カテゴリー: 殿のご自慢

  • 殿のご自慢 38

    乾行がふと伊吹の視線に気付き、手招きをした。
    「よお、何をボーッと突っ立っているんだよ。」
    伊吹が決まりが悪そうに歩いて来る。
    「いや、邪魔をしたらいかんと思って。」

    乾行が何気なく言う。
    「おまえが邪魔なわけがないだろう、この野郎。」
    「でも伊吹さまに見られていると、少し緊張いたしますわ。」

    青葉が笑う。
    その笑顔に、伊吹が遅れて合わせる。

     

    「よお、伊吹、姫さんがどんだけ上達したか
    ちょっと、し合ってみてくれないか?」
    伊吹に槍の代わりの長い棒をポンと投げた。

    「これは?」
    「ああ、それは練習用に俺が作ったのだ。
    藁 (わら) を硬く絞って布で巻いてある。
    木よりは危なくないだろ?」

    「ほお・・・。」
    その模擬槍をあちこち見ながら、伊吹は感心した。
    乾行には師の才があるようだ。
    青葉はこれを見抜いていたのか・・・?

     

    青葉は手に持つ同じ模擬槍を伊吹に向けた。
    「お願いいたします。」
    それを受けて伊吹も、スッと模擬槍を上げる。

    こうやって見合うだけでも、前の青葉とは違う。
    槍先から落ち着きと鋭さが伝わってくる。

    逆に考えると、前の腕で先駆けなど自殺行為も同然だ。
    よく何戦か、生き残ってこれたものよ・・・。
    伊吹は青葉が “運が良かっただけ” とわかり、愕然とした。

    運も実力の内、と言うが、そのような不確実なものには頼れぬ。
    この稽古は、青葉を生かすためには本当に必要なものなのだ。

     

    青葉の目に力が入る。
    くる!
    突いてきたところをはらい上げ、そのまま上から叩き下ろす!

    青葉の頭上で模擬槍を寸止めして終わる試合。
    だが次の瞬間、よろけたのは伊吹であった。
    青葉の突きが、右肩にまともに入ってしまったのである。

    「伊吹さま!」
    青葉がうろたえて、抱きかかえようとする。
    「すまぬ、大丈夫だ。」

    言葉とは裏腹に、かなり痛そうである。
    いくら藁で作ってあるとは言え
    真っ直ぐに突かれたら衝撃も大きい。

     

    乾行が解せないといった表情で訊く。
    「何やってんだあ?
    お前なら簡単にかわせただろう。」
    伊吹が肩を押さえながら、槍を乾行に返す。

    「いくら模擬槍といえ、青葉には向けられぬ。」

    その言葉を聞いて、青葉が青ざめる。
    自分は容赦なく突きを入れたからだ。

    慌てて伊吹が言いつくろう。
    「い、いや、そなたは女だし、そなたの稽古だから・・・。
    ・・・・・俺にはやはり教えられぬ。
    おまえが適任だな、乾行。」

    青葉が手当てをしようとするのを断り、
    稽古を続けるように言い残し
    伊吹はいつもの笑顔で去って行った。

    青葉はその背中を見送りながら
    どうして良いのか、わからない様子である。

     

    確かに互いに強く愛し合ってはいる。
    障害が多い結び付きゆえの、辛い立場なのもわかる。
    だが・・・、何だ? この引っ掛かりは。

    乾行は、ふたりの “色” の違いのようなものに
    不安を覚えた。

     

    続く

     

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  • 殿のご自慢 37

    意外にも乾行は、“師” に向いていた。
    青葉用の槍を選ぶところから、丁寧にやってくれた。
    “見込みがない” と笑われた青葉の腕は、みるみる上がっていった。

    戦場でも青葉には余裕が出てきた。
    自分の周囲だけではなく、前方の様子を見て
    先読みが出来るようになった。
    そして味方を励ます。
    美しい姫の激励は、兵の士気を高めるのに効果的であった。

    そんな青葉を見て、八島の殿の側近たちも少し見直してくれた。
    「青葉姫は本当に舞うように戦えるようになってこられましたな。」

    だが八島の殿には不満だった。
    「ふん、つまらなくなったな。」

     

    青葉は乾行に訊いた。
    「人を斬るのに慣れる時がきますでしょうか?」
    乾行の答は、“わからない” であった。

    「ただ、姫さんよお、こんな時代に生まれてきて
    人を斬りたくない、と思うのなら、自分が斬られるしかねえんだ。
    好き嫌いで判断しちゃ危ない場合もあるんだぜ、気を付けな。」

    青葉は、乾行のこの割り切りが好きだった。
    側にいて、とても楽であるからだ。

     

    「わたくし、この稽古が好きです。」
    青葉がそう言って微笑んだ日の夜は、
    乾行は必ず町へと飲みに出掛ける。
    馴染みの女の膝枕に、つい心が漏れる。

