投稿者: あしゅ

  • ジャンル・やかた 68

    ジジイに呼ばれた医者に鎮静剤を打たれて、アッシュは再び眠りに落ちた。
    「しばらくは、様子次第で鎮静剤を頼む。」
    そう医者に告げて、部屋を退出したジジイにデイジーが食って掛かった。
    「主様に何をしたんですか!!!!!」
     
    ジジイは、丁度良かった、と思いつつデイジーに命じた。
    「この部屋は、医師と看護士のみの待機にする。
     あんたは用事がある時以外はこの部屋に来るでない。」
     
    何故ですか! と、激怒するデイジーにジジイは怒鳴った。
    「主代行の命令に質問をするとは何事じゃ!
     聞けぬなら、あんたを世話係から外すぞ!!!」
    ジジイの剣幕に、デイジーは黙りこくった。
     
    構わずジジイは背を向けて去った。
    主としてしか見ないヤツは、今のアッシュには酷じゃからの。
     
     
    目を覚ましては泣きじゃくるアッシュに、再び鎮静剤が投与される。
    もう数週間もアッシュはベッドから出ていなかった。
    鎮静剤のせいで、常にもうろうとした状態になっていた。
     
    それでも朝になると、看護士がカーテンを開ける。
    ある日、ふとつぶやいた。
    「あら、今日は良い天気になりそうね。」
     
    その言葉に、アッシュが目だけを窓に動かした。
    ローズが必ず天気の話をしていたからだ。
     
    今日は雷がきそうだね、重そうな雲がやってきてるよ
    乾いた空気だね、ハーブに水を多めにやっとかないとね
    今日は暑くなりそうだね、帽子を持っていきな
    そろそろ寒くなりそうだね、空があんなに高くなっちゃったよ
    今日は良い天気だね、鳥の声がよく響いているよ
     
     
    以前はローズの事を思い出すのさえ封印していた。
    だが今は、毎日毎分毎秒ローズの事しか考えられない。
    ローズが恋しい ローズに会いたい
    そう思ってしまう自分を止められないでいた。
     
    しかしアッシュが今死のうと、ローズには決して会えないのだ。
    それどころか自分が死を選ぶ事は、ローズを2度裏切る事になる。
     
    1度目は、ローズに隠れて殺人を繰り返した事。
    ローズに罪をかぶせたのは、裏切りではない。
    あの時はローズの自殺に怒り狂って
    仕返しのつもりで、その死にすべてをかぶせたのだが
    ローズはそれを望んでいた、と今のアッシュにははっきりとわかっていた。
     
     
    「あんたを守る」
    この言葉は、アッシュを疑いから逃そうとするだけではなく
    アッシュが死なないようにするためでもあった。
     
    ローズの自殺によって、アッシュは現世に縛られる事になったのだ。
    アッシュはそう考えると確信しての事である。
    ローズは確実にアッシュを守った。
    命だけは。
     
    ローズの誤算は、自分のカルテが診療所に残されており
    それをアッシュに見られるなど、予想もしていなかった事だった。
     
     
    アッシュが微かに喋った。
    「・・・窓・・・・・が・・・遠・・い・・・?」
    看護士がそのか細い言葉にハッとし、アッシュの方を振り返る。
     
    アッシュは、目を開けたり閉じたりしていた。
    「何をなさっているんですか?」
    看護士がアッシュの横にひざまずいて訊ねる。
     
    「・・・右・・目が・・・見・・え・・ない・・・・・。」
    「えっ?」
    看護士の聞き返しに、アッシュは答えずに口を閉じた。
     
     
    医師が看護士の連絡で大慌てでやってきて、アッシュの目を検査した。
    右目が確かに見えていないらしい。
    アッシュは再び街の病院に搬送された。
     
     
    続く。
     
     
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          ジャンル・やかた 69 10.4.8
          
          ジャンル・やかた 1 09.6.15

  • 禁煙宣言

    もう、これを言うと、絶対に説教されるとわかっているので
    人にも問診表でも、正直に告白した事は1度もないが
    初カミングアウトをすると、私の喫煙本数は1日3箱ちょいである。
     
    何でここまで本数が増えたのか、心当たりがまったくないが
    ブレーキを掛けようとしないと度を越す性格、って事なんだろう。
     
    今までに禁煙をしようと思った事はない。
    節煙を1度試みたけどすぐ挫折したので
    はなから諦めて、やめようなど思いもしなかった。
     
    だけど、禁煙をする事にした。
     
     
    理由はただひとつ。
    “健康のため” ではない。
     
     売国奴政府に、もう余分な税を払いたくない!
     
    今から日本は、移民の国の道を辿るだろう。
    私は日本人のための日本の、最後の世代になるような気がする。
    もう安全に暮らせる国じゃなくなるだろうから、本当に後世に申し訳ない。
     
    だからせめて、現政権に協力をしないようにする。
    日本のためなら、バカにされながら金を取られても良いんだが
    他国のためにそれは、プライドが許さない。
     
    その内、日本にいながら 「日本人だ」 と差別される時代になるぞ。
    アメリカだって先住民は、迫害どころか虐殺されたしな。
    “人権” は日本人以外のためにあるのだと気付け。
     
     
    何ちゅう理由だ、と思われそうだけど
    元々貧乏なところに、タバコ税値上げの話になって
    その理由が、「国民の健康を守るため」 とかで
    ウソつけ!!! と、ブチーーーッときてな。
     
    どうせ子供手当ての財源の一部にするくせに
    いかにも日本国民の事を考えて、という言い草が許せないんだよ。
    タバコをやめるのが、効果的な反抗とは思えないけど
    私は私で、地道な抵抗をしていくだけだ。
     
    周囲には禁煙理由を、経済的苦難のため、とする。
    憂国者だと知られたら、リアルでは生きにくくなりそうだからだ。
     
    だが本当は、願掛けみたいな部分もあるんだよっ!
    日本を守ってください、と。
    あー、エコやら平和やらには、ほんとイライラさせられる!!!
     
