カテゴリー: 殿のご自慢

  • 殿のご自慢 18

    着飾って化粧をした龍田の姫は、香り立つほど美しかった。
     
    乾行は、伊吹の “花のような娘” という説明を
    女に不慣れな未熟者の表現だ、と微笑ましく思っていたのだが
    おいおい、これは正に花そのものじゃねえか
    それも大輪の鮮やかな、と驚くばかりだった。
     
    伊吹は、青葉を見るのは三度目だったが
    町娘の姿や甲冑着とは、あまりにも違いすぎて
    初めて、自分が大それた想いを抱いていた事を自覚した。
     
    これが帝の血を引くお姫さまなのか・・・
    伊吹に現実がのしかかるが、その美しさに目が逸らせない。
     
     
    高雄は青葉の美しさに、心の中で舌打ちをした。
    大殿がこの姫を所望したらまずい・・・。
     
    しかし青葉は部屋に一歩入るなり、伊吹の姿を見つけた。
    両側にズラリ居並ぶ家臣団の中から、伊吹だけを見つけ出したのである。
     
    表情さえ変えなかったが、その眼差しは伊吹を優しく抱きしめた。
    ふたりの見つめ合いに、周囲の方が顔を赤くするほどであった。
     
     
    馬鹿! 早よお、大殿に挨拶をせぬか!
    高雄がイライラしながら伺い見ると、八島の殿はニヤニヤしながら
    ふたりの見つめ合いを楽しんでいるようであった。
    これは良い事なのか、悪い事なのか・・・
     
    青葉は、実に自然に伊吹から視線を外し
    部屋の中央ほどまで進み、ゆっくりと正座をし、お辞儀をした。
    「龍田家次女の青葉と申します。」
     
     
    「うむ、さすが伊吹が見初めたおなごよ、実に美しい。」
    八島の殿は、満足げに言う。
     
    「して、今日は何用じゃ?」
     
    その言葉に、一同が驚いて八島の殿を見る。
    この招集は会議ではなく、龍田の姫が望んだ事だったのか!
     
    「はい、捕われの身で厚かましいとは重々に存じておりますが
     ひとつだけお願いがございます。」
    「何じゃ? 言うてみよ。
     そちの美しさに免じて、叶えてやろうぞ?」
      
    八島の殿は、青葉の頼み事は龍田家への加勢だと推測していた。
    それは山城を潰すためなら、頼まれなくてもしたいとこだが
    この美しい姫に、わざわざ恩を売るのも良い。
     
     
    「龍田家は山城家といくさになります。
     必ずここに戻ってまいりますので、わたくしを家に帰してくださいませ。」
     
    この言葉に、全員が耳を疑った。
    「何を言うておるのだ?
     いくさなら八島家が助けてやるのに。」
    家臣のひとりがつい口を滑らせたが、青葉は引かない。
     
    「このいくさは、龍田家の仇討ち。
     そのようなわたくし事で、八島家のお手を煩わせはいたせませぬ。
     お願いいたします!
     この手で姉の仇を討ちたいのです!!!」
     
     
    こ、この女は・・・
    高雄は内心、驚愕した。
    “仇討ち”、この言葉で八島の付け入る隙をなくしたのは
    計算か? 偶然か?
     
    「だ・・・だが、戻ってくる保証は・・・」
    青葉はスッと立ち上がり、近くの家臣の刀を抜いた。
     
    皆が、何か起きているのか理解するのに時間が掛かっている中
    青葉は自分の長い髪を持ち、刃を沿わせた。
    真っ直ぐに伸びた長く美しい髪が一瞬、宙を舞いフワッと顔に掛かる。
     
     
    青葉は再び、中央へと正座した。
    刀と切った髪を前に置き、深く頭を下げた。
     
    「大殿さまの前で刀を抜いた咎 (とが) は、後で必ず受けます。」
    そして顔を上げて、髪の上に手を添えた。
     
    「わたくしの命、ここに置いてまいります。
     必ず生きて戻りますので、どうかわたくしを行かせてくださいませ!」
     
    殿の前で刀を抜く、ご法度であるこの行為を誰も止められなかった。
    これは、その場にいた者全員が処分に値するので
    青葉の罪を追求すれば、自分も危うくなる。
     
     
    「髪は女の命とは言うがのお・・・」
    八島の殿が渋る。
     
    「いえ、姫の命はその髪ではなく、髪を束ねた紐でありましょう。」
    言ったのは乾行であった。
    「その紐は、伊吹から贈られた物です。」
     
    伊吹は気付かなかったが
    乾行は、着物に似合わない安物の組み紐に気付いていた。
     
     
    伊吹がたまらずにひと膝前に出て
    額を畳みに押し付けんばかりに、土下座をした。
    「大殿! 私からもお頼み申します。
     どうか、龍田の姫の願いをお聞き入れくださいますよう。」
     
