ドスン! と、地面に落ちたご一行。
「ふふふ・・・、ここがどこだかわかるかね?」
ウサギが邪悪な顔をして問う。
「ほらあ、明らかにこいつが悪でしょう?
あなたたち、さっき私を悪者呼ばわりした事を謝りなさいよ。」
黒雪姫の抗議に、小人たちが素直に詫びた。
「すまんじゃった。」
「まさか、こういう展開になるとは思わんで・・・。」
「だから、あなたたち、考えが浅すぎるんだって。」
小人たちに説教をかます黒雪姫に、ウサギが怒鳴る。
「おまえら、ここをどこだと思ってるんだ!」
黒雪姫が、ゆっくりとウサギを持ち上げる。
「あなた、まことのバカ?
ここがどこだろうと、あなたは私になぶり殺される事決定なのよ?」
黒雪姫はワープ中もウサギの耳を離さなかった。
ウサギは、黒雪姫に両耳を掴まれたまま凄んでいたのである。
自分の目の高さにウサギを持ち上げた黒雪姫が、キリッと言う。
「大丈夫、全部残さず美味しくいただくから!」
「・・・あわわ・・・。」
動揺するウサギに、王子が優しく語り掛ける。
「ウサギ殿、我々に情報をくれたら
姫をとりなしてあげても良いですよ?
私は殺生は好みませんので。
いえいえ、決してベジタリアンではないですけどね。」
「・・・何を訊きたい?」
渋々と受けるウサギ。
「そうですねえ、まず、ここはどこで、誰が黒幕で
あなたは何者なのか、何をしようとしてるのか
300年前と数年前に、妖精界に何が起こったのか
人間界の北国の村の滅亡と、東国の王妃に関わる鏡は何なのか
現在の妖精界で、何か異変が起きているのか
今のところ、これぐらいですかねえ?」
黒雪姫に同意を求める王子に、小人が突っ込む。
「それ、この話全部じゃないか!」
「てかさあ、ウサギごときにそんな核心がわかるとは思えないけど?
それより、これ、鍋にしない?
私、お腹すいちゃったわ。」
軽々しく自分を鍋の材料にしようとする黒雪姫に
ウサギが慌ててバタついた。
「待てっ、待ってくれ、何でも答えるから命だけはーーー!」
「そういや、さっきお茶会とか言ってたぞ。」
「食べ物があるんじゃないのか?」
「ある! あるから俺を食わんでくれーーー!」
「んじゃ、さっさと案内した方が良いぞ。
この女、腹が減るとより一層凶暴になるし。」
「何ですって?」
小人のその言葉に、黒雪姫の腕がピクッと動いた。
「あああああ、余計な事を言って
こいつの神経を逆なでせんでくれーーー!」
ウサギが必死に叫ぶ。
黒雪姫の怒りは、全部自分にくる事をわかっているようだ。
続く
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黒雪姫 23 10.9.13
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黒雪姫 1 10.7.5
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黒雪姫 21
黒雪姫ひとりの働きで、やっと茨の藪を抜けた。
最後の方は、ナタが壊れて使い物にならなくなり
執事のキッチン鋏が活躍した。
(剣を持った王子は、災いを恐れた小人たちに制止された。)
それほど長い藪であった。
「こっから、あっち方面に2時間じゃ。」
「急ごうかの。」
「あなたたち・・・、私を少しは休ませようとか思わないの?」
肩で息をする汗だくの黒雪姫に、小人たちが冷たく言い放つ。
「行きたがってるのは、あんたひとりじゃからのお。」
このもっともな意見に、言い返す言葉が見つからず
黒雪姫が一歩踏出した時に、前方に動く影が見えた。
「ああー、遅れる遅れる。」
その瞬間、黒雪姫は小人のひとりの首根っこを掴んでいた。
「うおりゃあああああああああああっっっ!」
「きゃあああああああああああああっっっ!」
投げられた小人は、悲鳴を上げながら水平に飛んで行き
動く影に的確に叩きつけられた。
そこへ黒雪姫が、すかさずにボディスラムをする。
黒雪姫にダイブされた小人かウサギのどっちかが
グエッと小さい声を洩らした。
一同はこの衝撃映像に、驚愕した。
「何て事をするんじゃ!」
「そりゃ、ひどすぎるぞ!」
「そこまでの仕打ちはあんまりじゃ!」
小人たちのブーイングをよそに
黒雪姫はウサギの耳を掴んで持ち上げた。
「こいつの皮を剥いで、さばいて干し肉にしましょ。」
「ちょっと待て、そのウサギ、服を着とるぞ。」
「懐中時計も持っとるぞ。」
小人たちの指摘を、黒雪姫は聞き入れない。
「森にいるウサギは食用と決まってます!
