“ジャンル・やかた” を書いていて
自分の凶暴性にショックを受けたので
恋愛物を書いてみたくなった。 春だったし。
目標は、本気でロマンスの王道、ハーレクインである。
だとしたら、姫に王子に玉の輿だろ?
(ほんと貧相な想像力ですまんが)
姫と王子の話とか言われても、おとぎ話しかねえよな。
あっ!!! だったら、童話をアレンジすりゃ良いんじゃないか?
と、ひらめいたんだ。
今になって考えると、初手からパクり腰満々なわけで
ほんと自分の衝動の方向性が信じられん。
姫の名をモジったら、バカみたいな名になったあげくに
本家の名もバカみたいだと気付いて、ほんとすいません。
ヨンドリサンとかしなくて良かったよ、ほんと。
しかし書き始めたら、本家とはまったく別物になってしまった。
これは計算してやったわけではない。
ここでまた大ショックを受けたのが
恋愛物を書こうとしているのに
どうしてもイキテレラが王子に好意を持ってくれない事。
それどころか、何故か暴力やら殺人やらに繋がってしまう。
最初は、ああ・・・、じゃあ、ツンデレで
→ えっと、ちょっと控えめなロマンスに
→ うーん、ミステリー・ロマンスになるかな?
→ え? 何でスプラッタに?
→ まさかの拷問劇?
・・・私って人格障害じゃないだろうか? と本気で悩んで
診断サイトとかに行ったよ・・・。
だけど診断、受けてねえよ。
万が一が恐すぎるだろ。
てか、単にホラー好きなだけじゃん、変質者扱いすな!
とかいう、自作自演の八つ当たりはおいといて
もう、最大の理性の下に、ものすげえ書き直しをして書き直しをして
軌道修正して軌道修正して、それでもこれだ・・・。
書き直しをしないと、世界残酷物語になっとったわ。
そんぐらい、惨劇の方向に行くんだよ。
この茶番劇は、本人には結構なもがき苦しみだったんだが
多分ここに来ている人の予想を、1mmも裏切ってないと思う。
皆、私に恋愛物は無理だと思っていただろう?
口惜しや、ああ、口惜しや。
はあ・・・、しょせん私はこれかよ? と、結構落ち込んで
仕舞いにゃとにかく、さっさと終わらせようとしたのさ。
小説とか、考えて書くものだと思っていたんだ。
だけど違うんだな。
プロの人はどうだかわからないけど
私の場合は、設定を決めたら人物たちが勝手に動くんだ。
何かさ、今までの人生で自分が培った “常識” に沿って
話が勝手に進むんだよ。
という事は、こうなってもしょうがないんじゃないかな。
恋愛物とか嫌いで観ないし、ホラーとかが好きなのだから
私の創作の源は、どうしても猟奇系に偏るだろうよ。
この話では、途中でロマンスは諦めて
“何もしないという攻撃” みたいなものを
書こうとしたんだけど、そんな哲学まがいのものより
王さまのストレ-トな残酷さの方が楽しくてな。
正直、自分が女性で心底良かったと思う。
もし男性に生まれていたら、犯罪者になっていた自信がある。
それも攻撃性あふれるド変態。
今の私は、か弱く性欲の薄い上品な淑女だからこそ
社会に迷惑を掛けずに生きていけるんだと思うんだ。
パクリをしといて “創作” など、おこがましいけど
この創作作業、やってみると自分の闇が見えてきて、とても動揺するぞ。
あ、老婆が言ってた “観察者” とは
そういう立場のヤツがいるかもな、と
幼少時に庭でアリを追い回していた時に思ったんだ。
ただ、そんだけ。
関連記事 : カテゴリー パロディー小説
イキテレラ 1 10.5.11
カテゴリー: イキテレラ
-
イキテレラ 後書き
-
イキテレラ 17
「ふむ・・・。」
書類を読みながら、屋敷のホールを足早に歩く中年男性。
「いかがでした?」
スレンダーな体型の女性が、男性に駆け寄る。
「遅かったよ。
王妃は火あぶりにされたそうだ。」