    その声を聞いた途端、青葉の瞳から大粒の涙がこぼれ落ちた。
    美しい姫の、涙の願いを断れるなら男ではない。
     
     
    「そちたち、わしが優しい男で良かったのお。」
    ふーっと溜め息を付き、八島の殿が苦々しく言う。
     
    「姫を捕らえた責任も合わせて、高雄、そちが付いてゆけ。」
    「は・・・、はっ!」
    意外な指名に、高雄は慌てて頭を下げる。
     
     
    「殿! 供なら私が!」
    叫ぶ伊吹に、八島の殿が耳をほじりながら言う。
     
    「駆け落ちでもされたら、かなわぬ。
     伊吹、そちは、わしと仲良くしていろ。」
     
     
    家臣たちがドッと笑い、ようやくその場の雰囲気が柔らかくなった。 
     
     
     続く 
     
     
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           殿のご自慢・目次 

  • 殿のご自慢 17

    「龍田の殿は、姫と伊吹の婚姻による同盟に前向きでおられます。」
     
    高雄の報告に、八島の殿は高笑いをした。
    「何と、龍田どのはそこまで、いくさがお嫌いか。」
    はっはっは と、笑いが起こる中、高雄は無表情で頭を下げていた。
     
     
    「立場は違えども、祖父と同じく身分違いの恋をする我が娘を
     わしが止められるわけがない。
     高雄どのよ、わしの愛娘の人生、そなたに任せよう。」
     
    高雄は驚愕した。
    龍田の殿からは何の要求もなかった。
    普通の大名の娘は政治の道具であるのに
    その婚姻を、親の愛で決めようと言うのか。
     
     
    古い家柄の者は、昔の帝が権勢を振るっていた時代の名残りで
    浮世離れしているところがあるもので
    千早の家も例に洩れずに、随分とノンビリしていた。
     
    そのせいで戦乱の世になった今、私が苦労をさせられているのだが
    どうやら龍田家も、子が大変な思いをしそうだな・・・。
     
    高雄は、龍田の殿の後ろに座る、自分よりも年若い少年をチラリと見た。
    その幼さの残る面立ちに、青葉姫が先陣を切った理由がわかる。
     
    この少年が、自分と同じく
    早くに家督相続をせねばならなくなりそうな事にも同情をした。
     
     
    青葉姫は良い。
    好きな男と一緒になれるのだから。
     
    ただ、後で身分の違いによる不都合に気付いても
    それは私のあずかり知らぬ事。
    伊吹に任せるべきだ。
     
     
    誰にも色々な思惑があるだろうが
    こうやって、いくさを中断しての縁談話を
    高雄は慎重に進めていくつもりであった。
     
    八島の殿は、この結婚に反対はすまい。
    問題は山城側をどう抑えるか、である。
    この件を、龍田の殿は “話し合う” と言っていたが、甘い。
     
    “無血” での龍田家同盟を考えていたのだが
    龍田家長女が山城家に嫁いでいるのなら
    龍田、山城間で大きないくさが起こる可能性が高くなった。
     
     
    そこに八島家をどう動かすか・・・
    悩んでいた高雄に、信じられない一報が入った。
     
    次女を八島の者に嫁がせる、と知った山城の殿が
    正妻である龍田の長女を殺したという。
    この知らせは、八島の城中を駆け巡った。
     
    あの愛情深い父親は、それを許さないであろう。
    八島の殿に参戦を決意してもらわねば
    そう切り出そうと思っていた時に、家臣の招集がきた。
     
    八島の殿を奥に、家臣一同が並んで座る。
    高雄は年齢の割には上座の方だが、伊吹と乾行は末席に並んで座っている。
    身分からすると、それでも家臣団の中に入れる事自体が異例の出世である。
     
     
    居並んだ家臣一同は、誰もが
    山城家とのいくさをどうするか、の会議だと思っていた。
     
    しかし八島の殿は、一向に口を開かない。
    真っ直ぐに座しながら、これはどうした事かと皆が思い始めたその時
    ふすまがスッと開いた。
     
    入って来たのは、美しい着物を着た女であった。
     
     
     続く 
     
     
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           殿のご自慢・目次 

  • 殿のご自慢 16

    「これが姫さまからの書状にございます。」
    高雄から渡された手紙を読む龍田の殿。
     
    青葉直筆の手紙には、たいへん丁重に扱われている事
    周囲には女性しかおらず、身の危険もない事
    そして、捕らわれてしまった謝罪と
    自分のために家を危険に晒さないように、と書かれていた。
     
