投稿者: あしゅ

  • 職務質問

    警察関係を見るとドキッとするヤツ
    おめえは絶対に後ろめたい事をしている!
    何故ならば、私がそうだったからだ。
     
     
    元彼のドレスアップカーに同乗していた時は
    遠くに赤色灯を確認したら、即脇道に逃げていた。
    “整備不良” という切符を切られるからである。
     
    そういう、いかにも怪しい態度を取っていると、逆に目立つのか
    何度も何度も追い回されては、職務質問をされていて
    ドライブをしていても、いつもビクビクさせられ
    真っ当に生きてきた私が、何でこんなに警察に怯えにゃならんのか
    こんなチャラい車に乗ってるこいつのせいで・・・
    と、内心怒りを抱いていたもんだった。
     
     
    愛車・レビンに乗るようになってからも、このビクビクは続いた。
    パッと見はわかりにくいけど、足回りを固めていたからである。
    言っとくが、暴走族とか走り屋とかじゃないぞ。
    私はひとりで夜中に峠を走るのが好きだったんだ。
     
    パトカーを見ると、「このショックとサスは車検通ったっけ?」
    「タイヤはどうだったっけ?」 と、オドオドし
    かなりの挙動不審者的反応を示していた。
     
    車検は車検屋さんに丸投げだったので、誰にも何も注意されず
    どこまでが許されるのかを知らなかったんだが
    今になってよく考えると、替えた部分は全アウトだったと思う。
     
     
    ドノーマルのセリカにしてからは、何の咎もないので
    警察に対しても、逆に 「かかってこんかい!」 と
    挑発的な気分で車を乗り回していた。
    ちょっとした逆恨みである。
     
    要するに、人間、ロクでもねえ事をやってて、足を洗ったとしても
    その後数年間はドグラ気分が抜けない、ってこった。
     
    セリカでノーマルっちゅうのが、若い衆にはありえん話だろうけど
    周囲に 「2ドアなんて」 と、車の形状からして全否定されていると
    どんどん車なんて、どうでも良くなってくるんだ。
     
    何のためにセリカを選んだのか、
    ここの時期はほんと無意味なマイ車歴だった。
     
     
    ローバーになると、何を疲れ果てたんか
    ノーマルどころか、制限時速までキッチリ守るようになった。
     
    警察を見ると、「お勤めお疲れ様です、ガンガン取り締まってね。」
    と、心の中でエールを送るまでになった。
    己がドグラだった過去を棚に上げた、
    かなりイヤな大人の出来上がりである。
     
     
    職質と言えば、東京にいた頃は週に1度は遭っていた。
    夜遅くに、駅から自転車で帰る時である。
    毎回毎回、どこに住んでるの名前は生年月日は自転車の登録は
    と、同じ事を聞かれ、自宅への道のりの結構な障害になっていた。
     
    あまりに度々警察にとめられるので、どんだけ自分が怪しく見えてるんか
    こんなん親が知ったら首を吊られかねん、と逆に質問してみた。
    しょっちゅうとめられるんですけど、私何か不審ですか? と。
     
    そしたら、そこら一帯は高級住宅地で
    某政治家だの有名人だのが多数居住している場所なんだと。
     
    だからここは東京で一番警備が厳しく安全なんですよ
    と威張りに回られたので、そうなんですか、すごいですね、と同調したら
    そのお巡りさん、あそこは○○邸、あそこには誰々が住んでる、と
    いらん観光案内を始めて、当時は個人情報保護法はなかったが
    防犯的には、とても危険な言動じゃないか? と思った。
    が、とにかく媚へつらっておいた。
     
     
    ご近所事情もわかったので、そういう事なら早めに帰宅しよう、ではなく
    遅くなったらタクシーで帰ろう、になったのは
    我ながらロクデナシだったな、とシミジミ思う。
     
    東京の住まいは兄が用意したもので、ボロアパートだったけど
    渋谷まで激近かったので、兄貴やるじゃん! 程度に感謝してたのだが
    兄の妹を心配する気持ちだったわけだ。
     
    とか、キレイにまとめたかったが
    兄のアパ-トは中目黒だったんで、単に飲み屋街に近いって事で
    選んだ場所だったのかも知れない。
     
     
    話がかなり逸れたが、私が警察を恐れたのは
    車をいじくってた数年間のみである。
    趣味だろうが、国家権力を敵に回すような、いたらん事はせんに限るな。
     
    私もいまや警察を見たら、「何?何?」 と野次馬になっている。
    善良な一般市民ヅラをできるのは、ものすごい開放感がある。
     
    職務質問とか、孤独ババアには人と話せるありがたい機会なんで
    インタビューと勘違いしている勢いで
    「何でも訊いて! 何でも喋るから!」 と、待ち構えているが
    善良に生きていると、警官には見向きもされない。
    警官、やっぱプロだと思う。
     
     
    東京ん時の職質の日々は何だよ? と、問われたら
    あの時の私は若かったからだ! と答えさせてもらおう。

    ・・・いや、警官もたまには初々しい娘さんと話したかろう? と。

  • イキテレラ 5

    翌日のイキテレラは、グッタリだった。
    途中で魔法が解け、重いカボチャを抱えて歩くハメになったのだ。
    貧乏なので、1個の野菜もムダにしたくない。
    家に着いた時には、もう朝方の4時を回っていた。
     
