カテゴリー: 黒雪姫

  • 黒雪姫 32

    ドサドサドサドサーーーーッ
     
    「・・・・・・・・」
    「・・・・・・・・」
    「・・・・・・・・」
     
    何度も何度もしつこいワープに
    もう誰も何も言いたくなかった。
    無言で目を開けて、無言で立ち上がった。
    反応したら負け、という気分になっていたからである。
     
    しかしそのささやかな抵抗も、目の前の光景を見たら
    簡単に打ち破られてしまった。
     
     
    「きゃあああああああああっっっ!!!!!」
     
    最初に叫んだのは継母であった。
    目の前には、茶色の巨大ヘビがトグロを巻いていた。
     
    「・・・・・マジでハブかい・・・・・・。」
    黒雪姫は、とてつもなく落胆した気分になった。
     
     
    「ママン!!!」
     
    背後で声がして、ヘビに駆け寄る者がいた。
    王子である。
     
    王子はヘビに抱きつくと、いとおしそうに頬ずりした。
    そして黒雪姫の方を向いて言った。
     
    「私は実はハブ女王の息子なのです。
     300年前の戦いで、母は妖精界を追われ
     私は妖精界に取り残されてしまったのです。
     あなたについていけば、いつか母に会えると思っていました。
     騙してすみませんでした。」
     
     
    黒雪姫は、ポカーンと口を開けている。
    「そんなに驚きましたか?」
    王子が申し訳なさそうに言うと、黒雪姫が動揺しつつ言った。

    「う、うん・・・
     その歳で 『ママン』 って呼んでるんだ・・・?」
    「そこですか!!!」
    王子、渾身の突っ込みである。
     
     
    「てか、ここ、さっきの荒野よね?」
    黒雪姫があたりを見回してつぶやく。
    マジで王子がハブ女王の息子でも、どうでもよさげである。
     
    「そう・・・・・。」
    ハブ女王が答えた。
     
    「ヘビが喋った!」
    継母が驚く。
     
    「喋る鏡とお話してたくせに、何を驚いてるんやら。」
    呆れる黒雪姫に、とまどう継母。
    「だって、あれは魔法の鏡で・・・。」
     
    「いい加減、目を覚ませ、ババア!
     あの鏡の正体は、この大蛇だったのよ。
     あなたは利用されてたのよ。」
     
     
    継母にそう怒鳴ると、黒雪姫は握り締めた拳を突き出した。
    「お継母さま、ヘビにナメられてムカつきません?」
    「・・・・・それは、そうだけど・・・。」
     
    「人間の世界を、ヘビなんかにめちゃくちゃにされて良いのですか?
     とても歯が立ちそうにない相手だけど
     ここで引いたら、人間失格じゃないですか?」
     
    黒雪姫は、腰のナイフを継母の前に差し出した。
    それを見た継母は、やっと状況が呑み込めたようで
    大蛇の方を睨んで訊いた。
    「じゃあ、あの関西弁は?」
     
    「怒らせて割ってもらおうとしていたのだが
     そなたが意外に忍耐強くて、敵わなかったようだな・・・。」
    大蛇がチロチロと舌を出しながら答える。
     
    継母は溜め息をついて、ナイフを受け取った。
    「はあ・・・、通りで妙な関西弁だと思ってたわ・・・。
     遊んで暮らすために、王室に後妻に入ったというのに
     結局、重労働をしなきゃいけないのね・・・。」
     
     
    「しょうがないじゃん、東国人は働き者なんだから。
     世界のために頑張って当然ですわよ。」
    ふっ と余裕を見せる黒雪姫に、大蛇が言う。

    「割ってくれて、ど ・ う  ・ も ・・・。」

    その言葉を聞いた途端、黒雪姫がサーッと青ざめた。
     
     
    「あーら、引き鉄を引いたのはあなたのようね。」
    継母が、鬼の首を取ったように高笑いをする。
    「黒雪、お継母さまに何か言う事は?」
     
    「・・・謝りませんわよ。
     私ら母娘、結局どっちもどっち。
     騙され損の骨折り損、それもまたよし。」
     
     
    黒雪姫にツンとそっぽを向かれ、一瞬ニヤッとした継母は
    気を取り直すかのように、ナイフを握り直して叫んだ。
     
    「では、いきますわよ!」
     
     
     続く
     
     
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           黒雪姫 1 10.7.5   

  • 黒雪姫 31

    ズシャズシャズシャッ と折り重なるように
    どこかに落とされた黒雪姫たち。
     
    「あいたたたたた・・・。」
    「何でこんなに投げ回されにゃならんのじゃ。」
    「損しかしてない気分じゃ。」
    「と言うか、次はどこなんじゃ?」
    「うう・・・、周りを見るのが恐いぞ。」
     
     
    目を開けると、下は木の床だった。
    見上げると、目の前にドレスを着た女性が立っている。
    「女王じゃあ!!!」
    キャアキャア言って、右往左往する小人たち。
     