肉系は捕れるうちに捕っておかないと。」
「言葉を話す者を食べるのは感心しませんねえ。」
王子の言葉に、黒雪姫がブチ切れた。
「うるさい! こいつは生かしておいたらダメな気がするの!!!」
「あー、これ以上面倒な事になりたくないんじゃな?」
「見え透いとるぞ。」
「しかし、そのために殺人をしちゃいかんじゃろうー。」
小人たちのヤジに、黒雪姫が怒り出す。
「ドやかましい!!!
あなたたちだって、こんな騒動はさっさと終わらせたいでしょ?
そのために私が汚れ仕事をする、っつってんじゃん
何の文句があるのよ!」
「悪じゃ・・・。」
「こやつが真の悪だったか・・・。」
ザワつく小人たち。
その時、黒雪姫の手元のウサギが、歪んだ笑みを浮かべた。
「ふっふっふっ・・・
よくぞ見破ったな、女。」
ウサギは両手を前に出した。
「こうなったら、全員ご招待しよう。
お茶会に・・・。
波ぁっっっ!!!」
空中に出来たヒズミのような亀裂に
黒雪姫一行は吸い込まれて行った。
「波動砲ーーー?」
「カメハメ波ーーー?」
「ブレストファイヤーーーー?」
そのまま黙っていれば、黒雪姫が糾弾されて
自分は無傷で解放されてたかも知れないものを
早々とカミングアウトして馬脚をさらすなど
しょせん小動物は小動物、低脳なこって、という話である。
続く
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黒雪姫 22 10.9.9
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黒雪姫 20
地図や文献などは、城にはあるだろうけど
一般の妖精の家にはないらしい。
「詳しい人とかいないんですか?」
王子の問いに、小人が答える。
「だから、賢者さまが・・・」
「あんな伝書バトの役割りしかしてないフクロウじゃなく
もっと他に生き証人みたいなんはいないの?
って訊いてるんだってば。」
えらいな言い様だが、黒雪姫の怒りももっともである。
「うーん、樫のじいさまなら知っとるかもしれん。」
「出た、木!」
メルヘンの知識係って、いっつも大木よねー
と暴言を吐く黒雪姫に、王子が感心したように同意する。
とりあえず、会いに行こうと全員で家を出る。
王子が黒雪姫に小声で訊ねた。
「小人たちの数人は、家に残しておいた方が良いんじゃないですか?
賢者さまとバラバラに動き過ぎるのも無駄が多いでしょう?」
黒雪姫が驚いたように、王子の顔を見る。
「へえ、あなた、そこまで能無しの馬鹿ボンでもないのね。」
「ふっ・・・、己の能力をひけらかすのは下品ですしね。」
王子が髪をかき上げながら、余裕で答えているのを無視して
黒雪姫はスタスタと先へと歩いて行った。
「どこの国でも姫は我がままなもの。 ふっ・・・。」
王子は憂いに満ちた笑みを浮かべながらも
女走りで黒雪姫の後を追った。
「で、どこにその樫の木が植わっているんだってー?」
叫びながら、黒雪姫が茨の藪をナタでバッサバッサと叩き切る。
離れて後ろを付いていく小人のひとりが答える。
「茨の藪を抜けて、2時間ほど歩いた先の高原らしいんじゃ。」
「こっから更に2時間・・・?」
黒雪姫は、茨を叩き切る手を止めた。
「てゆうかさあ、何でこの中の紅一点が力仕事をさせられてんの?」
「おお、すみませんでした、姫。
実は私、こう見えても剣術が得意でして。」
王子がスッと前に出た。
「後はこの私にお任せを。
この茨を瞬時に切り開いてみせます。」
王子が右手を上に左手を前に構えた。
剣はどうした。
「南 斗 水 「」 待って!!!」
黒雪姫が、慌てて静止する。
「いや、もういいから! 私が手動で切るから!