    義姉たちの社交界デビューの準備で、いつもよりも仕事が増え
    飯も食えずに踊らされ、歩いて帰らされ、寝る時間もなく
    おまけに今日の義姉たちの機嫌は最悪である。
    舞踏会で誰にも相手にされなかったのだろう。
     
    それでもわたくしよりはマシよ。
    イキテレラには、魔女の “奇跡” は大迷惑にしかならなかった。
     
     
    長い一日がやっと終わり、イキテレラが自室に戻ると
    窓の外には魔女が立っていた。
     
    「ああ、どうも・・・。」
    イキテレラは億劫そうな表情で、魔女に靴を返した。
    「片方だけかい?」
     
    「すみません、もう片方はなくしてしまいましたの。」
    「ううむ・・・、それはマズいねえ・・・。
     でもまあ、しょうがないか。」
     
    「では、ごきげんよう。」
    イキテレラが窓を閉めようとするのを、魔女が止める。
    「ちょっ、ちょっと、それだけかい?」
     
    「ああ・・・、お心遣い本当にありがとうございました。
     魔女さまのご健勝をお祈り申し上げておりますわ。
     では、所用がございますので、これにて。」
     
    イキテレラは、棒読みを終えて窓を閉めた。
    魔女は首をかしげつつ、帰って行った。
     
     
    いつもの日々が戻ってきた。
    何事もないのが一番だわ、そう思いつつ
    イキテレラが草むしりをしていると、辻の方が騒がしい。
     
    何かしら? と、顔を覗かせると
    辻に立っている掲示板に張り紙がしてあった。
     
     
    『先日の舞踏会にて、靴をお忘れの姫君
     預かっていますので、取りにおいでください。
                       王子 』
     
    張り紙を読んで、ギョッとした。
    あのしつこい男性は、この国の王子さまだったらしい。
     
    証拠は靴しかないし、バレないわよね
    にしても、何故こうトラブル続きなのかしら・・・
    イキテレラは溜め息を付いた。
     
     
    街中が、また浮き足立った。
     
    「王子が靴の持ち主を探している」
        ↓
    「王子が靴の持ち主に恋をしたらしい」
        ↓
    「靴の持ち主は王子と結婚できるらしい」
        ↓
    「靴が足に合えば王子と結婚できるらしい」
     
    噂が、アホウ参加の伝言ゲームのように形を変え
    街中の娘が、連日城に押し寄せていた。
     
     
    何をどう考えたら、話がそうなるのかしら?
    私はあの時、王子の言葉に返事もせず目も合わせず
    イヤそうに踊ったあげくに、むこうずねにケリを入れて
    おまけに靴を投げつけたのよね。
    あの張り紙は、罠よ。
    ノコノコ行ったら、不敬罪で捕えられて禁固刑、いえ、死刑だわ。
     
    おお、いやだいやだ、恐ろしい
    ビクビクするイキテレラの後ろで
    義姉たちが靴合わせにチャレンジする、と張り切っている。
     
     
    義姉たちを見送り、振り向いたイキテレラの鼻先に魔女の顔があった。
    不意打ちに声も出ないほど驚くイキテレラに、魔女が言う。
    「義姉たちの靴じゃないのに、止めないのかい?」
    「心配しなくても、あの靴は普通の女性には入りませんわ。」
     
    「名乗り出ないのかい?」
    「申し訳ないとは思っているけど、あれは事故だったのよ。」
    「・・・? あんた、一体何をしてきたんだね?」
     
     
    イキテレラは、舞踏会での一部始終を魔女に打ち明けた。
    魔女は大笑いをしながら言った。
    「だから、あんた、機嫌が悪かったんだねえ。」
     
    「ええ、もう忘れたいの。
     だからわたくしの前に現われないでくださる?」
    イキテレラは、申し訳なさそうに魔女にお願いした。
     
    「ん、まあ、別に良いけどね。
     王子は本当にあんたと結婚したがっているようだよ。」
     
    「ええええええええっっっ?」
    イキテレラが、イヤそうに叫んだ。
     
     
     続く
     
     
    関連記事 : イキテレラ 4 10.5.19
           イキテレラ 6 10.5.25
           
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  • 古臭いメイク

    猟奇殺人者には、悪魔がささやいて犯罪を起こすヤツもいるが
    ババアにも、悪魔がささやく瞬間がある。
     
    「そんなに気を遣ったって、どうせ誰も気にしやしない。」
     
    メイクが乗らず、アラが上手く隠せず
    塗って重ねて塗って重ねて、と苦労している時に
    よくこの声が脳裏に響く。
     
    確かにそうではある。
    若い娘さんのメイクとババアのメイクでは
    同じ 「キレイになりたい」 でも、大きく意味が変わってくる。
     
    娘さんの美が、周囲に愛を分け与える献血ならば
    ババアの美は、己が生き延びるための輸血である。
     
    何を言ってるのか、自分でもまったくわからんが
    それぐらい必死度が違う、余裕がない、っちゅう事。
     
     
    世の中には、ただメイクをすれば身だしなみ、と
    勘違いしているババアがチラホラいる。
    しかし、それは大きな間違いである。
     
    若い頃と同じ要領でメイクをしても
    肌も顔形も、若い頃とは全然違うので
    そのチクハグに浮いたメイクを見せられる方は
    心に地味にダメージを受ける。
     