     
    それで禁煙を決心し、どうやって達成しようか思案していた。
    私は普段から呼吸が浅いので、タバコもほぼ空ぶかしになっている。
    ニコチンの中毒はそんなにないと思うんだ。
     
    つまり、タバコを吸うという行為に依存しているわけだから
    他の依存先を見つければ良いわけだ。
     
    えれえロクでもねえ考えだが、これが近道だろ。
    スッパリ依存を断ち切ろうとするから挫折するんだよ。
    どっかで逃げ道を残しておかないと、悪循環になると思う。
     
    依存と言えば薬物やアルコールだが、それは論外。
    タバコより金が掛かる上に、廃仕様の人生になる。
    コーヒー、コーラ等は、歯に悪いし
    他に良い依存先、良い依存先・・・。
     
     
    そんな時に、電子たばこのTV通販を見た。
    以前にもここのコメントで、誰かに教えてもらった記憶があるが
    これがあったか!!!
     
    これなら、“吸う” という行為を続けられるし
    禁煙パイポ系は、どうも物足りない予感がして除外してたが
    電子たばこなら煙も出るから、臨場感も増すってもんだ。
     
     
    という事で、私は電子たばこで禁煙を始める。
    電子たばこも、色んな種類があるらしいから
    物色している最中である。
    買ってしばらく使ってみて、レポする。
     
    これでダメなら、ニコチンパッドみたいなんも併用するとしよう。
    二段構えでダメでも、やめにゃしょうがねえしな。
     
    後は根性のみだが、薬中とかアル中とか何でやめられないの?
    と常々思っていたんだが、いざ自分の番になると、ほんと不安。
     
    自分を制御できんと、人生破滅なんで
    あちこちで禁煙宣言をして、追い込みを掛けるさ。
    私は他人を容赦なく追い詰めるけど、自分もとことん追い込むぜ!
     
     
    よって、しばらくの間、イライラしとるだろうが
    それは依存症の更生のせい、という事で
    ニヤニヤして見物しといてくれ。
     
    更年期更年期言うて、荒れ狂っていたのを反省したかと思えば
    次は禁煙で荒れ狂うんかよ、という意見、ごもっともです。
    ほんとすいませんほんとすいません。
     
     
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    タバコ中毒の真相 10.4.19
                  
    電子タバコ 2 10.4.21

  • ジャンル・やかた 67

    点滴だけでは体力が持たないので、鎮静剤を減らしていったある日
    アッシュは薄っすらと目を開けた。
     
    デイジーが大声で呼び掛けた。
    「主様、主様、あたしがわかりますか?」
     
    アッシュは無反応だった。
    またすぐ目を閉じて、眠りに入った。
    デイジーは思わず泣いてしまい、看護士が慰めた。
     
     
    館には、長老会のメンバーが代わる代わる見舞いに訪れていた。
    その度にアッシュの無反応に落胆して帰って行く。
     
    こんな事になるぐらいなら、あの生意気で何様な主のままで良かったのに。
    誰もがそう思ったのは、館の変貌ぶりを見てである。
     
     
    人も建物もゴミだった、あの近寄りたくない館だった頃とはうって変わって
    今では壁も廊下もピカピカで、庭も秩序正しく花が咲き誇り
    ベンチが連なり、東屋まである池には水鳥が優雅に泳いでいる。
     
    広大な畑には、キレイに畝が作られ作物が生い茂っている。
    牧場は鶏が走り回り、羊や牛がのんびりと草を食み
    馬に乗って見回りに行く飼育係の姿が見られる。
     
    何より、清潔な制服を着た住人たちが、すれ違う度に挨拶をしてきて
    活気に溢れる、理想とも思える集団生活の場になっていた。
     
    画像で観てはいたのだが、実際に現場に来てみないと
    漂う空気の清浄さまでは実感できなかった。
    あの汚れた館が、まさかここまで変わるとは信じられない。
     
    それだけに、この改革をした主があんな状態なのが悔やまれる。
    我々は主に何をしてあげただろう
    そう嘆くメンバーもひとりふたりではなかった。
     
     
    住人たちは、館に来る長老会メンバーに驚いていた。
    大きな花束や、美しいリボンで飾られた箱を手にして
    黒塗りのリムジンでやってくる、身なりの良い紳士たち。
    挨拶をすれば、こんな自分にも微笑んで丁寧に返してくれる。
     
    そのお偉いさんたちは皆、俺たちの主様のお見舞いなのである。
    住人たちは、主を誇りに感じるようになっていた。
     
    これで主様が元気になれば・・・・・
    長老会も住人も想いは一緒だった。
     
     
    そんな中、ひとりだけ絶望を感じていた人物がいた。
    とうとうアッシュの面会謝絶を命じたジジイである。
     
    2週間が過ぎた頃から、アッシュは時々目を開けるようになった。
    ただでさえ貧血に栄養失調があるので
    短期間の絶食でも、全身の肉が削げ落ちて筋肉も衰えてしまい
    点滴のみの栄養補給では限界だと医師が感じ、鎮静剤を減らしたのである。
     
    目を開けても、誰の呼びかけにも無反応で
    ただ涙ばかりがこめかみへと伝い続ける。
    このような姿を、皆には見せられない。
    たとえ長老会のメンバーであろうとも。
     
    さすがのアッシュびいきのジジイも
    これはもうダメかも、と思い始めていた。
    ローズの存在が、それほどアッシュにとって大きかったとは・・・。
    今更ながらじゃが、ローズ、自殺したあんたを恨むぞ。
     
     
    ジジイは看護士もデイジーも部屋から追い出し
    寝ているか起きているかわからないアッシュに語り始めた。
     
    ローズはガンだった。
    診療所に行った後に、街の病院で検査をして
    そのまま館に帰ってきて、診療所には鎮痛剤を貰いに行っていた。
    進行は遅いけど、ガン細胞が転移した後で手術も望み薄な状態だったからだ。
     
    「ローズは入院して余命を伸ばすより
     あんたの側にいる事を望んだのじゃよ。
     最初の兆候は、バイオラが亡くなるちょっと前の事らしいんじゃ。
     あんたが襲撃された時に、バイオラが側にいたのは偶然じゃなく
     バイオラに後を託そうとしたんかも知れんなあ。」
     
