎないもの、と
     大いなる自信となりまーす。」
     
    ほお、と感心する一同に、リオンは鼻高々だった。
    「この私がただ遊びに通うだけなど、ありえませーんねえ。」
     
     
    「すみません、ちゃんと教育したつもりだったんですが・・・。」
    リオンの父であるダンディーな紳士が、皆に詫びる。
     
    「いや、気にしないでください
     子供など、どう育つかわからないものですから。」
    「そうですよ、うちのも本当に・・・いやはや・・・。」
    慰め合う、子育てに失敗した父親たち。
     
    「まあ、とにかく、この件に関しては
     リオン殿の功績は大きそうではないですか。」
    「そうですな。
     主も渋々ながら、連れ戻しに行ってるんですし。」
    「館第一の主だから、館を混乱させるような事はしないでしょう。」
     
     
    やっと安堵の空気が流れ始めたのを打ち破ったのは
    状況を読んで功績を上げたはずのリオンだった。
     
    「と言っても、どう転ぶかわからないのが
     “恋” というものでーすしねえ。」
     
    「わしらはどうすりゃ良いんじゃ!」
    ずっと無言だったジジイが、とうとう怒り始めた。
     
    娘息子のように可愛がっているふたりが
    妙な具合になっているのが、ジジイには辛くてたまらなかった。
    その心中を察して、メンバーたちがうつむく。
     
    さすがにリオンも大人しくなった。
    「すいませーん・・・、私にもわかりませーん。」
     
     
    「グリスが主についてきたのが、最初の出会いだったようだから
     主はモンスターに魅入られたのかも知れませんね・・・。」
    「あるいはグリスが魔物に惹かれたか・・・。」
     
    会議室には暗い空気が充満し、結局良い対策法も見出せず
    後味の悪いまんま、会議はお開きになった。
     
     
     続く 
     
     
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  • 訓練ジジイの謎

    関連記事: 狡猾な愛すべき犬というヤツら 11.3.28
          訓練ジジイ 続報 11.4.11
          訓練ジジイ 続々報 11.4.15
     
     
    訓練ジジイが公園から消えた。
    公園は、今はもう子供たちの野球場になってしまい
    (注: 球技が禁止されている公園である)
    心霊写真カップルも、ダンシング男子もいなくなった。
     
    何か、ネタが1個もない公園になってしまった。
    これは私自らが、公園で何かパフォーマンスをしろ
    という啓示なのか?
     
     
    ところが、そんなこんなのある日
    訓練ジジイと道ですれ違った!!!!!
    正確に言えば、2車線道路の向こうとこっちのすれ違い。
     
    だけど、すぐに訓練ジジイとあの犬ペアだとわかった。
    犬でわかった。
    歩いてても、訓練ジジイをパシリにしているんだ。
     
    私がジッと見ていると、犬がその視線に気付き
    こっちに来ようと、訓練ジジイを引っ張った。
     
    だけどその時に車が来て、ちょっと危なかったので
    私はそのまま通り過ぎた。
     
    訓練ジジイは、持っているペットボトルの水で犬のおしっこを流すという
    ものすごいマナーの良さ。
    犬は間近で見ると、毛がピッカピカのツヤツヤで
    あの犬種で、あんなに手入れをされている犬は初めて見たよー。
    ジジイの犬に対する愛が、2車線を挟んだこっちにも伝わってきた。
     
     
    そして訓練ジジイの犬が公園にいた!
    訓練ジジイ復活!
     
    と、一瞬、喜びに満ちあふれかけたけど
    訓練ジジイが、あの訓練ジジイではないのだ。
    あの訓練ジジイより、10歳ぐらい若いオヤジなのだ。
     
    犬は一緒。
    仕草も行動も一緒。
    何故そう言い切れるかと言うと
    訓練内容が、訓練ジジイとまったく同じだからだ。
     
     
    これ、不思議じゃねえ?
    同じ犬を、10歳違う男性が同じ訓練をしている。
    “持ってこい” の腕の上げ方どころか
    “ついてこい” のナメられ方まで、生き写しなのだ。
     
    その歳の差は、親子じゃないだろうし
    友人? 兄弟? 親戚?
     
    にしても、訓練の代理なのに
    その訓練法が、訓練ジジイとまったく一緒。
    そこまで教わって、散歩代理?
    まさか訓練ジジイに何か起こったんか?
     
     
    他人事なのに、むちゃくちゃ心配している私は
    訓練ジジイのとりこなのか?
     
    とか、ハーレクイン妄想をしていたら
    訓練ジジイと犬ズがいた。
     
    朝の7時に駅前ロータリーに。
    通常はその時間に駅には行かないんで、気付かなかったんだな。
    散歩時間帯の変更かー。
     
    ちょい待て、おめえ訓練は午前中にやってたろ?
    んで、この前は16時前に歩いてたろ。
    1日何回散歩してるんだよ???
     
    いや、色々と変更してるのかも知れない。
    とにかく、無事で良かった。
     
     
    で、夜の11時前、23時前ぐらいに
    横断歩道の赤信号で、訓練ジジイと犬と並ぶ。
     
    ところが、どの訓練ジジイでもない!
     