それもう既に、この前私がやった芸だから!!
そろそろ真面目に苦情がきそうだから!!!」
言うなり、凄い勢いで茨を滅多切りし始めた。
「姫というのは気まぐれなもので。 ふっ・・・。」
王子は両手を上げて、ヤレヤレのポーズをした。
王子のこの言葉が黒雪姫に聞こえなかったのは
命拾いをした、と言えよう。
とりあえず王子以外の全員が、ムダに疲労度ゲージが上がった。
続く
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黒雪姫 19
「とにかく、話をまとめてみよう。」
小人の提案に、黒雪姫が異議を唱えた。
「いや、まとめるまでもなく、鏡がポイントでしょ。
ハブ女王の乱で、どっかに鏡が出てこない?」
小人たちが首をひねる。
「・・・あなたたち、ザコだから事実とか全然知らされてないのねー。」
黒雪姫のこれ以上にない失礼な発言が
小人たちのちっちゃなハートにグサッと突き刺さった。
黒雪姫が立ち上がり、落ち込んでいる小人たちを急かす。
「ほら、どうすんの?
今回もエキストラで背後でうごめいとく?
それとも主役を張る?」
小人たちが相談をしようとすると、黒雪姫が怒鳴った。
「やりたいヤツはやればいい。
やりたくないヤツはやらなきゃいい。
今度の事は、危険もあるかも知れないから
自分の判断で決めろ!」
「・・・やらないと、ザコ扱いなんじゃろ?」
小人たちが、イジイジしながら言う。
「当たり前でしょ。
死ぬかも知れんこっちとしては、安全圏にいるヤツには
最後っ屁のひとつもかましてから、出撃したくなるってもんじゃない。
まあ、自己満足でしかないから、そう気にしないで良いから。」
「・・・ひどいヤツじゃのお・・・。」
「じゃが、この女に好き勝手にさせたとバレたら
わしらの立場も悪くならんか?」
「てゆーかさ、嫌がっても協力してもらうしー。」
真顔でテーブルの底をガンガン蹴り上げる黒雪姫に
小人たちはゾッとさせられた。
「・・・この女、本当は魔界から来たんじゃないのか?」
未来は既に決まっている事に
絶望する小人たちと、高笑いをする黒雪姫。
そして、それをキラキラした眼差しで見つめる王子と
ウツロな目で、嫌な未来を覚悟する執事。
それぞれの思惑が、微塵も交錯しないまま
この話がどっちへ行くのか、どう言い訳をしようか
頭を抱える “舞台裏” の事は、気にせずともよろしい。
ええ、そりゃもう、1mmたりとも。
続く
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黒雪姫 20 10.9.3
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黒雪姫 18
コトが収まったのを見計らって、王子と執事が戻ってきた。
何やら密談もしていたようだ。
「あのー、ちょっとよろしいでしょうか?」
「ダメ。」
手を上げる王子を、見もせずに却下する黒雪姫。
「話ぐらい聞いてやらんか。」
黒雪姫がそっぽを向く。
「だって、こいつ、黙って待ってようというチキンじゃん。
発言の権利なんかないわ。」
「まあ、待て。
体力がない者は知力があるのがデフォじゃ。
聞いてみようじゃないか。」
アザだらけなのに、まだ意見をする小人たちは
実は最強なのかも知れない。
しかも何気にイヤミな言い方。
案の定、頬杖をついた黒雪姫が、ジロリと小人たちを睨む。
「非力なあなたたちも頭が良い と言いたいわけ?