    ジジイがひとり語りのように、そうつぶやいた時にアッシュが叫び出した。
     
    「ああああああああああああああああああ」
     
    だが、久しぶりに出したせいか、かすれた小声である。
     
     
    身をよじりながら泣くアッシュを
    ジジイが背をポンポンと叩きながら言った。
    「もう良いんじゃよ、あんたは頑張りすぎた。
     後の事は全部わしに任せて、あんたはゆっくり休むんじゃ。」
     
    背中をさすりながら、アッシュに未来を思い出させようと優しく語るジジイ。
    「どこがええかのお。
     あんたはもう、主の年金受給資格も持っておる。
     好き放題暮らせるんじゃぞ?
     ゲームし放題じゃぞ?」
     
    ヒックヒックとしゃくりあげるアッシュに、ジジイは続ける。
    「おお、あんた、前に海辺で暮らしたいと言っておったな。
     ここから一番近いのは、西のカルミア地方じゃ。
     あそこは温暖で良い土地じゃ。
     長老会の管轄内じゃし、わしもちょくちょく行ける距離じゃ。
     いや、管轄外であっても、誰も否とは言わんじゃろう。
     あんたは皆に愛されとるんじゃよ。
     だから、あんたにはもう誰も何も押し付けんよ。
     したいようにしておくれ。」
     
     
    今のアッシュには自分の事など、どうでも良かった。
    自分はローズの死を穢したのである。
     
    私が殺してあげるべきだったのに・・・・・
     
    アッシュには、ローズの後を追う資格もなく
    どうやって息をすれば良いのかすら、わからない状態だった。
     
     
    続く。
     
     
    関連記事: ジャンル・やかた 66 10.3.31
          ジャンル・やかた 68 10.4.6
          
          ジャンル・やかた 1 09.6.15

  • 無人島に持っていくもの

    ひとつだけ、とか条件を付けられて、この質問をされるが
    「何でも出来て丈夫で長生きする下僕」 という答は
    “もの” じゃないから、却下だそうだ。
    この答は、ほんと人間性を見られるから、良い子の皆はしないように。
     
    災害に備えて、水だ携帯食料だ救急キットだ、と備蓄をするくせに
    何でこういう質問をするかなー、と思わんでもないが
    この問いには、結構考えさせられる。
    と言うか、かなり達観しないと答が出せない。
     
     
    “もの” を1個だけ・・・。
     
    ランプからマッチョおやじが出てきての、3つの願いでも
    「何度でも願いを叶えられるようにして」 は、ダメだそうで
    そのルールは誰が決めたんだよ! と、怒り心頭だが
    そんなルールは、叶えるヤツが決めて良いに決まっとる。
    けど、欲を刺激されると、ゴネ始めるのが人情である。
     
    ちなみに私の3つ願いは
    「心身ともの健康」「不自由しない金」「不自由しない人間関係」
     
     
    年を取るとなあ、3つの願いとかのメルヘンなんか言っとる場合じゃなく
    現実面で、そこらへんの欲が厳選されていくんだよな。
     
    こう、両手にいっぱい物を抱えているのに
    更にどんどん荷物が到着してくる。
     
    若い頃は体力と勢いで欲張って、それらを一気にかつぐ事が出来たけれど
    老いてくると、腰は痛いし足はむくむし息切れはするし
    どれかを受け取るには、どれかを諦める、どころじゃなく
    更に手持ちのものまで捨てなきゃいけない、って状態になるんだ。
    何ちゅうか、倍捨て? 結果、手荷物目減り?
     
    これをしないと、押し潰されて身動きが取れなくなり
    精神的に持たなくなると思う。
     
     
    だからこの問いは、年寄りほど即答できる気がする。
    捨てさせられる事に慣れているから。
     
    私はまだまだ未熟なのか、えれえ考え込んだよ。
    現実生活に絶対に必要なもので、消耗品じゃないやつ。
    どう考えても、刃物セット (注: 砥石付き) なんだ。
     
    “切る” って行為だけは、自然じゃ無理っぽくねえ?
    石を削って槍にする、とかよく言うけど
    それ、ほんとーーーーーに出来るかあ?
    ここらへんの自信がないから、私はとにかく刃物でいいよ。
     
     
    でも、無人島でひとりきりで生きなきゃならん
    なんて事になったら、正直生きる気がなくなると思う。
     
    てかさ、この問いって大昔からあるよな。
    アラジンのランプとかが元凶だと思うんだが
    何のためにこういう質問があるのか、不思議だと思わんか?
     
    もしかして、生きる意欲を試している、とか
    隠された深い意図があるのかも知れん。
     
     
    こんな禅問答みたいな事を、何日も真剣に考えてるのは
    切羽詰ってると思ってた自分の生活が
    実はえれえ余裕があるんじゃないか? と思ってみたりもする。
     
    貧乏ヒマなし、と言うけれど、現代の貧乏はヒマなんかも。
    だとしたら、日本ってやっぱ、やっただけ返ってくる良い社会なんだな。

  • ジャンル・やかた 66

    アッシュの連日の、ジョブ・ゴーゴー演説の成果なのか
    館の生産量は予定よりも大幅に上がった。
     
    村に作られた館直売所の売れ行きも好調で
    ハムの他、チーズなどの乳製品にも力を入れようとしている最中である。
     
    デイジーの熱心な和食研究と、アッシュの単純な味覚の賜物か
    和食を知らない人にも容易に受け入れられる、安い日本食コーナーも
    当初の予想を覆して好評で、街から食べに来る人も増えた。
     
     
    長老会でのアッシュの評価は、これによって不動のものとなったが
    同時に生意気さという、マイナス要素も目立ってきていた。
    熱心にやってるかと思えば、もう何もかもどうでも良い、と
    厭世観をむき出しにしたりと、不安定な心理状態が続いていたのだ。
     