    「俺が一番の幸せ者かもなあ・・・。
    何の責任もなく、ただ美しさだけを近くで愛でていられる。」

    乾行が何の事を言っているのか、女にはわかっていた。
    あの美しいお姫さまの事だね。

    赤染めの鎧が城門から出る時には、見物人が耐えない。
    いつも緑の鎧と並んで馬を進める。
    あの緑の鎧のお侍さんは、旦那の親友でお姫さまの夫だと聞いた。

     

    女は膝の上の乾行の頬を撫ぜながら、優しく言う。
    「どうです? もう一本つけましょうか?」
    乾行は いや、もういい と答え、女の手を掴んで引き寄せる。

    「旦那、浮気しちゃ嫌ですよ。」
    女の言葉に、乾行は笑うだけで返事はしなかった。

     

    青葉の稽古は、乾行の住む八島の城で行なわれた。
    最初は人目の少ない伊吹の屋敷に、乾行が通うつもりでいたのだが
    八島の殿が、教えに来てもらうとは何様だ、と意地悪を言ったからだ。

    八島の殿は、ふたりの練習を覗き見たかっただけだが
    一目見て、“絵にならないふたり” に失望した。

    八島の殿にとって、乾行は “つまらない” 男でしかなかった。
    ひょうひょうとして、イジメどころがないからである。

     

    しかし青葉の美しさを眺めていたい城勤めの者にとっては
    この、槍の稽古日が楽しみのひとつとなった。

    稽古は馬小屋の近くの、人通りの少ない裏庭で行なわれたが
    その時刻に限って、馬小屋に “用事” がある者が多く
    邪魔はされないのだが、集中しにくい状況であった。

    「ま、しょうがねえよ。
    あんたはどこに行っても、こうやって見られるだろうから、
    平気だろ?」

    乾行の気軽な言葉を、青葉は自然に肯定した。
    「ええ。
    見られない方が不安でございます。
    そういう時は、ひどく憎まれている事が多いのですもの。」

     

    乾行は青葉のこの、お姫さま気質も気に入っていた。
    無邪気に恐い事をサラリと言う。
    だが憎めないのは、嫌味がないからだ。

    自分が優遇されている事を、普通に口に出来るのは
    恵まれた環境で育ってきたからだな。

    ふたりの稽古は、乾行が時折笑い話を交えながら進められる。
    楽しくないと、身に付かないもんな。
    これは乾行の主義であった。

     

    乾行が青葉に槍を教えているのを、通りがかった伊吹が見つめる。
    雑談に笑顔を咲かせる青葉。

    つい、うっかりしていた。
    今日は稽古の日か・・・。

     

    それを遠くから、目ざとく高雄が見かけて睨む。
    あいつはああやって、無防備に感情を出す。
    あいつを妬む者たちには、それが大好物だというのに。

    それよりも、あの “青馬鹿姫” の無神経さには腹が立つ。
    だが私が護衛など、もってのほかだったし
    何より乾行の教え方が上手いお陰で
    青馬鹿姫の戦闘に、大殿が興味を失くしたのは大きい。

    これが最善だったか・・・?
    いや、いずれにしても、あの青馬鹿姫のせいで
    私たち皆が、しなくて良い気苦労をせねばならぬ。
    まったく、これ以上になく邪魔な存在よ・・・。

     

    高雄は、ここを通らなければ良かった、と後悔し
    きびすを返した。

     

    続く

     

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  • 殿のご自慢 36

    青葉が槍を学びたがったのは、馬上で戦うからである。
    乾行さまや伊吹さまも槍で戦ってらっしゃるけど、
    それは先陣を切るから。
    他の武将たちは刀を持っている。

    だけど女は男より腕が短く、しかも馬上からだと
    刀では敵に届きにくく不利になる。
    つばぜり合いでも負けるならば、
    離れて戦う方がまだ勝ちの目もある。
    これが2度のいくさを経験しての、青葉の結論であった。

     

    わたくしは多分、ずっと戦場にいなければいけない気がする。
    それはわたくしにとっても、伊吹さまにとっても辛い事。
    だけどこれは、あの時にいくさ場で伊吹さまと対峙した
    あの瞬間に決まってしまった事のように思える。

    そこまで思って、青葉はそれを否定した。
    いえ、これはわたくしが、“そう思いたい” だけ。
    ええ、きっと。

    いずれにしても、わたくしが在り続ける限り
    伊吹さまは苦しむ。
    だけどわたくしは、それを嬉しくも思う。
    愛されている、と感じるから。

    わたくし、良い死に方はしないでしょうね
    クスッと笑うその顔は、あくまでも穏やかだった。

     