    「「 うるさい !! 」」
    女性と黒雪姫が同時に怒鳴った。
    だるまさんが転んだ で、ピタッと止まる小人たち。
     
     
    「・・・うっとうしいわね・・・。
     さすが、あなたのツレね。」
    「お褒めいただき光栄ですわ、お継母さま。」
     
    「何ーーーーーーーーっ?」
    「お継母さまじゃとーーーーーーーっ?」
    「ラスボスはあんたの継母じゃったんか!」
    どよめく小人たちを、継母と姫がギッと睨む。
     
     
    睨まれた小人たちは、部屋の隅にジワジワ追いやられつつも
    各自がひとことは余計な感想を言わなきゃ気が済まないようで。
    「迫力はさすが似ておるな。」
    「言動も一緒じゃ。」
    「本当に継母か? あれで血の繋がりはないのか?」
    「・・・と言うか、あの話、覚えているか?」
    「何じゃ?」
    「ほれ、事の発端の美人争い。」
    「ああ・・・、そうじゃったな・・・。」
    「このレベルでのお・・・。」
     
    「「 聴こえているんだけど? 」」
    「「「「「「「 すっすいませんーーーっ。 」」」」」」」
    ズザザザザと、あとずさりする小人一同。
     
     
    「姫のお継母さまでいらっしゃいますか。
     お初にお目にかかります、私、北国の王子です。
     どうぞ、お見知りおきを。」
     
    片膝を付き頭を下げる王子に、継母の顔が少しほころんだ。
    「あら・・・ (はぁと)」
     
    「(はぁと) じゃないですわよ、この色ボケババア。」
    黒雪姫の罵倒に、継母が微笑んで言う。
    「鉄板処女よりマシでしょう、ほほほ。」
     
     
    30cmの距離で睨み合う継母と娘。
    「美人争いですって?
     ペラペラとよくも・・・。
     口が軽い女はモテなくてよ?」
     
    「おほほ 勘違いババアほどイタいものもありませんわ。
     私は自分のツラの偏差値ぐらい、わきまえておりますから。」
     
    ビシビシビシッと火花が散る。
    こ、恐すぎる・・・ と2人以外の全員が縮み上がった。
     
     
    「で? あなた、何故生きているのかしら?
     ああ、いえ、それは後ほど瞬殺するから良いとしても
     何故ここにいるのかしら?」
     
    継母のその問いに、黒雪姫が怪訝そうな顔をする。
    「お継母さまが私たちを呼んだのではないのですか?」
    継母は、は? と笑った。
    「何故あたくしがあなたを呼ばなきゃならないのかしら?」
     
     
    継母から目を逸らさずに、黒雪姫が問う。
    「ここはどこですの?」
     
    「ここはあたくしの塔ですわよ。」
    「城の・・・?」
    「ええ。」
    黒雪姫の口の端がピクッと上がった。
     
    「そこだあっ!!!」
     
    黒雪姫が振り向き様に、ヒジで鏡を割る姿が
    スローモーションのように展開された。
     
    「あな た な  に   を     」

    継母の叫びが、途切れ途切れに耳に入ってくる。
     
     
    飛び散った鏡のカケラのひとつひとつに
    全員の驚く顔が映りこんでいた。
    カケラは渦を巻いて鏡台の中へと吸い込まれて行った。
     
    後に残ったのは、鏡面のない鏡台だけだった。
     
     
     続く
     
     
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           黒雪姫 1 10.7.5    

  • 黒雪姫 30

    輪になって、クッキーやサンドイッチをつまんだ後
    何も食べるものがなくなっても、誰も立ち上がろうとはしなかった。
     
    ひどく疲れているのもそうだったが
    どこに行って何をすれば良いのか、見当も付かなかったからである。
     
     
    そんな中、黒雪姫はボンヤリと遠くに見える森を眺めていた。
    今座っているここは、草もまばらな小石の多い土地である。
     
    足元の土を掻いてみる。
    えらく硬い。
    作物も実りにくい、痩せた土地に見える。
     
     
    どうしようか・・・
    いや、行くしかないのはわかってるし!
     
    黒雪姫は、自分に活を入れるように両頬を叩いた。
    そのバシバシという音に、一同はビクッとさせられた。
    「よっしゃあ! 行くかー!」
     
    すっくと立ち上がった黒雪姫に、小人が訴えた。
    「なあ、あんたは何をしたいんじゃ?
     何もわからずに付いて行くのは、倍疲れるんじゃよ。
     わしらにも作戦を話してくれんかのお。」
     
     
    黒雪姫は、しばし考え込んだ後にうなずいた。
    「うん、そうね、ごめんなさい。
     こういう場合は、南の方へ行くべきだと思うのね。
     温かい方が生き残れる確率が高いでしょ?
     だから私はこっちに行きたいのよ。」
     