「火あぶり? よりによって何故にそのような残酷な刑を!!!」
女性は思わずよろめき、男性が慌てて支える。
「王が乱心したのは王妃のせいで、王妃は魔女だとなったのだ。」
「・・・はっ、この時代にバカらしい!」
ソファーに横になった女性が、吐き捨てるように言った。
「そのような野蛮な国は、早急に根絶やしにすべきですわ。」
「いいのかね? きみの祖国だろう?」
「いまや、その出自も恥にしかなりませんわ。
王妃を魔女扱いして火あぶりだなど・・・。」
「王妃はどのような女性だったのかね?」
「自分にも他人にも興味がない人でしたわね。
そのせいで、周囲はどんどん傷付いていく。
本人に自覚はないのでしょうけどね。」
「義理とは言え、妹に対して辛らつじゃないかね?」
「事実ですもの。」
イキテレラの父と義母は、国境近くの温泉地へと移り住まわされた。
継子イジメの噂のせいもあったが
父の具合があまり良くなかったからである。
程なくして、父は亡くなった。
父の訃報は城へも届けられたが
イキテレラを外に出したがらない王によって握り潰された。
代わりに王は大臣たちに命じて、義姉たちに縁談を用意する。
上の義姉は、母を伴って隣国の裕福な商人へと嫁いだ。
下の義姉は、同じ隣国の軍人の家系へと嫁いだ。
“王妃の義姉” という肩書きによる
恵まれた縁談で、分不相応ではあったが
ふたりとも妻として母として、家を立派に仕切っている。
手紙を読み終えた女性は、窓際に歩み寄った。
妹の夫は快勝したらしい。
これでまた階級が上がる事でしょう。
だけど生国がなくなったなど、お母さまには言えないわね。
この頃少しお体が弱ってらっしゃるし。
イキテレラ・・・
あのままあの家にいれば、あなたはあなたでいられたでしょうに。
生まれつきの召使いが、王妃になったのが悲劇だったんだわ。
女性は手入れの行き届いた庭を、満足気に眺めた。
窓に映った自分に気付き
すっきりと開いたドレスの胸元を整え直した。
その顔に、水滴が一筋垂れたのは雨ではない。
空は優しい光にあふれていた。
秋が深まる時の、遠く高い淡い青。
冬が始まる前に、ガラスの国はなくなった。
何もしようとしないひとりの女性によって、すべてが滅びたその奇跡。
終わり
関連記事 : イキテレラ 16 10.6.22
イキテレラ 後書き 10.6.28
カテゴリー パロディー小説
イキテレラ 1 10.5.11 -
イキテレラ 16
イキテレラは城の一室に留め置かれた。
潰した王家の最後の妃をどうするか、意見が分かれたからである。
部屋には、王の形見だという品々が置かれていた。
その中に光るものがある。
ふと見ると、ガラスの靴だった。
あら・・・
イキテレラは、思わず靴を手に取った。
「今まで思い出してくれないとは、冷たいねえ。」
誰もいないはずの背後で声がする。
「・・・わたくしにかけた呪いを解いてくださいませんか?」
振り向きもせずにイキテレラが言う。
魔女はヒッヒッヒッと笑った。
「何だい、そんな風に考えていたのかい?
あたしゃ、あんたに奇跡をひとつあげただけなんだがねえ。」
「どういう “奇跡” ですの?」
「カボチャを馬車に、ネズミを馬に、だよ。」
イキテレラは、ふう と溜め息をついた。
「本当なんだよ?」
「もういいですわ。」
「それより、あんた、処罰されそうだよ。
王の処刑の時のあんたの態度はマズかったねえ。
あの立派だった王子をたぶらかしたあんたは
魔女だ、って話にいっちゃってるよ。」
「もういいですわ。」
「何なら、もう一度だけ “奇跡” をあげようか?
ちょっと責任を感じるしね。」
「もういいですわ。」
イキテレラは、同じ返事を繰り返した。
その姿はごく自然で、何の気負いも見受けられない。
「そうかい?