はっ!!! まさか、遠回しに私の知能を否定してるとか?」
「とととととんでもない!」
小人たちは全力で否定した。
「まったく、やりにくいおなごじゃのお・・・」
「ここで王子がロクでもない事を言い出したら
こっちにまで被害が出るぞ。」
「この王子、ちゃんと空気を読んでくれるじゃろうな?」
ボソボソと苦情が出てくる。
小人たちが祈るような気持ちで見つめる中
空気を読んでいるのかいないのか、王子が芝居がかった喋りを始めた。
「北国のある地方では、鏡がご神体だという村があったのです。」
「ふむ、呪術などで使われる場合もあるそうじゃからの。」
「いえ、その村はそうではなく、伝説だけが残っていて
今では鏡どころか、村もなくなってしまっています。」
黒雪姫が、王子の話に初めて反応した。
「ちょ、その話、詳しく。」
「はい、姫の仰せとあらば。」
王子は深々とお辞儀をした後
遠くを見るような表情で、詠唱し始めた。
「かつてその地方で一番栄えていたというその村は
北国でも、とりわけ厳しい風が吹きすさぶ北海の近くにあり
しかし村人たちは、魚の酢漬けをつまみに地酒を飲み
暖炉の周囲で歌い踊る事で気をまぎらわせ
長く辛い氷に閉ざされた季節を、皆で支え合っ・・・」
「代打、執事!」
黒雪姫の怒号に、執事が はっ と1歩前に出た。
「とある村の鏡が、ある日突然お告げをするようになり
村人はその鏡を神として崇めていたけど
鏡を巡って争いが起きて、村は滅びたという話です。
約300年ほど前の話なので、真偽はわからないのですが
その場所に村の跡は確かにあります。」
「300年前・・・?」
小人のひとりが考え込んだ。
「その頃、ここでは戦いが起こってなかったかの?」
「戦い?
ここ数百年間で戦いといえば、ハブ女王の乱ぐらいじゃろ。」
「ちょっと待って! ストップストップ!!
この話、名作二股のパクリにすんの?」
黒雪姫の突っ込みに、小人が非難めいた口調で答えた。
「“妖精王” という呼称が出た時点で
転がる可能性は覚悟しとかんと。」
「ああーーーーーっ、頼むからボーフーリンとか
そっちにまで話を広げないでほしいーーーーーーっ!」
「大丈夫じゃ。
その話は知識として知ってるぐらいで
読んだ事はないらしいから、そう盛り込めんじゃろ。」
「だけど後先考えなしに、そういう無謀な事を軽々しくして
激しく後悔するのが、いつものパターンじゃない?」
「舞台裏の話をするでない!」
小人のひとりに怒られて、黒雪姫はテーブルに突っ伏した。
続く
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黒雪姫 19 10.9.1
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黒雪姫 1 10.7.5 -
黒雪姫 17
小人のひとりが黒雪姫の前に進み出た。
「結論は出た?」
腕組み仁王立ちで訊く黒雪姫は、とても被害者とは思えない。
「んと、ひとつ頼みがあるんじゃが
もし妖精王さまにバレた時には・・・」
「はいはい、わかってるって。
私があんたらを脅して従わせた、って言うから。」
小人たちは、ホッとして顔を見合わせた。
王子がまたしても執事にささやく。
「自分を犠牲にする義侠心もある。」
「て言うか、脅し、事実にさせてもらうから!
さあ、あなたたち、私のためにチャッチャと動かないと
木に吊るしてお仕置きだからね!」
ひいいいいいいいいいいーーーーーーー
と、叫びながら逃げ回る小人たちを
いいから! と、黒雪姫が集めて回る。
ダイニングの椅子にドカッと座り、黒雪姫が話し始めた。
「あのバカ賢者、私の話を最後まで聞かずに飛んで行ったけど
私・暗殺未遂事件、まだ続きがあるのよ。」
「何じゃ?」
「窒息して倒れた後、まだ微かに意識があったのね。
その時に聴こえたのが、鬼ババが帰ろうとしたんだと思うけど
『鏡、鏡、さあ、通して』 って言ったのよ。」
小人たちがザワついた。
「“通して” とは、もしかして結界の穴かいな?」
「うん、わしもそう思ったぞ。」
「鏡とは?」
「あのね、鬼ババ、よく城の塔に行くようになってから
おかしくなったような気がするんだけど
その塔から時々、ガラスが割れるような音がしてたのね。
侍女が言ってたんだけど、大量の皿を塔に運ばせて込んでいて
塔からは割れた皿を回収させてるんだって。
んで、その部屋には、大きな鏡があるんだって。
布をかけてあったけど、光が反射してチラッと見えたらしい。」
「何じゃ?
その部屋で鬼ババは、何のために皿を割るんか?」
「うーん、そこは私もよくわからないんだけど
“鏡” ってのがキーワードのような気がするわ。」
「鏡・・・、鏡・・・」
小人たちは考え込んだ。
「ここじゃ、猛禽類が賢者なぐらいだから
鏡が動いても何の不思議もなくない?