    黒ずくめの呪術ババアや、全身原色のハレーションババア
    豹柄の肉食ババアは、特別指定区分に入るので除外するとして
    白塗りババア、ニュートラババア、バブルババアが
    代表的な絶滅推奨種族である。
     
    ファンデと口紅だけの、やる気なしメイクはともかくも
    微妙な古臭さがにじみ出るメイクだけは避けてほしい。
     
     
    流行を追っていたら、ダンボール何箱ものメイクアイテムが
    部屋にあふれかえってしまう。
    粉系色物は、通常使いでも1個5年ぐらいは持つ量で
    しかもそれ1個だけを毎日使うわけではないからである。
     
    物を気楽に捨てられない習性が標準装備のババアとしては
    10年20年前のアイシャドウなどの粉物は
    腐ったようには見えないので、何かの行事でもないと中々捨てられない。
     
    よってババアは、無闇やたらに流行を追わない方が良い。
    それでどうやって今風のメイクにするかというと
    最低限、これだけ取り入れたら流行っぽくなる
    という部分が、眉の形と口紅の色である。
     
    この2箇所を押さえていれば、出血も最小限。
    眉の太さと長さの調整が大事なのだから
    髪の色に合ってるなら、減らないアイブロウを買い換えなくても済むし
    口紅は捨てられずに持っていても、腐るので
    結局はこまめに買い換える必要があるアイテムである。
     
     
    もちろん他がノーマルなテクを持ってる場合の話だぞ。
    デーモンチーク、ロボットノーズシャドウ
    ヌリ壁ファンデ、スケキヨパウダー、ファラオアイラインなど論外ね。
     
    本当なら、粉物の質感やファンデの乗り方なんかも
    時代時代で微妙に変わっているけど
    正直、化粧乗りの悪いババアの肌の上では
    繊細な質感の違いなど、焼け石に水なんだよ。
    そこはもう、「誰もそんなに見ていない」 っちゅう事で。
     
     
    ただしババアには、流行の範囲内でもひと工夫がいる。
    シアーな口紅が主流でも、ちょっと赤みに頼る、とか
    太眉流行でも、モサくならないようフレームを整える、とか
    老けた顔のメイクには、隠れ鉄則というのが存在するので
    流行をそのまま取り入れたら、単なる必死若作りになってしまうのだ。
    正直、流行の対象年齢は30代前半まで。
     
    だったら流行無視の自分流を貫き通せば良い、と思いたくなるが
    昔の写真の顔で、街を歩けるか?
    シワが増えてようが、タルミがきてようが
    今現在の顔が一番垢抜けてねえ?
     
    ほんの一部分でも、流行というライトに照らされてないと
    街では、違和感がある風貌になってしまうんだよな。
     
     
    男性は、“顔が履歴書” とか言いつつ
    汚れを積み重ねられてほんと羨ましいよ。
    女性の顔は、脳みそステータス表示板なんだよな。
    取捨選択をいかに効率良く出来ているかが、瞬時に表示される。
     
    そこが面白いとこでもあるけど
    アホウで不器用な私には苦労が多すぎる。
    足りない部分は、有無を言わせぬ勢いでゴリ押ししているけど
    これも、やりすぎると人格に関わるしのお。

  • イキテレラ 4

    イキテレラが会場に着くと、あたりにどよめきが起こった。
    「あの美しいお嬢さんはどちらの方かしら?」
    誰も街の端っこの貧乏貴族の娘だとは気付かない。
     
    皆の注目をよそに、イキテレラはテーブルへと真っ直ぐに向かった。
    テーブルの上には、ナビスコリッツパーティーレベルのおつまみしかない。
    給仕係が、ショートグラスの乗ったトレイを差し出してくる。
     
    空腹にアルコールなんて、冗談じゃないわ
    イキテレラは手を振って断った。
     
     
    舞踏会は晩餐会とは違うのね・・・。
    ガックリしたイキテレラが、とにかくクラッカーでもいいから
    腹に入れよう、と伸ばしたその腕を掴まれた。
     
    「私と踊っていただけますか?」
    「あ、いいえ、わたくしあまり踊れませんの。」
    男性の顔も見なかったのは、面倒くさかったからである。
     
    「どうか断らないでください。」
    懇願している口調とは裏腹に
    男性はイキテレラを強引にホールの中央に連れて行く。
    イキテレラは、空腹の上に運動までせねばならない事に
    果てしなく落胆した。
     