     
    その手紙を何度も何度も読み返す仕草に
    龍田の殿の、青葉姫に対する愛情がにじみ出ている。
     
    「・・・そんなに大事になさっている姫さまを
     何故にいくさ場に立たせたのか、伺ってもよろしいでしょうか?」
     
    「・・・我が家は、子が少なくての。
     2人の娘と1人の息子の内、上の娘は山城に嫁いでおる。
     いくさをする気がないゆえに、婚姻で逃れてきたツケで
     我が家には、武に長けた者が少ないのだ。
     これは、わしの責任。
     今回のいくさを最後に、わしは隠居しようと思っていたのだ。」
     
    そう語る龍田の殿は、確かにいくさなど好みそうにない、
    品のある雅な人、といった風情である。
     
    「家を傾けて渡すなど、息子には申し訳ないが
     あれたちの母が死んでからというもの、
     わしはもう何もしたくなくての・・・。」
     
     
    「そのような事では、亡くなられた奥方さまも悲しんでいらっしゃるでしょう。
     殿には遺されたお子さまたちがおられましょう。
     その未来を手助けしておあげになる事が
     家長として、親として、殿の成すべき事でしょうに。」
     
    龍田の殿が、驚いたような表情になったので
    高雄は我に返って、頭を下げた。
    「で、出すぎた事を、申し訳ございませぬ。」
     
    高雄の胸の家紋を見て、龍田の殿は察した。
    ああ、この青年は千早家の嫡男であるか。
    あそこの当主も風流な男だと聞いた事がある。
     
    「こたびのいくさでは、八島側の総大将とも言えるそなたが
     何故、使役に参られたのかな?」
     
     
    ようやく本題に入れる、高雄は座り直した。
    「私は八島の家臣。
     戦え、と言われれば戦うしかござりませぬ。」
     
    この言葉は、龍田の殿と高雄にとって同じ意味を持っていた。
    “新興大名は武力に頼った国づくりをする”。
     
    だが安穏と存えてきた “伝統ある大名家” が
    その “力” で負けたのもまた事実。
    現状では、どういう正論を言おうが、所詮負け犬の遠吠えなのである。
     
    「しかし、こたびのいくさでは
     犠牲を出さずに済む道が見えたのでございます。」
     
     
    「では、わしの娘をその伊吹という男に嫁がせろと?」
    龍田の殿の言葉に、高雄は伏せて乞い願った。
     
    「伊吹は確かに身分はございません。
     しかし、これから、のし上がる男にございます!
     養子には、しかるべき家を選んでもらいます。
     どうかお許しを!」
     
     
    龍田の殿は、ふふっ と笑った。
    「わしにとっては、そなたにこそ娘をやりたいがの。」
     
    その言葉は、高雄が一番恐れていたものである。
     
    高雄の家は、“名家”。
    しかも当主である高雄は有能である。
    それが帝の血を引く娘を娶るとなると、八島家にとっては脅威となる。
     
    八島の殿は、絶対に龍田の姫を自分より良い家には嫁がせない。
    姫が恋をしたのが伊吹だったのは、幸運だったのである。
     
     
    「思い出すのお・・・。」
    龍田の殿は立ち上がり、障子を開けに行った。
    「高雄どの、都はあちらの方角だ。」
     
    高雄も立ち上がり、少し後ろに控えた。
    都の方角には、山々が連なっている。
     
    「わしはよく祖父から聞かされたのだ。
     帝に娘を、わしの祖母じゃが、嫁に欲しいと日参した時の話を。
     今は亡き山城の曽祖父は人格者で、間に入って随分と奔走してくれたらしい。
     山城の爺は、領地をかなり手放したそうだ。
     『なあに、また増やせば良い』 と笑って。」
     
     
    金銭か・・・、いくら工面できるか頭の中で計算をする高雄に
    龍田の殿が振り返って、厳しい口調で言う。
     
    「そうして山城家はいくさを重ねて、領地を増やし
     我が龍田家はこのザマよ!」
     
     
     続く 
     
     
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           殿のご自慢・目次 

  • 殿のご自慢 15

    八島の殿がついに到着した。
     
    当然、高雄が真っ先に呼ばれる。
    部屋に入ると、奥に八島の殿が鎮座し
    両脇にズラリと家臣たちが並び座っている。
    これは八島家の、いつもの会議風景。
     
    だが今日は、“会議” というより
    高雄の吊るし上げに近い様相を呈していた。
    何せ、一太刀も交えなかったどころか
    敵の姫をさらって休戦しているのであるから。
     
     
    「大殿、お待ちいたしておりました。」
    高雄は居並ぶ重臣たちにも臆する事なく、堂々と頭を下げた。
     
    「うむ。 遅れて、すまなんだな。
     色々と立て込んでおったのでな。」
     
     
    白々しい事をサラリと言ってのける、この八島の殿は
    小さな領地に大きな野心を持って生まれた。

     