    「乾行に槍を習っている、というのはまことか?」
    部屋に入って来るなり、伊吹が青葉に問いただす。
    「槍なら俺が教えてやるのに・・・。」

    青葉は花を生けていた手を止めて、立ち上がった。
    「乾行さまは伊吹さまのお友達なのでしょう?
    害のないお方だとお聞きしました。
    でしたら、わたくしも仲良くさせていただきとうございますわ。」

     

    伊吹にはわかっていた。
    青葉に悪気はないどころか、
    自分の負担を減らそうとしてくれているのだと。

    だがあの戦場で、血に染まりながらも真っ青な顔をして
    高雄に背を預ける青葉を見た時に
    自分の中の透き通った何かに、陰りが出た。

    そして目の前にいる、この美しい生き物の輝きで
    自分がどんどん醜くなっていくような気がした。
    だが、それを止められないどころか、加速させてしまう。

     

    「そうか、ならば好きにすればよい。」
    このような言葉を吐くような人間ではなかったはず。
    何をやっているのだ、俺は。

    そう思いながらも、態度を変えられない伊吹に
    青葉が青ざめて、すがりつく。

    「お待ちください!
    伊吹さまがお嫌でしたら従いますから
    どうか、お怒りにならないで!」

     

    このお姫さまが、こうやって請うのが自分だけである事が
    今の伊吹の小さな優越感になっていた。

    こうやって押し倒せるのも自分だけ・・・
    だが伊吹の胸から、“姫を穢す” という罪悪感だけは
    いつまで経っても消える事はなかった。

    それでも欲望に抗ず、伊吹は青葉を乱暴に抱く。
    そして訊く。

    「俺で良いのか?」

    青葉は答える。
    「伊吹さまがよいのです。」

     

    ちょっと面倒なこの “手順” に、
    青葉はいい加減うんざりしていたが
    その時の伊吹の表情が、あまりにも切羽詰っているので
    ここでないがしろにしてはいけない、と思った。

     

    続く

     

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  • 殿のご自慢 35

    伊吹は、青葉が妻になった事で心休まる日がなくなった。
    だがそれでも、青葉がいないなど考えられなくなっていた。

    欲しいものを手中にする代償、それは良い。
    だがそれを、“人” が人に与えるのか?

    身分制度の強い世に生きてきて、何の疑問も持たずにいたものに
    義憤を覚える時がくるとは。

    俺は大殿の近くに仕えて、それを幸運と思えど
    理不尽と感じる事は、ついぞなかった。
    だが俺の感じているこの怒りは、“下の者” なら抱くはず。
    今になって気付くなど・・・。

     

    「何かを変えようとするのなら、大きな力を持たねばならぬ。
    よき人であろうとするにも、“資格” がいるのじゃよ。」
    考え込んでいる伊吹に声を掛けたのは、福江 (ふくえ) であった。

    この老いた大名もまた、高雄と同じに歴史ある家柄を持ちながらも
    八島の軍門に下ったひとりである。

    今まではあまり話した事がなかったが
    こうやって間近に見ると、そのたたずまいに
    穏やかな人柄がにじみ出ている。

    「かなりご苦労のようじゃな。」
    福江の優しい語りかけに、伊吹は戸惑った。
    「いえ、別に・・・。」
    それだけ答えると頭を下げ、そそくさと立ち去った。

     

    八島の殿を盲信していたわけではないが、
    疑う必要がなかっただけだ。
    それが今、突付かれて、よくよく周囲を見回すと
    笑う者、顔を背ける者、様々な思惑が
    渦巻いている事にようやく気付いた。

    世は俺が知らないところで激しくうごめいていたのだ・・・
    今の伊吹には、誰も信用が出来なくなっていた。

     

    「槍を教えてくださいませぬか?」
    青葉のお願いに、高雄は迷惑を隠さなかった。
    「槍なら、そなたの夫の伊吹が達人だが?」

    「わたくしが戦う準備など、あの人にとってはお辛い事。
    それを頼めませぬ・・・。」

    青葉の言葉に、高雄はイラ立った。
    馬鹿か? この女は。
    伊吹にとって一番辛いのは、こいつが他の男に頼る事だろうに。

     

    高雄の厳しい視線に、青葉は動揺した。
    「おい、おまえらあ、勘弁してくれよ。」
    乾行がふたりの間に割って入る。

    「“対” が見つめ合っている、と話題になってるんだぜ?」
    「対?」
    青葉が首をかしげる。

    「そういう訳だ。
    今後、私に近付くな。」

     

    青葉にはわけがわからなかったが
    聡明で、しかも伊吹さまのご友人のこのお方が
    わたくしを避けるには、相応の理由があるはず、そう判断した。

    「はい、何やらご迷惑をおかけしたようで・・・。」
    そう答えたものの、高雄の言い方は
    青葉を傷付けるには充分であった。
    わたくしが何の悪い事をしたというの・・・?