    斜め後ろから、ジーーーッと観察する。
    本来の訓練ジジイは、固太りで大柄な体格である。
    2番目の訓練ジジイは、10歳ぐらい若くてちょっと小柄。
    そしてこの3人目は、ものすごく小柄でしかもメガネっ子。
    3人の中でも、一番年老いて見える。
     
    犬は一緒。
    もう、断言するけど、私の犬好き生命を賭けて良い。
    それぐらい性格が個性的で、仕草にクセがある犬なのだ。
     
     
    1匹の犬に3人の訓練ジジイ・・・。
    もしかして飼い犬じゃなくて、シルバー雇用の散歩業とか?
     
    と、1人と1匹をジロジロと見ていたら
    またしても、犬が私の視線に気付く。
     
     
    この犬、横目でチロチロと私に問いかける。
    おっ、いく? いっちゃう? みたいに。
     
    私を見た途端、嫌わない動物なんて滅多にいないんで
    何かもう、あー、すっげえ触りたい!
    と、痴漢のような気持ちになって
    思わず手が出ちゃったんだよー。(正に痴漢の言い訳)
     
    そしたら、そいつな、いきなりドーン! と頭突きして来たんだよ。
    こここ攻撃? と思ったけど
    私の足にフンフンとまとわりついて来るんだ。
    その勢いに、私もジジイもヨロけた程。
     
     
    私が思わず笑って撫ぜたら、ジジイが喋った。
    「すみませんのお・・・、遊び好きな犬で・・・
     こうやって、すぐ人様に飛び掛るけど
     可愛くて怒れんで・・・。
     甘やかして育ててしまったんですわ・・・。」
    (正しくない関西弁で再現しております。)
     
    そのトツトツとした喋り方に、ちょっと涙が出そうになった。
    ああ・・・、このジジイはこの犬を本当に大事にしてるんだな・・・。
     
     
    「こんなにキレイにお手入れされたこの犬種を初めて見ましたよ。
     大事にしてらっしゃるんですね。」
    そう言うと、訓練ジジイは犬の頭を抱えるように撫ぜた。
     
    信号が青になったので、渡りながら訓練ジジイたちと私は分かれた。
    訓練ジジイは一度も私を見なかった。
    犬しか目に入らないようだ。
    犬はこっちに来たがっていた。
     
     
    さて、これはどういう事だろう?
    1匹の犬に、3人のジジイ。
    犬は絶対に同一犬。
     
    1人目は、1ヶ月ほど毎日公園で訓練。
    その後、2~3回道端で見かける。
     
    2人目は公園で1回限り。
    でも訓練法が、ありえないほど1人目と同じ。
     
    3人目も1回限り。
    でも犬の飼い主としか思えない言動。
     
     
    本来なら、2人目はたまたまピンチヒッターで
    1人目と3人目が同一人物だと思うべきだろうけど
    体格が違い過ぎるんだよ。
     
    てか、そう思いたくない。
    同一人物だったら、訓練ジジイ、病気を患ってる変貌ぶりだし・・・。
     
     
    そして、その後・・・
    20代と思われる男性が、犬を連れていた。
    一瞬だったんで、同じ犬かどうかは断言できない。
    同犬種ではあるけど。
     
    イヤな想像をしてしまうんで、もう一度会いたいよー。
     
     
    て言うか、この話、若者だと恋愛フラグが立つよな・・・。
    ジジイとババアじゃ、寿命の話になるのが切ないーーーっ(泣) 
     
     
    関連記事 : 訓練ジジイの謎 2 12.9.6
     
     

    評価:

    バレリー・オファレル

    ペットライフ社


    ¥ 1,995

    (1993-11)

    コメント:多分これ、私がしつけのために読んだ1冊のような。 だったらこれに、“しつけが入りやすい犬種ランキング” が載ってるかも。 犬を買う前に、ぜひ読んで欲しい。 犬の頭の良し悪し基準は、人間にとって “しつけが入りやすいか” に尽きるんだよな、現実問題。 

  • かげふみ 15

    歩いて来るグリスらしき姿が鮮明になると、主は驚いた。
    「ええっ? あれ、本当にグリスですかー?
     えらい育って、別人じゃないですかー。」
     
    その言葉に、ジジイは得意げに携帯画面を差し出した。
    「ほれ、これがグリスの近影じゃ。
     男の子は急激に成長するもんなんじゃよ。」
     
    「あんた、待ち受けにまでー・・・。」
    果てしなくドン引く主。
     
     
    「そんな事より、もうそこまで来とるぞ、どうするんだね?」
    慌てる将軍に、主が小声で指示を出した。
    「あんたら出歯亀は気付かれないよう、伏せてくださいーっ。」
     
    「で・・・出歯亀?」
    「将軍、伏せるんじゃ!」
    車内の床に這いつくばるジジイと将軍。
     
    グリスが向かいの歩道を通過しようとしたその瞬間、主は車の窓を開けた。
     
     
    ところが主はピクリとも動かないどころか、ひとことも発しない。
    ただ、車の中からグリスを睨んでいる。
    しかも機嫌が悪いのも手伝って、いつも以上の仏頂面である。
     