そういう部族、いないの?」
黒雪姫のムチャ振りに、小人が呆れた。
「いくら妖精とは言っても、無機物は動いてはおらんぞ。」
「・・・そうよねえ・・・。」
黒雪姫も、諦め顔になった。
「で、もうひとつ解せないのが、鬼ババが
『これで私が世界一の美人よーっ!』 って叫んでたんだけど
風鈴が鳴らなかったのよねえ・・・。」
私の時は警報機のごとく鳴ったのに・・・
と、黒雪姫が憮然としている横で、小人たちが騒然とした。
「え? じゃあ鬼ババは、風鈴も認める美人って事じゃよな?」
「ちょっと待て、その鬼ババを抑えてNo.1なのがこの女だろ?」
「じゃ、この女、美人なのか?」
小人たちが風鈴の周りに集まり、口々に唱えた。
「黒雪姫は美人。」「黒雪姫は可愛い。」「黒雪姫は美しい。」
風鈴は気が狂ったようにジリジリ鳴りまくる。
「うおっ、鼓膜が損傷する!」
「こんなにやかましかった事は、かつてない!」
「わかった、すまんじゃった、鳴り止んでおくれ。」
誰もが勘違いしているが、風鈴が鳴るのは嘘を付いた時だけ。
本人が事実だと信じているのなら、それは嘘ではない。
継母は本当に自分を、世界一の美人だと思い込んでいるから
風鈴は鳴らなかったのである。
「うむ! やはり黒雪姫はブスで決定じゃな!!」
背後にどんどん暗黒の闇が広がっていく事を
満足してうなずき合っている小人たちは、まだ気付かなかった。
王子と執事は、さりげなく席を外した。
続く
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黒雪姫 18 10.8.30
カテゴリー 小説・黒雪姫シリーズ
黒雪姫 1 10.7.5 -
黒雪姫 16
賢者が戻ってくるまで、王子たちも現場待機という事で
小人の家の庭先にテントを張った。
「て言うか、すんごい段取り悪くない?」
皆を集めて、黒雪姫が文句を言った。
「何か1個あるたびに、王に訊く王に訊く って
行ったり来たりしてる時間、むっちゃロスだっての。」
「じゃが、この森は妖精王さまによって治められているから
わしらが勝手に行動する事は出来ないんじゃよ。」
「ふーん。
じゃ、この森所属じゃない私らなら、勝手に動けるわけね。」
この発言には、小人たちだけじゃなく王子たちも慌てた。
「ちょ、“私ら” って、私たちふたりも入ってるんですか?」
この言葉に、黒雪姫はジロリと王子を睨んだ。
「あなた、状況わかってる?
私ら、被害者なのよ?
加害してんのは、この世界のヤツなのよ?
だから解決もお願い、って加害者側に全任せして気長に待つの?
そうこうしてる内に、私らの世界で戦争とか起きたらどうするの?
結果はどうあれ、自分に出来る事をすべきじゃない?
それが巻き込まれた私らの責務だと思わない?」
黒雪姫は、すっくと立ち上がった。
「とにかく私は一国の姫の名に恥じぬよう、何か行動をする!」
ドアを出て行こうとする黒雪姫を全力で止めようと
小人たちがその手足にしがみつく。
「ちょっと待ってくれ。」
「あんたに暴れられたら、わしらが困るんじゃ。」
黒雪姫は、すがる小人たちをジロリと見下ろした。
「私に好き放題にされたら困る、って?」
「そうじゃ、わしらの立場もわかってくれい。」
黒雪姫は小人たちをぶら下げたまま、グルリと振り向いた。
「わかった。 じゃあお互いに譲歩しましょう。
あなたら、私が単独暴走しないように協力して。」
「だから、大人しく待っててくれ、とお願いしとるのにーーー!」
「暴れる気があれば、とっくの昔に破壊行為に及んどるわ!」
黒雪姫が右腕を激しく振ると
しがみついていた小人が、隣の部屋に飛んで行った。
隣室から漏れ聞こえてくる小人の呻き声にも動じず
黒雪姫は演説を続ける。
「いい?
この不可思議な事件には、人間も関わっている。
しかもマイ継母。
私にも、この事件を解決する責任と義務があるのよ。
ひとりで勝手にやっても良いけど
あんたらにもあんたらの都合があるだろうから
一緒にしよう、と言ってるんじゃないの!」
小人たちは円陣を組んで、なにやら相談をし始めた。
「ほらほらほらほら
さっさと決めないと、壁をブッ壊して出ていっちゃいますよー?