     
    しょうがないわ、適当に踊ったらさっさと切り上げましょう
    そう思うのだが、男性が手を離してくれない。
     
    空腹と疲労で注意力が散漫になっているせいか
    気付かなかったのだが、かなり背が高い男性で
    イキテレラはほぼ抱えられる形で振り回されていた。
     
    男性がしきりに何かをささやきかけるが
    イキテレラの神経は、テーブルの上のカナッペに注がれていた。
    ああ・・・、どんどん食い散らかされていく・・・。
     
     
    「あの、どうかもうこのへんで・・・。」
    「ダメですよ、私は今宵あなたに魅了されたのですから。」
     
    何なの? この人、色キチガイなの?
    変質者に捕まってしまったのかしら・・・
    イキテレラは自分の運のなさに、悲しくなってきた。
     
    「あなたに一体何があったのです?
     その憂いを秘めた瞳が私を捉えて離しません。」
     
    離さないのはあなたの方でしょう
    わたくしはお腹が空いて欝ってるのです!!!
    メルヘンはどっかよそでやってくださいーーーーー (泣)
    イキテレラは、目でリッツをずっと追っていた。
     
     
    時計の音が響いた。
    イキテレラはハッとした。
    「今、何時ですの?」
    「時間などふたりには関係ないでしょう?」
     
    時刻すら答えられないとは
    この人は、どこまで能無しの役立たずなのかしら?
    イキテレラはグルグルとタ-ンをされながら、時計を探した。
     
    あ、あった、さっきのは11時の時報だわ
    家からここまで馬車で1時間は掛かった。
    もう帰らないと、途中で魔法が解けてしまう。
     
    イキテレラは、男性のスネを思いっきり蹴った。
    男性がうっ、と怯んだ瞬間、出口へと走り出した。
     
     
    階段を駆け下りるイキテレラの背後で声がした。
    「待ってください、姫!」
     
    信じられない、思いっきり蹴ったのに!
    わけのわからない執着心といい、この人、人間なの?
    イキテレラはケダモノに襲われる恐怖に駆られた。
    その瞬間、高いヒールが傾いた。
     
     
    転んだイキテレラに、男性が迫る。
    「大丈夫ですか? 姫」
     
    いやああああああああ、来ないでえええええええ
     
    イキテレラは思わず、靴を男性に投げつけた。
     
    パリーンと割れる音が聞こえたけど、構わずに馬車へと急ぐ。
    「猫に言葉が通じるかわからないけど、急いで帰って!」
    馬車に乗り込んだイキテレラは、御者に叫んだ。
     
     
    走り出した馬車の中から振り返ると、階段に人が群がっていて
    その中心に倒れているであろう男性の足が見えた。
     
    ごめんなさいね、イキテレラは心の中で謝った。
    でも、しつこいあなたがいけないのよ。
     
     
     続く
     
     
    関連記事 : イキテレラ 3 10.5.17
           イキテレラ 5 10.5.21
           
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  • ガキの使い

    「ティッシュを買ってきて、スコッティね。」
    と、太古の昔に当時の彼氏にお願いした。
     
    ところがそいつが買ってきやがったのは、ネピア。
    何故かと問うたら、「普通は皆こっちを買ってる」 という返事。
     
     
    こういう勝手な解釈をするヤツって、多くないかあ?
    私、今までにこの手のヤツらを、どれだけ数多く叩きのめしてきた事やら。
     
    こっちがわざわざ指示してるって事は、そこが重要項目だからだ。
    ちゃんと明確な理由がある。
    “何でも良い” のなら、別に指定はしない。
     
    それを知らんと、気軽に目についたやつを買ってくるから
    何故 “あれ” じゃないとダメなのか
    “あれ” と “これ” は、どう違うのか
    説明せにゃならなくなる。
     
    自分が納得しないと言う事を聞かないヤツは
    もうそこで既に、一体何様なのやら と思うのだが
    ほんと、納得した後も何様なんだよ。
     
    “何故それを指定するのか” を証明したら、黙り込む。
    納得しない、と言うから納得させたのに
    納得させられて何が腹が立つのか、詫びもなくフテくされる。
    でも次回から自分も密かに、“それ” の支持者になるのである。
     
     
    ああ? 私の言い方が悪いだと?
    私はお使いで、相手の言う事に自分の判断は入れねえよ。
    言われた通りに任務を遂行する。
    自分の納得なんぞ私情だろ、頼まれごとにそんなんはさむかよ。
     
    なのに、相手はそんな私の頼み事に、自分基準を入れている時点で
    私を激怒させてしまっているわけだ。
     
    それでも、とりあえず最初に訊くぜ。
    「“あれ” を頼んだんだけど、何故 “これ” なのかしら?」
    売り切れとか、えらいな高値とか、事情はいくらでもあるからな。
    そんで、そういう時には怒らないさ。
     
    「別に “これ” でも良いじゃん。」
    このセリフを言われた瞬間、私の殺る気スイッチが入るのだ!!!
     