    そしてそのまま窓を閉め、将軍に言った。
    「車を出してくださいー。」
     
    将軍は不自然な体勢で転がりながらも、素早くマイクを取り
    運転手に車を出すよう告げた。
     
     
    グリスの姿が小さくなり、やがて見えなくなると
    ジジイと将軍はようやく体を起こして、同時に叫んだ。
    「これだけかね!!!」
     
    「何じゃ、今のは!」
    「6.26秒だったぞ!」
    時計を見ながら叫ぶ将軍。
    コンマ00秒まで時間を計っているなど、さすが軍人である。
     
    あっけに取られているふたりに、主は断言した。
    「はい、これだけですー。
     これでダメなら、もう私の出る幕ではありませんー。
     さあ、帰りましょうー。」
     
     
    「「「 ・・・・・・・・・・・・ 」」」
     
    ジジイと将軍の報告を聞いた長老会メンバーは、言葉が出なかった。
     
    うむうむ、その気持ちわかるぞ、とジジイがうなずきながら
    ムービーカメラを取り出した。
    「その時のグリスの様子は、ちゃんと撮っておいたぞ。」
     
    「何だね、これ、逆さまじゃないかね。」
    「うわあ、手ブレが酔いますねえ。」
    「ムチャ言わんでくれ。
     隠れながらも、手を伸ばして必死に撮ったんじゃぞ。」
     
    カメラに写ったグリスは、激しく驚いた表情のまま固まっていた。
    「おお、驚いとる驚いとる。」
    「さぞかし肝を冷やしただろうなあ。」
    「あの主が般若顔で突然現れたんですもんねえ・・・。」
     
     
    グリスに同情の声が寄せられたところで、ジジイが続けた。
    「でな、わしらも手土産なしでガキの使い、ってわけにもいかないんで
     帰りがてらに主の恋愛歴など、探ってみたんじゃ。」
     
    「へ? 何故いきなり恋愛歴ですか?」
    「いや、それはアリかも知れん。
     押すと男は逃げたくなるが、引くと追いたくなるものだろう?
     今回の主の行動は、それの応用だとも思われるぞ。」
    「ああ、なるほどー。」
    「主の恋愛事情・・・、それは、ちょっと興味がありますねえ。」
     
    「「「「「 で、何ですって? 」」」」」
     
     
    メンバー全員がジジイに期待の眼差しを向け
    ジジイは調子に乗って、主の口真似をし始めた。
     
    「はあー? 恋愛ー? よくわかりませんねー。
     向こうから好き好き言ってきたくせにー
     付き合ったら何故かすっげえ憎まれて、突然別れ話されちゃってー
     すんなり別れてあげたのに、陰で悪口言われ始めてー
     私の恋愛なんて、全部こんなんですよー。
     何なんですかねー、あれってー。」
     
     
    「・・・・・・・・・・・」
    「・・・ダメ・・・って事・・・なんじゃないですかねえ・・・。」
    「・・・予想を微塵も裏切らない経歴だな・・・。」
    愕然とするメンバーに
    ジジイが更なる “主のお言葉” を再現した。
     
     
    「これで美人だったら、悪女の称号でも貰えて
     傾国とかしちゃってたんかも知れませんがー
     ブサイクなんで、単なる性悪女で済んで
     目出度し目出度し、ってなもんですよー。
     皆、遺伝子元の私の親に感謝すべきですよねー。」
     
     
    あああああああああーーーーーーーーーっっっ
    と、メンバー全員が頭を抱えた。
     
    「やはり、主を行かせたのは間違いだったんじゃ?」
    「それよりも問題なのは、この調子じゃ
     いつまたグリスくんが出て行くかわからん、ってところだぞ。」
     
    暗い雰囲気になった会議室に、声が響いた。
    「グリスくんは戻ってきまーす。」
     
    声の方向を見ると、ケーキを食うリオンだった。
    「何故そう言いきれるんだね?」
    その問いに、リオンはニコニコしながら答えた。
     
    「私は主の恋愛傾向を間近に見てるからでーす。」
     
     
    その言葉に一同がドヨめき立ち、リオンに詰め寄った。
    「あの主が恋愛しているんかね!」
     
    色めき立つメンバーたちを、リオンが諭す。
    「やでーすねえ、皆さん、他人の恋愛話には首など突っ込まないのが
     紳士の心得じゃないでーすかあ。」
     
    「この場合はわけが違うんだよ! あの主の事なんだよ。」
    「セクハラ、パワハラとかありますしね。」
    「そう。 館の平和を脅かしかねん可能性もある。」
     
     
    リオンは溜め息を付いた割には、嬉しそうにしている。
    「そうでーすかあ? しょうがないでーすねえ。
     じゃあ・・・」
     
    そしてせきを切ったようにペラペラと喋り始めた。
     
     
     続く 
     
     
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