    「そんだけの理由かい!」
    呆れる小人に、黒雪姫はムッとする。
    「サバイバル、大変なのよ?」
     
    「まあ、そりゃそうじゃな。
     じゃあ、夜になる前になるべく南下しとこうかの。」
    小人たちが次々に腰を上げる。
     
    黒雪姫は、勘のみで動いていたが
    南の森林が、どうも気になってしょうがなかったのである。
    まさかとは思うけど、見覚えがあるのよねえ・・・。
     
     
    「じゃが、今までに会ったヤツは、皆北に向かってたろう?
     北の方向に何かがあるんじゃないのか?」
    「あったとしても、それは良いものじゃない気がするんじゃが・・・。」
    「そんな事を言っとたら、解決せんじゃろう。」
     
    小人たちの議論を、黒雪姫はうんこ座りで眺めている。
    「何じゃ?」
    「いや、あなたたちが意見をどうまとめるのか、興味があって。」
     
    「多数決じゃ。」
    「・・・何だ、結局エセ民主主義なわけね。」
     
    「いるよな、こういう、平等を嫌うひねくれ者。」
    「うんうん、絶対に自分が少数派になるもんで、歪むんじゃ。」
     
    「何ですってーーー?」
    小人たちの図星に、暴力で済ませようとする黒雪姫。
    「あんたはケダモノか!」
    キャアキャア逃げ回りながら、罵倒する小人たち。
    それを あはは とノンキに見物している王子。
    ひとりで黙々と後片付けをする執事。
     
     
    突然空間にキラキラした光の渦が現われた、と思ったら
    全員を再び飲み込んだ。
    「何じゃ? こりゃあ」
    「うおっ、吸い込まれる???」
     
    「強制移動はもう嫌じゃあーーーっ」
    「じゃあーーーっ」
    「ゃあーーーっ」
    「あーーーっ」
    「ーーーっ」
     
    誰もいなくなった荒野には、小人の叫びがこだましていた。
     
     
     続く
     
     
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           黒雪姫 1 10.7.5  

  • 黒雪姫 29

    ひと段落ついたと思ったら、すぐにスタスタと歩き始める黒雪姫。
    「姫、ウサギも駒も皆あちらの方に走って行ったのに
     何故にこちらへ行くんです?」
    王子が質問をする。
     
    「んー、気分?」
    上の空で答える黒雪姫。
     
    「それよりさあ、私の真後ろを歩かないでくれる?」
    「何故ですか?」
    王子が、そのままの位置を動かずに訊く。
     
    「あなた、剣持ってるでしょ。
     そういう人に後ろにいてほしくないのね、私ゴルゴ系だから。」
    「は?」
    「いいから!」
     
     
    執事が見かねて王子に進言する。
    「王子、武器を持ってるのは我々だけですし
     確かに気持ちの良いものではないでしょう。
     我々は少し離れて歩きましょう。」
     
    「む、そういうものか?
     しかしそれでは姫を守れぬではないか。」
     
    「王子、この姫はそういう事を言うと怒るタイプに見えます。
     どうか、じいの言う事を信じてください。」
    執事が王子の耳元でささやき、王子は仕方なく黒雪姫から離れた。
     
    「あんた、誰に対しても平等にひどいのお。」
     
    「いちいちそういう事を言いに来るのは
     自分にもひどい事をしてほしい、って意味よね?」
    黒雪姫の眼球がゆっくりと小人の方を向く。
    小人は慌ててすっこんだ。
     
     
    10人もいるのに、無言のまま通夜のように進んでいたのだが
    王子が遠慮なく声を上げた。
    「お腹が空きませんか?」
     
    「おお、そういえば腹が減ったのお。」
    「ちょっと一服するか。」
    無言だったが、黒雪姫も立ち止まった。
     
     
    お茶会の残り物を皆で食べていると、黒雪姫が王子に話しかけた。
    「武器は何を持っているの?」
    「私は長剣と短剣、じいは鞭と調理道具ぐらいですかね。」
    王子は剣とナイフを抜いて見せた。
     
    「では、そのナイフを私に貸してくれる?」
    「これをですか?」
    「そう、そのダガー。」
     
    「しかし、か弱い女性が刃物など持たずとも
     私がお守りしてさしあげ・・・。」
     
    王子が渋って中々渡さないので、黒雪姫が切れる。
    「うっさい!
     できるなら大ナタぐらい欲しいとこなのよ、こっちは!
     いいから、さっさと貸せ!」
     
     
    ビビッた王子の手からダガーナイフを奪い取ると
    腰に挿しながら言った。
    「返せなかったらごめんねー?」
     
    「あーあ、ありゃ返す気サラサラないぞ。」
    「とうとう刃物を持たせたか・・・。」
     
    小人たちが背後でささやいた。
     
     
     続く
     
     
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           黒雪姫 1 10.7.5    

  • 黒雪姫 28

    ありがとうございますありがとうございます、と頭を下げる元女王を
    良いからさっさとどっか行け、と追い払った黒雪姫は
    「これ、結構重いわねえ。」
    と言いながら、まるで帽子置きに置くように何気なく
    王冠を小人の頭にポンと乗せた。
     