    その手腕で、次々と周辺諸国を取り込んでいき
    いまや天下も、その射程範囲に入っている。
    東の山城家と似たような成り立ちであった。
     
     
    この世で一番身分が高い帝は、都から出て来ない。
    いくさと混乱の世での身分の差は、いともたやすく引っくり返される。
    “天上人” として、傍観を決め込むのが
    帝としては、最大の防御だという事であろう。
     
    現に、いくつもの歴史ある大名家が
    新興大名家の下に付く、という事態になっている。
     
    そのせいで、“天下” の大名たちには
    一番争いをし、勝ち残った者が帝にお墨付きを貰え
    それが “天下統一” だという、暗黙の了解が出来上がっていた。
     
     
    「して、わしはそちに 『勝て』 と命じておったはずじゃが
     なにゆえに “休戦” とやらになっておるのだ?」
    この、もって回った言い方にも、高雄は動じず。
     
    「この地どころか、龍田家をも取り込む策を講じている最中にございます。」
    重臣たちがどよめく。
    「千早どの、どういう事なのだ?」
     
    「龍田の姫と伊吹が恋仲にございます。」
     
     
    「龍田の姫? ああ、捕らえられているという娘か。
     千早どのにしては卑怯な手を使う、と、いぶかしんでおったが
     そういう事情があったのか。」
     
    「しかし龍田の姫といえば、帝の血を引く娘。
     孤児の伊吹とは結ばれるはずもないであろうに。」
     
    口々に思う事を言う家臣たちを制止し、八島の殿が言う。
    「のお、高雄よ。
     わしはそちが勝算のない事はせぬ男だと、知っておるぞ。
     わざわざそのような事をせずとも、楽に勝てる相手に
     何を企んでおる?」
     
    「無血勝利と・・・」
    高雄の表情は、半分怒っているように見える。
    「・・・・・・・伊吹の想いを叶えてやりたいのでございます。」
     
     
    八島の殿は、はっはっはっ と笑った。
    「どうやら、そっちの方が本命らしいのお。」
     
    その言葉に、ガッと顔を上げ膝をズズッと乗り出して叫ぶ高雄。
    「しかし八島家の不利になるような算段は、決していたしませぬ!」
     
    「わかっておる、わかっておるぞ、そちの真面目さは。」
    憮然とする高雄に、八島の殿が訊く。
     
     
    「で、向こうの反応はいかに?
     まさか、何の動きもしておらぬ、とは言わぬであろうな?
     高雄よ。」
     
     
     続く 
     
     
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           殿のご自慢・目次 

  • 殿のご自慢 14

    伊吹の命は青葉とともに。
     
    これは、高雄にとっては、それ以上にない脅しになった。
    ちっ、私がどれだけ苦労をしているのか知らずに、よくも・・・。
     
    だが伊吹は、こうであるから伊吹なのだ。
    高雄は階段を下り、立ち止まった。
    伊吹がどうしたのか、と振り返る。
     
    「伊吹、姫は無事に戻されても無責任な噂をされる。
     穢された娘だ、と。
     だからこその、この厳重な女だけの警備なのだ。
     姫の居るこの上階には、私の名を懸けて男は一歩も入れぬ。
     それが姫の名誉を守る事になるのだ。」
     
     
    伊吹はそれを聞いて、ようやく安心した。
    高雄が、姫を傷付けるつもりはない事が明白になったからである。
    この人質も、多分無血でいくさを終わらせるためなのだろう。
     
    伊吹の瞳に安堵の色を見た高雄は、落胆した。
    女のために伊吹は、私を疑った。
    私たちはもう二度と、三角を作れないであろう。
     
     
    高雄は戦場へと馬を走らせた。
    伊吹は城に残って、階段下で姫の護衛をするという。
     
    好きにすれば良いさ!
    高雄は、イラ立ちを吹き飛ばしてほしいかのように
    風を全身で受け止めながら、馬を飛ばした。
     
     
    戦場では、兵たちが待機していた。
    乾行も、陣の旗の下で寝転んでくつろいでいた。
     
    「よお、高雄、伊吹はどうした?」
    「姫の護衛で城に留まった。」
     
    「落ち着いていたろ?」
    覗き込むように、高雄を見上げる乾行。
     
    「・・・ああ・・・
     だが、私を信じなかった。」
     
     
    敵方の陣営の方を見つめる高雄。
    その目に憎しみを感じとった、乾行は笑った。
      
    「そう重く受け止めるなって。
     最初の恋ってのは、そういうもんよ。
     やつの痴態を許してやれ。
     一時的に狂っても、俺たちの関係に影響はねえ。」
     