    デイジーやアリッサの、大丈夫ですか? という心配にも
    いや、単なる更年期だし、と流し
    本人が気付いていない分、余計に始末に負えなかった。
     
    正に、“荒れている” と周囲には映っていたのだが
    やるべき事はやっているし、まあ、そのぐらい
    という温情で、アッシュの無体は見逃されていた。
     
     
    アッシュが診察を受ける気になったのは
    ゲームを長時間続ける気力がなくなってきたためだった。
    目も疲れやすくなったし、こんなこっちゃLV上げもままならない。
     
    何か一発、元気が出る薬 (注: 合法薬) を処方してもらおう
    という、軽々しいドーピング気分であった。
     
     
    診療所は5階にある。
    リハビリ室や、トレーニングルームと同じ階である。
    アッシュがアリッサの整体以外の用事で、この階に来る事は滅多にない。
     
    何せ、“主様” だから、フリーパスである。
    アッシュはノコノコと受付けに入っていった。
     
    「あっ、主様!」
    受付けってのは、何でどこもこんなに美人揃いなんだろう
    アッシュは久々に気を良くして、カウンターに両肘を突き
    美人受付け嬢に診察をお願いした。
     
    美人受付け嬢が、医師のところに行った時に
    開けっ放しにされたドアから、事務室の棚が見えた。
     
    何となく眺めていたら、Rの項目にROSEというインデックスがある。
    アッシュは、護衛の制止を振り切って
    カウンターを乗り越え、そのカルテを取った。
     
     
    ローズだって、医者にかかる事ぐらいあったはず。
    カルテがあっても不思議じゃないのだが、何故かそれを見逃せない。
     
    開いたカルテの中には、“krebs” と書いてあり
    アッシュには、その単語だけが読めた。
    看護士の友人に習った事があるのだ。
     
    ローズの名前を見ただけで、頭の両脇の血が引いているのに
    更にその単語がある事で、心臓をドスッと拳でどつかれた感覚になった。
     
    うう・・・、とその場にうずくまったアッシュの異常に
    護衛がカウンターを乗り越え、アッシュを抱きかかえて叫んだ。
    「誰かーーー、早く来てくれーーーーーーーーーー!!!!!!」
     
     
    慌ててやってきた医師と受付け嬢は、アッシュの様子に驚いた。
    胸を押さえながら息が吸えない状態で、もがき苦しんでいる。
    何かの発作だと思われた。
    酸素マスクを着けるも状態が変わらず、心音が異常に高鳴っている。
     
    護衛が、これです、と差し出したカルテを見て
    医師はこの状態がヒステリーによるものだと判断した。
     
    が、何かの疾患の可能性も捨てきれない。
    医師は救急車の手配を決断した。
     
     
    街の長老会管轄の病院に入院したアッシュは
    一応、主だという事で、頭の先からつまさきにいたるまで
    全身をくまなく検査された。
     
    顔と頭が飛びぬけて悪い以外は、さしたる異常は見られなかった。
    貧血と栄養失調ぐらいである。
    今回の症状は精神的なものだと診断された。
     
    長老会のメンバーが見舞いにやってきたが
    アッシュは鎮静剤を点滴され眠り続けていて、反応はなかった。
     
     
    主の入院という事で、館にも長老会にも衝撃が走り
    病院長まで呼び出されて、どうするかを何日も会議で話し合われたが
    病気は何ひとつない、という事で
    アッシュは眠ったまま、館に移送される事になった。
    長老会管轄とは言え、人の多い街の病院では警備面に不安があるからである。
     
    アッシュの寝室は改築中だったので、客用寝室に運ばれた。
    デイジーは、アッシュの側を離れなかった。
    眠る時は、部屋のソファーで寝た。
     
     
    アッシュはそのまま、何日も何日も眠り続けた。
    ジジイが主代行として、館に滞在する事になった。
     
    館は過去にないぐらいに、揺れに揺れていた。
    講堂に住人たちが折を見ては訪れ
    主のいない演壇に向かって、自己流の祈りを捧げていた。
     
     
    続く。
     
     
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          ジャンル・やかた 1 09.6.15

  • 刹那

    もう、言葉からして、耽美なイメージがあるんだが
    現実生活にこんなものはいらん! と、断言する。
     
    ババアになった今だからこそ、言える事なんで
    若いもんは耳をかっぽじいて聞いとけば、良い事もあるかも知れん。
     
     
    私も何百年前だったか忘れてしもうたが
    若かりし頃はチャラチャラしとった。
    毎日が普通に来て普通に終わって、何の不都合もなくて
    イヤな事があっても、その場をしのげれば後はどうでも良かった。
    そういう日々がずっと続くと信じて疑わなかった。
     
    20代も中盤になると、人生のすべてが決まってしまった、と思えた。
    自分の道はこの足元の1本に絞られて
    努力しても、ちょっと良くなるだけで
    そう大して変わらないんだろう、と諦めていた。
     
    かあちゃんの、「まだまだこれからなのよ。」 という言葉も
    虚しく聴こえるだけで、到底信じる気分になれなかった。
    不幸だったわけではないけど、“決まってしまった” というのが
    何だか窮屈に思えて、絶望まではいかないまでも
    あーあ、って感じの心境だったんだ。
     
     
    ところが、あれやこれやと色々あって
    すっかりババアになった今になってみると
    何かもう、人生えれえな展開になっとって
    しかも自分は実は、そんなに苦労してきていなかった
    努力もしていなかった、そう気付いてしまった。
     
    その時その時で、すんげえ辛い想いはしてるんだけど
    それは感情であって、“苦労” じゃないんだ。
     
    気分が落ち込んで苦しい時は、どうにかしようと
    気分転換になるような事をして乗り切ってたけど
    それも単なるその場しのぎにしか過ぎなかった。
     
     
    楽しい事ってのはな、結局は思い出にしかならない。
    そういう思い出は、心の支えにはなるけれど
    昔を思い出して懐かしむ、なんて情けない。
     
    良い時が若い頃の武勇伝のみで、それを脳内でリピート再生して
    昔話ばかりしている年寄りにはなりたくねえと思う。
     
    年を取ってきた時の、本当に役に立つ財産ってのは
    頑張って勝ち取ってきたものなのだ。
    金銭でも人脈でも地位でも知識でも心の強さでも、何でも良い。
    とにかく、これをした! と、胸を張って言える何か。
     