じゃあ、あたしは行くよ?」
「魔女さま、ご機嫌よう。」
魔女はその言葉にニヤッと笑った。
「あたしゃね、実は魔女じゃあないんだ。
成り行き上、そう名乗ったがね。」
老婆がイキテレラの顔を覗き込んだ。
「あたしゃ、単なる “観察者” なんだよ。
あんたは稀有なプレイヤーだったよ。
良い経験をさせてもらったよ、ありがとね。」
「そうですか、喜んでいただけて何よりですわ。」
「ん? 質問とかないのかい?」
「疑問は希望を持つ者の特権ですわ。」
「む・・・・・。」
老婆はつまらなさそうに姿を消した。
イキテレラの希望は、あの舞踏会の夜
ガラスの靴とともに砕け散ったのである。
魔女が杖を振らなければ、ドミノの駒は倒れなかった。
これさえなかったら、こんな事にはならなかったのに・・・。
イキテレラは無表情で、ガラスの靴を掴む指の力を抜いた。
靴は吸い込まれるように床に落ちていき
透き通った音を響かせて、カケラが飛び散った。
続く
関連記事 : イキテレラ 15 10.6.18
イキテレラ 17 10.6.24
カテゴリー パロディー小説 -
イキテレラ 15
王がイキテレラの部屋へと入ってきた。
窓から外を眺め、ニヤニヤしている。
いつになく上機嫌であった。
イキテレラには、王のすべてが理解不能でうっとうしかった。
「私はあなたの笑顔を一度も見た事がない。」
この状況で王がそう言いだした時にも、少しも反応しなかった。
王は座っているイキテレラの前にひざまずき、その靴に口付けた。
そしてイキテレラの手に剣を握らせた。
「あなたはいつでもこの私を殺せるのですよ。」
一生懸命に笑いかける王の背後で、ドアがけたたましく開いた。
とうとう民衆たちが城内へとなだれ込んできたのだ。
「我が妃よ、愛する我が妃よ!!!
はははははははははははははは」
叫びながら王は連行されていった。
イキテレラは無表情で、それを無視した。
侍女たちは解放された。
逃げ出した大臣たちの何人かは捕えられ
王とともに、処刑を待つ身となった。
イキテレラは、侍女たちの証言により
“囚われの姫” として認識された。
民衆たちが見守る中、広場に作られた斬首台の前に立たされた王は
司祭に “最後の望み” を訊かれた。
王は堂々と高らかに答えた。
「我が妃の微笑み。」
かつては好青年であった、その名残りが見られる王のこの答は
街の女性たちのハートにキュンッ絵文字略ときた。
イキテレラが連れて来られた。
王は後ろ手に縛られたまま、イキテレラの前へとひざまずく。
王が見上げているイキテレラの反応を
街中の者たちも注目している。
しかしイキテレラは眉ひとつ動かさなかった。
まなざしは宙に固定されている。
その態度は、期待に満ちた子供のような王の表情と対比すると
呆けているというよりは、冷酷に映った。
王は一瞬うつむいたが、立ち上がり少し微笑みながら
イキテレラに口付けをした。
「永遠の愛をあなたに。 我が妃よ。」
王は、斬首台に自ら首を乗せた。
王の首が転がっても、イキテレラは身動きすらしなかった。
続く
関連記事 : イキテレラ 14 10.6.16
イキテレラ 16 10.6.22
カテゴリー パロディー小説 -
イキテレラ 14
目覚めたのは、自室のベッドの中だった。
体調と周囲の雰囲気で、すぐに自分に何が起きたのかわかった。
王が入ってくると、侍女たちは慌てて部屋を出て行った。
「我が妃よ、やっと目覚めましたか。
あなたは3日も眠っていたのですよ。」
王は、イキテレラを抱きしめた。
「意識のないあなたはつまらない。」
イキテレラは、部屋から出なくなった。
自分のせいで、王に誰かが殺されるのが恐いからだ。
イキテレラの周囲には、最低限の人数の侍女だけが残った。
「部屋に閉じこもっていると、体に悪いですよ。」
王は時々イキテレラを抱きかかえて、庭を散歩した。
イキテレラの瞳は、何も映さない。
ついうっかり誰かと視線を交わしただけでも
王が激怒するかも知れないのだ。