    フイとそっぽを向く青葉と、スタスタと歩き去る高雄。
    残された乾行は、青葉の横顔を見て思わず口にした。
    「美人は怒っても美しいんだな・・・。」

     

    乾行の言葉に、青葉は困惑しつつも詫びた。
    「あ、これは・・・
    見苦しいところをお見せして申し訳ございませぬ。」
    女好きの乾行は、青葉のどの表情も眺めていたかった。

    ヤベえ、伊吹の気持ちがわかるぜ。
    ああ、目の毒、目の毒。
    んじゃ、と立ち去ろうとした乾行を、青葉が引き止める。
    「あの、伊吹さまのお友達の乾行さまでいらっしゃいますよね?
    婚姻後のご挨拶が遅れて申し訳ございませんでした。」

    青葉は改めて乾行に挨拶をした。
    「これから、どうぞよろしくお願いいたします。」
    「いやいや、俺なんかと仲良くしても価値はねえよ。」

    青葉の目がその言葉に光る。
    その輝きに、ゾクッとする乾行。
    高雄といい、この姫さんといい、
    “美しさ” ってのは恐怖を与えるのか?

     

    「乾行さまは、高雄さま伊吹さまと並んで
    武力に長けたお方だとお聞きいたしました。
    どうか、わたくしに槍を教えてくださいませぬか?」

    「俺が姫さんの側にいると、伊吹が心配するぜ?
    何せ俺は無類の女好きだからよお。」

    その言葉に、青葉は動じなかった。
    どうせお悩みなるのなら、色恋沙汰の方が
    伊吹さまにとっては気がラクかも知れませぬもの。

     

    元々女の頼み事に弱い乾行が、青葉の頼みを断れるわけもなく。

    すまん、伊吹!
    見るだけだ、見るだけ。

    乾行は青葉の槍の師匠になった。

     

    続く

     

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  • 殿のご自慢 34

    おおおおおおおおおっ
    一団の騎馬隊から、高ぶる声が上がる。

    槍を持った敵の雑兵たちが、自分の命を取ろうと群がってくる。
    青葉を守る者たちがそれを叩き斬る。
    馬上にいても、生温かい血しぶきがかかる。

    頬を拭うとヌルッとする。
    自分は多分、血まみれなのだろう。
    青葉は吐きそうになった。
    だが、将がそんな事では隊は崩れる。

    何故、何故このような事になったの?
    ほとんどの女は、嫁にいったら家を守る。
    なのに、わたくしは戦場にいて重い刀を握っている。

    何故?

     

    それは乱世だからじゃ。
    この乱世で、わしが戦いを欲するからじゃ。

    八島の殿は、眩しげに目を細めて言った。
    「見よ、青葉姫が泣きながら剣を振り回しておる。
    まるで舞うておるように美しいと思わぬか?」

    その言葉には、青葉たちの不幸を喜ぶ者も
    さすがにゾッとさせられた。

     

    ああ・・・、柄にまで血がしたたる・・・
    青葉がふと手元に気を取られた瞬間、
    真後ろでキインと刃がぶつかる音がした。
    続いて、ガスッと鈍い音がして
    重いものが肩を掠めて地面に落ちた。

    「馬鹿か! おまえは!!!」
    声の主は、高雄であった。
    「前へ出るのなら、後ろを堅めろ!」

    涙と血と泥でグチャグチャの青葉には、
    もう返事をする気力もない。

    「口を開けるな、血が入ると吐くぞ。
    おまえはもう、刀を握って座っているだけで良い。
    堂々と前だけを見ていろ!」

    うなずく事も出来ず、青葉は顔を前に向けた。
    高雄は自分の馬を青葉の馬に並ばせ、後ろから来る敵をなぎ払う。

     

    その光景に、総大将の陣中の八島の殿は大喜びした。
    「おお! これは素晴らしい!!!
    青葉姫の赤い鎧に、高雄の純白の鎧が映えて
    まるで一対の鳥のようではないか!
    紅白というのが、これまた縁起が良い。」

    側近たちは、これは厄介な事になりそうだ、と思った。
    確かに、絵になるふたりであった。

     

    その夜、青葉は吐き気が止まらなかった。
    「宴への出席の断りを入れて参りましょうか?」
    侍女の気遣いに、青葉は立ち上がった。

    「いえ、参ります。」
    じゃないと、いないところで何を決められるか
    わかったものではない。

     

    「おお、今日は頑張ったな、姫よ。」
    八島の殿が上機嫌で声を掛ける。
    「いえ、そのような・・・」
    青葉の言葉を遮って続ける。
    「高雄がおらなんだら、そちはここにはいなかったな。」

    高雄はギクリとした。
    関わるべきではなかったが、あの時はやむを得なかった。
    やはり見られていたか・・・。

     