    小人の服が、ポンッと赤いドレスになった。
    「きゃああああああっっっ!!!」
    慌てる女王小人に、うろたえる6人の小人。
     
     
    「何じゃ、これ、取れんぞ?」
    パニックになって、ワアワア泣き喚く女王小人の王冠を
    全員でどうにか取ろうとするが、取れない。
     
    「うーん、呪いの王冠かもね。」
    サラリと言う黒雪姫に、小人たちが抗議する。
    「あんたのする事は、考えられんぐらいにひどすぎるぞ!!!」
     
    小人たちの心の底からの怒りも
    黒雪姫に取っては、下僕の不平不満でしかない。
     
    チェスの勝負をし直して、黒雪姫が女王になるべきだ
    という意見も、ひと睨みで一蹴された。
     
     
    「大丈夫。 ここの親玉を倒せば呪いも解けるでしょ。
     てか、あなた、その駒たちの主人になったのよ。
     家来がいっぱいできて良かったじゃない。」
     
    黒雪姫の能天気な言葉につられて
    女王小人もあさってなグチを言う。
    「でも、ここで待たなきゃいけないんじゃろ?」
     
    「誰がそんな事を決めたの?
     駒にボードを持たせて移動すりゃ良いんじゃん。」
     
    「え? そうなんか?」
    「ルールも決められないなど、女王さまとは言えないでしょうー。
     気合いで頑張れ!」
     
     
    「よ、よし、あんたら、わしの後について来い。」
    女王小人が、かなり虚勢を張って命令すると
    駒たちは、ゾロゾロと女王小人の後ろについてきた。
     
    「ボード、いらないみたいじゃな。」
    「だったら無敵ね!」
    黒雪姫は、アハハと笑った。
     
    男なのに、赤いドレスを着せられて・・・?
    と、その場の全員が思ったが
    言ってもムダのような気がしたので、全員が沈黙した。
     
     
    「ねえ、女王、ちょっとこの馬に
     かぶりものを脱いでみるよう命令してみてよ。」
    「おお、駒も呪われてるかも知れんしな。」
     
    黒雪姫の無神経な言い方と
    それを注意もしない仲間に、女王小人は心底失望した。
    「マジで気が滅入っているのに
     女王とか呼ばんでくれんかのお・・・。」
     
    言った後に、やはり自分も気になるので
    とりあえず “命令” してみた。
    「ま、あんた、その馬、取ってみい。」
     
    女王小人が命令すると、馬が馬を取った。
    中から出てきたのは、色白の・・・・・
    普通のオヤジであった。
    何故かかなりガッカリする一同。
     
    「馬を取ったら、体が人間で顔だけ馬、ってのが
     出てきたら面白かったのにねえ。
     かぶりもの、必要ないじゃん! って感じで。」
     
    相変わらず、言ってはならない事を平気で言う黒雪姫を
    小人たちが無言で蹴る。
     
     
    「いつの間にか、こんな物をかぶせられて・・・。」
    「ああ、ああ、もういいから帰ってくれ。」
     
    投げやりに返事をする女王小人に
    ありがとうございますありがとうございます、と言いながら
    馬オヤジはどこかへと走って行った。
     
    ルークもありがとうございますありがとうございます、と言い略
    ポーンもありがとうございますありが略
    ビショップもありがとうご略
    以下、全員略。
    ちなみに全員、不思議なぐらいにオヤジ揃いであった。
     
     
    「・・・何だったんじゃろう?」
    「さあ? でも “駒が足りない” って言ってたじゃん。
     だから逃げる事が出来た人がいるのかな、と思ったのよ。
     と言う事は、駒自体を倒せば代わりがいなくなるんじゃない?
     って事で、暴れてみたのよね。」
     
    「ほお。」
    感心する小人たちに向かって、真面目な表情で語る黒雪姫。
    「いずれにしても人を駒にするなんて、鬼畜の所業よねっ。」
     
    「「「 あんたが言うな!!! 」」」
    7人全員がハモった。
     
     
    「てか家来もなしで、何でわしだけこのまま・・・?」
    泣きそうな顔で、女王小人がつぶやく。
     
    「ほんと、大変よねえー。」
    上っ面だけ同情する黒雪姫に、小人たちの蹴りが入る。
     
    「「「 あんたが言うな!!! 」」」
     
     
     続く
     
     
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           黒雪姫 1 10.7.5  

  • 黒雪姫 27

    約10m四方の盤に、デカい駒が並び
    両陣営には高い審判台のような椅子に座った女王と小人がいる。
    この2人が駒の行く先を指示し
    駒はそこへとノタノタ歩くのである。
     