ハリアップ! ハリアップ! せいやせいやせいやせいや!」
腕組みして、壁を靴でドカドカ蹴り鳴らしながら
小人たちをせかす黒雪姫。
「ああーーー、うるさくて集中できん!」
「完璧な環境下じゃないと考えられないなんて
死亡フラグが立ってますよー。
ほらほら、とっとと考える!」
小人たちは、すっかり集団パニックに陥っていた。
黒雪姫は、そんな彼らに容赦なく追い討ちをかける。
「急がないと、もっと騒いじゃいますよー?」
ドッコーン ドッコーン
壁に頭突きまでし始めた。
掛けてあった額縁が、振動で次々に落ち始める。
小人たちの脳内も、轟音を立てて土砂崩れを起こし始めた。
「どどどどどどうする?」
「わしゃ、あんたに任せる。」
「わしもあんたに同意する。」
「うん、わしもあんたの意見に賛成じゃ。」
誰も何も提案すらしていないのに
全員が他のヤツの決定に従うと言い始める始末。
王子が執事にささやいた。
「決断力と実行力、そして政治力に長けた姫ですね。」
執事は、そうか? と、思っただけだった。
続く
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黒雪姫 17 10.8.26
カテゴリー 小説・黒雪姫シリーズ
黒雪姫 1 10.7.5 -
黒雪姫 15
「では、東国の后は妖精界の何者かの手引きで出入りでき
王子さんたちは、その巻き添えをくった、として
このおん・・・黒雪姫は何故この森に入れたのですかい?」
小人のひとりが賢者に質問した。
「ううむ・・・・・。」
賢者が頭をひねっているところに、黒雪姫が更に訊く。
「ね、ひとつ疑問なんだけど
その妖精の何者かが黒幕の悪者だとして
継母をあやつって私を殺して、何の意味があるの?」
「パードゥン?」
王子が黒雪姫に話しかけた。
「あなた、東国の姫なのですか?」
何? こいつ、という顔をしながら黒雪姫が無視をしたので
小人たちが代わりにうなずいた。
「しかも信じられんじゃろうが、女なんじゃと!」
ほんに、キジも鳴かずば撃たれまいに
小人たちと黒雪姫がキーキー掴み合っているところに
執事が知った顔をしつつ、静かに言った。
「だったら話は簡単ですな。」
主人が主人なら、こいつも結構な主張したがりである。
「東国人は飛びぬけて、武力に優れた民族なのですよ。
東国を操れる地位を手に入れれば
人間の世界を征服するのも不可能じゃないですな。」
「え? そうなの?」
驚いたのは黒雪姫だけで、その場にいた他の全員は激しく納得した。
「武力・・・、うむうむ。」
「世界制服かー。」
「なるほどのお。」
「妖精界の者が、いや、どの界の者だろうと
そんな騒ぎを起こすのは断じて許されぬ。
妖精王さまにご相談し、何とか陰謀を止めねば!」
賢者が羽をバサッと広げ、飛び立って行った。
「♪ ウィンジ ブロイ フロムジ エージアー ♪」
黒雪姫のかなり音痴な歌を、小人が怪訝そうに見る。
「・・・いや、何となく。」
黒雪姫は、ちょっとバツが悪そうにエヘヘと笑った。
「にしても、東国の姫君でしたか。」
王子がぶしつけに黒雪姫をジロジロ見る。
「北国って、他の国と国交がないですよね。
どんなところなんですか?」
黒雪姫が、珍しく丁寧語で訊く。
「ええ、一年の3分の2は雪と氷に覆われた凍てつく大地ですが
針葉樹に囲まれた湖に白鳥が泳ぎ
短い夏には、それでもか弱く咲く花々と
沈まぬ太陽が見られるのです。
・・・刹那の国ですよ・・・、ふっ。」
「ああ、そうですか。」
黒雪姫は心のない声で、それだけ言うと
スタスタと家の中へと入って行った。
何か、あの王子と感性が合う気がしないわ
黒雪姫は自信を持って、そう思ったが
黒雪姫の感覚も、充分に他の人とズレていた。
続く
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黒雪姫 16 10.8.24
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イキテレラ 1 10.5.11
黒雪姫 1 10.7.5 -
黒雪姫 14
「ういーっ、今帰ったぞー、土産だー。」
ヒモで結ばれた包みを渡す賢者に、黒雪姫の頭部にツノが生えた。
「深夜に帰宅した泥酔サラリーマンかよ?