    苦労は買ってでもしろ、という格言があるけど
    あれは真理だと、今になってようやくわかった。
     
    “苦労” というのは、切磋琢磨、試行錯誤する事であって
    どうにかしよう、と逃れる術を考える事じゃない。
    立ち向かおうとする意気込みを言うんだと思う。
     
     
    まだ若造の分際で、「道は決まった」 とか、ほざいていたけど
    ババアになった今でも、いや、ババアになればなるほど
    明日がわからなくなってくる。
     
    それは自分ではどうにもならない支障が増えるのが、理由のひとつ。
    運動神経が鈍って、1cmの段差につまずくとか
    体の節々が痛むとか、今考えてた事を忘れて思い出せないとか
    信じられない老化が押し寄せてくる。
     
    明日はどう衰えてるのか、もうすんげえ恐怖でなあ。
    ある意味、自分が日々生まれ変わっている気分さ。 劣化コピーで。
     
    そんでもういっちょの理由は、死が現実のものとして目の前に控える事。
    周囲で死に事が多くなってきて、それが自分の年齢と近くなってくる。
     
    でもただポックリ死ぬのなら、まだ幸せだと言える。
    ボケただの、寝たきりだの、介護だの
    リアルに自分の近い将来の問題として、ドーンと鎮座されちゃう。
    自分がどう死ぬかわからない不安、それが一番恐いものだったとは!
     
     
    ほんと、20代なんて人間としてまだまだ新品である。
    そういう時に財産を貯えておかんと、後々絶対に後悔する。
     
    何度も言うが、ジジイババアになってからが長いんだよ。
    車や家電は10年20年使えるのに、翌年には型落ちだろ。
    人生もそうだと思われているけど、実は古ぼけてからが勝負時なんだ。
    長い生の中、若い時なんて一瞬なんだよ。
    その体が動く時に、何か頑張っておくべきなんだ。
     
    私は今、後悔しているよ。
    無条件に安泰を信じて、無意識に刹那を感じて退屈していた事を。
    切羽詰ってなかった、あの頃の自分を。
     
     
    だけど今こうやって、年取った年取った、と言っているけど
    多分、平均寿命から考えても、あと数十年は生きる。
    その時になって、再び過去の自分を恥じたくないから
    まだ頭や体が動く今の内に
    私は刹那を捨てて、未来を考えて生きていこうと努力したい。
     
    若い頃のチャラチャラ仲間なんかも
    皆グチグチ嘆いてはいるけど、何とか少しずつでも備えていってる。
     
    過去に生きる人として、生を終えたくない年寄りは
    あがいてあがいて必死こいている。
    たとえ未来がどうなろうと、今の頑張りは無じゃないと信じて。
     
     
    どうやら人生は、何度でもやり直せるみたいなんだ。
    道も1本道じゃなかったんだ。
    自分が気付けば、だけどな。
     
    年を取るのが恐いかも知れないけど
    年を取った自分は、また違う自分になっている。
    恐がってた昔の自分を鼻で笑えるほどに。
    それも自分次第のようだが、きっとそうなれると信じる。
     
    一生苦労する気になれば、人生、結構良いもののような気がする。

  • ジャンル・やかた 65

    「まず、この書類を見てくださいー。」
    アッシュが示し、リリーが書類を配る。
     
    あらかじめ提出しておかなかったのは
    その場で提案し、勢いのみで押し切ろうという
    アッシュのいつものやり方であった。
     
     
    「館は畜産だけでも、牛、豚、羊、鶏を飼っていますー。
     それに加えて、広大な畑で様々な作物も栽培していますー。
     しかしその収穫物は、住人が消費する以外は
     村にちょろっと卸すぐらいなんですよー。」
     
    「それがどうしたんだね?」
    「この館、寄付金と税金で運営されているんですよねー?
     皆さん、寄付していらっしゃいますよねー?
     それを “投資” にしてみませんかー?」
     
    まるで、どこぞの不認可金融取引セミナーのような話である。
    メンバーもやれやれ、と落胆した。
     
     
    「館の産業は、昔ながらの方法でやってるんですよー。
     つまり人の手ですべてまかない、化学薬品も極力使わないー。
     今で言うところの “自然派” なんですー。
     それが実に丁寧で美味いんですよー、野菜も肉もー。
     これは充分に “館” ブランドとして、売れるレベルなんですねー。」
    捲くし立ては、アッシュの真骨頂である。
     
    「村のリサーチもしてみましたー。
     街が館の本拠地なら、村は館の最前線ですー。
     村の人々は、細々と生活を営んでいて
     大きい買い物は街まで行ってるんですー。
     店が充実していないー。」
     
    アッシュは、館での演説のように声を張り上げた。
    「そこでー!」
     
    「村に館ブランドの製品の直売所を作るんですー。
     乳製品はまだ生産量が弱いですが、野菜や肉は充分に出荷可能ですー。
     この提案に、村人の反応は好評でしたー。
     販売の仕事をしたいという人もいますー。
     売り場所を作る資金がないなら、ネット販売も視野に入れれば良いしー
     館の仕事を自給自足主体ではなく、商売にするためには
     もっと効率を考える必要があって、その計画書がこれですー。」
     
     
    ここまできたら、徐々にメンバーも興味を持ち始め
    リリーが配る書類を食い入るように見る。
     
    「自給自足も良いけれど、やはりお金は回さなくては集まってこないー。
     外貨を稼ぐのが、経済の第一歩だと思うんですー。
     それで軌道に乗って採算が取れるようになったら
     館への税金の投入が少なくなり
     皆さんの “寄付” も “投資” になるかも知れませんー。
     まあ、これは順調に行けば、ですがー。」
     