     
    くだんのティッシュの乱でも、丁寧に銘柄指定の理由を説明しているのに
    「ティッシュにそんなに違いがあるか! バカじゃねえの?」
    と、事もあろうに私の知能否定の逆切れをしおったので
    スコッティを買ってきて、無言でネピアとともに
    目の前にずいっと差し出したさ。
     
    こういう時の私はとても正しい。
    と言うか、1と100ぐらいに違いがあるからこだわるのだ。
    そもそもこのザツな性格の私が、“こだわる” という行為をする場合は
    それ相応の意味がある、と予想すべきだろ。
     
    案の定、彼氏は黙り込んだが、それ以降
    彼氏の車にはスコッティが置かれるようになった。
    見て見ぬフリをしたのは、私の愛さ。
     
     
    しかし、私を驚かせた後日談がある。
    彼氏の車に乗っていたら、彼氏が言った。
    「車には必ずネピアが置かれてるけど
     あいつら、ティッシュの質の違いとか知らないんじゃねえの?
     バカって、考えなしに物を買うよなー (同意を求める笑み)」
     
    はあ??????
    もう、ほんと、はあ??????????
     
    その “ティッシュの質の違い” を教えたのは私だろ
    おめえ、その時散々私をバカにしただろ
    何、自分の手柄のように言ってるんだよ?
     
    うーむ、こいつ、とことんギャフンと言わせにゃ更生せんのじゃないか?
    と悩んだが、その彼氏とはケンカが絶えない付き合いだったので
    こっちに迷惑が掛からん項目なら放置しとこう
    と、即座に空の彼方へと受け流した。
     
     
    この話は、ものすごい大昔の話で
    当時は同じ値段で、何故かネピアが売れていたけど
    柔らかさじゃスコッティの方が、段違いに優秀だったのだ。
    今現在は、どっちもどっち、同様に質が悪くなっている。
     
    ちなみに、この彼氏には私がフラれた・・・。

  • イキテレラ 3

    「おばあさま、うちよりも北角のおうちの方が裕福ですわよ。」
    窓を閉めようとするイキテレラに、老婆が慌てて言った。
    「待ちな、あたしゃ物乞いじゃないよ、魔女なんだ。」
     
    「魔女?」
    窓を閉める手を止めるイキテレラ。
    「ああ、そうだよ。
     あんたがあまりにも不憫なんで
     ちょっと助けてあげたくなっちゃってね。」
     
     
    魔女が持っていた杖を振ると
    イキテレラのボロ服が美しいドレスへと変わった。
     
    「お次はこれだね。」
    庭に生っているカボチャが馬車に
    下水から顔を覗かせたネズミが馬に
    垣根を渡っていた猫が御者になった。
     
    「おおっと、いけない、靴を忘れていた!
     えーと、えーと・・・。」
    あたりを見回すも、靴になりそうなものはない。
     
    「ちょっと待ってな。」
    魔女は一瞬にして消えた。
    かと思ったら、次の瞬間には戻ってきた。
    「靴はこれで我慢しとくれ。」
     
     
    「髪もメイクも、鬼盛りしておいたから
     義姉たちにも気付かれる心配はないよ。
     ・・・どうしたんだい?」
     
    美しいドレスに、豪華な髪型になったイキテレラは
    呆然と立ちすくんでいた。
     
    「これで何をしろとおっしゃるの?」
    「だからお城の舞踏会に行かせてあげる、って言ってるんだよ。」
     
     
    イキテレラは、フッと笑った。
    「空腹なのに、プレゼントがダンスとは・・・。
     ああ、いえ、それも “奇跡” でしょうし
     価値観は人それぞれですわよね。」
     
    「何だい? 気に入らなかったかい?」
    「いいえ、とんでもない。
     そのお気持ちだけでも嬉しいですわ。
     お城に行けば、何か食べるものもあるでしょう。」
     
    「ああ、あんたが欲しい奇跡はお菓子の家の方かい。
     すまないけど、プレゼントってのは
     相手が欲しい物じゃなく、自分があげたい物を贈るものなんだよ。
     さあ、これを履いて。」
     
     
    魔女が差し出した靴に、足を入れてイキテレラは叫んだ。
    「冷たい! これ、何ですの?」
     
    「ガラスで出来た靴だよ。
     それしかないんだ。」
    こんなモロそうな靴、大丈夫かしら、とイキテレラはちゅうちょしたが
    仕方なく履いてみると、足にピッタリとフィットした。
     
    「まあ! あつらえたようにピッタリだわ。」
    「それは元々あんた用の靴なんだよ。」
    「どういう意味ですの?」
     
     
    「今、説明する時間はないんだよ。
     舞踏会はもう始まっている。
     これらの魔法は、今夜の12時で解けてしまう。
     あんたはそれまでにここに帰って来なければならない。
     急いで行かないと、間に合わないよ。」
     
    「あらまあ、段取りが悪いですわね。」
    「いいから、行っといで!」
     
    イキテレラを乗せたカボチャの馬車が走り出した。
     
     
     続く
     
     
    関連記事 : イキテレラ 2 10.5.13
           イキテレラ 4 10.5.19
           
           カテゴリー パロディー小説

  • 股関節

    朝起きたら、何故か片側の股関節が痛かった。
    関節痛のような痛みである。
     
    大した事はないので、気にせず一日動いたら
    その日の夜には、結構痛くなっていて
    夜眠っていて、寝返りか何かをしたらむっちゃくちゃ痛くて
    思わず 「うおおおおお」 とか、うなって
    それで目が覚める、みたいな状態になっていた。
    近所の人は、うちが獣を飼い始めたと思ったに違いない。
     