    黒雪姫と小人4人以外の駒は、駒の形のかぶりものをしている。
    2本の足が見えているので、中身は人間のようである。
     
     
    「ポーン、d3へ。」
    「ポーン、e6へ。」
     
    ゲームが始まったが、盆提灯みたいな形のやつばかりが動き
    ルールを知らない黒雪姫は
    ただ立っている事に、早くもイライラしてきた。
     
    「ね、このゲームって、どのぐらい時間掛かるの?」
    ナイトの位置にいる小人に訊く。
    「さあて、早くて数十分じゃないかのお?」
     
    その返事に予想通りブチ切れる黒雪姫。
    「ええーーー、その間立ちっ放し? 冗談じゃないわ!」
     
     
    黒雪姫は目の前の味方の提灯を突き飛ばし
    相手の陣地に、ドドドドドと走って行った。
     
    「提灯ゲーット!」
    叫んだ途端、黒雪姫が飛ぶ。
    そして提灯の腹に蹴りを入れた。
     
    「おおっ! 飛び蹴りじゃ!」
    「飛び蹴り、リアルで初めて見たぞ。」
    「本当に出来る技なんじゃなあ。」
     
    小人たちは、ヘンなところに感動している。
    黒雪姫と一緒にいて、感性が鈍ったのかも知れない。
     
     
    「塔も排除!」
    相手ルークの頭部を掴んで、自分の膝にブチ当てた。
    ポーンとルークは、数歩フラついて前のめりに倒れた。
     
    「な、何をしておる! やめぬか!!!」
    怒る女王を見上げて、黒雪姫が不敵な笑みで叫ぶ。
     
    「生きてる駒は、言う通りに動かない事も多々あるのよ!
     そんな事も知らずに、気軽に人を動かそうなど
     女王の心得を一から学び直してこい!
     つい最近まで帝王学を学んでいた私に勝とうなど、10年遅いわ!」
     
     
    おりゃ、馬ダウン! タージマハ-ル (ビショップの事らしい) 死刑!
    と周囲を襲う黒雪姫に、女王が肩を落として言った。
    「参った・・・。 私の負けじゃ。」
     
    「参ったんかい!」
    うなだれた女王を見て、小人たち全員が驚く。
     
     
    「まあ、参るかもなあ・・・。」
    盤上の惨劇の跡を見て、納得もする。
     
    黒雪姫はキングを掴んで、タコ殴りにしている真っ最中であった。
    周囲は、阿鼻叫喚の地獄絵さながらに
    駒がうめきながらゴロゴロ転がっている。
    恐ろしい事に、敵味方両方が・・・。
     
     
    「で? 勝った私へのご褒美は?」
    汚いマネをしておきながら
    大威張りで報酬を要求する黒雪姫。
     
    「女王・・・」
    「にはならなくて良いから、他の!」
     
    「・・・・・・・・・」
    女王は無言で目を泳がせる。
     
     
    「女王になるメリットとデメリットは?」
    黒雪姫の執拗な追求に、女王が吐く。
    「メリットは、この駒を動かせる。
     デメリットは次の人が来るまで女王を辞められない。」
     
    げっ、そんな役目を私に押し付けようとしてたわけ?
    と、黒雪姫は少し立腹したが
    すっかり落ち込んだ女王に、小人たちが口々に同情の意を表する。

    「自由にならんのか。」
    「・・・可哀想じゃのお・・・。」
    「どうにかしてやれんかのお。」
     
    ほんと、こいつら甘いんだから、と思ったが
    女性がショゲてるのは、ほんの少し気の毒なような
    そんな感じも、しないでもない。
     
     
    「わかった。 女王の任を解いてやる。
     あなたは好きなところに行けば良い。」
    黒雪姫は、女王の頭から王冠を取った。
     
    その瞬間、女王の赤いドレスはポンッと地味な服へと変わった。
     
     
     続く
     
     
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           黒雪姫 1 10.7.5  

  • 黒雪姫 26

    小人たちと女王が、チェスの用意をしている間
    黒雪姫は座ったまま、ボーッと考え事をしていた。
     
    「何を考えとるのかね?」
    小人たちがふたり、黒雪姫の横に座った。
     
    「あなたたちは参加しないの?」
    「ああ、わしらはチェスは苦手なんじゃ。」
    「へえ、皆似たようなもんかと思ってたけど
     違う部分ってあるのね。」
     
     
    その言葉に、小人は仲間を指差しながら解説をし始めた。
    「ほれ、あそこにおるヤツは、弓が得意なんじゃよ。
     だから主に狩りを担当しておる。
     あそこのヤツは、手先が器用で特に針仕事を好む。
     ご近所さんから服を作ってくれと頼まれる事もあるんじゃ。
     あそこのヤツはな・・・。」
     
    黒雪姫はただ黙って、活き活きと説明する小人を見ていた。
    「・・・あんた、聞く気がないじゃろ?」
    見つめられている事に気付いた小人が、ムッとして言った。
     
    「いや、楽しそうに説明してるなあ、と思って。
     本当に仲が良いのがわかるわー。」
    珍しく黒雪姫がクスクス笑った。
    そうやってると、普通の可愛い女の子に見えない事もない。
     
     
    「私が思っていたのは、あなたたちはオールマイティで
     皆、一様に万能だって事。
     そう思ってたんだけど、不得意なものもあるなんて
     ちょっと意外だったな、と。
     これは悪口じゃないのよ。」
     