    「今後は、そちの護衛に高雄を付けようぞ。」
    これは夫である伊吹への、最大の侮辱である。
    夫婦を、双翼の陣で引き離して配置したくせに・・・。
    宴会の席は、静まり返った。

    青葉はにっこりと微笑んで答えた。
    「お気遣い、ありがとうございます。」
    八島の殿の薄ら笑いは変わらない。

    「ですが、わたくし、大殿さまからせっかく頂いた
    “騎馬大将” の称を返上したくありませぬ。
    しかもその上に護衛がわたくしより強いなど、心外でございます。
    わたくし、ひとりで戦えるべく強くなります。」

    言うだけ言うと、プイッと背を向け
    そのまま自分の陣へと帰って行ってしまった。

     

    相も変わらず宴席は静まり返っていたが
    その雰囲気は柔らかくなっていた。

    「プッ・・・」
    誰ともなく吹き出し、全員が大笑いする。

    八島の殿も馬鹿笑いをしながら、伊吹に言った。
    「そちの嫁は意外に気が強うてかなわんのお
    はっはっはっはっ」
    伊吹は、作り笑いをするしかなかった。

    青葉は陣中に戻り、また吐きはじめた。

     

    続く

     

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  • 殿のご自慢 33

    八島の殿は、青葉を騎馬大将のひとりに任命した。

    空気がざわつく中、青葉が黙っていたのは
    “大殿” という人種には、何を言っても無駄だと知っていたからである。
    “女” として求められるより、マシかも知れないわ。

    八島の殿は、そんな青葉にいたく満足したようであった。
    「そちは、本当に利口な女じゃのお。
    さすがは良い血筋じゃ。
    生き延びる術を本能で知っておる。
    はっはっはっはっ。」

    八島の殿の笑い声だけが響く中
    高雄は気配だけで、末席の伊吹の様子を伺った。
    大丈夫、伊吹は耐えている・・・。

     

    「大殿さまのお召しという事で、無理難題を命じられそうで
    何だか嫌な予感がいたしますわ・・・。」

    青葉が自分の手を握って、不安そうに訴えてきた時に
    伊吹は笑って済ませた。

    「いくら大殿と言えども、女であるそなたに無茶な事はおっしゃられぬさ。
    山城とは違うのだ、案ずる必要はない。」
    青葉は、そうならばよろしいのですが・・・ と、目を伏せた。

    俺が馬鹿だった。
    大殿は、“姫を俺に嫁がせた” お方だ。
    それが全部厚意でなど、思い込んでいた俺が・・・。

    今日の大殿の様子では、俺たちは良いおもちゃ。
    青葉は多分、苦労をする事になる。
    俺なんかと出会ったせいで・・・。

     

    伊吹の前に座っている乾行は、その顔色に胸が痛くなった。
    本当なら新婚で、幸せいっぱいのふたりのはずなのに
    何ちゅう、ひでえ事をしやがる。

    周囲の重臣たちの顔を見回す。
    気の毒そうにしている者が多い中に、明らかに楽しんでいる奴がいる。
    身分のない俺たちが、ここにいるのが気に入らないヤツらだ。

    乾行は目を閉じた。
    ああ、つまんねえ、つまんねえ世の中だ。
    生まれた時から、既に死ぬまでの道筋が見えている。

     

    ・・・・・・・・いや?

    乾行はゆっくりと目を開いた。
    伊吹を見る。
    そして青葉を見る。

    このふたりは、その道筋から逸れているではないか。
    そして俺も、本来はここにいる事のない者ではないか。

    ・・・そうか・・・
    乾行はあごを撫ぜながら考え込んだ。

    人生はわからないのか。
    面白く出来るのか。
    俺たちには、まだ先は見えていないのか。

     

    伊吹が乾行の視線に気付いた。
    乾行は、ニッと笑った。

    その表情を見て、伊吹は少しホッとした。
    最悪じゃないんだな?

    ああ、そうだ。

    乾行の目が、そう言った気がした。

     

    続く

     

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  • 殿のご自慢 32

    「おお、久々のお目見えだな。」
    「相変わらず美しい。」
    「いや、子供っぽさが抜けて色気が出たような。」

    「いずれにしても、美しい。」

    八島の城に、青葉がやってきた。
    いつもは城下にある屋敷で、“奥” という役割りを果たすべく
    家の事を学んでいたのだが、八島の殿からお呼びが掛かったらしい。

     

    御前でお辞儀をする青葉に、八島の殿は上機嫌であった。
    「おお、姫、敷島の奥となり、以前にも増して美しゅうなったな。」

    「大殿さまにおかれましては、益々のご興隆の段
    せん越ながら、お喜びを申し上げます。」

    はっはっは と八島の殿が笑う。
    「おお、おお、よき家の姫はどこに嫁いでも
    礼儀をわきまえた挨拶が出来るようじゃな。」

    重臣群の末席にいる伊吹は、その言葉に驚いたが
    かろうじて動揺を表に出さずに済んだ。

    「今日、そちを呼んだのはな
    わしの、ちょっとした頼みを聞いてほしいのじゃよ。」
    高雄の背筋がヒヤリとする。

     