     
    そんで翌日には、もう足を引きずらないと歩けないようになってしまってて
    どうしたもんか、と悩んだ。
     
    まあ私のいつもの答は、“とりあえず様子見”。
    数日放置しといて、痛みが引かないなら
    グルコサミンとかコンドロイチンとか
    そこらへんのサプリに頼りつつ
    次の主治医 (内科) の診察の時に訴えよう、と。
     
    ああ? すぐに病院に行けだあ?
    国もうちも財政が圧迫している状態で
    そうホイホイ病院に行けるかよ。
     
    もう私は肝臓で通院を余儀なくされてんだよ。
    これ以上、医療費を捻出できねえよ。
    突発的な歯科通いとか、ほんときっついぜ。
     
     
    で、マジで杖が欲しいぐらいに
    ヒョコヒョコとしか歩けないのだが
    そんなんしてると、痛くない側の足に
    ものすごく負担が掛かるのがわかるんだ。
     
    こりゃしまいにゃ両側痛みだす、と思ったんで
    なるべく普通に歩こうとするけど
    ほんと痛いんで、どうしても足を引きずってしまう。
     
    そうこうしてると、通りすがりの人が親切にしてくれたりして
    ああ・・・、私、そういう価値のない人間なのに
    どうもすいませんすいません、とすげえ罪悪感にさいなまれて
    外に出るのが、ものすごく億劫になる。
     
     
    ところで、私は怒っている。
    私のこの痛々しい姿を見た知り合いは
    皆、一様に 「どうしたの?」 と訊く。
     
    で、正直に 「起きたら何故か痛くなってた。」 と答えると
    皆、一様に 「へえ・・・?」 と反応するのだ。
     
    お め え ら 他 に 言 う 事 は な い ん か い !!!
     
     
    包み隠さずに言うと、股関節が痛くなった時に
    あーあ、これ、誰かアホウが
    「エッチのしすぎちゃうん?」 とか
    くっだらん冗談を言うんだろうな、と思った。
     
    私は下ネタが嫌いなのだ。
    面白いものならまだ許せるが、そんな下ネタには滅多に会えないしな。
     
    ましてや今回は、痛いのにそういう癇に障る冗談を言われたら
    どんだけイラつくかわからんが
    私ももう良いオトナなので穏やかに流そう、と決意していたのだ。
     
    ところが誰ひとり何も言わない。
    ちょ、もう、そういうセクハラとは無縁のゾーンに突入したか?
    それとももっと進んでて、骨粗しょう症当たり前、に見られてるんか?
     
    それこそ冗談じゃねえぞ、まだそこまでは老いてはおらん!
    確かにつまらんギャグ等を言われると、無言で睨んだりするが
    私が構えている時は、とりあえず一通りの儀式はこなせ!
     
     
    と怒ろうかとも思ったが、怒れない事情があった。
    この股関節の痛み、実は寝違えなのだ。
    朝起きたら、うつぶせにひしゃげたカエル型に寝てたんだよ。
    んで、足を曲げてた側が傷んでた、という寸法なのだ。
     
    こんなん、人に言えんだろう・・・。
    これ以上に情けない股関節の傷め方があるだろうか?
     
    もしかして、この原因を見抜かれているんか?
    と想像したら、ほんと両手両足を床についてうなだれるほど
    虚しい気分で心がいっぱいになったさ。
     
     
    何だか色んな事が、もんのすごくモヤモヤする。
    どんな答であっても多分嬉しくない。
     
    痛みは3~4日でなくなった。

  • イキテレラ 2

    義母と義姉が浮き足立っていた。
    この街では、貴族の娘は適齢になると
    城で開かれる舞踏会で、社交デビューをするのである。
    義姉ふたりに、その招待状が届いたのである。
     
    「ああ、私の娘たちがいよいよ社交界に出るのね。
     もっと派手なドレスを作らなければ。」
     
    夢見心地の義母に、父が言う。
    「しかし、おまえ、この前ドレスを作ったばかりなのに・・・。」
    「このパーティーは特別なものですのよ!
     どこかの殿方に見初められるかも知れません。
     そのためにも、より美しく装わせて送り出すのが親の務めです!」
     