「あなたの瞳は淡い空の色なのですね。」
王がイキテレラの瞳を覗き込む。
「あなたの髪が風をはらんで、まるで黄金の滝のようですよ。」
王がイキテレラを抱いて、笑いながらクルクルと回る。
うつろな表情の女性を撫ぜ回しながら、しきりに話しかけるその様子は
まるで人形遊びをしている変態男のようであった。
「あれがこの国の王の姿か・・・。」
大臣たちは、遠目にその様子を覗き見て嘆いた。
街では、王の乱心の噂が広まっていた。
天候不順で、農作物が不作だったからである。
不自由なく生活できていれば、他人の動向は気にはならない。
国を統べる王が不徳だから天が怒るのだ
いつの世も、民衆たちはそう結論付ける。
非科学的な理屈だが、王家の存在もまた科学ではない。
そしてある朝、パン屋の軒先で黒猫が死んでいた。
猫嫌いのパン屋のおかみは絶叫し、服屋のお針子は呪いだと恐れ
肉屋の主人は神の怒りに震え、酒場のマスターは時がきたと告げた。
民衆たちは憎悪の渦となって、城へと集まってきた。
王を捕えよ、処刑しろ、と怒声が響く。
門が壊されるのも時間の問題であった。
大臣たちは我先にと遁走した。
侍女たちは、どうしたら良いのかわからず
イキテレラの元へと集まってきている。
イキテレラは長椅子に座って
ボンヤリと外の喧騒を聴いていた。
続く
関連記事 : イキテレラ 13 10.6.14
イキテレラ 15 10.6.18
カテゴリー パロディー小説 -
イキテレラ 13
このところ、王が寝室にやってこない。
皇太后が去った後、新しい女官が城にやってきたのだ。
新王妃のお話相手に、という名目であったが
皇太后が寄越した王の妾候補であった。
多分、彼女は王のお眼鏡に適ったのであろう。
しかしイキテレラに降りかかるのは、決まって不運。
幼い王子が流行り風邪で急逝したのである。
王がイキテレラの目の前に、満面の笑みで現われた。
「我が妃よ、私に世継ぎを!」
「どうか側室のお方にお願いいたします。
わたくしの実家よりも、身分が高いお家の出だと伺っております。
彼女の方が、お世継ぎを産むにふさわしい血筋かと・・・。」
イキテレラが必死で懇願すると、王は無言で部屋を出て行った。
ホッとしたのもつかの間、王はすぐ戻ってきた。
件の女官を連れている。
イキテレラも驚いたが、女官も同様の様子である。
「あの、王さま・・・?」
女官が問いかけようと口を開いたその瞬間
王が剣を抜き、女官に向かって振った。
女官の首が床に落ちる音が鈍く響いた。
地鳴りのようだった。
イキテレラには、何が起こったのかわからなかった。
女官の体がゆっくりと倒れ、振動で側の花瓶が転がり、床に落ちて割れた。
相次ぐ物音を不審に思った侍女たちが、部屋をノックする。
イキテレラは、女官から目を逸らせる事が出来なかった。
床に転がった “彼女” と目が合ってしまっていたのだ。
入って来い、と王の許可を得た侍女たちが悲鳴を上げた。
王は剣の血をはらいながら、平然と命令した。
「この女は我が妃に無礼を働いた。
片付けておけ。」
王は、放心状態のイキテレラを引きずって寝室へと向かった。
「私が愛する妃より、身分の高い女がいてはならぬ。」
王の言葉で、女官を死へと追いやったのは自分だ、とイキテレラは悟った。
イキテレラは、すぐに身ごもった。
しかし王の通いは止まらない。
「王さま、お腹のお子に障りますゆえ
何とぞしばらくの間はお控えくださいませ。」
イキテレラから相談を受けた侍医が、王に進言に行った。
王は、造作もなく答えた。
「ダメだったら、また作れば良い事ではないか。」
この返事を聞いた侍医は、口をつぐんだ。
まともな感覚の答ではないからである。
「王さまには、決してお逆らいなさいますな。」
侍医はイキテレラにそれだけを助言すると、職を辞した。
イキテレラの体調は日に日に悪くなっていった。
気分転換にと、侍女がピクニックに連れ出してくれた。
こんな事ではいけないわ
絶対に世継ぎを作っておかないと。
でも、あの男の血を引く子・・・?