    「お断り申し上げます。」
    再び頭を下げる青葉に、全員が えっ? と注目する。

    「待て、わしはまだ何も申してはおらぬぞ?」
    青葉は顔を上げて、平然と言った。
    「ものすごく嫌な予感がいたしますの。
    お聞きしてからお断りするのは、失礼だと思いますので。」

    あまりの開けっ広げな言い様に、ハラハラして下を向く者もいる中
    八島の殿は、ニヤニヤとしていた。
    「よいよい、おなごは我がままなぐらいが可愛い。」

    「じゃがな?」
    八島の殿が立ち上がり、青葉の目の前に立つ。
    「わしの方が我がままじゃぞ?」

     

    腰の刀は・・・
    その場の全員が、八島の殿の右手の行方を見守る
    このようなピリピリした雰囲気が、八島の殿の好物であった。

    普通ならば、大殿の前での帯刀は禁じられる。
    しかし八島の殿は、あえてそれを命じる。
    それは、斬れるものなら斬りに来い、という自信を感じさせ
    帯刀の許可は、重臣たちを逆に不安にさせていた。

     

    青葉はまったく気にしていないようでいて、青ざめていた。
    姉がああいう死に目に遭ったのだ。
    “殿” という生き物が突然何をしでかすか、わからないのを
    誰よりも深く思い知っていた。

    だからこその、先制だったのだ。
    大殿さまからの呼び出しなぞ、ロクでもない事でしかない。
    どういう結果になろうと、意思表示だけは先にしておかないと
    わたくしの、龍田家の、そして伊吹さまの名誉が堕ちる。

    八島の殿は、背筋を伸ばして座っている青葉の前にしゃがんだ。
    「間近で見ても美しいのお、そなたは。」

    もはや伊吹にとっては、それは褒め言葉ではなく脅迫に等しかった。
    表情を変えないようにするだけで精一杯であった。

     

    「わしね、いくさが詰まってるの。」
    その甘え声に、全員が は? と八島の殿を見る。

    「ほら、宿敵である吾妻家との争いだけじゃなく
    青葉ちゃんとこの山城を追っ払ったら
    周囲の大名たちが跡地を奪い合いだしたでしょ?
    そしたら青葉ちゃんとこが危ないから、助けなきゃいけないしぃ。」

    青葉は最早、どういう表情をして良いのかわからず
    呆然と八島の殿と鼻を付き合わせている。

    「そんでね、うちには将が足りないの。」
    八島の殿はすっくと立ち上がり、重臣たちを見回した。

    「敵武将の首も取れぬ奴は、将とは呼べぬわ!」
    いきなりの怒声に、一同は慌てて下を向く。

     

    どうやら八島の殿は、先日の吾妻家とのいくさが
    いつもの小競り合いに終わった事が不満のようであった。

    確かに最近の吾妻家との勢力争いは、形骸化している
    と言っても、過言ではないかも知れない。

    しかし、それと青葉を呼びだす事が
    どう関係があるのか・・・。

    八島の殿が、青葉の方に振り返った。
    「そこでじゃな・・・。」

    殿は自慢を増やしたいらしい。

     

    続く

     

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  • 殿のご自慢 31

    店を出た後ふたりが向かったのは、あの丘であった。
    「ここからは馬は無理だから、ここに繋いでおくのだよ。」
    供の者もそこで待たせる。

    丘を上り空が見えてきた時に、伊吹が振り返って嬉しそうにつぶやいた。
    「・・・二人分の足跡だ・・・。」

    頂上も草が青々と茂っているのが、余計にあの時の侘びしさと対比し
    思わず青葉を抱き締める。
    「まさか、ここにそなたと夫婦となって来れるとは・・・。」

     

    伊吹は、ずっと疑問に思っていた事を訊いた。
    「あの時に何故ここにいたのだ?」

    青葉はサラリと答えた。
    「戦場の下見です。
    伊吹さまもでしょう?」

    「何故、俺の姿を見て逃げた?」
    「敵の侍かも知れない、と思いました。」

    「何故、次の日も来た?」
    それまでスラスラと答えていた青葉が、言葉に詰まった。

    「何故、かんざしを落とした?」
    「何故、巾着を置いた?」
    「何故・・・。」

    伊吹は問うのを止めた。
    一歩間違えば、もう二度と出会えなかったかと思うと
    未来ですら恐くなってくる。

     