    「ふむ、これは良い計画だと思うが、そう上手くいくかね?」
    その指摘に、アッシュはイヤミったらしく溜め息を付いた。
     
    「まったく気が短いー。
     いいですかー、この計画はかなりの長期で考えてくださいー。
     最初は口コミで売るしかないですが
     私が死んで、館が浄化された後なら
     広報部を作って、館の存在を広くアピールできますー。
     それからが、儲けを考えて良い時期に入ると思いますー。
     まあ、私が死ぬか、作業が上手く回るようになるか
     どっちが先かまでは計算できませんでしたがねー。」
     
    「きみの寿命次第かね、はっはっは」
    間の悪いギャグを飛ばすおやじに、アッシュが眉ひとつ動かさずに言った。
    「私の自然死を待てなければ、殺せば済む事ですがねー。」
     
     
    「そんで、これが販売所と売買許可証の申請書ですー。
     私ら館にいる人って、公務員なんでしょー?
     税金で給料貰ってるんですもんねー。
     気付きませんでしたよー、もうドビックリですわー。
     公務員の副業って基本的には禁止ですよねー?
     だから館に商業部を作りたいんですが
     そのへんのお力添えもお願いしたいんですー。」
     
    リリーが次々に出す書類に
    「手回しが良いでーすねえ。 これを1ヶ月足らずで?」
    と、若いメンバーが驚くと、アッシュが人指し指を上下に振って
    「そう、それ!!!」
    と、大声を上げた。
     
    「改築費用の捻出法を考えていて、ふと館の図面を見たら
     そこに大きな可能性が広がってるじゃないですかー。
     もう、愕然としましたよー。
     今までは倫理だの道徳だのばかりに焦点を当てて改革してきたけど
     腹が減ったら正義どころじゃないですもんねー。
     今後はいかに他人を受け入れて、館を社会に帰属させるかですよー。
     それが出来て初めて、“改革” と言うんですよー。
     それに気付いてからはもう、ドタバタで走りたくりましたよー。
     まったく、ニートには盲点なジャンルでしたねー。」
     
    若いメンバーは、ほうほう、と感心したようにうなずいた。
    「それで、改築費用はどこから捻出するんでーすかあ?」
    「はいー?」
    アッシュはキョトンとした表情をした。
    「いや、店は改築じゃなくて・・・・・ あっっっっっ!!!!!」

    肝心の寝室の改築の事を忘れていて、頭を抱えるアッシュに
    メンバーたちは、ついプッと吹き出した。
     
     
    「よくわかりました。
     計画書も申請書も不備なく揃っているようなので
     今回の提案は、早い時期に良い返事を約束できると思いますよ。
     ご苦労様でした。
     実りのある会議だったとお礼を言いたい。」
    ダンディーな紳士がアッシュに丁寧に告げた。
     
    アッシュは、はあ・・・とだけつぶやき、ヨロけながら立ち上がる。
    肝心の己の金策が一歩も進んでいなかった事に
    相当なショックを受けている様子だった。
     
    ジジイも、もちろんその会議に出席していたが
    ニヤニヤするだけでひとことも喋らなかった。
     
     
    アッシュとリリーが、会議室を出て行った後
    アッシュの計画を、具体的にどこの機関に持っていくかが議題に上った。
     
    この計画はダンディーの予言通り、サクサクと進んでいく。
     
     
    館 “道の駅” 化大計画 byアッシュ が着々と進み
    最近のアッシュの演説は、いかに労働が尊いか、という
    ニートのおまえが言うな! な話題に終始していた。
     
    アッシュは相変わらず、金策に悩んでいたが
    支払いを長老会が立て替えてくれる事になった。
    経済改革案のご褒美というわけだ。
     
    もうほんと、捨てる神ありゃ拾う神ありだよな、ありがたやありがたや
    アッシュは街の方に向かって拝んだが
    街の方へ行く道は、グルリと大きくカーブしているので
    街の方角だと思った方向じゃなく、拝むアッシュのケツの方が街なのだ。
    まったく、とんだ無礼者である。
     
     
    だけど・・・
    痛い目に遭ってるんだから、こんぐらいやってもらって当然じゃね?
    アッシュの表情が暗く歪む。
     
    そもそも、やりたくてやってるわけじゃなし
    よく考えてみたら、何でこんなところにいるのか
    何でこんなに辛い事をやってるのか
    一体、何なの? 元々兄の遺言でーーーーー・・・・・・・
     
    ここまで思って、慌ててその考えを打ち消す。
    そっちの方向に考えたら、もう生きていけない気がする
    てか、もういつ死んでも良いんだけど
    そんなん思いながら生きていたら、何かダメな気がする
    とにかく、前だけを見て走らないと、私、ダメになっちゃう気がする!
     
     
    とにかく、夢のヒッキールームをありがとうございます
    アッシュは改めて拝んだ。
    街方向にケツを向けて。
     
    ついでに言えば、金も借りてるだけで、払わなくて良いわけじゃないんだが
    アッシュの脳内では、そこはスッポリ抜けているのが不思議である。
     
     
    続く。
     
     
    関連記事: ジャンル・やかた 64 10.3.25
          ジャンル・やかた 66 10.3.31
          
          ジャンル・やかた 1 09.6.15

  • 日焼け止めの白浮き防止策

    09.5.15のババアの日焼け止め の記事で
    ババアのメイクは日焼け止めで汚くなる、という意見を書いた。
     
    白浮きする、タルミ毛穴に毛穴落ちする、乾燥を助長させる
    などが理由なのだが、思案していて、ふと思いついた。
     
     
    自分は色黒だと卑下して買った、ローラ・メルシエの黒ファンデが
    まだまだ残っているのだ。
    黒すぎるファンデ、結構使わんぞ。
    逆に脂肪注入してふっくらさせたいぐらいの骨ババアに
    シェーディングなぞ必要なかろう?
     
