城に着く頃には、イキテレラは叫び疲れて大人しくなっていた。
つぎはぎだらけのみすぼらしい服を脱がされ
大勢の女性たちにかしづかれて、入浴をさせられた。
その間中、イキテレラは涙を流していた。
他人の手が気持ち悪くてしょうがない。
何故自分がこんな目に遭わなくてはならないのか。
その嘆きようは、侍女たちも気の毒に思うほどであった。
美しく着飾らせられたイキテレラは
王の前へと連れていかれた。
涙を流しながら震える小さい女性を、王妃は哀れんだ。
「仮にも貴族の娘ですのに
何故このような乱暴な事をなさるのです?」
「い、いや、わしはそういう命令は出しておらんぞ。
王子が先走って・・・。」
慌てる王を無視して、王妃はイキテレラに近寄った。
「小さいお方、さぞ恐かったことでしょう、お可哀想に。
もう大丈夫ですよ、わたくしは王妃です。」
イキテレラが、泣きながらも礼儀正しくお辞儀をして
挨拶の言葉を述べようとした。
「~~~~~~・・・・・!!!!!」
イキテレラは驚いて喉を押さえた。
声が出ないのである。
拉致の際のあまりの絶叫に、イキテレラの喉は潰れていた。
王は激怒し、兵たちを死刑に、王子を謹慎にした。
イキテレラは、しばらく湖のほとりの城で静養をする事になった。
すべてが自分の意思以外のところで動いている。
毎日毎日を、ただ嘆いて暮らした。
その頃、城ではイラ立つ王子がウロウロと歩き回っていた。
段取りを無視して、無理強いをした罰として
イキテレラに会わせてすらもらえないからである。
書庫では、司書たちがイキテレラの家系を調べていた。
「イキテレラさまの、曽祖父の従兄弟の叔母の長女が
当時の公爵家の次男に嫁いでいらっしゃいました。」
「では、姫は公爵家ゆかりの由緒正しい血筋、という事になるな?」
「それで差し支えないかと。」
「よし、王さまにご報告を!」
イキテレラは城に連れ戻された。
王と王妃の横に立っているのが、王子らしい。
舞踏会の夜の男性など、顔も見ていないイキテレラには
初めて会うも同然である。
しかし想像以上に、背が高くガッチリとしたその体型に
イキテレラは愕然とした。
この男性が、ここ何週間かの恐怖の元凶で
その上にイキテレラの最も苦手なタイプだ。
イキテレラは、思わず目を背けた。
王子を直視できないほどのトラウマを抱えてしまったのである。
「姫、あなたに再び会える日をどれだけ待ったか・・・。」
王子は “待て” をくらったせいで、喜びを抑えられず
イキテレラの元に駆け寄り、抱きついてきた。
イキテレラは、きゃあああああ! と叫んで、王子の腕を振り払い
この突然の無体に、しゃがみこんでワナワナと体を震わせた。
何なの? この人、暴漢なの?
「遊び女とは違いますのよ、王子。
あなたの正妃となる血筋正しい女性には
もう少し理性的に接しなさい。」
王妃が呆れたように、冷たく言い放った。
正妃? わたくしが?
何故そのような事に?
イキテレラは、目の前が真っ暗になり
次の瞬間、床に倒れた。
続く
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