    高雄がギッと睨みおろす。
    「おまえは狂ったか?」
    乾行が涼しげに流す。
     
    「いんや。 俺は “本気” の色恋はしねえ。
     だが、真面目な奴はいつか狂うね。
     おまえもな。」
     
    「馬鹿な・・・。」
    吐き捨てて前を向き直る高雄を、乾行はニヤニヤしながら見つめる。
     
     
    「で、状況は?」
    訊く高雄に、座ったままの乾行が誰もいない戦場を指差して言う。
    「なーんも。
     龍田の殿さまも、まだ陣にいるみたいだぜ。」
     
    「そうか。」
    馬のところへと行く高雄。
    「どこに行くんだ?」
     
    馬に乗りながら、高雄が言う。
    「使役として、龍田陣営に行ってくる。」
     
    「ああ?」
    思わず乾行が陣から飛び出してきた。
    「おまえ自らが行くべきじゃねえだろ!」
     
    「安宅、来い!」
    高雄は返事の代わりに、乾行に叫んだ。
    「すぐに戻る。」
     
     
    安宅を従えて、高雄は敵陣営へと走って行った。
    「何故、千早どのが使役に立つのだ?」
    「何が起きているのだ?」
     
    他の武将たちがゾロゾロと出てくる。
    後に残された乾行は、他の者たちへの “説明” に頭を抱えた。
     
    この場の何もかもを頼みすぎだろ・・・。
     
     
     続く 
     
     
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           殿のご自慢・目次 

  • 殿のご自慢 13

    ふすまの向こうから、小さな声が返ってきた。
    「・・・伊吹さま・・・?」
     
    伊吹にとっては、初めて聞く娘の声であった。
    鳥が奏でる美しい歌のような声が、自分の名を呼んでいる。
    伊吹は思わずふすまに手を掛けようとして、見張りの女に止められた。
     
     
    そうだ、言い付けを守らねば二度と会わせてもらえない。
    気を取り直し、伊吹は再び話し掛けた。
    「お名前を教えていただけますか?」
     
    「青葉と申します。」
    姫の名は、高雄から聞いて知っていた。
    だがどうしても、姫の口から聞きたかったのである。
     
    「あ・・・青葉姫さま・・・。」
    「はい、伊吹さま・・・。」
     
    ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
     
     
    周囲の者たちが全員、顔を赤くするほどの
    ふたりだけの甘い世界に耐えられなくなった高雄が
    背を向けて咳払いをする。
     
    このまま、名を呼び合っていたいが
    事態が事態なので、悠長な事をしていられない。
     
    「青葉姫さま、この俺、いや、私の命に換えましても
     無事に帰して差し上げる事を約束いたします。
     ですから、どうかご安心ください。」
     
    その言葉だけでも、青葉には救われる思いがした。
    しかし現実では、それは不可能。
     
     
    「伊吹さま、わたくしも戦場に出た以上は覚悟をしております。
     今の状況が、わたくしにとって何を意味するのかも。
     ・・・なので、そのようなわたくしのために
     伊吹さまに不味い立場になってほしくはございません。
     どうか、わたくしの事は捨て置いてください。」
     
    「姫さま!」
     
    立ち上がろうとする伊吹に、高雄が言う。
    「時間だ。」
     
     
    このまま高雄を斬り、見張りを斬り
    姫を抱えてどこかへ逃げられるか?
     
     
    伊吹は、グッとあごを上げた。
    バカな。
    そんな事を俺が出来るわけがない。
    冷静になれ。
     
    高雄だ。
    高雄がやっている事だ。
    俺はそれを信じて、姫を守るしかない。
     
     
    伊吹は落ち着いた声で言った。
    「青葉姫さま、俺、いえ、私の命はあなた様とともにある事を誓います。」
    この言葉は、伊吹の青葉への最大の求愛であった。
     
     
    青葉は伊吹の去っていく足音へ向かって、丁寧にお辞儀をした。
    本当は、戦場であなたに斬られるのが
    わたくしの一番幸せな最期だったことでしょう。
     
    でも、それは言えない。
    優しいお方だから、わたくしの言葉で生涯苦しむ。
     
    いえ・・・、出会った事で既に苦しませているのかも知れない。
    わたくしは、あなたにとって害でしかない・・・。
     
     
    青葉のこの想いは、青葉の人生そのものになった。
     
     
     続く 
     
     
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           殿のご自慢・目次 

  • 殿のご自慢 12

    「何っ?」
     
    使い番から、明日いきなりの八島の殿の到着の知らせが入った。
    おそらく、姫の捕獲を知ったゆえの “ようやく” である。
    やはり大殿たちは、最初からこのいくさに来る気はなかったようだな。
     