    買ったのは何年前だったかわからんが
    変質している様子はないので、それを日焼け止めに混ぜてみた。
     
     
    本来、日焼け止めに他のものを混ぜるのは好ましくない。
    紫外線カット数値が落ちるからである。
    だが、混ぜるものにも日焼け止め効果があったら良いんじゃないのか?
    そう思いついたのである。
     
    ローラ・メルシエのファンデは、確かSPF25 PA++
    日焼け止めは、SPF30 PA+++
    絶対に日焼け止めの効果は落ちると思うんだが
    紫外線の弱い冬の間なら、冒険もできる。
     
     
    結果、白い日焼け止めに黒ファンデを混ぜたら、普通のファンデ色になった。
    タルミ毛穴に落ちても、ファンデ色だと目立たない。
    ローラ・メルシエのファンデは、薄付きで保湿力があるので
    日焼け止めの厚塗り感も抑え、乾燥も緩和された。
     
    その上に、クスミ防止のコントロールカラーや
    クマ隠しを重ねても浮かない。
     
    でもファンデを更に乗せると、ちょっと厚塗り感が出る。
    と言うか、コントロールカラー等を重ねるならファンデはいらない。
     
    日焼け止めとファンデを混ぜたものだけでも
    上にお粉をかけると、化粧感バッチリになるので
    私の場合は、Tゾーンだけに粉をかけている。
     
    この日焼け止めとファンデ混ぜ作戦、大成功である!
     
     
    気になる紫外線カット効果の落ちは
    混ぜるファンデを高SPFにすれば、夏でも問題ないと思う。
     
    混ぜる黒いファンデは、外国ブランドに多かった気がする。
    ざっと思い出せる中では、私の持ってるローラ・メルシエ以外なら
    ボビィ・ブラウン、MAC、シュウ・ウエムラなどの
    メイクアップアーティスト系ブランド。
    他はマリー・クヮントや昔のガン黒御用達のレブロンにあったはず。
    ああ、江原道にもあったあった。
     
    日焼け止めの白は真っ白なんで、出来るだけ黒いファンデが望ましい。
    ただ、黒ファンデでも微妙に赤みと黄みに分かれるので
    薄めるとそこらへんの色調で、自分の肌色に合わなくなるかもしれないから
    そこだけは注意した方が良い。
     
     
    この混ぜ日焼け止めで今年の冬は絶好調だったが
    ネットで化粧品を調べていたら、ある情報が目に入った。
    オイリー肌の人は、日焼け止めに砕いたパウダーファンデを混ぜると
    汗でも皮脂でも崩れにくくなるという口コミだ。
     
    そうか!
    液体に液体を混ぜるなら、薄まる可能性もあるけど
    液体に粉体を混ぜれば、その心配はないんだ。
     
    私には保湿力も必要なので、クリームファンデを混ぜているが
    オイリーで白浮きしたくない人は、黒粉を混ぜれば良いわけだ。
     
    と言う事は、これまた卑下して買ったけど黒すぎて持て余している
    ボディショップのミネラルファンデ、これ夏に使えるんじゃないか?
    ミネラルファンデなら、最初から粉々だから砕く必要もない。
     
    まだ乾燥する時期なんで、この方法は試していないけど
    オイリーな人は、やってみる価値があると思う。
     
     
    メイクを始める前に塗る日焼け止め
    これがキレイなメイクの仕上がりの邪魔をしている事を
    常々苦々しく思ってきた。
     
    メーカーは、いらんSPFの強化などせずに
    肌をキレイに見せる日焼け止め、っちゅうのを何故作らないんだ? と。
     
    だけど、ないものは工夫せねばならない。
    消費者が自分の肌に合わせて、試行錯誤しなければならないのだ。
     
    今回は良い方法を発見できたんでラッキーだったけど
    化粧品の分野には、もっともっと研究の余地が残っている、と
    不満とともに、希望も何となく感じるんだ。
     
     
    考え付いた日焼け止めにファンデ混ぜ
    ものすごく自画自賛したいけど、案外もう皆やっているのかも知れんな。
    まだの人、ぜひやってみてくれ。

  • ジャンル・やかた 64

    はあ・・・
    余暇は引きこもろう、と思って寝室改造をするのに
    その暇が取れなくなるハメになってんじゃねえよ!
     
    アッシュは書斎で、電卓を前に頭を抱えていた。
    ジジイのいらん采配で、余分な物は自腹扱いになってしまった。
    経費だと思っていたからこその、ゲームハード全揃えであって
    残り寿命でプレイしきれない量のソフトも買ってしまったのに。
     
    もう全部注文しているので、キャンセルはどうだか。
    てゆーか、キャンセルしたら、私のパラダイス台無しじゃん!
    ぜってー、ノークレームノーリタ-ン! と、もう一度、電卓を叩く。
     
    何行にもなる足し算を、アッシュがまともに計算できるわけがなく
    3度やって3度とも違う合計数が出てきた日にゃ
    どれが間違ってるのか、すべて間違ってるのかすら、見当が付かない。
    英語どころか数学、いや算数も弱いアッシュは
    全体的に薄らバカだという結論になるわけだ。
     
     
    とてつもない巨額になりそうなのに、正確な数字がわからず
    脳が発酵しているところに、リリーが入ってきた。
     
    目の前に積み上げられた書類を読みもせず
    やたらめったらサインをする。
     
    「これ、自筆サインじゃなく、シャチハタじゃダメなんですかねー?」
    いつもなら、そうゴネるアッシュが、黙々とペンを走らせるので
    所在なさげに、リリーが机の上の明細書を手に取る。
     
    「金策ですか?
     あの趣味の道具の数々は普通、経費扱いにはなりませんよ。
     考えなしな事をしましたね。
     諦めで貯金を崩したらどうですか?」
    「・・・貯金、ないんですー。」
     
    何に使ってるんですか、食費もいらないのに、と驚くリリーに
    「日本の化粧品ですー。」
    「ああー、メイド・イン・ジャパン、高いですよねえ。」
    「・・・・・・・・・・」
     
    沈黙に耐えかねて、またリリーが話し出す。
    「だったら、主様の写真集とか出したらどうですか? ほほほ」
     
    アッシュがペンを走らせながら、気がなさそうに答える。
    「・・・要望があれば、水着までオッケー、とかー?
     ・・・んで、次は主様開運グッズとかですかねえー?」
    「・・・くだらない話をしました・・・。 申し訳ございません。」
     
    いけないいけない、主様が言うようなたわごとを言ってしまったわ
    主様が無口だと、どうも調子が狂ってしまう
    自重せねば・・・、と、リリーは心底恥じた。
     
     
    にしても、だったらどうやってお金を稼げば良いんだろう・・・
    何でいつもこう、どこにいても何をしても、最終的には貧乏になるんやら。
    サインをし終わり、グッタリと机につっ伏して
    自業自得と呼ぶべき己の “不運” を呪っていた時だった。
     
    あっっっ、そうだ!!!!!
     