    「よくわからんが、わしらは何でも助け合うから
     傾向も似てきて、個性がないのかも知れんな・・・。」
     
    「同じ個性が集まってるから、無個性に見えるだけですよ。」
    口を挟んできたのは王子である。
    「世界が一緒なら、個性が一緒になるのも自然な事ですよ。
     たまに違う感覚を持つ者が出ると
     異端として扱われるんですよね。」
     
    小人の表情がパアッと明るくなった。
    「そうなんじゃ! わしらは似てるだけなんじゃ!」
     
     
    王子と小人たちの弾む会話に、黒雪姫は興味がなかった。
    周囲と自分の個性の調和など、平民の悩みだからである。
     
    黒雪姫の不安はただひとつ。
    この勝負に負けたら、どうなるんだろう?
    てか、勝って女王になるのも、何だかヤバくない?
    どう転んでも、危ない展開になるっぽい。
     
    そこに、チェスに参加する小人が走ってきた。
    「駒が足らんので、あんたに代わりに来いって言ってるが。」
     
    「はあ? 道具が足らないゲームを
     どうしてそんな無理くり、やらなきゃならないのよ。
     てか、この私を駒扱い? 何をたわけてるのよ!」
     
    黒雪姫が一蹴すると、女王が向こうの台の上から叫んだ。
    「駒がないと不利になるぞえ?」
     
     
    「ふーん、まあ、いいわ。」
    黒雪姫は、やる気がなさげにノソノソと盤上に立った。
     
    「あんたはここ、ルークの位置じゃ。」
    「スターウォーズ?」
    「何じゃ? そりゃ。
     ルークは戦車という意味で、縦横に何マスでも動けるんじゃ。
     自分サイドの駒は飛び越えられんが」
     
    とりあえず、ルールを聞いていた黒雪姫だったが
    案の定、理解しきれずに途中でさえぎった。
    「わからん! おまえの話はわからん! by大滝秀治 」
     
    「?」「?」「?」
    皆が怪訝な表情をする中、黒雪姫が叫んだ。
    「もう良いから、とっとと始めようよー。」
     
     
     続く
     
     
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           黒雪姫 1 10.7.5    

  • 黒雪姫 25

    一行はウサギの向かった方向へと歩いたが
    ウサギの姿はどこにも見えなかった。
     
    歩いていた黒雪姫が、ふと向きを変えた。
    「あ、やっぱこっちじゃなく、こっちに行くから。」
     
    「ちょっと待て、そういう場合は皆で相談じゃないのか?」
    よせば良いのに、小人のひとりが意見をする。
    案の定、黒雪姫は ああーーーん? と
    チンピラのような表情で、小人たちを見下ろした。
     
    「じゃあ、文句のあるヤツは、まずは殴り合いからいきましょうか。」
    小人たちが黒雪姫に敵うわけがない。
     
    「なあ、あんたも何か言ってくれんか?」
    小人の懇願に、王子は微笑みつつ最悪の答をする。
    「私は姫の行くところなら、どこへなりと。」
     
    「ダメじゃ、この王子・・・。」
    「人間というのは、何故こうも不可解なのか。」
    小人たちは、いちいち寄り集まっては不平不満を口にしていた。
     
     
    その姿を横目で見て、黒雪姫は茶化した。
    「烏合の衆でたーーー (笑)」
     
    そのからかいには腹が立つが、7人いるという事が
    案 × 7 なのではない事は、自たちでもよくわかっている。
    それどころか、協調性があるあまりか
    7人がまるで1人のように、感覚が同じなのである。
    小人たちはそれぞれ、自分の分身が6人いる気分であった。
     
    それがいけない事なのか・・・?
    小人たちは動揺し始めていた。
     
     
    突然どこからか、行く手にひとりの女性が現われた。
    真っ赤なドレスを着ている。
    「これ、そこな娘、そなたを女王にしてあげようぞ。」
     
    「何か出たが・・・。」
    小人の言葉に黒雪姫は小さい声で、それでもきっぱりと言った。
     
    「無視!」
     
     
    女性の近くを避けて、迂回しようとする一行に
    女性が走り寄ってくる。
     
    「娘、そなたの事じゃ。」
    黒雪姫が右に目を逸らすと、女性は右に顔を突き出し
    左を見ると、左に顔を突き出す。
     
    「これ、わらわの言葉が聞こえぬのか?
     娘よ、そなたを女王様にしてやるのじゃぞ?」
     
    「この女、今でも既に何様じゃから。」
    いらん真実を答えた小人の頭を、ゴッとゲンコツする黒雪姫。
    「てか、私、唯一の嫡子だし、自動的に女王になるから!」
     
     
    「何を焦っているんじゃ?」
    空気を読めない小人が、黒雪姫の腕を引っ張る。
     
    黒雪姫は女性の方を見て、ビクビクしながら訊いた。
    「・・・チェス?」
    「おお、よく知っておるな。
     その通り!
     わらわにチェスで勝ったら、そなたを女王にしてあげよう。」
     