    高雄は八島の殿の思いがけない行動の早さに、爪を噛んだ。
    いや、“一日の猶予がある” と思え!
    そう、気を取り直した時に、伊吹が来たと安宅が伝えて来た。
     
    乾行は止められなかったか・・・
    落胆したが、部屋に入って来た伊吹の様子で
    乾行は充分に伊吹を落ち着かせた事がわかった。
     
     
    「姫に会わせてほしい。」
    「駄目だ。」
     
    即答する高雄に、伊吹は無言で両手を畳につき頭を下げた。
    その姿に、高雄の方がカッとなる。
    茶碗を伊吹に投げつけ、怒鳴った。
    「みっともない真似をするな!」
     
    伊吹は額を畳に付けたまま、言った。
    「乾行にも言われた。
     『見苦しい真似をするな』 と。
     だが俺は、ここですべてを捨てないと
     この後、自分自身に生きていく価値を持てなくなる気がするのだ。」
     
     
    高雄は、はらわたが煮えくりかえっていた。
    このようなこいつは見たくない!
     
    「会わせは出来ぬ!」
    伊吹に背を向ける。
    「理由は、姫の身の潔白のためだ。」
     
    それは、高雄が青葉を無事に帰そうとしている、という意味であった。
    だったら何故、捕らえる必要があったのか?
     
     
    返事をしない伊吹を、高雄は苦々しく思った。
    こいつは絶対に諦めない。
    暴走する前に抑えるしかない。
     
    「ふすま越しに、見張りが大勢いる状態での会話なら許可しよう。」
    その言葉を聞いた伊吹は、バッと顔を上げた。
    高雄は顔を背ける。
    「急げ、俺は忙しいんだ。」
     
     
    見張りの女たちが急に慌ただしくなった。
    誰かがここに来るようである。
    青葉は震え出す手をギュッと握って押さえつけた。
     
    こういう時にやって来るのは、“品定め” か尋問、
    いや、拷問されるかも知れない・・・。
     
     
    「姫さま、こちらへ。」
    見張りが初めて口を開いた。
     
    ふすまの前に座布団が置かれる。
    ここへ座れと言うのかしら? 何故?
     
     
    青葉は恐かった。
    精一杯、虚勢を張って落ち着いているようにしても
    本当は今すぐにでも、自害してしまいたいぐらいの恐怖。
     
    だけどここで、わたくしが取り乱したら
    龍田家末代までの恥晒し。
    もう既に取り返しの付かない失態を犯してしまっている。
     
    わたくしに出来る事は、最後のその瞬間まで “武将” である事。
    女だてらに戦場に出たのだから。
    青葉は指し示された場所に座って、背筋を伸ばした。
     
    すると、ふすまの向こうから声がした。
    「・・・ひ、姫さま・・・。」
     
     
    それは青葉があの日以来、何度も何度も思い出しては
    足をあの丘へと向かわせた、あの声であった。
     
     
     続く 
     
     
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           殿のご自慢・目次 

  • 殿のご自慢 11

    青葉は開戦前に逗留していた城の一室へと監禁された。
     
    「本来ならば、八島の領地まで連れ帰らなければならないのですが
     それをしたくないので、あなたは体調不良を装ってください。」
     
    高雄の言葉に、青葉は当然の疑問を口にした。
    「何故ですか?」
    高雄はそれには答えず、淡々と説明を続ける。
    相変わらず、青葉と目を合わせようともしない。
     
    「あなたの身の安全は、私が保証いたします。
     そのために、あなたにはこの部屋にいてもらわねばなりません。
     番はすべて腕に覚えのある女が付きますゆえ
     逃げようなどして、余計な手間を掛けさせないでいただきたい。」
     