    青葉は伊吹の胸に顔を埋ずめた。
    青葉にとって、この場所は後悔の地であった。

    「逃げた後に、後悔しました。
    どうしてお話をしなかったんだろう、って。
    だから次の日に、また会える事を願って来たのです。
    あなたがいない事に、悲しみを感じました。
    かんざしは、私の代わりにあなたの元に届けば、と思って置きました。
    受け取ってはもらえなかったけど、手拭いが嬉しかった・・・。」

    青葉は、伊吹にギュッとしがみついた。
    「いつも組み紐を髪に巻き、手拭いは胸元に入れていたのです。
    たとえ頭と体を切り離されても、どちらにもあなたがいてくれるように。」

     

    その言葉に、伊吹はゾッとさせられた。
    “出会えない” どころではなく、目の前で死なれていたかも知れないのだ。

    「姫・・・、俺は恐い・・・
    失えぬものが出来て、心底恐い・・・。」

    情けない事を言っているのは、自分でもわかっている。
    だが、恋がこれほど恐いものだとは・・・。

     

    伊吹の不安がる姿に、青葉は思った。
    好きな相手と一緒になれる、って
    楽しいものじゃなかったのかしら・・・?

    そう言えば、お母さまを亡くしてからのお父さまも
    まるで生きていないかのようだった。
    散る花に落ちる陽に、ご自分を重ねていらした。

    殿方って弱いものなのね・・・。
    青葉は自分を抱きしめる伊吹の背中を、優しく撫ぜた。

    伊吹さま、ごめんなさい
    わたくしのために、あなたを苦しませてしまって・・・。

     

    気持ちの良い日差しが降り注いでいるというのに
    伊吹も青葉も、地に映る影にばかり気を取られていた。

    夏がやってくる。

     

    続く

     

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  • 殿のご自慢 30

    一方の伊吹も、決して舞い上がっているわけではなかった。
    ただ単純に、青葉に喜んで欲しかっただけなのだ。
    そして店にもお礼をしたかった。

    「・・・では、おねだりしても良いですか?」
    青葉が伊吹に訊く。
    何を与えたら良いのかわからない伊吹はホッとした。
    「おお、何でも言ってくれ。」

    しかし、それは意外なものであった。
    「わたくしたちに子が出来た時に
    男の子には緑、女の子には赤の着物を作ってくださいませ。」

     

    青葉のこのおねだりは、実によく出来た回答であったが
    結婚できたのも不思議な伊吹には、子供の事など考えてもいなかった。
    「あ、ああ・・・?」

    「それではご主人、よろしく頼みます。
    今日はこの人の着物をお願いしますね。」
    「は、はい、しかと承りました。
    それではお武家さま、どうぞこちらに。」

    主人の呼び方に、伊吹は慌てた。
    「あ、俺は伊吹、敷島伊吹と申す。
    こちらは、つ、妻の青葉だ。」

    真っ赤になる伊吹に、その場の全員が照れる。
    伊吹さまのこういうところが好きなのだけれど
    時々つらいのよねえ・・・

    青葉も赤くなりながら、うつむいていると
    おかみが座布団を出した。
    「ささ、奥さま、お待ちしている間、こちらでお茶でも。」

     

    ありがとう、と言って座る青葉に、おかみが言う。
    「奥さまは高貴なお方なのですから
    あたしどもに優しくしてくださる事はないんですよ。」

    今まで町人という人種に接した事がない青葉にとって
    その言葉には驚かされた。
    「いいえ、わたくしもこれから普通の暮らしになるわけだし・・・」

    乳母からの言葉をそのまま言い掛けて、ハッとする。
    「あら、このような言い方は伊吹さまにとても失礼だわ!」

    おかみの方も、そんな青葉にビックリした。
    何の苦労もなく、裕福に過ごしてきたお姫さまだから
    無邪気に気持ちを言葉を出し、素直に詫びる。
    それが嫌味に思えないのは、本当に純粋だからなのだろう。

    これから御苦労なさらないと良いけど・・・
    おかみは、青葉の美しい白い手を見ながら案じた。

     

    のれんの隙間から、町人たちが覗いているらしく
    外が騒がしくなってきた。

    おかみは外に出て、見物客を追い払う。
    「さあさあ、静かにしとくれ。」

    「おかみさーん、あたしは良いだろ?
    お侍さんの奥さまにご挨拶させておくれよ。」
    あの時に呉服屋に伊吹を連れて来た小物売り屋の娘である。

    「しょうがないね、礼儀正しくするんだよ。」
    「やったあ!」

     

    伊吹が採寸を終えて戻ると、女が三人キャアキャアとはしゃいでいる。
    「何だね、おまえ、奥さまに騒がしくするんじゃないよ。」
    主人に怒られて、おかみが罰が悪そうである。