    引き出しをまさぐって、敷地内の地図を出して広げる。
    ここで作ってる物をチョロまかして、ネットで売れば良いんだよ!
    私ってどうして、こう天才なんやら。
     
     
    そんなほぼ犯罪な目論みで、地図を見る内に疑問が生じた。
    自分のいたらん手段にではない。 館の産業についてだ。
     
    「ここ、結構な数の食物とかを作ってるけど
     それ、どっかに売ってるんですかあー?」
    「そういうのは総務部の方に問い合わせてください。」
     
    リリーがいつものリリーへと体勢を立て直し
    相手にしてくれないので、総務部にダッシュした。
     
     
    総務部ではアッシュが初めて話に来たので、全員直立不動になった。
    構わずアッシュは熱心に質問をする。
     
    その姿に、主様が自分たちの仕事に興味を持ってくださっている
    と、部員たちが感動した矢先だった。
     
    ひととおり話を聞いて、何となくだが理解できたアッシュは
    ああ・・・盲点だった・・・
    こんな基本中の基本をおろそかにしていたなんて
    私のクソバカ野郎ーーーーーーーーっっっ!!!
    と、心の中で叫び、無言で机に頭をゴンゴン打ち付けた。
    総務部中が凍りついた。
     
    総務部がアッシュの計画を知るのは、すぐ後の事で
    それはアッシュにしては、珍しく良い企画ではあったのだが
    その前に必ず、周囲の心にダメージを与える方式は控えた方が良いと思う。
     
     
    その約1ヵ月後に、長老会は再びアッシュの特別会議開催の要請を受けた。
    前回の会議は、ガックリと肩を落としたアッシュで幕切れになっていた。
     
    間もなく寝室の改築工事が始まると聞く。
    注文した品も、次々に館の倉庫に運び込まれているらしいので
    メンバーの全員が、金の無心だろう、と予想していた。
     
    そしてその推理は、ある意味当たっていた。
     
     
    続く。
     
     
    関連記事: ジャンル・やかた 63 10.3.23
          ジャンル・やかた 65 10.3.29
          
          ジャンル・やかた 1 09.6.15

  • ブサイクの法則

    アイドルでも微妙な顔の作りの子っているじゃん。
    すげえ魅力的で可愛いけど、よく見たら作りはそうでもない、みたいな。
     
    これを私は、“人間、外見だけど、顔の作りではない” 説の
    柱に持ってきていたわけなんだけど
    その理由は、さして言えば “演出力” だと思っていたんだ。
     
     
    もちろん、この考えは今も揺らいではいない。
    私の場合は、周囲がとことん気を遣ってくれているのかも知れんが
    飛び抜けたブサイクの割には、批判をされない。
     
    この私に、直接 「ブス」 など言おうものなら
    相手の急所を突きまくる総攻撃を繰り出すので
    言いたくても言えないのであろうが
    それにしても、言われなさすぎどころか
    逆に褒められる事態まで起こっておる。
     
    そこまでは望んでないし、混乱させられるので
    お世辞も大概にしてほしいものだ。
     
    これも自分の “演出力” だと思っているのだが
    (こいつに何か言おうものなら・・・、と思わせるのも含めて。)
    美の研究には余念がないので、更に突っ込んで
    作りが崩れているのに魅力がある人もいるのに
    その差は何だろう? と、常々考えていた。
     
     
    ある日何となくTVを眺めていて、とんでもない法則を見つけた。
     
     笑顔で華がないのがブサイク!!!
     
    また、ロクでもねえ説を言い出して
    関係者諸氏にはご迷惑をお掛けして申し訳ないが
    これ、絶対にあると思う。
     
    本当に造作の整った顔は、この説には関係ない。
    美人は怒っても泣いても、もちろん笑っても美しいからだ。
     
     
    そう、私は笑顔が醜い。
    あまりのブサイクさに、キメ顔というのも持てていないが
    とりあえず笑顔はあかん、というのは薄々気付いてはいた。
     
    そうか、笑顔の華が美人へのカギなんだな、と気付いて
    改めて自分の笑顔を冷静に観察してみた。
     
    私の笑顔の醜さの秘密は、口角が上がらないのと
    まぶたに脂肪があるタイプの一重のせい。
     
    口角が上がらないのは多分、頬の肉付きの形状が原因。
    骨格が平らなので、頬の脂肪を押し上げにくく
    更に老いによるたるみのせいで、口付近の筋肉には頬肉支えは荷が重い。
     
    目は一重にしては、そんなに細目でもなく
    理知的な雰囲気もしないでもないので、気に入ってるのだけど
    笑うと、まぶたの脂肪が盛り上がって腫れ目になるのだ。
     
     
    ああ、何だ、こういうわけかー、と激しく納得。
    確かに笑うと感じは良くなるけど、美からは遠ざかる。
     
    こいつはジレンマだよな、と思うけど
    今まで、気合いによるゴリ押しで突っ走ってきたのは
    自分のブサイクさ的には、割と正解な方法だったわけだ。
    まあ、そういう方式を取っとるから、口角も下がるんだろうけど。
     
    だから穏便な方向で魅力を出すには
    笑顔を研究するのが近道だと思う。
    笑うとパッと印象が明るくなるようなイメ-ジで。
    笑顔は強力な武器だ、という都市伝説は実に正しい。
     
     
    いやしかし、今回の検証で鏡の前で散々笑ってみたが
    鏡が歪んでいるんじゃないかと思たよー。
     
    鏡、ストレスを掛けてすまんだった。
    あまり己のツラを映さないようにするんで、何とか耐えてくれ。
    (うちの鏡、相当な負担になったんか壊れてしもうとる。)