    「私、チェス知らないからパス!」
    行こうとした黒雪姫に、小人たちが言った。
    「わしら、チェスは得意じゃぞ!」
    「じゃ、あなたたちが女王にしてもらえば?」
     
    ひとり立ち去ろうとした黒雪姫に、女性が怒鳴った。
    「ダメじゃ! 女王は女と決まっておる!
     では小さい者たちよ、そこな娘を賭けようぞ。」
     
    「よし! その勝負、受けて立った!」
    小人たちが調子こいた。
     
    「ちょ、ちょっと待って!」
    黒雪姫が止めるのも聞かず、自称女王と小人たちは
    チェスの用意をし始めた。
     
     
    小人たちの先走りに、黒雪姫は青ざめて座り込んだ。
    ザコだの脇役だの、散々あおったせいで
    小人たちは一旗揚げようとしているようだ。
     
    悪事は自分に返ってくる、という良い見本である。
     
     
     続く
     
     
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           黒雪姫 1 10.7.5  

  • 黒雪姫 24

    黒雪姫の意見は、あまりにあまりなのだが
    戦いというのは、通常の感覚ではやれない。
     
    黒雪姫に付いていく = “戦に参加する”、という図式に
    小人たちは、やっと気が付いた。
     
    泣きたくなるような、イヤな予感がヒシヒシと漂う。
    もう1mmも後戻りが出来ない気がするのだ。
     
     
    そんな不安も手伝ってか、辺りも何となく
    薄気味悪い場所のように思えてくる。
     
    「なあ、ここはどこじゃろうなあ?」
    「うむ・・・、わしもそれが気になっとった。」
     
    黒雪姫には、“ここがどこ” など、何の疑問も浮かばなかったが
    小人たちの言葉は、“道に迷った” レベルじゃない雰囲気である。
     
    「えっ、ここって妖精界じゃないの?」
    「うーん・・・、妖精界でトランプの兵士など聞いた事がないぞ。」
    「妖精同士の戦いも御法度じゃしな。」
     
    悩む小人たちに、王子が言う。
    「ここ、魔界じゃないですか?
     妖精界は妖精王がいるのでしょう?
     さっき猫が “女王さま” って言ってましたよ。
     だから人間界と妖精界以外の場所だと、神界と魔界で
     神界に女王さまがいるとは思えませんから。」
     
    「魔界じゃと・・・?」
    「いやじゃあ! いやじゃあ! わしら、どうなるんじゃーーー!」
    小人たちが四方八方にパニくり走りし始めた。
     
     
    「うるさい!!!」
     
    黒雪姫が、小人たちを一喝する。
    だるまさんが転んだ、のごとく静止する7人。
     
    「ここが魔界と決まったわけじゃないでしょ。
     てかさ、現実に妖精界には “ハブ女王” がいるそうじゃん。
     その人の事じゃないの?」
     
    「ハブ女王は300年前の戦いで破れて死んだんじゃ。」
    「あら。」
    黒雪姫のとぼけた返事に、小人たちが怒る。
    「『あら』 かい、『あら』 !」
     
    「でもさ、別に魔界でも良いじゃない。
     だって私ら、さっきの兵隊とのバトルで快勝してるんだし
     魔界、結構チョロいかもよー?」
     
    「おお、それもそうじゃな。」
    小人のひとりが同調すると、別のひとりがたしなめた。
    「しかし、妖精界にどうやって帰るかが問題じゃないか?」
    「そうじゃった・・・。」
     
     
    沈み込む小人たちに、黒雪姫が気楽に言う。
    「こういう場合は、ラスボスを倒せば元の世界に戻れるんじゃない?
     仮に戻れなくても、ここで天下を取れば良いわけだし。」
     
    「あんた・・・、楽観的すぎるぞ・・・。」
    呆れる小人を、黒雪姫がそそのかす。
    「ここの親玉を倒せば、あなたが王さまよー? んんーーー?」
     
    「わしが王・・・?」
    グラつく小人を、他の小人が止める。
    「ヘンな夢は見るな!
     ここの主を倒しても、この女がいる限り
     わしらは下僕扱いじゃぞ。」
     
    腕組みしてニヤニヤしている黒雪姫を見て、我に返る小人。
    「お、おお、そうじゃった。
     危ない危ない、騙されるところじゃった。」
     
     
    「ふーん。
     私は、地位なんかには興味ないんだけどー。
     まあ、いいけどねー。」
     
    黒雪姫は、ウサギの走って行った方向にブラブラ歩き始めた。
    「とりあえず、干し肉を追いましょうよー。」
     
    「うむ、早く何とかして、この女と縁を切ろう。」
    小人たちは円陣を組んで、その気持ちを確認し合った。
     
    王子はテーブルに飾られた花を愛でつつ、鼻歌を歌い
    執事は残った食料をタッパーに詰める。
     
     
     続く
     
     
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           黒雪姫 1 10.7.5  

  • 黒雪姫 23

    野原の1本の木の下に、長テーブルが置かれていた。
    お茶や軽食が乗っている。
     
    ウサギを椅子に縛りつけて、お茶を飲ませ菓子を食わせる。
    「嫌がらずに飲み食いしたわね
     よし、毒は入ってない。
     さあ、食いましょう、いただきまーす。」
     