自分の腹の中にいる子が、果たして人間なのか
それすら疑いそうになる。
どこにいても、何をしていても、すべてが恐怖へと繋がっていく。
馬車に乗っていて、城が見えてくると胸が苦しくなってきた。
あそこに帰りたくない!
イキテレラは泣き出した。
「王妃さま、しっかりなさってください。」
侍女が一生懸命に慰めるが、イキテレラの涙は止まらない。
馬車が城に着き、イキテレラが降りようとしてフラついた。
「大丈夫ですか?」
支えてくれたのは、馬番の少年であった。
「・・・ありがとう・・・。」
イキテレラが城へ入ろうとした時にすれ違ったのは、王だった。
え? と振り返ると、王は少年を切り殺していた。
返り血に染まった王が、イキテレラに向かって微笑んだ。
「こやつ、事もあろうに我が妃に触れおった。」
イキテレラは悲鳴を上げ、気を失った。
続く
関連記事 : イキテレラ 12 10.6.10
イキテレラ 14 10.6.16
カテゴリー パロディー小説 -
イキテレラ 12
王の葬儀は厳かに行われた。
国中に弔いの鐘が鳴り響く中、王妃はずっとすすり泣いていた。
イキテレラは、泣ける心境ではなかった。
実の父親を殺すほどの嫉妬、というものが存在するなど信じられない。
だが、現実に “それ” を目の当たりにしてしまったのだ。
人の所業とは思えない。
恐くて恐くて体の震えが止まらない。
その隣で、王子はただ静かに参列している。
その落ち着きが、より一層にイキテレラの恐怖心をかきたてる。
王の葬儀の7日後には、王子の戴冠式である。
世代交代は速やかに行われなければ、国政が乱れる。
今回は “王の暗殺” という大事件であったが
現場にいたのが全員身内であり、誰にも王を殺す動機もない事から
王妃の証言通りに、従者の犯行だと判断された。
従者は、王妃の愛人であった。
「わたくしは戴冠式が終わって落ち着いたら
歴代の王の墓所のある北の寺院に参ります。」
王妃の言葉に、イキテレラは不安を感じた。
「いつまでですの?」
「王を亡くした王妃、つまり皇太后は、寺院にこもって
夫の魂の安息を祈りながら、余生を過ごすのですよ。
もうここには戻って来ませんの。」
「そんな・・・。」
イキテレラの手が震えだし、それを鎮めるかのように
自分の手を重ねながら、王妃が低い声で言った。
「わたくしだけ逃げ出すような形になって、ごめんなさいね。
出来れば、あなたも連れて行きたいのですけれど
それは国政上、許されない事なのです。
戴冠式の後は、あなたが王妃になるのですよ。」
「わたくしには無理です・・・。」
「だけど、するのです。」
王妃は、イキテレラの両頬を手で包みながらささやいた。
「王子には気をつけなさいね。
実の母親が言う言葉ではないけれど、あの子は狂っています。
万が一の時には頼みますよ。
王国には、もう次の世継ぎはいるのですから。」
何が “万が一” なのか、何を “頼む” のか
イキテレラには考えたくもない事であった。
王妃、いや皇太后を乗せた馬車が城門を出て行くのを
イキテレラは涙ながらに見送った。
「我が妃は、いつ見ても泣いているなあ。 はっはっは」
王子、いや王の王妃に対する心無い言葉に
その場にいた者全員が、ギョッとした。
イキテレラは、無言で部屋へと急いだ。
王の言動のひとつひとつがすべて
自分への脅迫に思えて恐ろしくてならない。
戴冠式の時に、イキテレラが勺杖を王に渡す儀式があった。
王は杖を受け取れば良いだけなのに、杖を持ったイキテレラの手を握った。
強く握り締めた手を離さず、自分を睨む王に