     
    言うだけ言ったら、高雄はスッと立ち上がり部屋を出て行った。
    代わりに、女たちが入って来た。
     
    「あの、今のお方は?」
    女たちも丁重な態度ではあるが、無言である。
    青葉は、混乱するしかなかった。
     
     
    一方、伊吹も暴れ狂っていた。
    青葉を追おうとした瞬間、背に鈍痛が走り
    気付いたら地面の上に転がり、上に兵たちが何人も覆いかぶさっている。
     
    すぐ真上で、乾行がワアワアと大声で叫んでいる。
    意識がもうろうとして、目が閉じる。
     
     
    次に目を覚ましたのは、乾行の陣中であった。
     
    目を開けた伊吹の耳元で、乾行は静かにささやいた。
    「頼む、伊吹、落ち着いてくれ。」
     
    いつもの、人を食ったような乾行とは打って変わっての真剣な態度に
    伊吹は自分が何をしたのかを思い出した。
    そうだ、俺はあの時・・・
     
    立ち上がろうとしてフラつく伊吹を、乾行が支える。
    「すまん、つい渾身の力で殴り倒してしまったんだ。」
     
     
    乾行に抱えられて、座り直させられる伊吹は
    それでも行こうとした。
    「あの娘は・・・、あの娘は・・・」
     
    「伊吹!」
    乾行が伊吹の肩を掴んで揺さぶった。
    伊吹は思わず乾行の目を見る。
     
    「伊吹、今から言う事を落ち着いて聞いてくれ。」
    その力強い眼差しに、伊吹は自分に言い聞かせた。
    落ち着け、まずは落ち着くんだ
    目の前にいるのは、乾行だ。
     
     
    伊吹の体の力が抜けた事を感じた乾行は、ホッとした。
    そして乾行にしては珍しく、低い声でゆっくりと話し始めた。
     
    「あの娘は、龍田の姫だそうだ。
     今は高雄が保護している。」
    「龍田のひ・・・め・・・?」
     
    乾行には伊吹の驚きが理解できた。
    女に詳しい乾行ですら、まさか大名の娘とは思わなかったからである。
    しかも龍田家の娘という事は、帝の血が入っているのだ。
    伊吹には手の届かぬ存在であった。
     
     
    だがそれでも、伊吹の足に力が入る。
    「伊吹、行くな。」
    乾行の制止を振り切ろうとしながら、つぶやく。
    「人質になったという事は・・・」
     
    乾行にも、その言葉の先はわかっている。
    しかしそれでも、伊吹を止めねばならない。
     
    「伊吹、頼む、これ以上見苦しい事はしないでくれ・・・。」
    抱き締めた乾行の腕の力が、伊吹への思いやりを伝えている。
     
    「高雄なんだよ、姫を捕らえたのは。
     あいつは、おまえの好きな女だとわかってて捕らえたんだ。
     だったら絶対に非情な事はしねえ。
     高雄を信じなくて、俺たちは誰を信じられるんだよお?」
     
     
    伊吹の胸に重い石がのしかかったような、苦痛が走る。
    友の苦しい胸の内を感じるのに、それでもなお
    姫の元に行きたい気持ちが、どうしようもなくあふれてくる。
     
    伊吹は乾行の肩に顔を埋ずめた。
    その肩の震えで、乾行は伊吹の見られたくない涙を感じた。
     
     
     続く 
     
     
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           殿のご自慢・目次 

  • 殿のご自慢 10

    敵味方両軍の片翼が静止する、という、とんでもない事態に
    後ろに控える高雄が、やむを得ず乾行のところに馬を走らせた。
     
    「おい、乾行、伊吹はどうした!」
    乾行にも推測しか出来ないが、事は急を要する。
     
    「多分あれは、伊吹の女じゃねえかと思う・・・。」
    「何っ?」
     
    敵軍の先頭にいるのは、真っ赤な甲冑を着た女性で
    伊吹を見て、明らかに動揺している。
     
    伊吹も伊吹で、どうする事も出来ずに
    ただ馬上で呆然としている。
     
     
    我らの三角が・・・
     
    高雄は舌打ちをすると、馬の腹を蹴った。
    馬が前足を高く掲げ、走り出す。
     
    「乾行、この場を頼む。
     安宅、来い!」
    呼ばれた安宅が素早く反応する。
     
     
    時の流れが止まった空間を、高雄の馬が蹴り破る。
    高雄は伊吹の前に割り込み、娘を抱えた。
     
    伊吹には、その動きがえらくゆっくりしたものに見えた。
    すべてが止まった世界で、目の前を誰かが横切っていく。
    目の前にいたはずの娘が連れ去られていく。
     
    娘がこちらへと伸ばした手を、伊吹は掴もうとしたが
    ふたりの手は、あと少しの間を残して空を切った。
     
     
    「待て!」
    伊吹が叫ぶ。
    「待ってくれ、その娘は・・・」
     
    伊吹の声を背に、高雄は後ろから来る安宅に命じた。
    「姫を預かったゆえ一時休戦、の伝令を出せ。」
    「はっ。」
    安宅は、真っ直ぐに走り去る高雄から分離するように馬の方向を変えた。
     
     
    「あなたは龍田家の姫ですね?」
    自分に目もくれずに問う高雄に、娘は戸惑いながらも答える。
    「は、はい、次女の青葉 (あおば) と申します。
     あの、さっきのお方は・・・?」
     