     
    皆が楽しく茶をしている横で、縛られたウサギが訊く。
    「俺はいつ解放されるんだ?」
    「色々答えたらじゃないかのお?」
     
    「じゃあ、早く訊いて放してくれ。」
    「えーと、質問、何でしたっけ?」
    ボケボケな王子である。
     
     
    「♪ あっはっはー、バカなウサギ
     女王さまは怒り心頭
     兵隊たちが責めてくるー ♪」
     
    歌声がする方向を、黒雪姫以外が見る。
    「・・・?
     何であんたは見ないんじゃ?」
    小人の問いに、黒雪姫が答える。
     
    「どうせニヤついてる猫でしょ?」
    苦々しい表情の黒雪姫。
    「・・・当たりじゃ・・・。 何故わかる?」
     
     
    「おい、それより兵隊が来る、って言ってるぞ。」
    ここで黒雪姫がようやく返事をした。
     
    「あ、それ大丈夫。
     灯油とライターくださーい。
     一瞬でカタが付きますのでー。」
     
    茶を飲みながら、明るい声で言う黒雪姫に
    何じゃ? どうしてじゃ? と、口々につぶやく小人たちだったが
    向かってくる兵隊が見えると、全員が納得した。
     
    「なるほど、紙か。」
    某メルヘン名物のトランプの兵士である。
     
     
    「こんなん、素手で破れるわ!」
    黒雪姫が、兵士を持ち上げては頭上で破り捨てていく。
    どう見ても、怪獣大戦争である。
     
    小人や王子たちも、加勢する。
    「ほりゃほりゃ、松明じゃぞー。」
    「王子さまソード!!」
    「執事ムチ!」
    「メラ!」
    えっ、誰? 何でドラクエ? しかも最弱呪文・・・。
     
     
    途中いらん実況をはさみつつも、瞬時に兵隊を全滅させたご一行。
    「わしらも頑張ればやれるもんじゃのお。」
    「頭脳派じゃが、案外運動もいけるかも知れん。」
     
    暴力沙汰の達成感に小人たちが浸っている隙に
    ウサギが縄を緩めて逃げ出した。
     
     
    「あーあ、だから食おう、って言ったのにー。」
    「あんた、本気じゃったんか!」
     
    「人類以外の生き物 = 食い物。
     人間っちゃあ、そういうもんよ。」
     
    サラッと鬼畜発言をする黒雪姫の隣で、王子が優雅に微笑んだ。
    「この姫と私を、一緒に考えないでくださいねー?」
    この王子も大概な人格である。
     
     
    いち早く冷静になった小人のひとりが、問題提起をする。
    「なあ、この惨状はどうするんだ?」
     
    そこいら中に転がっている千切られたトランプたちは
    上半身と下半身に分かれてなお、動いていた。
    カサコソと音を立ててジタバタしているその光景は
    何かの虫のようでもいて、ちょっとグロテスクである。
     
    「もう何も出来んじゃろうから、放置で良いだろう。」
    「しかし、哀れ過ぎないか?」
     
    小人たちが、オロオロし始めた。
    ひとりが感情に支配されると
    残りの小人たちに、その感情が次々に広がっていく様は
    まるで伝染病のようである。
     
     
    「じゃあ、とどめを刺せば良いのね?」
    黒雪姫がマッチを取り出した瞬間、小人たちが慌てた。
    「わーーーーーーーっっっ! 止めてくれ!」
     
    一斉に黒雪姫に飛び掛かる。
    この黒雪姫小人ブドウ状態も
    幾度となく繰り広げられてきた風景である。
     
     
    小人たちの矛盾した言動に、黒雪姫が怒り始めた。
    「あなたたち、何がしたいのよ?
     イクサって言うのは、こういう事なのよ?
     普通は敵の、血まみれ内臓ドバーの死体が
     目の前に山積みになるわけ。
     今回は紙で、まだ動いているだけマシでしょう!」
     
    黒雪姫の激怒に反論が出来ずに
    うつむいて黙りこくっている小人たちを
    王子がしゃがみ込んで、優しく慰める。
     
    「まあ、正当防衛だとしても
     他人を傷付けるのは気分の良いものではありませんよね。
     でも彼らは、普通の生き物ではないようですので
     その内、自力でくっつくかも知れませんし
     そっとしといてあげる、というのはどうでしょうか?」
     
     
    この王子の提案を、欺瞞だとわかっていても
    すがりついてしまう小人たち。
     
    「そうじゃな。」
    「きっとわしらと違う構造なんじゃ。」
    「とりあえず、復活を祈ろうぞ。」
     
    自分たちにだけ都合の良いプラス思考に
    黒雪姫が冷淡につぶやいた。
     
    「最後まで殺してあげるのが、勝者の義務なのに・・・。」
     
     
     続く
     
     
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           黒雪姫 1 10.7.5