イキテレラはどうして良いのかわからず、思わず王の目を見た。
その時が初めて、夫と目を合わせた瞬間だった。
暗く深い茶色の瞳だった。
王は空いている方の手で、勺杖を取りながら
ゆっくりとイキテレラに顔を近づけた。
「それでも私はあなたを愛しているのですよ。」
王は薄ら笑いを浮かべて、イキテレラに口付けをした。
端から見ると、単なる夫婦のキスなのだが
イキテレラにとっては、死刑執行書へのサインにも等しかった。
この時のイキテレラの恐怖を察する事が出来たのは、皇太后だけである。
皇太后は戴冠式が終わった途端、荷造りを始めた。
続く
関連記事 : イキテレラ 11 10.6.8
イキテレラ 13 10.6.14
カテゴリー パロディー小説 -
イキテレラ 11
「王子はまた、毎晩あなたの寝室に通ってらっしゃるようね。」
お茶を飲むイキテレラの隣で、王妃がほほほと笑った。
「この分じゃ、2人目もすぐ出来るでしょうね。」
わたくし、ちゃんと世継ぎを産みましたわ
これでもう役目は終わった、と思っていたのに・・・
気落ちしているイキテレラの頬に、王妃が手を伸ばした。
「わたくしには王子の気持ちがわかるわ。
可愛いイキテレラ。」
王妃の指が、イキテレラのまぶたを撫ぜ
まつげをかすめ、唇をなぞった。
「わたくしの事も恐い・・・?」
王妃の唇が、イキテレラの右の頬を這う。
イキテレラに返事は出来なかった。
王妃の唇がイキテレラの唇をふさいだからである。
イキテレラの倫理観では、ありえない出来事だったが
王妃の繊細な動作は、王子との行為よりはよっぽどマシに思えた。
「王子の事は、もうしばらく我慢なさい。
あの子にはわたくしが適当な妾を見繕ってあげますわ。」
王妃はイキテレラの耳元でささやいた。
昼間は母親、夜は息子、と、とんだ変則的な親子どんぶりだが
この腐敗した性生活は、早々に終わりを告げた。
王妃とイキテレラの目の前には
血に染まった胸で息絶えた王と
血に染まった剣を持ち、立ち尽くす王子が
月光に照らされて浮かび上がっていた。
「王子、あなた、何をしているの?」
王妃が震える声で訊く。
「父上は、我が妃と密通しておりました。
ですから斬りました。」
王妃とイキテレラが、思わず顔を見合う。
確かに王子以外にイキテレラに近付ける男性は、王しかいない。
だがイキテレラと密通していたのは、王妃であって王ではない。
「わたくし、王さまとそのような事はいたしておりません!」
イキテレラの叫びを、王子が迷いもなく否定した。
「・・・嘘ですね!」
「何故そう思うのですか? 王子よ。」
王妃の問いに、王子が答えた。
「最近、妃の体が柔らかくなりました。
我が妃は、他の者に抱かれている。
私にはわかるのです。」
イキテレラには、その言葉の意味はわからなかったが
激しい嫌悪感に襲われた。
「何て汚らわしい・・・。」
吐き捨てるように言い、部屋を出て行こうとするイキテレラを王妃が留める。
「お待ちなさい、このままにしておくわけにはいきません。
たとえ王子と言えども、王殺しは重罪なのです。
王国を混乱させてはなりません。」
王妃が部屋を出て行き、ひとりの従者を連れて戻った。
「こ、これは何が起きたんですか?」
倒れている王を見て狼狽する従者を、王妃が斬った。
「この者が王を殺したので、王子が成敗したのです。」
王妃は、剣を床に投げ捨てた。
「さあ、人を呼びなさい。」
そう王子に命じると、王妃は王にとりすがって泣き始めた。
続く
関連記事 : イキテレラ 10 10.6.4
イキテレラ 12 10.6.10
カテゴリー パロディー小説 -