    娘の結婚、すなわち持参金
    それを想像しただけで、父親は腹が痛くなった。
     
     
    裏庭でじゃがいもの皮を剥いているイキテレラの視界に、靴が入り込んだ。
    顔を上げると、2人の義姉が立っている。
     
    「ふっふーん、イキテレラ、私たち舞踏会に呼ばれたのよ。」
    「おめでとうございます、お義姉さまがた。」
     
    イキテレラがニッコリと微笑んで言うと
    義姉たちが顔を見合わせてクスクスと笑う。
    「実はねえ、あなたにも来てるのよ、招待状。」
     
    「だけど」
    「あなたには」
    「行かせてあげない。」
    義姉たちは、高く掲げた招待状に、火を点けた。
     
     
    燃えながら舞い落ちる招待状を見て
    ビックリしているイキテレラに満足したのか
    義姉ふたりは笑い声を上げながら走り去って行った。
     
    イキテレラは、燃え残った招待状の切れ端を拾った。
    「ひどい事をするねえ。」
    声の方向を見ると、見慣れぬ老婆が垣根の向こうに立っている。
     
    「いえ、はしゃいでらっしゃるだけですわ。」
    イキテレラは、事もなげに言った。
     
    「あんたにも良い事があるよう、祈っといてやるよ。」
    老婆はそうつぶやきながら、ブラブラとどこかへ歩いて行った。
     
     
    舞踏会の日になった。
    義母と義姉たちは、朝から用意で大騒ぎである。
     
    手伝っているイキテレラを、父が呼び止めた。
    「すまない、娘3人の仕度はうちは無理なのだ・・・。」
    「良いのですよ、お父さま。
     そのような事でお悩みになると、お体に障りますわ。
     お義姉さまたちの準備はわたくしに任せて
     お父さまはゆっくり寝ていらして。」
     
    「イキテレラ!」
    義母の声に、イキテレラは歩き出した。
     
     
    やっと今日一日が終わった・・・。
    食事を取るヒマさえなかったのである。
     
    義姉たちを送り出して、さすがに疲れたのか
    イキテレラがベッドでウトウトとし始めた時
    窓ガラスがカツンカツンと鳴った。
     
    その音にハッと目が覚め、窓を開けると
    先日の老婆が立っていた。
     
    「あんたにひとつ奇跡をあげようじゃないか。」
    老婆は、ヒヒヒと笑った。
     
     
     続く
     
     
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           イキテレラ 3 10.5.17
           
           カテゴリー パロディー小説

  • 依存を止めると?

    今回のゴールデンウィークも、何のちゅうちょもなく
    ちょろちょろ片付けなんぞをしながら
    ホラー映画やゲーム三昧でいこう、と計画を立てた。
    そんで、その通りに過ごした。
     
    いつもいつも私の連休は、大型も中型も小型もこの調子である。
    行楽とか旅行とか、かろうじて行くとしても平日に行きたい。
    あふれる人、混む道、都会ならそれも我慢できるが
    嫌いな大自然で、それは勘弁してもらいたい。
     
    とか言って、とある地方の遊園地に真冬の平日に行ったら
    客が自分らだけで、きまずいの何の。
    貸し切りに出来るヤツって、並の神経じゃないとわかったよ。
    アンディスアンディス、やっぱ真の大スターだったわけだ。
     
     
    だけど今回のゴールデンウィークは、辛かった。
    何かな、ウツウツというより、胸が苦しいというか
    気分じゃなく、症状が出たんだよ、胸あたりを中心に。
     
    これの重い版の経験の記憶があるんだけど
    高校時代の自称パニック障害。
    これのごく軽い症状が出たんだ。
     
    この自称パニック障害も、多分間違った自己診断だと思うんだけど
    “発作” という感じになるんだ。
    胸が締め付けられる、っちゅうか
    胸がキュン (はぁと) じゃなく、握力弱くキュウーーーッて言うか
    そんで、息が苦しくなる時もある。
     
    もう年齢も年齢なんで、狭心症とかの心配をした方が良いと思うけど
    心臓の検査、去年の夏にやってるんだよ。
    胸が締め付けられる、動悸がひどい、という理由で。
    で、恥ずかしいぐらいに異常なしでさ。
    私の症状、全部気のせいかよ? と、己を責めたさ。
     
     
    去年は何ヶ月か、自称ウツに悩まされてたんだけど
    それが治ったと思ったのが、どうも再発したみたいだ。
     
    何で再発したのか、心当たりがまったくない。
    また言い始めてすまんけど、今度こそ更年期・・・?
    とか、あれこれ考えていたんだが、ひとつ思い当たった。
     
    まさか、禁煙・・・?
     
    禁煙する直前までの私は、喫煙行為にものすごく依存していた。
    それをすっぱり止めてから、いまだに吸いたいけど
    もう私の人生に喫煙はないので、吸いたいという欲求も放置である。
     
    この態度は、今後も一切変わらないのだけど
    気になるのが “依存”、この部分。
     
     
    依存って何でするんだろう?
    私の場合、喫煙する事で何かを心理的に回避していたんだろうか?
    そして代替行為を用意せずに、いきなり依存を打ち切った場合
    心に副作用っちゅうか、しわ寄せみたいなものがくるって事はないんか?
     
    この疑問は、あくまで可能性のひとつとしてであって
    禁煙が私のウツウツ発作の原因とは限らないし
    そもそも、このウツウツ発作も何なのかよくわからんし
    どっからどう考えれば良いのか、さっぱりなんだが
    上の依存の話、すんげえ気にならんか?
     