ちゃんと終電に間に合ったんでしょうね。
タクシー代なんて、うちじゃ捻出できないわよ!」
「む、いきなり厳しい言葉だの。」
ムッとする賢者に、黒雪姫が怒鳴った。
「帰ってくるのが遅いのよ!
その間、てか今! 私、一度殺されたし!!!
もう、頭くるーーーっ!!!!!」
木の幹にミドルキックを連発し、荒れ狂う黒雪姫の頭上を
賢者が右往左往しながら、オドオドと訊く。
「一体、何があったんだ?」
「あー、説明するの面倒くさーーーーーっ!
仕事が遅いヤツは、せめて 『話はすべて聞いていた』 と
物陰から出てきて、手間を省かせてくれないかしら?」
言ったかと思うと、賢者に枝を投げつけ
賢者はそれを華麗に避けようとしたが
進行方向に逃げたので、見事に当たった。
わき腹からグキッとイヤな音がした。「怒りは・・・受け止めねば・・・ならぬ・・・。」
地面に落ちて、痛みにフルフル耐える賢者を
小人たちが黒雪姫から遠ざけれるように運ぶ。
フテ腐れる黒雪姫に代わり、小人たちが説明をした。
その時に賢者は、やっと人間が2人増えている事に気付いた。
「およ? そなたたちはどこから来た?」
王子は髪をかき上げつつ、伏目がちに憂いた。
「ようやく気付いてもらえましたか・・・。」
「このお方は北国の王子で、わたくしは執事です。
王子が南の森を調べてみたい、と仰るので
短期間の予定で森に入ったら
いつの間にかここにたどり着いていたのです。」
王子が前髪をかき上げた。
「冒険心は、男の勲章ですよ、ふっ・・・。」
「何かこの王子、人の善意によって生かされてるタイプじゃない?」
黒雪姫が大声でする内緒話を、小人がいさめた。
「健全な童話を、あんたひとりで邪悪にしている事に
早く気付いてくれんかのお。」
「で、賢者さまは妖精王さまにお会いになれましたか?」
小人の問いに、賢者は得意げにうなずいた。
「うむ、驚くべき話も聞けた。」
賢者は、いかにも荘厳な雰囲気での会談のように装ったが
実は祭の飲み会場での、ドンチャン騒ぎの中でのやり取りであった。
「数年前に、妖精の森から何者かが飛び出ていった事があった。
各界は交じり合わないように、結界が張ってあるのだが
故意か事故か、それが一部ほころんだのだ。」
「そんな事があったんですかい。」
「うむ、混乱を招かぬよう、極秘に調査されたが
誰がどこに出て行ったのか、突き止める事は出来なかったのだ。」
「で、それ以後、何事もなかったのだが、黒雪姫が現われた。」
「大きな災いじゃよな。」
ゴスッ うっ・・・
言った小人の後頭部に、黒雪姫が正拳突きをかます。
「今回の事には、妖精王さまも驚いていらした。
結界のほころびは修復されたはずだったからだ。
人間が妖精の森の結界を破れるわけもない。
妖精王さまは今、鋭意調査中なのだ。」
「結局、何もわかりませんでした、ってわけ?」
賢者はムッとしたが、黒雪姫がたたみかけた。
「いい?
数年前の結界のほころび、さっきの鬼ババの出現
これ、関係大アリだと思う。
だって鬼ババ、後妻に来た当時はまだノーマル・ババアだったもん。
ヘンになったのは、数年前からなのよ。
つーまーりーーーーー」
黒雪姫はビシッと賢者を指差した。
「妖精の森から出て行った何かが、后をおかしくした!