    高雄はわざとわからぬフリをした。
    「誰の事でしょうか。」
     
    青葉には、それが嫌がらせだと、すぐわかった。
    女だてらに先駆けをしたあげくの立ちすくみなど
    失態もいいとこで、軽蔑されても仕方のない事。
     
    黙り込んだ青葉に、高雄がつぶやくように答えた。
    「あれは伊吹。 私の友だ・・・。」
     
     
    伊吹さま・・・
    名を知る事が出来て、涙が出そうなぐらいに嬉しかった。
     
    いくさで敵方に捕らえられた女性は
    良くて、見知らぬ男の所有物になる。
    多くは乱暴狼藉を働かれ、売られるか殺されるかのいずれかであった。
     
    それをわかっているために、いくさに関わった家の女たちは
    逃げるか、立てこもって自害をするのである。
     
    青葉は人質となった。
    身分ある人質は勝負の駒となるが、安全の保証はない
    しかも自害も許されないであろう、最悪の事態である。
    これによって、龍田家の犠牲と不利は決定した。
     
     
    乾行は実に上手く立ち回った。
    まず、高雄を追おうとする伊吹を馬上から叩き落し
    伊吹の隊の槍兵たちに命じた。
    「おまえら、伊吹を押さえとけ!」
     
    そして敵兵に向かって叫んだ。
    「待て待て待て待てえい!
     おまえらの姫さんは預かった。
     姫さんを助けたいなら、引けえい!」
     
    そして自軍に向かっても叫ぶ。
    「今日のところは休戦だ。
     元の持ち場まで戻って待機!!!」
     
     
    両方の兵が、どうするべきか迷いながらも、ジリジリと後ずさりをする中
    使い番の馬が、八島陣から龍田陣へと駆け抜けて行った。
     
     
     続く 
     
     
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           殿のご自慢 11 13.3.13 
           
           殿のご自慢・目次 

  • 殿のご自慢 9

     とうとう開戦の日がやってきた。
     
    翌日にでも始まる、と思われたいくさは
    何故か龍田家側がいくさ場に現れず
    延びに延びて、三日後にまで遅滞した。
     
    それでも八島の殿も、重臣たちも到着せず
    八島家陣営に総大将の旗は立たなかった。
     
     
    戦場に両陣営が揃った。
    その瞬間、高雄は愕然とした。
    何だ、龍田家側の数は!
     
    龍田家の兵士の数は、八島家側と同じぐらいなのだ。
    あれだけ兵を集めるのを苦労したあげくに
    殿を始め、八島家の主だった重臣たちが来ていないのにも関わらず。
     
     
    龍田家はいくさを好まず、山城家との付き合いで
    どうしても、という時にしか参戦せず
    そういう家だから、重臣たちにも名のある武将もいない。
     
    こちらには、伊吹と乾行の我々三人がいるぶん
    こちらの人数が少なくとも、勝てる戦いなのである。
    龍田家は少なくとも、倍の兵数を集めてしかるべき。
     
    高雄に疑心が生じる。
    まさか大殿はこれを見越して、わざとおいでにならなかったのでは・・・
     
     
    「ひゃっほう!」
    乾行の声が響き、高雄は我に返った。
     
    「敵さんたち、少なくて楽勝だねえ。
     だけど、おめえら、手を抜いちゃダメだよお?
     どんな相手にも全力で! それが武士の礼儀っつーもんよ。」
    兵たちが おおおおっ と呼応する。
     
     
    高雄の頭が冷えた。
    そうだ、私たちだけでやらなくてはならないのではない
    私たちだけで充分なのだ。
     
    「いくぞ、矢を放て!」
    高雄の言葉に、開戦の合図の鏑矢 (かぶらや) が敵陣営へと射ち込まれる。
    相手方からも、ヒュウウと音を上げて矢が飛んできた。
     
    「開戦だあっ!」
    両陣営は、一斉に走り始める。
     
     
    「いくぞ! 俺らが先駆けだあっ!」
    乾行が叫ぶと、兵たちも雄叫びを上げる。
     
    相変わらず、盛り上げるのが上手い
    高雄がそう思った時、敵陣営からも同様の おおおっ と声が上がった。
    相手陣営にも兵を引っ張る者がいるようだ。
     
     
    “花がいる”
     
    甲冑に身を包み、手には槍を持ち、馬上にいる伊吹が思う事ではない。
     
     
    その花は、どんどんとこちらに走り寄り
    伊吹に向かって、突っ込んで来るかと思われたが
    その少し手前で急にヒヒヒンと馬がいななき、その足を止めた。
     
    その馬に乗っていた真っ赤な甲冑の女は
    確かにあの時あの場所にいた、あの花であった。
     
     
    そこは戦場にも関わらず、見合ったふたりの驚愕に圧倒され
    その周囲だけは、誰も身動きを取れなくなっていた。
     
     
     続く 
     
     
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           殿のご自慢 10 13.3.11 
           
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