イキテレラ 10
初夜の事は、まったく記憶にない。
しかし、そんな事はもはや問題ではなかった。
王子は毎晩イキテレラの寝室へと来るのである。
たとえ伽をしなくとも、隣で眠る。
イキテレラの体を抱きしめて。
それで王子は心地良く眠れているようだが
イキテレラの方は、まったく眠れない。
何日経っても、この男に慣れないのである。
わたくしを守ってくださると仰るのなら
この方がこの世からいなくなってくれるのが一番早いのに・・・。
しかし、この願いは絶対に叶わない。
妊娠を待つ身としては、薬も酒も厳禁で
寝不足が続き、どうなるかと心配していた矢先に
懐妊したと知らされた時は、心の底からホッとした。
これでわたくしの役目は終わる。
身ごもったイキテレラは、何よりも優先された。
王子の訪問も、つわりを理由に断る事ができた。
周囲にいるのは、物静かな侍女だけ。
時々王妃さまが気遣って見舞ってくださる。
イキテレラは、城で初めての安らかな時間を過ごす事ができた。
これで産まれてくるのが、世継ぎであれば・・・。
イキテレラの祈りが届いたのか、無事に健康な男児を出産した。
出産直後のイキテレラの元に、王子がやってきた。
「我が愛する妃よ、世継ぎを与えてくれた事を心より感謝します。」
王子の瞳からこぼれた涙が、イキテレラの頬に落ちた。
王子は疲れきってもうろうとしているイキテレラに口付けた。
育児は主に乳母がした。
イキテレラは時々授乳をするだけである。
王家というのは、このようなものなのかしら?
子を産んだというのに、母親になった実感もない。
わたくしは何をして過ごせばよろしいの?
日々をボンヤリと過ごすイキテレラに、侍女が王子の訪問を告げる。
産後の体調不良を理由に、ずっと避けてきたのだけれど
今日はイキテレラの実家に関して話があるらしいので
断るわけにはいかない。
イキテレラは渋々と腰を上げた。
ドアを開けると、王子は窓際に立っていた。
日光を受けるその姿を見て、イキテレラは思った。
あら、このお方の髪の色は黄土色ですのね。
王子は久しぶりに会う妻を、眩しそうに見つめた。
「具合はいかがですか?」
「ええ・・・、まだ少し・・・。」
「そのようなあなたをわずらわせるのは、心苦しいのですが
あなたのご実家の事で、少し相談がありましてね。」
イキテレラの実家は、婚礼の際に多額の支度金を王家から渡された。
そして皇太子妃の実家として、月々の “恩給” も貰っているのだ。
「問題は、この他にちょくちょく金銭の工面に来られるのですよ。
あなたのお父上がね。」
「まあ、何てみっともない・・・。」
イキテレラは、目を伏せて深く溜め息をついた。
「お義母さまとお義姉さまたちは、少し贅沢なんですの・・・。
うちは貴族とは言え、決して裕福ではありませんのに・・・。」
イキテレラの嘆きに、王子は慌てて言いつくろった。
「ああ、いえ、違います。
お金の事は構わないのです。
ただ、その、義理の母娘たちはあなたをいじめていたくせに
皇太子妃になったあなたにタカって、という噂が街でたっていましてね。
それは外聞が悪いんじゃないか、と大臣たちが心配するのですよ。」
「ああ・・・、そういう事でしたの・・・。」
イキテレラは、目を上げて窓の外に広がる空を見た。
しばらく無言で流れる雲を見つめていたけれど
実はイキテレラは、実家の問題については何も考えていなかった。
ただ、隣に立っている大きな男性の存在感を
明るい昼間の太陽の光で打ち消そうとしていたのである。
何故このお方は、こうも私の顔を凝視するのかしら・・・