    依存するには理由があるだろ。
    その理由もわからんと、依存行為だけを止めて良いものか。
     
     
    でも、それでマズかったとしても、禁煙は止めん。
    しょうがねえじゃん、諦めてくれよ、と私の心理に言うだけだぜ。
    本人が知らないとこで、何を勝手にコソコソやっとんのか
    それを責めないだけでも、ありがたく思ってほしいわ、私の心はよー。
     
    なので、私の対策は何もなしで
    このウツウツ発作も、内科の主治医にちょっとドーピングしてもらって
    あとは気合いで乗り切るつもりである。
     
    ダメでも、人生が楽しくないだけだろ?
    何となく最近は、そんなに幸せにこだわる気持ちもないし
    不幸で何か問題があるんかな、とも思っているから
    出たとこ勝負でいこうと決めている。
    最悪のたれ死になだけじゃん。
     
    と、私は自分を観察していくつもりなんだが
    これは責任の少ない孤独老人だから、やれる事である。
    家族がいるヤツ、先の人生が長いヤツは
    とりあえず妙な自己観察はやめて、真っ直ぐ生きろ。
    私が人柱になって、たまにレポートするからさ。
     
     
    依存行為を止めようとしている人は
    こういう事が起こる可能性についても、よく考えて
    なるべく自分の心に負担が少ないようにすればいい。
     
    けどさ、今の世の中、自分を大事にとか自分にご褒美とか
    ちょっと自分を甘やかせ過ぎじゃねえ?
     
    確かにストレスの多い環境かも知れんけど
    それは知恵がついた事による弊害だと思うぞ。
    いくら環境を整えても、ついた知恵が消えない限り
    悩みは尽きないと思うがな。
     
    これも心に留めて、依存に対処していくべきだと思う。
     
     
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  • イキテレラ 1

    大きな城下町の隅っこの、大きな家の裏庭で
    その家の娘、イキテレラが洗濯をしていた。
    そこに声を掛けたのは、野菜売りの女。
     
    「こんにちは、何か入り用はないかい?」
    「そうねえ、最近お義姉さまたちが少し太ってきていらっしゃるから
     さっぱりしたスープを考えてるんだけど・・・。」
    「だったら今朝採れたばかりのカブはどうだい?」
    「あら、それは良いわねえ。」
     
     
    野菜を選びながら、世間話に花が咲く。
    「しかし、あんたもよく辛抱しているねえ。
     この家の直系はあんたなんだろ?
     なのに後妻とその連れ子たちに、召使いのようにコキ使われて。」
     
    野菜売りの同情に、イキテレラは微笑んだ。
    「良いのよ、わたくし、家事には慣れていますもの。
     お義母さまたちも、悪いお方じゃないと信じていますの。
     尽くしていれば、いつか仲良くなれますわ。」
     
    家の中から、女性のヒステリックな声がする。
    「イキテレラ! イキテレラ、どこなの!」
    「あら、上のお義姉さまが呼んでらっしゃるわ。」
     
    その声を聞き、野菜売りが絶望的な顔をして
    まあ頑張んな、とイキテレラに言い残して去って行った。
     
     
    「何ですの? お義姉さま。」
    「イキテレラ、あんたにこの前頼んだドレス、どうなってるの?」
    「それなら、もう出来ておりますわ。」
    「出来たんなら、さっさと持って来なさいよ!」
     
    姉に手直ししたドレスを着せる。
    「胸元の切り替えを鋭角なデザインにしてみましたの。
     ああ、ほら、こちらの方がずっとお似合いですわ。」
     
    鏡の前で、義姉が納得したように胸を張る。
    イキテレラが、肩のラインを整えながら言う。
    「今度からドレスを新調なさる時は
     首が少しでも長く見えるものをお頼みになるべきですわ。
     お義姉さまの魅力が引き立ちましてよ。」
     
     
    「イキテレラ! イキテレラ!」
    下の義姉が叫んでいる。
    「お義姉さま、何でしょう?」
     
    「今夜のメニューは何なの?
     あんた、用意が遅いんだから、さっさと取り掛かんなさいよ。」
    「はい、ただいま。
     今夜はキジ肉のローストにカブのスープです。」
     
    「はあ? たったそれだけ?」
    「ええ、お義姉さま、この前の採寸の時に
     かなりサイズが変わってらっしゃったでしょう?
     少しお食事を控えた方がよろしいと思いますの。
     このままじゃ、ドレスを全部新調しなきゃならなくなりますわ。」
     
     
    「それは困る。」
    現われたのは、イキテレラの父親であった。
    「うちは貴族とは言え、財政が厳しいのだ。
     娘たちよ、我慢しておくれ。」
    義理とは言え、父にはそう強くも言えず、義姉は無言で部屋を出て行った。
     
    「イキテレラ、おまえにも苦労をかけてすまないのお。」
    父の言葉に、イキテレラは優しく答えた。
     
    「良いのですよ、お父さま。
     ご病弱なお父さまに、働けと言う方が間違っていますわ。
     さあ、お体に障りますから、お部屋でお休みになっていて。」
    イキテレラは父を寝室へと送っていった。
     
     
    気も体も弱い父と、意地悪な後妻とその連れ子の2人の姉
    イキテレラは朝から晩まで、家事に追われる日々であった。
     
     
     続く
     
     
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