    「お侍さん、おめでとうございます。」
    伊吹は娘を覚えていた。
    「ああ、おまえはあの時の・・・。
    どうもありがとう。」

    青葉が伊吹に、花の髪留めを見せる。
    「伊吹さま、これなら短い髪でも留められます。
    これを買ってくださいませんか?」

    「おお、良いぞ、何でも買ってやる。」
    青葉のおねだりに喜ぶ伊吹に、女二人は呆れた。

    おかみは伊吹の目を盗んで、青葉に耳打ちをした。
    「奥さま、財布の紐はきっちりと締めなさいませ。
    男ってのは女がねだれば、考えなしに金を遣ってしまいますからね。」

    その言葉に、青葉は真面目にうなずいたが
    わかっているのか、いないのか・・・。

     

    続く

     

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  • 殿のご自慢 29

    “新婚” のふたりは、八島の殿から特別に数日間の休暇を貰った。
    「ついて来てほしいところがあるのだ。」
    伊吹の希望で、ふたりは短い旅に出た。

     

    「いらっしゃいましー。」
    店に入って来た人影に、振り向いたおかみは驚いた。
    以前にやってきた青年が立っている。

    そしてその後ろから入って来た女性を見て、腰が抜けそうになった。
    今までお目にかかれた事のないような美女だからでもあるが
    もっと見た事がなかったのが、その赤染めの着物である。

    こ、このお侍さん、貧乏そうだったのに・・・
    そして、そこのお姫さまは、もしや・・・。

     

    店の様子がおかしいのに気付き、奥から顔を覗かせた主人。
    「何をしているんだね、お客さまじゃないかい。
    どうも、いらっしゃいま・・・」

    言葉が続かない主人に、伊吹が挨拶をした。
    「おお、店の主人、あの時は世話になった。
    お陰で、こうやって縁組みする事が出来た。
    ロクな買い物も出来ない俺に親切にしてくれて、感謝しておるぞ。」

    「今はわけあって短髪なので結えませんが、
    こちらでいただいたという組み紐は、大事に取ってありますよ。」
    青葉がにっこりと微笑んだ。

     

    主人とおかみにはすぐにわかった。
    この姫は龍田の “赤染めの次姫さま” だと。
    商人には、嫌でも情報が舞い込む。
    現在のこのあたり一帯の噂話の中心は、身分違いの恋の成就であった。

    武勲を重ねて成り上がった、いくさ孤児の貧しい武将が
    山城の悪政に苦しむ民を救おうとやってきて
    山城の殿が狙っていた、帝の血を引く姫と恋におちた。

    それに怒った山城の殿が姫の姉を殺し
    姫までをも亡き者としようとしたところを
    武将が単身乗り込んで姫を救い出し
    それに乗じて、龍田の殿が山城を打ち破った。

     

    と、えらく尾ひれの付きまくった話になっていたが
    上は下に嫌われるので、山城はこれでも優しい扱われ方であろう。

    このように、とかく噂は大げさになりがちなので
    いつもは話半分に聞く、この町では大店の部類のこの呉服屋の主人も
    目の前の短髪の美しい娘を見ると、信じざるを得なかった。

    あの劇的な話に、まさか自分が関わっていたとは
    と、主人には誇りにすら思えた。

     

    「それはそれは、心よりお祝いを申し上げます。」
    主人とおかみは深々と頭を下げた。

    「うむ、ありがとう。」
    伊吹は、屈託なく笑った。
    「それで今日はな、姫に赤染めの着物をこしらえてあげたいのだ。」

    その言葉に、主人の顔が曇る。
    「それはありがたい申し出ですが
    うちでは、そのような高級な反物は取り引きがないので
    何日かかるか、いくらになるか・・・。」

    「それは問わぬ。
    姫への初めての贈り物は、ぜひここでと考えていたのだ。」

     

    伊吹は悪気なく言っているが、店には “格” というものがある。
    今までのうちだと、赤染めなどには縁がない。
    仕入れ先を開拓するのは、一苦労である。

    「お待ちくださいませ。」
    青葉が口を挟んだ。
    「わたくし、お着物はもう沢山持っております。
    女は衣装持ちなのですよ。
    ですから今日は、伊吹さまのお着物を作るべきですわ。」

    「いや、俺はそなたに贈り物をしたいのだ。」
    青葉は少し考え込んだ。
    「では、この短髪をまとめられる髪飾りが欲しいですわ。」

     

    青葉も、仕入れの仕組みなどを知っていたわけではない。
    青葉が知っていたのは、“贅沢をしてはいけない” という現実である。

    龍田城を出立する前夜、早くに死んだ母親の代わりとも言える乳母から
    懇々と言い聞かされたのである。

    今までの暮らしは、通常から見てとても贅沢であり
    敷島家の月々の収入は、青葉の着物一枚にも及ばぬ事。
    そのため、いざとなったら売れるように
    通常より多くの衣装を、嫁入り道具として持たされる事を。

     

    青葉には貧乏というものがわからなかったが
    “我慢をする” という心構えだけは胸に刻み込んだのである。

     

    続く

     

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