イキテレラはイライラさせられていた。
決して王子の方を見ようとはしなかったが
王子の仕草は、目の端でわかる。
「わたくしの実家の事は、すべてお任せいたしますわ。
嫁いだ身としては、口を出す権利はございません。」
イキテレラが窓に背を向けた時に、王子が言った。
「あなたとこのように会話をするのは初めてですね。」
「そうですか? ではわたくしはこれで・・・。」
王子の言葉に妙な色気を感じて、ゾッとして
ドアへと急ぐイキテレラを、王子が背後から抱きしめる。
「このような日中から何を考えていらっしゃるのです!」
「あなたを間近に見て我慢できるほど、私は忍耐強くはないんですよ。」
まさか王子という身分の者に、“無礼者” と言えるわけもない。
王子がイキテレラのドレスを整えながら、激情を詫びた時にも
王子が部屋を出て行って、侍女が迎えに来た時にも
イキテレラは無言で平静を装った。
夫が妻に性行為をするのは、当然の事なのである。
続く
関連記事 : イキテレラ 9 10.6.2
イキテレラ 11 10.6.8
カテゴリー パロディー小説 -
イキテレラ 9
婚礼が決まり、再び泣き暮らすイキテレラの元に王妃がやってきた。
「イキテレラ、あなた、王子が嫌いなのかしら?」
王妃は優しくイキテレラの髪を撫ぜる。
「王子は我が子ながら、たくましく立派な青年で
多くの女性たちから恋される、理想的な男性ですのに
あの子のどこが不満なのかしら?」
イキテレラは、オドオドしながら答えた。
「王妃さま、王子さまに不満など・・・。
ただ・・・、わたくしは・・・、男性が恐いのです・・・。」
「まあ!」
おっほっほ と、王妃は高らかに笑った。
「お可愛いらしいお方。
心配する事はなくてよ。
王子も今はあなたにご執心だけど
あのような美丈夫、誘惑は多い。
すぐに次の女性へと気を移しますわ。
正妃の仕事は、世継ぎを産みさえすれば終わり。
後は好きに暮らせるのよ。」
王妃はにっこりと微笑み、イキテレラの頬を撫ぜた。
「少しの間だけ、辛抱なさいね。」
イキテレラはその言葉を頼りに、耐える決心をした。
何もこの男性は、自分を取って喰おうとしているわけではないのだ。
家を継いでも、どんな男性が婿入りするかわからない。
どうせいずれは、結婚はせねばならない運命なのである。
にしても、相手があの人とは、あんまりだわ・・・。
イキテレラは遠くから王子の後姿を盗み見て、改めてショックを受けた。
大抵の女性なら喜ぶ、広くたくましい背中は
イキテレラにとっては、恐怖の対象でしかない。
せめてもう少し華奢な人だったら、まだ良かったのに・・・
イキテレラは元々、ここまでの男性恐怖症ではなかった。
舞踏会での強引さ、しつこい貼り紙、そして突然の拉致
経験した事のない、それらの非現実的な出来事での恐怖が
すべて王子由来だと刷り込まれてしまったのだ。
婚礼の儀は、イキテレラには苦行だった。
常に隣に怪物がいる気分であった。
パレードの時には、無理に笑顔を作って手を振ってはいたが
王子に握られている片手は、震えて汗をかいていた。
王子はそれを行事への緊張だと勘違いし
イキテレラの頬にキスをし、ささやいた。
「私のか弱い姫、今日からは私があなたを守ると誓おう。」
王子の顔が近付いた時に、一瞬だけイキテレラの表情がこわばったが
何とか平静を保ってやり過ごした。
この嫌悪感を、誰にも気付かれてはならない。
その瞬間に、多分人生が終わるから。
続く
関連記事 : イキテレラ 8 10.5.31
イキテレラ 10 10.6.4
カテゴリー パロディー小説