そう考えるのが妥当じゃない?」
賢者は、うーむ、と考え込んだ。
「后がここに現われたと共に、王子たちも迷い込んだ・・・。
出て行った何かが、后を通そうと開けた結界の穴から
王子たちが偶然入って来た、で説明が付くな。」
「王子たちが善意の第三者ならね。」
黒雪姫の言葉に、執事が静かに反論した。
「おそれながら申し上げさせていただきますと
我が王子は、二心のないお方です。」
「ニシン? カズノコの親の?」
「下心とか裏表がない、って事じゃよ。」
「ああ、要するに単純バカって事ね。」
「頼むから、喋る前に少し考えてくれんかのお。」
黒雪姫は、四方八方から蹴られた。
いくら小人とはいえ、キックは結構痛い。
しかも毎回7回以上蹴られている。
暴力はひとり1回を厳守させねば!
黒雪姫は、拳を握り締めた。
大事なのは、そこじゃないと思うんだが。
続く
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黒雪姫 13
「肺胞・・・?」
「敗報・・・?」
定番だと決め付けられて、歌えと命令された歌を
釈然としない心境で歌いつつ、小人たちが家に戻ってきた。
しかし、飯はまだかー、の黒雪姫の第一声がない。
怪訝に思っていると、窓から外を覗いた小人が叫んだ。
「あの女が倒れているぞ!!!」
一同は半径2mの輪を作って、黒雪姫を囲んだ。
近付くのが恐かったからだ。
こんな小心者たちが、先刻の黒雪姫ののた打ち回る姿を目撃していたら
一生もののトラウマになっていたに違いない。
「死んでる・・・のか?」
「あんた確かめてみろ。」
「いや、あんたがやれ。」
「ちょっと待て、死んでたとして、どうするんだ?」
「一応、弔ってはやらないと・・・。」
「うむ。 化けて出そうだしなあ。」
「埋めるのか?」
「燃やすのは大変だろうー。」
「鳥葬、水葬、風葬、色々あるぞ。」
「いずれにしても、どっかに運ぶしかないのか・・・。」
「この大きな女をか・・・。」
「やっと平和が戻ってくると思ったのに・・・。」
「タダでラクはさせてもらえんものよのお。」
「とにかく死んでるのを確認しないと。」
「だから、あんたがせえって。」
「あんたがしろよ。」
堂々巡りも大概にしてほしいところに
新たな登場人物が現われた。
「ああっ、女性が倒れているではないですか!
これは何があったんです?
じい、侍医も兼ねるじい、このお嬢さんの処置をすぐさま。」
パフスリーブのブラウスにハイネックのジャケット
縦じま模様のちょうちんブルマ、タイツにハーフブーツ
それもハレーションを起こす緑と赤で統一された配色のファッションは
まず間違いなく、“王子” という職業であろう。
「はっ。
まだ温かいという事は、息が止まって間もないという事。
気道確保から入ります。 気管挿管!
いや? 奥に何か見えます。 鉗子 (かんし)!」
言いながらも、自分でカバンの中を探す初老の男性は、王子の執事らしい。
呆気に取られて、言葉もなく見ている小人たちの前で
黒雪姫は息を吹き返した。
ゲホゲホ咳をして、ゼイゼイと肩で息をしている黒雪姫に
執事が話しかけた。
「お嬢さん、これが喉に詰まって窒息したようです。」
鉗子につままれたリンゴのカケラを見て
黒雪姫は あっ! と、叫んだ。
「そして私がこの執事の主人、王子・・・」
自己紹介をしようと前に出た王子を突き飛ばして
黒雪姫が小人たちに、口角泡を飛ばす勢いで言う。
「ちょ、あの鬼ババが来たのよ!
ノーメイクだったんで、最初はわからなかったんだけど
近付かれた時に、首の横ジワで気付いたわ。」
黒雪姫は、一部始終を小人たちに説明した。
「このリンゴには毒が仕込まれているようですね。
飲み込んでいたら、間違いなく死んでいた事でしょう。」
執事がビンの試薬を駆使して、分析をした。
「うお、あっぶなーーーい!
リンゴを押し込まれる前に、イモが喉に詰まってて
それで命拾いしたのねーーーっっっ。」
「イモ?
あれはスイートポテト用じゃと言ったのに
盗み食いしたんか!」
小人のひとりが怒ると、黒雪姫は悪びれずに流した。
「1個だけだってー。
何百年も生きてるあなたらと違って
10代の私は、ピッチピチの食べ盛りなのよ。」
「にしても、継母まで入ってくるとは
この森はどうなってしまったんだろう?」
小人たちが不安がっているところに、賢者が戻ってきた。
続く
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